FEATURE
カズから受け継いだものを次世代へ。遅咲きのムービースター・吉田啓介【創刊10周年特別企画】ISSUE 10「國母和宏が命を捧げる映像表現の世界」
2026.09.21
※2019年に綴った言葉をそのまま掲載
遅咲きのムービースター
吉田啓介
日本スノーボード史上最強の若手クルーとして君臨したSEVEN SAMURAIの晩期に参加するも、すでに世界を舞台に格闘していたカズと交わることは少なかった。競技生活で培ったライディングスキルを活かし、バックカントリーでの撮影活動においてポテンシャルを発揮し、徐々に頭角を現すことになる。やがて、同級生である世界のムービースターからSTONPへの誘いが舞い込むと、これを機に才能が爆発した遅咲きのムービースター。吉田啓介に話を訊いた。
競技者から表現者へ
「オリンピック選手ってこんなにヤバイの?」って。中学3年か高校1年くらいのときに出たパイプの大会で、中井(孝治)くんと(村上)大輔くんが前走で滑ってるのを見て衝撃を受けました。しかも、めっちゃ流して滑ってるんですよ。それで「この道に進んでみたい」と思って、それまではJSBA(日本スノーボード協会)の大会しか出たことなかったんですけど、SAJ(全日本スキー連盟)にも出るようになったんです。
オレが思うスノーボードのカッコよさって、2002年のソルトレイク(シティ五輪)が原点にあるんですけど、出場ライダーにはムービースターが今よりも多かったじゃないですか。昔からビデオを観るのが好きだったし、大会と撮影を両立できるスノーボーダーがカッコいいと思ってたから。
そして19か20歳くらいのときにワールドカップの出場権は獲得したんですが、2年連続でケガしちゃって……。その頃はトリックがすごい進化してたし、ライダーたちも若い世代が増えてきてたから、2年も出遅れるとものすごい差が開いてしまったんです。そこから競技に本気で取り組むのはメンタル的にも厳しかったですね。
ちょうどFISの大会に出るようになった頃から中井くんに声をかけてもらって、たまに撮影に連れていってもらってたんですよ。それもあって競技に出るのはやめることにして、フリーライディングをがっちり鍛えようと考えました。そこからは中井くんに面倒見てもらいながら、撮影活動に取り組むようになったんです。
「教えたりするつもりはないけど、一緒に行こうよ」という感じで連れていってもらってました。地形図を見ながらいろんな山に行く機会も増えていって、先輩たちがやっていることを自然と吸収しながら、自分なりに少しずつできるようになっていきましたね。地形の見極め方だったり、その地形を活かした魅せ方だったり、天気の読み方もそうだし、一つひとつ学ばせてもらいました。
そして、K FILMSの撮影に参加するようにもなって、STONPの4作目に出ることが決まったんです。その前のシーズンの春先にカズと初めて撮影する機会があって、そのときに「来年STONPでやってみない?」って言われて。そこからカズともSTONPともガッチリ絡むようになりました。
カズとは同い年なんですけど、高校時代から海外に行ってSTANDARD FILMSと撮影したりしてたから、オレの想像が及ばない世界にいたヤツっていう感覚ですね。当時は一緒に撮影するなんて思いもしませんでした。でも、STONPに出たいっていう気持ちがずっとあったから、カズとの初めての撮影のときはこのチャンスをつかもうと気合いが入ってましたね。
STONPでの撮影が初めてパートを作るために動いたシーズンだったので、まずは自分をどういう風に表現するかってことについて真剣に考えました。ただ滑るだけじゃなくて、スタイルをどう出していくべきか。それは映像を見るたびに思い知らされました。
それからカズの滑りを目の当たりにするようになって、これは世界トップだわって痛感させられましたね。『KAMIKAZU』の撮影のときも、ある意味挫折感を味わされたんです。カナダでヘリとモービルを使った撮影に同行したんですけど、正直考えられないと思いました。毎年、こういうレベルで世界トップのライダーたちと対等に渡り合ってるのかと。
さらに『KAMIKAZU』に関しては、カズ自身がディレクションして全部動かしてやってるわけじゃないですか。同じ世代にああいうヤツがいてくれてよかったなって。つくづくそう思いますね。
受け継いでいくフリースタイルマインド
今作ではSTONPじゃなくて新しく立ち上がったINKのプロジェクトに参加したんですけど、初めて教えるような立場で撮影に参加したからなのか、若手ライダーたちとセッションしたことで逆に自分が気づかされるような場面がけっこう多かった気がします。彼らに無謀なことはさせられないから、事前に雪の状況をチェックしたり情報を集めたりとか、そういう準備の大切さについて改めて考えさせられましたね。
