FEATURE
雪面ではなく、雪の中で自由に動ける。杉本幸士が語る、北東北の山々に秘められた魅力。【創刊10周年特別企画】ISSUE 11「JAPOW PRIDE ──ニッポンの雪と山と文化を知る──」
2026.10.14
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東北 / 北東北
※2020年に綴った言葉をそのまま掲載
上質な雪が大量に降り注ぐ山々に恵まれた上手くなれる地
東北地方の中央部を約500kmに渡って連なっている奥羽山脈を境として、南東北では日本海側と太平洋側とで気候が大きく異なるのだが、北東北は太平洋側も含めて全域が豪雪地帯。山はもちろんなのだが、八甲田山を迂回する南西風と津軽山地の稜線に沿って吹く北西風とが合流することで青森平野に大量の雪を降らせることから、青森市は世界一の豪雪都市なのである。
しかし、風速が強くなると季節風は八甲田山を迂回せずに越えていくため、山に雪が舞い落ちる。八甲田山の麓に位置する酸ヶ湯が豪雪のメッカであることは周知の事実だが、1902年(明治35年)1月に210名中199名が遭難死した世界最大級の山岳遭難事件が起こるほど降るわけだ。この八甲田雪中行軍遭難事件を受け、雪中歩行技術の必要性を痛感したことが契機となり、日本にスキーが伝来されることにつながる。
青森の南に位置する岩手と秋田の県境に沿って奥羽山脈が走っているため、それに北西風がぶつかり秋田側に雪を降らせることは言うまでもないが、岩手には奥羽山脈と並行して東部に北上高地が延びており、それらの間を北上川が南に流れ平地が開けている。こうした地形のいたずらにより、岩手側の奥羽山麓は日本海気候の影響を強く受けることから豊富な降雪に恵まれるのだ。しかも、水分が奥羽山脈で削ぎ落とされるため極上のドライスノーが大量に降り注ぐというわけ。
岩手と秋田を隔てる八幡平には、山頂付近までアスピーテライン・樹海ラインという道路が整備されているのだが、遅い場合はゴールデンウィーク直前まで全面通行止めになるほどの積雪を誇る。岩手側の八幡平はかつてハーフパイプの登竜門とされる大会が開催されており、また、日本のバックカントリーフリースタイルの起源と言っても過言ではない地だ。1990年代の専門誌では、あまりの人気に掲載写真のロケーションが明かされていなかったほど。豊富な降雪量はもちろん、フリースタイルに適した自然地形が多く存在するということだ。
北東北でその腕に磨きをかけ長野五輪ハーフパイプに出場し、現在はSAJ(全日本スキー連盟)スロープスタイル&ビッグエアのコーチを務める西田崇は以前、このエリアを滑っているとスノーボードの基本が身につくと教えてくれたことがある。そんな北東北を深掘りしていく。
“ブレない”男
杉本幸士
布施忠や西田崇を筆頭に、多くの実力派スノーボーダーを輩出してきた北東北。秋田に生まれ育ち、彼らの背中を追うようにして東北を中心に活動してきた映像クルー・BIGTIME を率いる杉本幸士が本項の主役だ。玄人をも唸らせる杉本のライディングスタイルを知ることで、この北東北エリアが秘めるポテンシャルを理解できるはずだ。

ゲレンデ内でも、十分に楽しめる。
「オレの出身は秋田なんだけど、青森と岩手の県境が30分くらいの距離にあって。有名なゲレンデだと岩手の安比が近いですね。東北道で南下すれば夏油、北上すれば青森スプリングや八甲田へも1~2時間で行ける」
中学2年で始めたスノーボード。周りにパークがなかったため、ただひたすら滑り、ジャンプ台を作っては飛ぶという遊び方を実践していた。
「地元に水晶山っていう小さなゲレンデがあって。学校が終わったらナイターで滑ってた」
そこは何もないゲレンデ。それが、杉本のスタートラインとなった。
「秋田側の方が冷えた雪が降るので、時間が経っても悪くなりにくいですね。でも、岩手側も風さえなければ最高なんですよ」
