FEATURE
世界の頂点に立ったカズが、次世代へつないだスノーボードカルチャー【創刊10周年特別企画】ISSUE 10「國母和宏が命を捧げる映像表現の世界」〈第3章〉
2026.09.16
前章では、自らがカッコいいと思うスノーボードだけで作り上げた『KAMIKAZU』を通して、リアルスノーボードがさらに広がっていく可能性を感じた國母和宏の姿を追った。
その作品がMOVIE OF THE YEARに輝いた2018年のRIDERS POLLで、カズはもっとも栄誉あるRIDER OF THE YEARも同時に受賞する。競技の得点や記録ではなく、ライディングはもちろん、表現力や存在そのものを含めて評価されるスノーボードの世界で、ついに頂点に立ったのだ。
しかし、世界一と称される存在になっても、カズは止まろうとはしなかった。自らが滑りで魅せ続けること。そして、これまで多くの人たちによって育まれてきた環境を残し、次の世代へつないでいくこと。
世界のトップに立ったからこそ見えてきた、自らが果たすべき役割とは。
※2019年に綴った言葉をそのまま掲載
EPISODE 3
世界一のスノーボーダーとして後世に伝えていく文化
アメリカでは参考記録ながら世界最多となる4,367安打を放った野球のイチロー、3大会連続オリンピックに出場して個人総合2連覇を含む7つのメダルを獲得している体操の内村航平、200mバタフライの短水路世界記録保持者である水泳の瀬戸大也、2018年9月から世界ランキング1位をキープ(2019年10月22日現在)しているバドミントンの桃田賢斗、ソチ、平昌と2大会連続でオリンピック金メダリストに輝いているフィギュアスケートの羽生結弦など、大会結果や個人記録などにおいて世界の頂点に君臨する日本人アスリートは増え始めている。
それはスノーボード界も同様……いや、少し特殊と言えるのかもしれない。2018年12月14日、20回目を数えた記念すべきRIDERS POLLにて、カズが頂点に立った。MOVIE OF THE YEAR(年間最優秀ムービー賞)に『KAMIKAZU』が輝くと同時に、もっとも栄誉あるRIDER OF THE YEAR(年間最優秀ライダー賞)を獲得。この2冠達成は、事実上の世界一を意味するものだ。
「スノーボードは超クールだ。そして、この賞は自分が信じて突き進んできた人生の確固たる証となるだろう」
世界トップクラスのスノーボーダーたちが一堂に会するステージ上で、カズは力強く英語でこう語った。
競技の世界ではBURTON US OPENハーフパイプで連覇(2011、12年)を達成した実績を持つわけだが、この受賞については得点や記録ではなく、その実力はもちろん、表現力やキャラクターなど人間性も含めたうえでの評価である。スポーツでありながら映像を介した表現力が重んじられるスノーボード界だからこそ、映画界のアカデミー賞や音楽界のグラミー賞のように授賞式が存在するわけだが、そこで、100人超の業界関係者やトップライダーたちが票を投じての結果なのだから間違いない。世界一クールなスノーボーダーという称号を得たわけだ。
創刊号をご一読いただければわかるのだが、腰パン騒動に見舞われながらも決勝まで駒を進めて8位入賞を果たしたバンクーバー五輪の雪辱を晴らすべく、カズは2014年のソチ五輪でのリベンジを目論んでいた。しかし、2013年冬に大ケガをしてしまい断念。2014年1月31日、ソチ五輪開幕直前にADIDASクルーとしてONLINE VIDEO SERIES OF THE YEARを受賞したため、彼は初めてRIDERS POLLの会場に足を運んだ。そのとき、競技生活にピリオドを打ち、こうしたアワードで評価されるプロスノーボーダーを目指す誓い
を立てたのだった。
あれから5年足らずでの快挙達成。これについてカズは、
「早かったとは全然思ってないし、逆に長かった。プロスノーボーダーって第一線で活動できる期間が短いから、ライダーにとっての5年間ってものすごい大事な時間だと思うんですよね。言葉にするとたった5年のように感じるかもしれないけど、もしも大ケガをしたらそのシーズンを棒に振ってしまい、また身体作りからやり直さなきゃいけない。整備されたゲレンデで滑ったものが評価されるわけじゃなくて、自分が滑りたい山や地形を世界中から探して、そこの雪や天候の状況を判断して撮影時期を見極める必要がある。そのうえで、それらを撮ってくれるフィルマーとの相性も重要なんです。自分とフィーリングが合うカメラマンと出会うまでもそうだし、その彼らと信頼関係を築くのにも時間がかかりました。出演ライダーも含めて、これまでのスノーボード人生の集大成がKAMIKAZUであり、その結果としてMOVIE OF THE YEARを獲ることができたんです」
コンペティターであればフィジカルトレーニングはもちろん、トリックの反復練習を繰り返してエアの高さや技のキレに磨きをかけ、難易度やスタイルを高めていくことが求められる。有能なコーチがいれば、その上達スピードはさらに増すのかもしれない。
しかし、何の制約もなく自由に表現することが評価対象となるムービースターの場合、滑りに磨きをかけるだけでは世界のトップに立つことが許されないのだ。
「3です。その3に100%の力を注いでいるけど、ムービーを出すためにプロダクションと交渉したり、出演ライダーを決めたり、身体を作るためにトレーニングしたり、カメラマンを手配したり、ロケーションを調べたり、その場所の陽の当たり方を計算したり、そこまでのアクセス方法を考えたり、現場でサポートしてくれる人を探したり……圧倒的に準備のほうが多いですね。気持ち的にはもっとかけてるけど、時間的に考えると3ですね」
