BACKSIDE (バックサイド)

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FEATURE

「ひとつじゃイヤだったんよね、山が」──世界の雪山を知る小西隆文が妙高で見つけた自由。【創刊10周年特別企画】ISSUE 11『JAPOW PRIDE』

2026.10.20

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新潟 / 妙高

※2020年に綴った言葉を一部編集して掲載
 
 

日本のバックカントリーライディング発祥の山

1911年(明治44年)、新潟県高田市(現上越市)で誕生した日本のスキー文化。オーストリアの陸軍武官・レルヒ少佐が日本で初めて、本格的なスキー指導を同市で行ったことに由来している。少佐は高田から関温泉と燕温泉を経て、妙高山でスキー登山を始めたそうだ。これが日本の本格的なスキー登山のはじまり。そう、ここ妙高エリアが日本におけるバックカントリーライディングの起源なのである。
 
そうした歴史的背景もさることながら、日本有数の豪雪地帯でありバックカントリーに適した起伏に富んだ地形を有する地域だからこそ、多くのスノーボーダーから愛されるエリアとして長きにわたり君臨している。その理由を探っていくと、上越で生まれ育った日本スノーボード界のパイオニア・竹内正則が、当時のホームマウンテン・関温泉で1992年にハーフパイプとアルペンレースのキャンプ「CAMP IN JAPAN」を始めるなど、古くからスノーボーダーに対する理解が深かったことが大きな要因だろう。
 
そのうえでゲレンデのバリエーションが豊富であることも、スノーカルチャーが発展した大きな理由のひとつである。上信越自動車道・妙高高原ICを利用すれば5km圏内に、赤倉温泉や妙高杉ノ原など多様な地形を誇るゲレンデが存在し、同ICから車を20分ほど走らせれば先述したパウダースノーの宝庫・関温泉が、さらに20kmほど足を伸ばせば非圧雪エリアが人気のロッテアライリゾートといったように、魅力あふれる雪山が点在するのだ。メローなツリーランからスティープなオープンバーン、クオリティの高いパーク、ビギナーに優しい緩やかなコースなど様々な顔を持ち、多様なスノーボーダーを受け入れてくれる懐が深いエリアである。だからこそ、熟練から若手スノーボーダー、はたまたビギナーまで、ゲレンデに集う世代が幅広いわけだ。
 
とは言えローカルライダーに目を向けてみれば、世代を超えて受け継がれてきたパウダーカルチャーが根づいており、“滑ること”がライフスタイルとして確立している。そうした環境を求めて、世界中の雪山を滑り続ける橋本貴興や小西隆文らが移住してまでホームマウンテンに選んでいることからも、このエリアがいかに奥深く面白いかが理解できるはずだ。
 
 

“貪欲”に滑り続ける男
小西隆文

映像プロダクション・HEART FILMS に所属し、北米を代表するビッグマウンテンを舞台に美しいラインから巨大ジャンプまで、数多くのフッテージを残し続けている小西隆文。そうした結果を残すため、地元・徳島を離れて選んだ地が妙高である。その理由にこそ、このエリアの魅力や本質が隠されているはず。訊いてみた。
 

 

雪山を選べる、それが魅力。

「妙高はとにかく雪が多い。雪の量とパウダー率は世界レベルだと思う。重めだけど、踏みごたえがあるからスピードが出るんだよね。そして、しっかり踏めばちゃんとスプレーが舞い上がる。そういう雪質が好きで」
 
妙高は日本でも屈指の積雪量を誇るエリアのひとつである。日本海に近いため、湿気を含んだ雪がひと晩で1m以上降ることも稀ではない。私自身このエリアに拠点を置いていた時期があり、朝起きるともっさりとした雪が車をすっぽり覆い隠す風景を思い出した。その雪の量と質こそが、小西のお気に入りのポイントなのだ。
 
「雪質がシルキーでなめらかな感じって僕らは表現するんだ。キメが細かくて、潜るというよりは雪の上を滑っていけるのが妙高パウダー。軽すぎると沈んじゃうからね。だから、パウダーでもスピードが出る。そのほどよい雪質が気に入ってるんだ」
 
