FEATURE
「思っていた以上に、山の上には雪があった」──中尾正明が故郷で再発見した、ビッグマウンテンの魅力。【創刊10周年特別企画】ISSUE 11『JAPOW PRIDE』
2026.10.29
12
西日本 / 近畿・中国
※2020年に綴った言葉を一部編集して掲載
想像を超える本格スノーエリアとビッグマウンテン
西日本とは一般的に近畿・中国・四国・九州の総称だが、本項では近畿と中国、厳密には北近畿と中国地方の山々に隣接する地域の話とさせていただく。
さて、山の話に入る前に少し余談になるが、角野友基や岡本圭司など、兵庫出身のプロスノーボーダーが意外にも多いことをご存知だろうか。その理由は、現在では全国各地に点在している雪を必要としない人工ジャンプ練習施設の総本山が神戸市内にあることにほかならない。オフシーズンにこの施設でトリックに磨きをかけてきた西日本のライダーは数知れず。
それだけでなく、昭和初期に関西一のゲレンデとして神鍋高原が名を馳せ、後に国体を誘致したことで一般スキーヤーが急増するなど、ウィンタースポーツが文化として浸透しているのだ。2019-20シーズンの時点で16ものゲレンデが県内に点在する本格スノーエリアなのである。
そして中国地方に目を向けてみると、最高峰である大山(1,729m)が鳥取西部に位置し、東には氷ノ山(1,510m)と同県にふたつの名峰がそびえる。ちなみに「だいせん」「ひょうのせん」と読むのだが、「山」を「せん」と読む山は70ほど存在。日本に古くから伝来している発音で、仏教関連の言葉に多いんだとか。
その大山は、2018年に開山1300年を迎えた、登山客や観光客で賑わう人気の山である。西日本というイメージを覆すほどの積雪量を誇り、麓には4つのゲレンデを有するほどだ。
西側からの眺望にちなんで“伯耆富士”との呼び名も持つなど、大山の特徴として挙げられるのは独立峰のため、東西南北から眺める山容が異なること。大山町から見える北壁には、比高400m、長さ2kmに渡り屏風型の岩肌がそそり立つ。反対の南壁も北壁同様、激しい崩落により断崖が生み出されており、多くの登山者はこの景色を見るために山を登るそうだ。そう、見た目が“カッコいい”山であり、それは滑り手からすれば険しい山であるということ。四方に個性豊かな斜面を持つことから無数のラインが存在する、まさにビッグマウンテン・大山。
そうした山に魅せられ地元に戻り活動している中尾正明や、兵庫をホームとする井上智秀といったライダーたちが、この山と対峙している。
“芯が強い”男
中尾正明
並外れた身体能力を武器に、コンテストやムービーシーンで活躍。北海道を代表するトップライダーたちと切磋琢磨しながらバックカントリーフリースタイルを学び、群馬の山滑り師たちとともにフリーライディングに磨きをかけた。その後、地元・鳥取に拠点を移して活動を続ける中尾正明。なぜ、雪に恵まれていない地元に戻ったのか。気になる。

ほかに引けをとらない、素晴らしい斜面。
生まれも育ちも鳥取。“マサイ”の愛称で知られる中尾正明は、幼稚園の頃から父に連れられ地元のゲレンデで滑っていた。高校を卒業すると県外へ飛び出すことに。スノーボードをするためだ。長野の山から始まり、ニュージーランドやカリフォルニア、北海道と本能の赴くまま滑り倒した。
「今はまったく考えてないですね」
現在も北海道などへ滑りに行くことがあるのかという質問に対して、力強い口調でこう返ってきた。
その転機は数年前。谷川岳でビッグマウンテンを滑ることの面白さにどっぷりハマったことを契機に、地元にそびえるある山の可能性を見出すことになる。
「昔、学校行事で大山登山っていうのがあったんですよ。あの山、もしかして滑れるんじゃないかって考え始めて」
鳥取県のシンボルとも言われている大山は標高1,700m以上ある中国地方の最高峰。ファミリー向けのゲレンデが麓に存在するその山のカタチに、中尾は魅了された。