ムービー制作を生業としているカズにとって、ライディングは10分のいくつくらいを占めるのか?という質問に対する答えだ。20代前半までの駆け出しだった頃は滑りだけに集中できていたため、すべてをそこに注いでいた。与えられた舞台で最高のパフォーマンスを発揮する役者であることはもちろん、KAMIKAZUでは舞台やコンセプトなど作品を演出する監督も務め、STONPではプロデューサーも兼任する。プロスノーボーダーとして滑り以外でもフリースタイルスノーボーディングの世界観を表現し、日本のシーンを牽引する立場にあるのだ。
「国を背負ってるつもりはないけど、たしかにスノーボードの方向性とか今後につながる何かを背負ってるライダーは世界的にも少ないのかもしれないですね。そのなかでもトラビス(ライス)は背負ってると思う。彼が作る作品はそういう目で見られてるし、そのムービー次第で業界の方向性が変わってくるから」
明言は避けたものの自覚している。バックカントリーフリースタイルの最前線に立ち、手つかずの雪山をいかにフリースタイルに駆るかという自分にしかできないフッテージにこだわりながら、そのうえで、スノーボードに精通していない人々にも感動を与える作品づくりを目指しているカズ。フリースタイルスノーボーディングを進化させながらも、そのこだわりや滑りの中身を理解できない人も含めてメッセージを届けたい。矛盾しているように聞こえるが、その手応えはKAMIKAZUを通して掴んだ。
創刊号の取材時、RIDER OF THE YEARを獲得するというビジョンがあったかどうかは定かではないが、その最終章で語っている話を思い出した。これまで長きに渡り彼のことを取材してきたが、初めて憧れの存在について口をついたため強く印象に残っている。テリエ・ハーカンセンやジェイミー・リン、ブライアン・イグチといったレジェンドと呼ばれるライダーたち。今なお求められ続けている彼らのようになりたい。今回の受賞により、その崇高なるステージにどれだけ近づいたと認識しているのだろう。
「全然わからないですね。そうなれたら理想だけど、まだ見えてません。ライダーとして求められ続ければいずれはたどり着けるのかもしれないけど、今は何をすればそこまで行けるのかまったく想像できない。ただ、これまでもいろんな人たちの協力があって今の自分があるわけだから、次はそれを返していきたいと考えていて。その人たちに返すのもそうだし、下の世代につないでいくことも業界に対してのオレからの……簡単に言えば“感謝”の気持ちだと思ってます。自分がここまで成長できた環境を作ってくれた人たちに対する感謝の気持ちを込めて、オレもまたそうした環境を残していかないといけないから。そうすることでまた新しいヤツらが出てきて、このシーンがつながっていく。それをつないでいくためにも、まだ滑りで魅せていかないといけないんです。滑るのをやめて引っ張っていけるほど影響力はないと思ってるから、止まれないし、やり続けなきゃいけない」
4歳でスノーボードを始め、14歳のときにハーフパイプで世界2位に輝いた。高校時代からバックカントリーで格闘する傍ら競技生活を送り、22歳で一部の国民を敵に回しながらも2回目の出場となったオリンピックの舞台で躍動。その直後から、日本のシーンを盛り上げるために身銭を切って投資してきた。そして28歳で自身のビデオパートが世界一と評され、30歳でスノーボード界の頂点に登り詰めた國母和宏のスノーボード人生。
すべての人への感謝の気持ちを込めて、新たなるステージへ。
text: Daisuke Nogami(Editor in Chief)
CONTENTS
▶EPISODE 1 燃えるような何かを求めて
▶EPISODE 2 KAMIKAZUが胸に刻んだ新たな決意
▶EPISODE 3 世界一のスノーボーダーとして後世に伝えていく文化
▷EPISODE 4 夢や希望にあふれた新しいシーンに塗り替える
▷短編インタビュー 吉田啓介 遅咲きのムービースター
▷短編インタビュー 高橋龍正 孤高のムービースター
▷EPISODE 5 “立つかヤラれるか”の精神を再び燃え上がらせる火種
▷短編インタビュー 工藤洸平 センスが光るムービースター
▷短編インタビュー 小川凌稀 本場仕込みのムービースター
▷短編インタビュー 戸田真人 生粋のムービースター
▷短編インタビュー 長谷川 篤 絶対的な記録にこだわるムービースター
▷EPISODE 6 國母和宏という生き様
___
BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE
ISSUE 10 「KAZU KOKUBO, THE MOVIE STAR ──國母和宏が命を捧げる映像表現の世界──」
2016年、スノーボード界のアカデミー賞に位置づけられる授賞式において最優秀ビデオパート賞を獲得。2018年には、自身が主演・監督を務めた作品が最優秀ムービー賞に選ばれ、さらに最優秀ライダー賞の栄冠に輝いた。弊誌創刊号で綴った強すぎる信念を貫き通した結果、世界一に登り詰めたのだ。「すごいロケーションのラインを滑るとき、人生がかかってると感じる。死ぬかもしれないわけだし」。雪に覆われた急峻な山々を華麗に舞い、大雪原を自由自在に滑り倒す。死と隣り合わせの状況に身を置いてまで伝えたいものとは──。國母和宏が命を捧げる映像表現の世界には、私たちの心を奮い立たせる想いが込められていた。

【バックナンバーのご購入はこちらから】
https://backside.theshop.jp/items/24277374