軽いだけでは物足りないという雪質の選び方は、彼のライディングに秘められたストイックさを彷彿とさせる。ハイスピードで駆け抜け、ヒットポイントがあればジャンプで仕留める。そういった小西のライディングスタイルだからこそ、踏み応えがある妙高の雪質とは相性がいいのかもしれない。
 
さらに、下道でも1時間圏内で行けるゲレンデが多いのも、このエリアの魅力である。
 
「杉ノ原は適度な斜度のバーンがめちゃくちゃ長いから、上から下までフルカービングで、ずっとブレーキせずにいい感じのスピードで下りてこれるのがすごく気に入ってる。アライや赤倉も含めて、どこもリフトが長くて滑走距離を稼げるゲレンデが多いかな」
 
HEART FILMSの撮影では、アラスカなどのビッグマウンテンが舞台となる。だからこそ、ロングランできるゲレンデが彼にとっては必要不可欠なのだ。
 
バックカントリーが活動の中心とはいえパウダースノーを追い求めるばかりでなく、「今日は杉ノ原のこの辺に行こうかなとか、時間帯で滑り分けたりもする」と、地形豊富なホームゲレンデのナチュラルヒットでトリックの感覚を養うことも疎かにしない。
 
また、90年代にパイプドラゴンをいち早く導入するなど多くのスノーボーダーから愛され、2017年に再オープンしたロッテアライリゾートの存在も、彼の妙高ライフをさらに充実させることになった。
 
「アライはほぼバックカントリーのような斜面をリゾート側がアパランチコントロールしてくれているコースがあって、まさに北米のゲレンデって感じ。それにフリーライドの大会が行われる斜面もあって、自分を鍛えに行くゲレンデでもある」
 
ビッグマウンテンを形成する急峻な斜面に攻撃的なラインを刻む彼でさえ鍛えられるという場所が、妙高には存在するということだ。
 
小西のフィールドはゲレンデ内だけでなく、サイドカントリーやバックカントリーも当然ながら含まれる。この妙高エリアはエントリーしやすく戻って来やすいサイドカントリーが多く、ツリーランも手軽に楽し
めるという印象だ。
 
「多くのエリアでは入り口が1箇所で、そこからみんな入っていく感じだけど、妙高はどこからでも入れるから選べるラインがいっぱいあるんだ」
 
赤倉のナチュラルパイプや杉ノ原の一枚バーンなど、コース外という看板が掲げられている自己責任エリアになるが、地形が豊富なうえに、ラインをずらせば何本でもノートラックを味わうことができるため、飽
きずに滑り続けてしまうのだ。一日中リフトアクセスでサイドカントリーを滑り倒していた、あの頃を思い出した。
 
妙高エリアのサイドカントリーは1960年代に山スキーを愛した人たちにより開拓されたものであり、現代のスノーボーダーたちは、その道筋を歩みながら新たな遊び方を生み出している。妙高の雪山が自然の遊び場として、時代を越えてもなお愛され続けている歴史を感じた。
 
「登ったらすごく厳つい斜面の山もあるけど、普段はコンパクトに回数を重ねて滑りたいからあまり登らないんだ。マッシュのジャンプや急斜面など、何回も試せるヒットポイントがあって面白いから」
 
ゲレンデ内をロングランすることでスピード感覚や足腰を鍛え上げ、サイドカントリーではお気に入りの地形を繰り返し滑ることでトレーニングを重ねている。リフトを使って回せる手軽さや山のコンパクトさは、
一般スノーボーダーにとっても楽しみやすいフィールドと言えるのかもしれない。
 
しかし、小西にとってのベストマウンテンは妙高エリアではなく、別のエリアにあるそうだ。
 
「ライダーとしての自分の基礎ができたのはカナダのウィスラー。滑走距離がものすごく長いゲレンデで、そこを滑り込んで鍛えられたからこそ、近しい環境が日本でもほしいと思っていた」
 
