BACKSIDE (バックサイド)

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FEATURE

「重い雪も嫌いじゃない」──関口敬が厳しい条件の地元・魚沼で滑り続ける理由。【創刊10周年特別企画】ISSUE 11『JAPOW PRIDE』

2026.10.19

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新潟 / 魚沼

※2020年に綴った言葉をそのまま掲載
 
 

屈指の豪雪エリアが育んだフリースタイル文化

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」
 
川端康成著『雪国』の書き出しでよく知られた一文だ。国境の長いトンネルとは、水上から湯沢に抜ける上越線の清水トンネルがモデルとなっており、JR上越線・土合駅と土樽駅の間にある全長9,702mの山岳トンネルのこと。車であれば全長10,926mの関越トンネル下り線を抜けた瞬間、川端康成にシンクロした経験があるという首都圏スノーボーダーは多いことだろう。
 
「我住む魚沼郡は日本第一に雪の深く降る所なり」
 
現在の新潟県南魚沼市塩沢出身の随筆家、鈴木牧之の著書である『北越雪譜』に綴られている言葉である。こちらの書籍、1837年に江戸で出版されベストセラーとなったそうだ。そう、少なくとも180年あまり前から、魚沼は豪雪エリアとして全国的に周知されているのだ。
 
『雪国』の主人公・島村は東京に妻子がありながら、湯沢の芸者・駒子に会うために汽車で通っていた。1931年に清水トンネルが開通したことでそれが可能になり、当時は上野から新潟まで7時間10分を要したそうだが、現在では上越新幹線を利用すれば東京駅からおよそ80分で豪雪地帯にたどり着く。
 
車であれば、関越自動車道を利用すれば2時間ほどの距離に位置し、そこから短時間でアクセス可能なゲレンデは10以上も存在する。交通環境におけるインフラ設備が整っているため、多くのスノーボーダーに人気を誇るエリアなのだ。そうしたことから、この地を訪れるスノーボーダーは他エリアよりも若年層が多く、ゲレンデの雰囲気も華やかに映る。
 
さらに、パーク造成に適した湿り気を含んだ雪が多く降るため、整備の行き届いた人工アイテムが造りやすいことも特徴だ。そうした好環境を求めて、首都圏から数多くのライダーが集結する。彼らが身にまとうファッション、そして繰り出される数々のトリックがメディアを介して全国に広まり流行を生むというトレンド発信地としての役割も担ってきた。
 
もちろん、屈指の豪雪エリアだからこそ、ゲレンデ内でもパウダースノーを十二分に堪能できる環境がここにはある。この写真は鈴木牧之の記念館から車で約15分の距離に位置する上越線・石打駅で撮影されたもの。そんな魚沼に出自を持つスノーボーダーのライフスタイルにこそ、町にもこれだけ積もる本エリアの真のポテンシャルが秘められているに違いない。
 
 

地元に“こだわる”男
関口 敬

かつてはハーフパイプやストレートジャンプでトリックに磨きをかけながら、国内有数のパークエリアである地元・魚沼で滑り込んできた関口敬。現在はフィールドをバックカントリーに移し、2019年3月に開催された ARAI FREERIDE QUALIFIERS で優勝を飾るなど、フリーライディング技術に磨きをかけている。そんな彼が魚沼で滑り続ける理由とは。
 

 

難しいからこそ、面白い。

「中学から19歳頃まではずっとパイプをやっていて。家が上国(上越国際)の麓なので、歩きやチャリで行ってました」
 
スノーボードを片手に自転車にまたがるという斬新さに驚いていると「この辺の人たちはけっこうやってましたよ」と、あっけらかんとした言葉が返ってきた。
 
魚沼は盆地特有の気候で寒暖差が激しいため、米や野菜が美味しいことで有名だ。春になると雪山の気温も一気に上がり、半袖になってシャバシャバの湿雪でスノーボードをすることもあるほど。
 
真冬でもそれほど気温が低くならないこともあり、このエリアには湿気を多く含んだ雪が降り積もる。だからこそ、キッカーなどの人工物が作りやすいのだ。時代の潮流に合わせ、ハーフパイプのみならず様々な人工アイテムがゲレンデに出現し、多くのトレンドを生み出してきた。
 
