FEATURE
喋らず、滑りで黙らせる。長谷川篤がビデオパートに残したい「絶対的な記録」【創刊10周年特別企画】ISSUE 10「國母和宏が命を捧げる映像表現の世界」
2026.10.01
※2019年に綴った言葉をそのまま掲載
絶対的な記録にこだわるムービースター
長谷川 篤
プロを目指したわけでもなければ、ムービーの世界に憧れを抱いていたわけでもない。しかし、競技者としてライディングスキルに磨きをかけ、フィルムプロダクションの一員として頭角を現すと、誰よりも貪欲に下剋上を目論んでいた。そして、プロとしての確固たる決意とともに、表現者として世界中にその名が知れ渡ることになる。目の肥えたオーディエンスを唸らせることができたのは、絶対的な記録にこだわったから。ムービースター・長谷川篤のこだわりを暴く。
フッテージをコレクションするという思考
18歳のときにJSBA(日本スノーボード協会)の全日本(選手権)で優勝して、プロ資格を獲りました。何年かはスロープスタイルの大会を転戦したんですけど、あまり魅力を感じなくて。それと重なるように、HOTDOGG(現在は解散)っていう映像プロダクションと撮影を始めました。撮影のほうが好きだったけど、ビデオパートに対するこだわりとか考えは全然なかった。なんとなくやってる感じでしたね。
HOTDOGGで数年に渡ってパートは獲ってたんですけど、なんかスカッとしない。そんなとき、フィルマーのマーちゃん(南雲将人氏)にぼそっと「オマエはちゃんと撮影すればトリ獲れるんだから」って言われたんですよね。そのときにスイッチが入ったというか、真剣にやってみようと思ったんです。
それで、最後の作品は2シーズン撮り溜めて出すって話になって、そのときからストリート一本に絞ったんです。理由は、バックカントリーと違って自分の身体が持つかぎりはやり込めるから。バックカントリーだとランディングが荒れたりしたら画にならないじゃないですか。でも、ストリートはレール一本抜くまでに何回でもトライできて、そのなかからベストを選べる。
その頃からストリートにどっぷりハマったんですよね。例えば、スニーカーマニアのコレクターだったら、同じモデルでも色違いがほしくなりますよね。その色違いって、オレにとってはスイッチ技(笑)。いろんなモデルのスニーカーがほしくなるように、いろんなフッテージを集めたくなる。もともと自転車が好きなんですけど、パーツを集めたくなっちゃうんですよね。それと同じ感覚です。自分がいいと思うフッテージを集めたくなって、それをコレクションしてる感じがしっくりきたんです。
これから撮影活動を頑張っていこうと思ってた矢先にHOTDOGGがなくなっちゃったので、心のなかに隙間が空いたような感じで。その次のシーズンは撮影しなかったんですよ。自分のなかでもどかしくて、いろいろ考えてるときにマーちゃんと「篤だけを2年間撮り溜めてフルパートを作るんだったら可能性があるかも」って話になって。それで、1年間はサンプル作りをしてスポンサーを集めて、2シーズン分をまとめてフルパートを作ったんです。
アメリカの686のアカウントで配信されたこともあって、海外のメディアが挙って取り上げてくれたので、反響はデカかった。オレにとって撮影することが一番幸せなライダー活動だから、メーカーから「それをやってればいいよ」って理解してもらえたのはよかったですね。
そのフルパートを撮影してるタイミングでARBORに移籍して、アメリカ本社に興味を持ってもらえたので、グローバルのチームムービーの撮影に参加できるようになったんです。それも2年がかりで撮影して、その後半の1年はFLUXの撮影も重なってました。
翌年もFLUXから続けて作品を出すって話があったから撮影してたけど、結局なくなって……。ムービープロダクションに所属してるわけじゃないから露出先も安定してないし、元々ウェブよりもDVDとして作品に残したいって気持ちがHOTDOGGの頃からあったから、そういうのを探してるときに『INK』ってDVDが出るって話を耳にしたんですよね。それで話を進めてたら、どうやら若手中心のビデオだったみたいで。それでカズと話をしたときに「STONPでやってくれないか」って。そういう流れでした。
今までSTONPを意識することはなかったんですけど、DVDとして出せるのは魅力的。だから、パートを獲るために撮影しようと思ったんです。
男は黙ってスキルとこだわりで圧倒する
カズが『INK』で若手をフックアップするっていう考え方には、すごく共感できますね。バックカントリーでキッカーの作り方とかも教えてるって話を聞きました。
教えるっていう感覚ではないけど、オレもストリートをやってるライダーたちにこだわりが大事だっていうことをわかってほしいし、それを伝えたくて。自分もそうだったけど、若いときはこだわるポイントがわからない。でも、当時の先輩ライダーとか、最近だったら外国人のライダーと撮影するようになって、彼らのこだわりを直に感じながら自分自身が形成されていくと思うんですよ。今の若い子たちは、そういうのをわからないまま映像に使ってるような気がして。