妙高の山々が誇るロングコースでさえも、本音を言えば物足りないのかもしれない。では、なぜその山を拠点としなかったのか。
 
「ひとつじゃイヤだったんよね、山が。そこを拠点にしたら1箇所に留まってしまうと思って。今住んでいる信濃町からだったら、妙高だけでなくほかのエリアも選べる。野沢温泉や志賀高原、白馬方面にも行ける
環境。妙高以外のビッグエリアに足を伸ばせるのも、かなり大きい魅力だった」
 
それは日本ならではの贅沢な環境である。テーマパークのような北米の巨大リゾートで滑ってきた私には、この“山を選べる”ことがとても魅力的に感じるのだ。コンパクトながらも、それぞれのゲレンデに特徴があり、雪質も変化する。そこには、ひとつの大きな山を滑り込むことの大切さとは違い、状況を見極めて山を選定する判断力が養われ、あらゆる雪質や斜面を滑ることでより上達するのだと改めて思わされた。
 
「日本国内には同じようにできるところがほかにもあるだろうけど、縁があったのがここだった」
 
小西の地元から遠く離れたこの地には、雪質だけでない彼の求めるものがあった。
 
「一番最初にコモったのが赤倉で、その時の先輩が杉ノ原にパークを作り始めたのをキッカケに通うようになった。ゲレンデが好きだと思えたことが、ここをホームにしている一番の理由」
 
「家から10分でゲレンデに行けるから、ライフスタイルとしてスノーボードを楽しめると思って」
 
2人の息子を持つ小西は、子育ての環境としてもここでの暮らしに魅力を感じているという。
 
「子供と一緒に滑りに行くことが簡単にできて、自分が一生懸命やってきたことの楽しさを共有できるのがすごい嬉しいね」
 
小西にとって妙高は、家族との時間を大切にしながら世界のフィールドで戦うための準備を整えられる、そんな場所なのだ。

edit + text: Daisuke Nogami(Editor in Chief)
interview + text: Yukie Ueda

 
 
CONTENTS
▶INTRODUCTION|はじめに
▶01|北海道 / 札幌 安藤健次インタビュー
▶02|北海道 / 道北 佐藤秀平インタビュー
▶03|北海道 / ニセコ 渡辺大介インタビュー
▶04|東北 / 北東北 杉本幸士インタビュー
▶05|東北 / 南東北 松浦広樹インタビュー
▶06|群馬 / 利根沼田 中山悠也インタビュー
▶07|新潟 / 魚沼 関口 敬インタビュー
▶08|新潟 / 妙高 小西隆文インタビュー
▷09|長野 / 白馬 美谷島 慎インタビュー
▷10|長野 / 北信 中山二郎インタビュー
▷11|岐阜 / 飛騨 太田宜孝インタビュー
▷12|西日本 / 近畿・中国 中尾正明インタビュー
▷OUTRO|JAPOW PRIDEからJAPOW FROM___へ。
 
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BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE
ISSUE 11 「JAPOW PRIDE ──ニッポンの雪と山と文化を知る──」

 
北海道・ニセコや長野・白馬を中心に大挙して押し寄せている外国人は、なぜ日本の雪山にこだわり続けているのか。それは、ここまで多くの人々が日常生活しているエリアに雪が大量に降る国がないから。米アラスカの僻地やカナダBC州の山奥には、もちろん大量に極上パウダースノーが降り注ぐ。しかし、それとはワケが違う。街があり、その近くに多くのゲレンデが点在し、ハイクオリティなパウダースノーが堪能できる。しかも、食事も温泉も人も最高。さらに言えば、リフト券が格安だ。これらが日本が世界に誇るべき価値なのである。これを言い換えれば、僕たちは世界中の雪を愛する人々が羨む環境に住んでいるということ。だからこそ、ニッポンの雪と山と文化を改めて知ってほしく、この一冊を編むことにした。世界一の豪雪大国に住むスノーボーダーの胸に、“JAPOW PRIDE”を刻みこんでもらいたい。
 

 
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