「パイプに打ち込んだ後は、石打でパークジャンプやスロープスタイルをやってましたね」
 
地元に用意された人工物に当然のごとくのめり込み、競技を変えながらもこのエリアで滑り続けてきた。
 
当時最先端だったゲレンデの多くは残念ながら閉鎖となってしまったが、石打丸山はこのエリア特有のパークの歴史を受け継ぐかのようにして、進化したアイテムを今なお作り続けている。日本のゲレンデからパイプが消えていく中、6.7メートルの高さを誇るモンスターパイプが用意されていることにも、全国有数のフリースタイル天国としてのポテンシャルの高さを感じる。
 
また、新幹線の駅がゲレンデに直結しているGALA湯沢や、湯沢ICから3分の距離にありながら豊富な雪とハイクオリティのパークを有する神立高原、サイド/バックカントリーエリアを開放しているため首都圏スノーボーダーも手軽にパウダーを楽しめるかぐらなどは、不動の人気を誇る。さらに、雪が多すぎてトップシーズンは閉鎖するほどの秘境に位置する奥只見丸山は豊富な残雪を活かして、魚沼エリアらしい暖かい陽気とともに春スノーボードの楽しさを実感させてくれる。
 
首都圏から好アクセスの魚沼エリアはいまだ根強い人気があり、週末や3連休には、各ゲレンデを結ぶ国道17号がバブル期さながらに渋滞するほどの賑わいを見せているのだ。
 
パークが充実した人気エリアにいながらして、人工物でトリックの反復練習を繰り返すだけでは飽き足らず「中学の頃からフリーランをメインに滑っていて、コース内の起伏にジャンプを作ったりしていました」と、ゲレンデ内を縦横無尽に駆け巡っていた関口。
 
仲間とともに自然地形を見つけては遊びを生み出す。雪山が遊び場だった少年たちにとって、それは当たり前の日常だった。
 
「ゲレンデのコースだから怒られて終わっちゃうんですけどね(笑)」
 
こうしたイタチごっこを続けているうちに、ゲレンデから足が遠のいていくことに。
 
「そのうち裏山に入りジャンプを作って飛ぶようになって。それが徐々に広がっていき、今ではバックカントリーを滑るようになりました」
 
バックカントリーを滑るのであれば雪質は重要なファクターだ。魚沼エリアの降雪量は申し分ないが、雪質はお世辞にも軽いとは言えない。もっと条件のいいエリアがある中で、関口が魚沼エリアにこだわる理由とは。
 
「このエリアは、雪の状態がいいタイミングを当てるのが難しい。滑れる時間も期間も極端に限られていて」
 
「このエリアで(バックカントリーを)滑るのは簡単じゃない。山もいきなりパーンと切り立っていて、“どこ滑るの?”って感じの厳ついところもあるし」
 
魅力はおろか、やはりバックカントリーとしての条件が整っていないように聞こえてしまう。さらに言えば、春になって一気に気温が上がるこのエリアでは、全層雪崩が起きている光景があちこちに見られるほど。
 
「限られていること。それが難しくて面白い。気象や雪質などすべて把握してやっとそこを滑れる、自然と向き合っている感じが好きなんです」
 
一年中ここに住んでいると、夏に見ていた地形に雪が降り積もり、日のあたる斜面やその時間帯がイメージできるんだとか。
 
近隣にはクオリティの高いパークがたくさんあったが、海外の映像作品を観て育ってきたからこそ、バックカントリーに目がいくのは自然なことだった。「いずれはここを飛びたい」──そんな目線で周囲の山々を見ながら育ち、現在に至る。
 
「最初は小さい里山だったのが、今ではアルパインにも行き始めて。どんどん奥に入っていきたくなるんです」
 
関口は地元の山に魅了され、いつしか魚沼のイメージを覆すようなロケーションでのライディングを追い求めるようになっていたのだ。
 
「豪雪だからこそマッシュが育つんですよね。雪が積もりすぎてめちゃくちゃ変な形になったり、見たことがないほどのデカさになったり」
 
雪に湿気が含まれているからこそ積もりやすく、地形に多様な変化がつきやすい。そして、雪が固まりやすいからゲレンデ内にも飛べるポイントが自然にできるし、斜度変化に富んでいてその中にいろいろな地形が詰まっているから、滑り応えがある。
 
