FEATURE
カズひとりでは日本は変わらない。だからこそ、仲間と本気で世界を目指した【創刊10周年特別企画】ISSUE 10「國母和宏が命を捧げる映像表現の世界」〈第5章〉
2026.09.23
前章では、國母和宏が若手ライダーたちを成長させ、その表現の場を作るために立ち上げたINKを追った。その根底にあったのは、自らが世界で経験してきたことを次の世代へ還元し、日本のスノーボードシーンそのものを押し上げたいという想い。
しかし、その役割を担っていたのはINKだけではない。
カズが2010年に立ち上げたSTONPは、日本人ライダーが世界へ飛び出していくための道を切り拓いてきた。ではなぜ、自らだけでなく、世界で戦える仲間たちを増やす必要があったのか。
2019年、再び動き始めていたSTONPを通して見えてきたのは、カズが長年抱き続けてきた、日本のスノーボードを世界トップレベルへ押し上げるという意志だった。
※2019年に綴った言葉をそのまま掲載
EPISODE 5
“立つかヤラれるか”の精神を再び燃え上がらせる火種
2010年夏、日本のスノーボードシーンに革命をもたらすべくSTONPは誕生した。その目的は、オリンピックを中心に競技化が加速していたシーンに対するアンチテーゼであり、島国・日本のスノーボードを世界レベルへと押し上げるため。STONPという名のアミュレット(「お守り」の意。ここではP86-87で掲載しているデッキパッドを指す)をツールとして、国内に点在していた世界を相手に戦える有能なライダーたちを束ねたのだ。
そして、『“S”TRIPPERS & POWDER JUNNKIES(2011年作)』『STONP OR DIE(2012年作)』『STONP OR DIE 2(2013年作)』『STONP OR DIE 3(2014年作)』『STONP OR DIE(2015年作)』の5作品を世に送り出し、国内外問わず大きな反響を呼ぶと同時に、多くのライダーたちをグローバルへ輩出した。
ムービー制作は2015年に一度休止するも、その後は先述した「ZETSURIN」を開催。クルーとしての存在感を消すことなく、次なるフェイズへ向けて歩み出していた。2018年秋には、小川凌稀と戸田真人のダブル主演作『OG CHEESE(2018年作)』をリリース。STONP作品が復活を遂げたのだ。
そして2019年10月、オリジナルメンバーの工藤洸平やカズ自身も撮影に参加した『HIDANE』が発売。EPISODE 4で紹介した『INK』と合同で開催された東京試写会は、繰り返しになるが満員御礼……いや、キャパオーバーでスクリーンが見えないほどの大盛況だった。
「ライダーたちの目標にもなるし、ああいうカッコいいクルーはあったほうがいい。だから、スタイルを変えることなく少しずつ大きくしていって、またフルレングス作品が出せるようになったらいいと思ってますね。やっぱりSTONPはこの業界に必要。復活させていこうと思ってます」
改めてここで、STONPが成し遂げた偉業について簡潔に振り返っておきたい。設立当初、カズは自身の名を明かすことなく自ら黒幕となり、日本のシーンに点在していた才能あるライダーたちを線で結ぼうとした。“日本を変える存在でありたい”と心に誓ったとき、それを達成するにはひとりでやっても意味がないことを知っていたから。
「自分のことだけを考えて滑るんだったら、世界レベルで上に行く自信はもちろんある。だけど、日本からオレだけが出ても、そんなに変わらないと思います。(布施)忠くんがあそこまで世界のシーンに影響を与えたのに、日本はイマイチだった。今までの日本になかったような衝撃を与えるためには、オレひとりじゃ無理なんです。ひとりじゃできないようなことをやらないと、今の日本のシーンは変わらない」
このカズの言葉は創刊号でも綴っているのだが、こうした想いからSTONPは誕生している。高校生の頃から単身で渡米し、名門フィルムプロダクションとのシューティングに多くの時間を費やし、数え切れないほどの経験を積んできた男。その傍らでオリンピック出場を果たし、時空を止めるかのようなマックツイストの映像が世界中に配信されると、多くのスノーボーダーはもちろん、ボードを履かない人間までを虜にした。
こうした実績を引っさげて、世界のスノーボードシーンに己の力を認めさせたのだ。最高の“画”を残すことで、日本のスノーボードを世界レベルで認知させる。それができることをカズは知っていたからこそ、身銭を切ってまでSTONPを5年間に渡り運営してきたのだ。
こうして、北米を代表するメディアとして知られるSNOWBOARDER MAGAZINEで日本特集が組まれ、カズのロングインタビューと併せて、工藤洸平や戸田聖輝、テディ・クーのショートインタビューが掲載された。また、2015年秋、TRANSWORLD SNOWBOARDING PRODUCTION作『ORIGINS』にはカズを筆頭に、洸平とテディも出演。確実に成果が表れていた。また、2015年9月に行われた5作目となる『STONP OR DIE』の試写会ではスノーボーダーだけにとどまらず、イマドキでおしゃれな若者からパーティーピープルに至るまで、ジャンルの垣根を越えたオーディエンスを集めていた。ライディングスキルだけでなく、ライフスタイルも含めたブランディングが功を奏した結果だったのだろう。
スノーボーダーの高齢化とともに山岳スポーツへと深化し、オリンピックとともに体育スポーツに近づきつつあったシーンに大きな風穴を空けたのだ。ファッションや音楽といったストリートシーンからも支持されるクルーとして、STONPは日本スノーボード界を牽引していたのだった。そんな絶頂期にSTONP作品を休止した理由は、そこに出演することがライダーたちの目標になってほしくなかったから。自ら能動的に考え、世界の舞台を目指して積極的に行動してほしかったから。