みんながオレの考えに共感するかはわからないけど、スノーボードで撮影をすること自体がカッコつけてる。そして、それを街中でやるなんてもっとカッコつけてるわけですよね。そのうえで、滑り方でも不自然にカッコつけるのは恥ずかしいなって(笑)。自然な身のこなしで、自然な流れがカッコいいっていうか。それがスタイルだと思うんです。すべて理にかなった動きの連続で、スタイルは出すのではなく滲み出るっていう考えですね。
そのうえでオレのこだわりとしては、例えばキンクレールのボードスライドだとしたら、脚と脚の間にレールがあって、フラット部分で衝撃を吸収したときのボードのしなり具合が左右均等になるのが理想です。両足首と両ヒザの4点が四角形で、ボードとレールの角度は直角じゃないと満足できない。ノーズプレスも浮いてるチップ側がレールの上にないとダメだし、270オンもボードとレールが直角じゃないと合格点は出せません。
もちろん難しいですよ。だからこそ、難しいほうを極めるのが当たり前。しかも、やっていてそっちのほうが気持ちいい。基本的にはすべてのトリックが、その気持ちよさに尽きますね。
あと、アクションには意味がないと撮影する理由にならないと思ってて。例えば、フェンスオーバーでキンクレールに入るとして、180してスイッチ50-50で乗れば意味はあるけど、それがハーフキャブだとしたらマイナスの意味になる。だったら、ノーマルスタンスでオーリーして50-50したほうが、技のレベルは下げるけど無駄が省けるということ。余計なアクセサリーを外すというか(笑)
ここ数年、自分としてはレベルが停滞していたように感じていたけど、今回の『HIDANE』の撮影ではいくつかの技が抜き出た感じがします。スイッチの技もけっこう多めに残せたし、ハードウェイを両方向で揃えられたのはうれしいポイントですね。コレクターが喜ぶレア物のスニーカーを色違いでゲットしたような感覚かな(笑)
オレにとってのビデオパートはプロスノーボーダーとしての記録です。記録って言うと競技っぽく聞こえるかもしれないけど、やっぱり誰にも負けたくない。そういう意味でも記録、レコードですね。DVDになって何回観られても、徹底的に分析されても粗が出てこない絶対的な記録を残したい。
だからこそ、撮影のときはいつも2段階くらい上のレベルでフッテージを残そうとしてます。現場では苦労もあるし興奮してるから超ヤバイ映像を残したってなりがちだけど、冷静に見返したときに大体下回ってることが多いから。
あとは、それくらい完璧なものを残しておけば、喋らなくて済むというか。セルフプロデュースが上手い人もいるけど、オレはそういうヤツらに喋らないで勝ちたい。だから、常に上のコレクションを集めるようにしてるんです。
text: Daisuke Nogami(Editor in Chief)
CONTENTS
▶EPISODE 1 燃えるような何かを求めて
▶EPISODE 2 KAMIKAZUが胸に刻んだ新たな決意
▶EPISODE 3 世界一のスノーボーダーとして後世に伝えていく文化
▶EPISODE 4 夢や希望にあふれた新しいシーンに塗り替える
▶短編インタビュー 吉田啓介 遅咲きのムービースター
▶短編インタビュー 高橋龍正 孤高のムービースター
▶EPISODE 5 “立つかヤラれるか”の精神を再び燃え上がらせる火種
▶短編インタビュー 工藤洸平 センスが光るムービースター
▶短編インタビュー 小川凌稀 本場仕込みのムービースター
▶短編インタビュー 戸田真人 生粋のムービースター
▶短編インタビュー 長谷川 篤 絶対的な記録にこだわるムービースター
▷EPISODE 6 國母和宏という生き様
___
BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE
ISSUE 10 「KAZU KOKUBO, THE MOVIE STAR ──國母和宏が命を捧げる映像表現の世界──」
2016年、スノーボード界のアカデミー賞に位置づけられる授賞式において最優秀ビデオパート賞を獲得。2018年には、自身が主演・監督を務めた作品が最優秀ムービー賞に選ばれ、さらに最優秀ライダー賞の栄冠に輝いた。弊誌創刊号で綴った強すぎる信念を貫き通した結果、世界一に登り詰めたのだ。「すごいロケーションのラインを滑るとき、人生がかかってると感じる。死ぬかもしれないわけだし」。雪に覆われた急峻な山々を華麗に舞い、大雪原を自由自在に滑り倒す。死と隣り合わせの状況に身を置いてまで伝えたいものとは──。國母和宏が命を捧げる映像表現の世界には、私たちの心を奮い立たせる想いが込められていた。

【バックナンバーのご購入はこちらから】
https://backside.theshop.jp/items/24277374




