BACKSIDE (バックサイド)

BACKSIDE (バックサイド)

https://backside.jp/10th-anniversary-archive_69/
45459

FEATURE

若手ライダーが成長できる環境をカズが創出。現代シーンにつながる転換点【創刊10周年特別企画】ISSUE 10「國母和宏が命を捧げる映像表現の世界」〈第4章〉

2026.09.17

  • facebook
  • twitter
  • google

前章では、世界の頂点に立った國母和宏が、自らを育ててくれた環境を残し、次の世代へつないでいこうとする姿を追った。その想いを具体的な行動に移したひとつが、2018年に始動したINKだった。
 
「いいライダーはたくさんいる。でも、今の日本にはその先がない」
 
カズが作ろうとしたのは、単に若手を集めた新しいクルーではない。撮影を通してライダーが成長し、その表現を世の中へ届ける環境だった。その試みは、現在のシーンへとつながるひとつの転換点となった。
 
INKというプロジェクトはすでにその役割を終えている。それでも、当時カズが若手ライダーたちに何を見て、どんな未来を描いていたのか。7年の時を経た今、改めて振り返りたい。

 
※2019年に綴った言葉をそのまま掲載
 
 
EPISODE 4

夢や希望にあふれた新しいシーンに塗り替える

「いいライダーはたくさんいる。でも、今の日本にはその先がない。オレもそうだったんですけど、ムービープロダクションで撮影するようになってから(ライダーとして)すごく伸びた。自分たちだけで滑って、YouTubeとかインスタに投稿するのとはワケが違うから。今はそういうのばかりになってきていて、このままだとシーンが終わってしまう。スノーボーダーは寿命が短いから、今やらないと手遅れになるライダーがちょっと考えただけでもたくさんいました。でも、そいつらの出しどころもないし、彼らが自分たちでやる気配もなかったから、それだったらオレが立ち上げることで一気に変わるんじゃないかなと思ったんです」
 
2019年10月4日。東京・原宿にスノーボーダーが溢れた。新ムービー『INK』の初となる試写会が開催され会場は興奮のるつぼと化したわけだが、2018年秋に冒頭で述べた想いを胸にカズが新たなるプロジェクトを始動していたのだ。
 
彼は中学3年のとき、1991年からスノーボードムービーを制作してきた大手プロダクション、STANDARD FILMSの門を叩いた。高校時代、競技生活と並行してバックカントリーでの滑りはもちろん、スノーモービルの運転や雪崩の知識、撮影のノウハウに至るまで、同プロダクションから学んだことは枚挙にいとまがない。日本人ライダーが世界のトップに登り詰めた背景には、間違いなくSTANDARD FILMSの存在があったと言える。
 
「なんで若いヤツらは自分たちでやらないのか。それに対する疑問もあるけど、オレと同じ世代のヤツらがなんで若手を引っ張っていけないのかっていう疑問のほうが大きい。それが一番の原因だと思います。オレたちの世代は(田原)ライオさんたちがやっていたRED EYES’ FILMにくっついていって、そこで経験したことを活かしてSEVEN SAMURAIを始めることができたけど、経験値がゼロの状態から作るのは難しい。だから若手がどうこうっていうよりも、オレと同世代のライダーたちが情けないと思いますね」
 
もちろん時代の潮流もある。iPhoneなどスマートフォンが誕生し、YouTubeのような動画共有サイトが主流になったことで、映像文化は大きすぎる変化を余儀なくされた。YouTuberという職業が子供たちの憧れになり、日々映像配信が行える現在。長期間かけて撮影し、いち作品としてDVDに詰め込んできたフルレングスムービーに黄信号が灯っているのは事実だ。
 
だからこそ、STONPとはアプローチが異なるフィルムプロダクションを新たに立ち上げた。その狙いとは?
 
「スノーボードのカッコいいところはコアな部分だと思ってるから、それはSTONPとして残していきたい。でも、HYWODやSCLOVERがなくなって、そのコアなスノーボードにたどり着くまでのビデオを観ていた層が少なくなってるじゃないですか。だから、YouTubeやインスタなどで無料配信しか観ていない層も含めて、本来のスノーボードムービーを改めて普及していくための入り口にINKを位置づけたいと思ってるんです」
 
頭の切れる男だ。若手ライダーにチャンスを与えることはもちろん、空洞化してしまったシーンの中核を埋めるべく、INKをローンチしたわけだ。
 
「今までやってきたことを新しいものに塗り替えるという意味を込めました。例えば、同じスポットでもこれまでよりいい技やクオリティの高い滑りをやっていかなきゃいけないと思ってるし、あと、世代交代もしていかなきゃいけない」
 
INKのネーミングについて質問した際の答えなのだが、国内トップクラスの精鋭から成るSTONPとしての活動も続けているだけに、世代交代とは下からの突き上げでありライバル関係を意味しているのかどうか尋ねると、
 
「それもあるんですけど、どちらかと言えばメーカーに対するメッセージです。彼らが見ているところは古い。今トップでやってる連中に目を向けるべきなのに、彼らはそうじゃない。だからこそ、今日本の最前線でやってるヤツらの影響力を上げないといけないと思ってるから、INKを盛り上げたいんです。そうじゃないと業界が育っていかないから」
 
世界のトップで格闘しながらも、国内のシーンをしっかり見極めている。若手ライダーが投稿している動画や写真をInstagramなどで日々チェックし、彼らの実力を把握しているのだ。加えて、2年に渡ってZETSURINを開催したことで、国内のトップジバーたちとのパイプもできあがっていた。カズのお眼鏡にかなった若手ライダーたちを擁してシーンを変えるべく、世代交代を急ぐ。
 