しかし、RIDER OF THE YEARを獲得したことで、改めて日本のシーンを俯瞰で見つめ直してみた。そこで必要だったのがINKであり、STONPの復活だった。
「休んでる期間があったからこそ、映像作品としてのSTONPの必要性を感じることができた。あと、最初の5年間でそこそこの人数をインターナショナルに上げられたじゃないですか。(堀井)優作くんも(高尾)翔馬もシグネチャーモデルを出せるようになったし、テディもグローバルで契約できるようになってたから。でも、STONPの映像活動を休止したことで、日本人ライダーが世界へ出ていくための手段がなくなったと思うんですよね。だから、やっぱりなきゃいけないんだと思ったことと、まだ世界に出していきたいライダーがいるから。その両方ですね」
STONPとは、世界と対等に渡り合える“選ばれし者”の集団である。そうしたライダーのみが出演を許されるわけだ。前作『OG CHEESE』にも出演している凌稀と真人、そして洸平とカズ、さらに今作には長谷川篤が参加。2015年の時点では彼ら以外のメンバーも出演していたが、あれから3年が経過──現時点では少数精鋭となってしまったSTONPクルー。しかしまた、フルレングス作品が出せるように少しずつ大きくしたいと願っている。彼が言うフルレングスムービーとは、10人前後でクルーを形成し、映像の尺は35分くらいをイメージしているようだが、そのカズの思惑とは。
「やっぱり同じであってはいけない。それはイメージもそうだし、実力もですね。STONPは突き抜ける存在であってほしい」
このカズの言葉は、INKができたことによりSTONPとしての姿勢を尋ねた際の答えだ。INKからの突き上げによりSTONPクルーがさらに研ぎ澄まされ、STONPの存在がINKクルーのモチベーションを高める。その結果として、INKを卒業してSTONPに加わるライダーが出てくることだろう。
こうして双方の歯車が絶妙に噛み合うことで、将来的にフルレングス作品を復活させたいと目論んでいるのかもしれない。互いに切磋琢磨を繰り返して、日本のシーンが進化していく。こういう算段なのか。
「2010年に始めたときとまったく変わりません。STONPとしてはコアなスノーボードを伝えていきたい」
あおる言葉などいくらでも綴れるからこそ、誇大表現は嫌いだ。そして、読み手がそれらを実際に手にしたとき、乗ったとき、観たときなど、違和感を覚えるはずだから。
それを前提として『HIDANE』は間違いなく世界レベルだ。いや、もとい。世界トップレベルの滑りを日本人ライダーたちが体現している。キーガン・バライカ、スコット・ブラム、そしてクルーのひとりであるテディ・クーがバックカントリーパートで友情出演しており、主役の凌稀、真人、篤、洸平、カズら5名それぞれのカラーが色濃く打ち出された仕上がり。スキルというモノサシだけでは計れない、スタイルという個性がぶつかり合う20分足らずの映像作品である。単純にカッコいい。そう心に響くことだろう。
楽しく滑りたい。上手くなりたい。気持ちよさを味わいたい。あらゆる欲求を満たすべく雪山へ赴くわけだが、それらにカッコよさも加えたいというスノーボーダーたちは、絶対に観るべきだ。
「今作のタイトルは洸平が考えました。詳しくは彼に聞いてほしいんですけど、多分オレと同じ想いなんだと思う。今は、これから燃え上がっていくための準備段階なんだっていう」
text: Daisuke Nogami(Editor in Chief)
CONTENTS
▶EPISODE 1 燃えるような何かを求めて
▶EPISODE 2 KAMIKAZUが胸に刻んだ新たな決意
▶EPISODE 3 世界一のスノーボーダーとして後世に伝えていく文化
▶EPISODE 4 夢や希望にあふれた新しいシーンに塗り替える
▶短編インタビュー 吉田啓介 遅咲きのムービースター
▶短編インタビュー 高橋龍正 孤高のムービースター
▶EPISODE 5 “立つかヤラれるか”の精神を再び燃え上がらせる火種
▷短編インタビュー 工藤洸平 センスが光るムービースター
▷短編インタビュー 小川凌稀 本場仕込みのムービースター
▷短編インタビュー 戸田真人 生粋のムービースター
▷短編インタビュー 長谷川 篤 絶対的な記録にこだわるムービースター
▷EPISODE 6 國母和宏という生き様
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BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE
ISSUE 10 「KAZU KOKUBO, THE MOVIE STAR ──國母和宏が命を捧げる映像表現の世界──」
2016年、スノーボード界のアカデミー賞に位置づけられる授賞式において最優秀ビデオパート賞を獲得。2018年には、自身が主演・監督を務めた作品が最優秀ムービー賞に選ばれ、さらに最優秀ライダー賞の栄冠に輝いた。弊誌創刊号で綴った強すぎる信念を貫き通した結果、世界一に登り詰めたのだ。「すごいロケーションのラインを滑るとき、人生がかかってると感じる。死ぬかもしれないわけだし」。雪に覆われた急峻な山々を華麗に舞い、大雪原を自由自在に滑り倒す。死と隣り合わせの状況に身を置いてまで伝えたいものとは──。國母和宏が命を捧げる映像表現の世界には、私たちの心を奮い立たせる想いが込められていた。

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