日本海側は豪雪で太平洋側は晴天率が高いというイメージだが、日本海側から来た雪雲が奥羽山脈を越える際に湿気を落とし、太平洋側にドライなパウダーを降らせるというパターンも多く見られる。青森や岩手の太平洋側にある山に風の影響を受けず降り積もった雪は、日本海側のそれでは勝てないくらい極上だそう。
「そうなると、(岩手)八幡平とか安比は最高にいいんですけど、風が吹いちゃうとパックしたり滑りづらい雪になる。安定して雪質がいいのは秋田側かなって思います」
東北の山に吹く風は、八幡平や蔵王のように県をまたいで異なる方角に向いているゲレンデのコンディションに大きな影響を与える。
「(岩手)八幡平に撮影行って思いがけず風が吹いちゃってガリガリな日は、戻って秋田八幡平のサイドに逃げ込むとか」
ゲレンデの方角や特徴を把握していれば、悪条件を回避する方法もある。現在は南東北に拠点を置く杉本だが、ここ10年ほど改めて北の魅力を感じているそう。「時間があれば上に行きたい」と話す。
「今まで感じなかった雪質や地形のよさを知り、そこにまた戻ったというか。やっぱり北東北がいい。ベースは南でも滑りたいのは北だなって」
同じ東北でもエリアによる明確な違いを感じるようになった杉本。
「雪が全然違いますね。今住んでいる南東北は雪面の上を滑るパウダーで、それに対し北東北は雪の中を滑るパウダー」
自身の生まれ育った北のエリアは、雪の中を滑っているのに減速することなくスプレーが上がると表現する。
「ゲレンデの場合、そんなに斜度がないじゃないですか。斜度がないとスピードをつけて1ターンか2ターンして終わりなんだけど、北だと斜度がなくても細かくつないで滑れるんです」
「雪の中を滑りながらも自由に動ける」、それは北でしか味わえない一番の魅力なのだと。
そのうえ、このエリアは人が少なく、パウダー遭遇率が高いそうだ。
「安比はここ2、3年くらいでツリーを開放するようになったので、最近好きですね。マッシュもあったり。ロングでノートラックパウダーを滑れるコースがあるんですよ。そこなんて当たるとヤバいですね。1本滑るだけで満足感があります」
安比高原は広大なコース面積を誇り、パウダーエリアやツリーエリアが用意されている。バックカントリーを滑り倒してきた杉本をも満足させるゲレンデなのだ。
エリアによっては積雪量がとんでもなく多いため、こんな状況もある。
「八甲田が最北端になるんですが、海側の風がけっこう吹くので雪が湿ってる日もある。でも、それくらいじゃないと埋まりすぎて滑れない」
最近、海外にいてもよく耳にする青森スプリングも、実はパウダーがよくて地形も面白いようだ。
「ゲレンデは全体的にほどよい斜度で長さもあるのでスピードを出して流せるし、バックカントリーエリアもある」
以前は鯵ヶ沢という名前だったことを記憶している。日本海を見下ろしながら滑れるという素晴らしいロケーションが脳裏から離れない。ここ数年、スーパーパイプとパークを設置し、今やアメリカ人にも有名な日本を代表するゲレンデのひとつにまで進化を遂げたリゾートだ。
「(森吉山)阿仁、たざわ湖、秋田八幡平は同じ並びで、あの辺りは間違いなく雪がいい」
北海道とは少し違うものの、海を渡らなくても素晴らしい雪を滑れるのだと、杉本は東北のスノーボーダーたちに伝えている。
杉本が北東北にこだわるのは、地元だからという理由だけでは語れない。
「高校3年の頃、鎌田潤くんの特集が雑誌にけっこう出ていて」
そんな先輩ライダーたちに憧れを抱き、その山で滑りたいと動き出した。その後、BIGTIMEというフィルムクルーを率いて東北の山を滑り倒すようになるのだ。
「始めた頃は(岩手)八幡平のバックカントリーで撮影するのが有名だったんですけど、なんせオレらもひねくれてるんで。先輩たちが開拓していないポイントで撮影しないと、東北でやってますとは言えないなって」