「いくら上手いライダーを揃えても、若手だけで立ち上げると絶対にいいムービーはできないんですよね。コンテストとムービーはやっぱり違うから。だから、撮影経験が豊富なライダーをクルーに入れなきゃいけないということで、(吉田)啓介と(高橋)龍正に入ってもらいました」
 
吉田啓介はバックカントリーを生業としており、STONPやKAMIKAZUでもカズと苦楽をともにしてきた盟友。高橋龍正はストリートを主戦場とし国内はもちろん、オーストラリアの映像プロダクションとの撮影経験も豊富。それぞれがバックカントリーとストリートのリーダーとなり、若手ライダーを牽引する立場としてクルーに加わった。
 
「本当に間違いなかった。これからが楽しみだし、このままのスタイルで突き進んでほしい」
 
平昌五輪ハーフパイプ出場を目指してコンテストを転戦していたのだが、日本代表の座をつかむことができなかった今井郁海。だが、バックカントリーでの撮影において非凡な才能を開花させたようだ。
 
「北海道らしいライダーで実力はあるんだけど、表に出てこないタイプ。でも、スノーボードを続けていきたいんだったら露出していかないといけない。それで声をかけました」
 
ハーフパイプからバックカントリーへとフィールドを移して活動してきた高橋福樹。「クルーを引っ張っていく存在になってほしい」とカズから太鼓判を押されるほどだ。
 
「テクニックはいいものを持ってるけど、もっと揉まれたほうがいい。山でもストリートでも。そうすれば、いいライダーになれると思います」
 
東北をベースとするBIGTIMEクルーの一員として活動してきた大友寛介。現在は北海道に拠点を移して活動している。
 
「まだ若いし、スタイルはすごくいいものを持ってますね。スキルもあるし。もう少し考えてスノーボードをするようになればいいと思う(笑)」
 
キッズ時代から実力はもちろん、そのスタイルにも定評のある久保田空也。春先にカズとマンツーマンで撮影を行った鳥海山では、大きな成長を遂げたことだろう。
 
「かなりいいですね。自分から声をかけてきて撮影に参加したんだけど、普段からスーパーパイプで滑ってるから恐怖心なくデカく飛ぶし、スキルが高いからフッテージも残す。すごくいいものを持ってます」
 
ハーフパイプ競技で活躍している片山來夢。昨シーズンはINKでの活動と並行しながら出場したBURTON US OPENで2位という輝かしいリザルトを残すなど、撮影と競技を両立させる稀有な存在である。
 
「楽しんで滑ってるのがすごく伝わってくる。これからも、そのスタイルを貫いてほしい」
 
平昌五輪スロープスタイルに出場した大久保勇利も、新たなる経験を積むことでひと皮むけたようだ。
 
「まだ一緒に滑ったことはないんだけど、映像を見るかぎりすごくいいスタイルを持っている」
 
大会を転戦しながら、かつてのSCLOVERで撮影も経験してきた宮澤悠太朗は、INKを通じてどのような成長を遂げたのだろう。
 
そして、自ら立ち上げたZETSURINから3名をピックアップ。佐藤正和、五十嵐顕司、玉村隆だ。
 
「正和は勢いがあって、パンクとかロックが合う滑りをしてると思う。いい意味で荒い。自分のスタイルを貫いて、あそこまで攻められるライダーは珍しいですね。顕司はめっちゃいいスタイルを持ってます。カッコいい。経験を積んで安定してきたらすごくいいライダーになると思う。隆のスキルはかなり高くて、今はパークで培ったそれをストリートに移行させる時期。まだまだだけど日本のトップになれると思うから、早いうちに海外へ出てほしいと思ってます」
 
彼ら10名のヤングガンたちが、これまでのシーンを塗り替えていく。

text: Daisuke Nogami(Editor in Chief)

 
 
CONTENTS
EPISODE 1 燃えるような何かを求めて
EPISODE 2 KAMIKAZUが胸に刻んだ新たな決意
EPISODE 3 世界一のスノーボーダーとして後世に伝えていく文化
▶EPISODE 4 夢や希望にあふれた新しいシーンに塗り替える
▷短編インタビュー 吉田啓介 遅咲きのムービースター
▷短編インタビュー 高橋龍正 孤高のムービースター
▷EPISODE 5 “立つかヤラれるか”の精神を再び燃え上がらせる火種
▷短編インタビュー 工藤洸平 センスが光るムービースター
▷短編インタビュー 小川凌稀 本場仕込みのムービースター
▷短編インタビュー 戸田真人 生粋のムービースター
▷短編インタビュー 長谷川 篤 絶対的な記録にこだわるムービースター
▷EPISODE 6 國母和宏という生き様
 
___
 
BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE
ISSUE 10 「KAZU KOKUBO, THE MOVIE STAR ──國母和宏が命を捧げる映像表現の世界──」

 
2016年、スノーボード界のアカデミー賞に位置づけられる授賞式において最優秀ビデオパート賞を獲得。2018年には、自身が主演・監督を務めた作品が最優秀ムービー賞に選ばれ、さらに最優秀ライダー賞の栄冠に輝いた。弊誌創刊号で綴った強すぎる信念を貫き通した結果、世界一に登り詰めたのだ。「すごいロケーションのラインを滑るとき、人生がかかってると感じる。死ぬかもしれないわけだし」。雪に覆われた急峻な山々を華麗に舞い、大雪原を自由自在に滑り倒す。死と隣り合わせの状況に身を置いてまで伝えたいものとは──。國母和宏が命を捧げる映像表現の世界には、私たちの心を奮い立たせる想いが込められていた。
 

 
【バックナンバーのご購入はこちらから】
https://backside.theshop.jp/items/24277374

RECOMMENDED POSTS