即行動へと移した中尾は、「地元で一緒に滑っていた先輩である永間貴志君から紹介してもらって、大山で滑ってる人と友達になって」
20年近く前からひとりで大山と氷ノ山に登り滑ってきたという、フォトグラファーの竹内栄一氏との出会いを果たした。一緒に山へ行くようになると「大山で写真を撮りたいね」という共通の思いを抱くように。その後、竹内氏の撮る写真や友達が撮った映像が世に発信されると、中尾の滑りを通して鳥取のバックカントリー事情が少しずつ明らかになっていった。
日本国内で雪を求めた結果、西へ移動するというスノーボーダーはそう多くないだろう。その反面、中国地方はスノーボード人気が高いエリアだと感じる。プロモーションやイベントなどで全国を移動する際、このエリアのスノーボーダーたちの熱気にはいつも驚かされてきた。パークアイテムなどで多くのスノーボーダーが楽しんでいる姿からは、スノーボードが流行り始めた頃のようなハングリーさを感じる。雪山に囲まれる地域ではないからこそ、スノーボードに対する熱意があふれているのだろう。
しかし中尾のライディング写真を見たとき、私のイメージは一瞬にして崩れ去った。そこには険しく切り立った斜面や、見るからに雪質のよさを感じられる雪面とスプレー、そして、壮大な景色が広がっていた。
「山のピーク付近では3mくらい雪が積もりますね。けっこう降るんです。そして、下界には雪がないという」
ニュージーランドのワナカのようだと例を挙げてくれた。街には雪がなく山の上は真っ白という環境は、言うまでもなく生活がしやすく、この地方ならではのライフスタイルにも繋がっていた。
「こっちの魅力って何だろうって考えていたんですが、海と山の距離が近いことだと、周りの友達も口を揃えていて。西に大山、東に氷ノ山があって、氷ノ山からは1時間くらいで海に行けるし、大山からは3、40分でサーフポイントに行けます」
海と山が1時間圏内で行ける環境。そうした横乗りライフを送っている社会人が多いそうだ。そこがこのエリアの一番の魅力なんだと、嬉しそうに教えてくれた。中尾自身もサーフィンにどっぷりとハマる生活を送っていて、そうした環境は地元に根を張って暮らしていく上で大切な要素になっていた。中国地方の横乗りのカルチャーが色濃く感じる理由は、その距離感にあるのかもしれない。
「雪にはそこまで恵まれてないですけど、全部できますね。サンドイッチのように海と山の間に街があって、スケートパークも点々としていて。身近なところですべての横乗りができるんです」
雪を求めて飛び出し、北海道や群馬など日本の代表的なエリアで滑り込んできた中尾は改めて、地元に戻り新たな発見をした。
「僕の思っていた以上に、山の上には雪があった」
離れている間はほぼ滑っていなかった。だからこそ感じる、地元の偉大さ。
「大山は山の姿がカッコよくて。氷ノ山は内陸にあるので雪がいい」
大山の麓には複数のゲレンデがあるのだが、中尾が山を滑るときはゲレンデからではなく登山道や道なき道から登るそうだ。そしてそこには、相当な技術が必要になる。
「カッコいい山ですが、かなりエクストリームです。独立峰なので風が強く、雪が薄くしかつかない。そうした地形を滑るんです」
中国地方では大山に次ぐ高峰である氷ノ山の場合、わかさ氷ノ山のリフトを経由して稜線からハイクアップするそうだ。そう言いながらも「このままだとバックカントリーに入る人たちがかなり増えるんじゃないか」と危惧する中尾。今までは人がほぼ皆無だった中国地方のバックカントリーに、ブームの到来により人が来るようになっているそうだ。
「今まで中国地方にもこんなとこあるよ、こんな感じで滑ってるよって映像を出してたんですけど、知らない人が突っ込んでいくのは危ないと思い、気にかけるようになりました」
開拓されていないエリアだからこその危険も存在するのだ。スノーボーダーが雪山を安全に滑るためのルールが、この地域にも必要になってくるだろう。