布施や西田、鎌田ら、今もその存在感を示し続けるベテランスノーボーダーたちが東北の地から輩出されている事実。当時、東北のライダー勢はその雪深い山奥へスノーシューを履いて赴き、それまでにはなかったスケールの大きい映像や写真を世に出していった。日本のバックカントリーフリースタイルの走りだったと言えるだろう。
そんな先輩ライダーたちを目の当たりにしながら育った杉本らBIGTIMEクルーは、「とりあえず入れそうな場所は全部入った」と自分たちの力でロケーションを開拓していったのだ。
そして2017年、大きな節目を迎えると自身の目線が変わったのだと言葉を続けた。
「今は近所の里山で遊んでいて。その開拓が面白いですね」
それまで行ってきた撮影活動に区切りをつけたタイミングで、ゲレンデを滑る機会が多くなったのだが、最初は「刺激が足んねー」と嘆いていたそうだ。しかし滑り続けているうちに、自分にしか見えないポイントを発見するようになる。
「ナチュラルのバンクやリップを探して、一般スノーボーダーならこれくらいしか飛べないけど、オレならこんぐらいまで攻められるんじゃないかっていう挑戦をしてて」
フィールドは変わっても、スノーボードに対する本能的な思いは変わらないのだ。
「中学のとき、最初に行ったゲレンデには何もなかったから、ひたすら遊べる場所を探してた。パークがなくても、ないならないなりに遊んでた」
スノーボードを始めた頃の感覚が蘇り、今が楽しいのだと話す。
「何もない山で滑ってきたから、その原点に戻ったのかな。でも、もっと自由にね」
初心に返った貪欲さに加え、これまで多くの山を探検し滑り倒してきた経験値があるからこそ、杉本はさらなる北東北の魅力を開拓していくに違いない。
edit + text: Daisuke Nogami(Editor in Chief)
interview + text: Yukie Ueda
CONTENTS
▶INTRODUCTION|はじめに
▶01|北海道 / 札幌 安藤健次インタビュー
▶02|北海道 / 道北 佐藤秀平インタビュー
▶03|北海道 / ニセコ 渡辺大介インタビュー
▶04|東北 / 北東北 杉本幸士インタビュー
▷05|東北 / 南東北 松浦広樹インタビュー
▷06|群馬 / 利根沼田 中山悠也インタビュー
▷07|新潟 / 魚沼 関口 敬インタビュー
▷08|新潟 / 妙高 小西隆文インタビュー
▷09|長野 / 白馬 美谷島 慎インタビュー
▷10|長野 / 北信 中山二郎インタビュー
▷11|岐阜 / 飛騨 太田宜孝インタビュー
▷12|西日本 / 近畿・中国 中尾正明インタビュー
▷OUTRO|JAPOW PRIDEからJAPOW FROM___へ。
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BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE
ISSUE 11 「JAPOW PRIDE ──ニッポンの雪と山と文化を知る──」
北海道・ニセコや長野・白馬を中心に大挙して押し寄せている外国人は、なぜ日本の雪山にこだわり続けているのか。それは、ここまで多くの人々が日常生活しているエリアに雪が大量に降る国がないから。米アラスカの僻地やカナダBC州の山奥には、もちろん大量に極上パウダースノーが降り注ぐ。しかし、それとはワケが違う。街があり、その近くに多くのゲレンデが点在し、ハイクオリティなパウダースノーが堪能できる。しかも、食事も温泉も人も最高。さらに言えば、リフト券が格安だ。これらが日本が世界に誇るべき価値なのである。これを言い換えれば、僕たちは世界中の雪を愛する人々が羨む環境に住んでいるということ。だからこそ、ニッポンの雪と山と文化を改めて知ってほしく、この一冊を編むことにした。世界一の豪雪大国に住むスノーボーダーの胸に、“JAPOW PRIDE”を刻みこんでもらいたい。

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