また、現場でも臨機応変に動いていました。バックカントリーの場合は、ひとつのスポットで何個もヒットできるような地形は稀だから、常に(アイテムを)探しながら誰が適任なのかを考えたりしていて。それで、いざ自分が滑るとなったときに頭が真っ白になることもありましたね(笑)。これまでに露出したことのあるロケーションは若手たちに譲って、(映像を)残したいと思えるポイントのときに集中してやる感じでした。
「とりあえず誰か(いい映像を)残してくれ!」って感じで、ムービー全体の質がよくなることを一番に考えてました。自分も同じムービーにメインとして出るっていう意識はもちろんあるんですけどね。
そういうことを経験して、STONPやKAMIKAZUでカズがやってきたことに気づかされたシーズンでもありました。自分のことだけじゃなくて周りのことまで考えて撮影するのって、かなり大変なんだなって。でも、こういう動きが大事だってことを理解できたし、積極的にやっていかないと(ムービーという文化が)途絶えちゃうからこそ、誰かが伝えていかなければならないんだって。
自分がまだ駆け出しだったとき、中井くんや大輔くんらSEVEN SAMURAIの先輩たちが、撮影の流れはもちろん、スノーボードのカッコよさや魅せ方とか、いろんなことを教えてくれました。そこで学んだことや培ってきた経験を、INKの若手ライダーたちがもし感じてくれていたとしたら、アイツらが今後どういう映像を残していくのか、どういうライダーに成長していくのかっていうのを見るのが楽しみですね。
でもたぶん、自分のパートを観たらガックリすると思います。「思ってたほどでもないな」って。けど、そう思ってくれたほうがいい。自分を映像で見るとこんなショボいんだって感じてくれたらいいなって。
そして、こういう若い世代が中心のムービーに自分も出たいと思うヤツらが増えたら、またシーンが広がっていくと思うんですよね。だから、若い世代のライダーには『INK』を観てほしい。絶対に感じる何かがあると思うから。
また、(片山)來夢とか(大久保)勇利とかの滑りを、ほかのナショナルチームの子たちにも観てほしいですね。コンテスト以外で活動している彼らのことがどう映るのか、気になるじゃないですか。
これまで、カズや先輩たちの滑りを見てきていろいろ学んできたけど、やってる以上トップになりたい気持ちは常に持ってます。でも、いざカズの滑りを目の当たりにすると「オレは本当にコイツを超えることができるのか」って。いろいろ考えちゃうこともありますよ(笑)
カズの滑りって、バックカントリーで何をやってるかみたいな細かいことがわからなくても、観ている人の心を動かすものがあるように感じるんですよね。スノーボードじゃなくても、例えばサッカーに詳しくない人がロナウジーニョのプレーを観て心が揺さぶられるみたいな。そういうライダーになりたい。だから、そこを目指してひたすら滑り続けるしかないんだなって。
text: Daisuke Nogami(Editor in Chief)
CONTENTS
▶EPISODE 1 燃えるような何かを求めて
▶EPISODE 2 KAMIKAZUが胸に刻んだ新たな決意
▶EPISODE 3 世界一のスノーボーダーとして後世に伝えていく文化
▶EPISODE 4 夢や希望にあふれた新しいシーンに塗り替える
▶短編インタビュー 吉田啓介 遅咲きのムービースター
▷短編インタビュー 高橋龍正 孤高のムービースター
▷EPISODE 5 “立つかヤラれるか”の精神を再び燃え上がらせる火種
▷短編インタビュー 工藤洸平 センスが光るムービースター
▷短編インタビュー 小川凌稀 本場仕込みのムービースター
▷短編インタビュー 戸田真人 生粋のムービースター
▷短編インタビュー 長谷川 篤 絶対的な記録にこだわるムービースター
▷EPISODE 6 國母和宏という生き様
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BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE
ISSUE 10 「KAZU KOKUBO, THE MOVIE STAR ──國母和宏が命を捧げる映像表現の世界──」
2016年、スノーボード界のアカデミー賞に位置づけられる授賞式において最優秀ビデオパート賞を獲得。2018年には、自身が主演・監督を務めた作品が最優秀ムービー賞に選ばれ、さらに最優秀ライダー賞の栄冠に輝いた。弊誌創刊号で綴った強すぎる信念を貫き通した結果、世界一に登り詰めたのだ。「すごいロケーションのラインを滑るとき、人生がかかってると感じる。死ぬかもしれないわけだし」。雪に覆われた急峻な山々を華麗に舞い、大雪原を自由自在に滑り倒す。死と隣り合わせの状況に身を置いてまで伝えたいものとは──。國母和宏が命を捧げる映像表現の世界には、私たちの心を奮い立たせる想いが込められていた。

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