バックカントリーのみならず、ゲレンデにも楽しめるフィールドがたくさんあるんだと言葉を続けた。
「戻ってきてから色々探したんですけど、ツリーの中とか探せばあるもんで。長野やほかのエリアまで足を延ばす地元の友達と一緒に滑ったんですけど、7~8時間かけてほかのエリアまで行くなら、ここで十分だなって結論に達して。厳密に比べたら雪質も違うし距離も短いんですけど、そこそこ面白いんですよ。パウダーの競争率は少ないですし」
「ゲレンデで面白いのは島根の瑞穂ハイランド(2020-21シーズン営業休止予定)。コースレイアウトが一番面白いですね。広島や岡山からもアクセスしやすいし、九州の方もこのゲレンデに来ます」
「友達や家族で遊びに行くときは、わかさ氷ノ山か奥大山(現在閉鎖中)で、兵庫のスカイバレイは長距離滑れるので、身体を慣らすためにシーズン初めに行きますね」
「パークで遊ぶんだったら、兵庫のハチ高原。鳥取から兵庫までは車で1時間半~2時間くらいなので、そんなに遠くないです」
ほかのエリアで滑り続けてきた中尾だからこそ、今改めて、地元のよさを引き出せる経験値を有し、そこで魅せられるスキルを身につけたと言えるだろう。
「大山の斜度と距離はほかに引けをとらない。素晴らしい斜面を滑れる」
自分の生まれ育ったエリアにこんな山があったのかという驚きとともに、そこを開拓することが楽しみのひとつになっているそうだ。
「山を冒険するのが好きなんで」
改めて地元で築き上げていくライフスタイルは、大好きなスノーボーディングを続けていくため、中尾自身が選んだ道なのだ。
edit + text: Daisuke Nogami(Editor in Chief)
interview + text: Yukie Ueda
CONTENTS
▶INTRODUCTION|はじめに
▶01|北海道 / 札幌 安藤健次インタビュー
▶02|北海道 / 道北 佐藤秀平インタビュー
▶03|北海道 / ニセコ 渡辺大介インタビュー
▶04|東北 / 北東北 杉本幸士インタビュー
▶05|東北 / 南東北 松浦広樹インタビュー
▶06|群馬 / 利根沼田 中山悠也インタビュー
▶07|新潟 / 魚沼 関口 敬インタビュー
▶08|新潟 / 妙高 小西隆文インタビュー
▶09|長野 / 白馬 美谷島 慎インタビュー
▶10|長野 / 北信 中山二郎インタビュー
▶11|岐阜 / 飛騨 太田宜孝インタビュー
▶12|西日本 / 近畿・中国 中尾正明インタビュー
▷OUTRO|JAPOW PRIDEからJAPOW FROM___へ。
___
BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE
ISSUE 11 「JAPOW PRIDE ──ニッポンの雪と山と文化を知る──」
北海道・ニセコや長野・白馬を中心に大挙して押し寄せている外国人は、なぜ日本の雪山にこだわり続けているのか。それは、ここまで多くの人々が日常生活しているエリアに雪が大量に降る国がないから。米アラスカの僻地やカナダBC州の山奥には、もちろん大量に極上パウダースノーが降り注ぐ。しかし、それとはワケが違う。街があり、その近くに多くのゲレンデが点在し、ハイクオリティなパウダースノーが堪能できる。しかも、食事も温泉も人も最高。さらに言えば、リフト券が格安だ。これらが日本が世界に誇るべき価値なのである。これを言い換えれば、僕たちは世界中の雪を愛する人々が羨む環境に住んでいるということ。だからこそ、ニッポンの雪と山と文化を改めて知ってほしく、この一冊を編むことにした。世界一の豪雪大国に住むスノーボーダーの胸に、“JAPOW PRIDE”を刻みこんでもらいたい。

【バックナンバーのご購入はこちらから】
https://backside.theshop.jp/items/24277374