「重い雪も嫌いじゃない。むしろ修行になる」と胸を張る関口。ボコボコになった雪面で遊びながら、総合滑走力が自然と上がっていくのだ。
 
「雪が重たい分、パウダーの表面に乗れるんですよね。ナイターになると湿気が抜けて軽くなり、降りたての雪とは違う、別物のパウダーになる」
 
冒頭で述べたように、魚沼は盆地のため朝晩の寒暖差が大きい。そのため、夜になると気温がグンと下がり、ナイターでは驚くほど雪が軽くなるのだ。魚沼の気象条件は米や野菜だけでなく、パウダーの味わいも深くするというわけ。雪が生き返ったナイターで、営業終了まで夢中で滑っていたあの頃を思い出した。
 
「それもまたスノーボードの醍醐味ですよね。条件に合わせたライディングスタイルで楽しむっていうのは」
 
トップシーズンはバックカントリーがメインとなり気が抜けないが、春になると豊富な地形が出現するのでファンなセッションが自然と始まる。
 
「ここでクォーター作ろうぜって、来れるヤツみんな呼んでさ」
 
昔から変わらない地形を使った遊びを楽しみ、湿気を含んだ重めのパウダーは自分の修行の場であると考える関口は、「この地でやれることはまだまだある」と言い切った。
 
年間を通じると気温差が激しく雨量の多いこのエリアは、はっきりとした四季を感じることができる。
 
「春は桜が咲き、夏は川で遊び、秋は米が実り、冬は豪雪地帯となる。それに合わせて自然を感じ、季節の食べ物を味わえることが一番の魅力」
 
そう、少し不器用に語る彼の言葉は、ひさしぶりにこのエリアに行ってみたいと思わせてくれた。

edit + text: Daisuke Nogami(Editor in Chief)
interview + text: Yukie Ueda

 
 
CONTENTS
▶INTRODUCTION|はじめに
▶01|北海道 / 札幌 安藤健次インタビュー
▶02|北海道 / 道北 佐藤秀平インタビュー
▶03|北海道 / ニセコ 渡辺大介インタビュー
▶04|東北 / 北東北 杉本幸士インタビュー
▶05|東北 / 南東北 松浦広樹インタビュー
▶06|群馬 / 利根沼田 中山悠也インタビュー
▶07|新潟 / 魚沼 関口 敬インタビュー
▷08|新潟 / 妙高 小西隆文インタビュー
▷09|長野 / 白馬 美谷島 慎インタビュー
▷10|長野 / 北信 中山二郎インタビュー
▷11|岐阜 / 飛騨 太田宜孝インタビュー
▷12|西日本 / 近畿・中国 中尾正明インタビュー
▷OUTRO|JAPOW PRIDEからJAPOW FROM___へ。
 
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BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE
ISSUE 11 「JAPOW PRIDE ──ニッポンの雪と山と文化を知る──」

 
北海道・ニセコや長野・白馬を中心に大挙して押し寄せている外国人は、なぜ日本の雪山にこだわり続けているのか。それは、ここまで多くの人々が日常生活しているエリアに雪が大量に降る国がないから。米アラスカの僻地やカナダBC州の山奥には、もちろん大量に極上パウダースノーが降り注ぐ。しかし、それとはワケが違う。街があり、その近くに多くのゲレンデが点在し、ハイクオリティなパウダースノーが堪能できる。しかも、食事も温泉も人も最高。さらに言えば、リフト券が格安だ。これらが日本が世界に誇るべき価値なのである。これを言い換えれば、僕たちは世界中の雪を愛する人々が羨む環境に住んでいるということ。だからこそ、ニッポンの雪と山と文化を改めて知ってほしく、この一冊を編むことにした。世界一の豪雪大国に住むスノーボーダーの胸に、“JAPOW PRIDE”を刻みこんでもらいたい。
 

 
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