INTERVIEW
公園でオーリーするだけでもいい。小川凌稀が映像で伝えるストリートのカッコよさ【創刊10周年特別企画】ISSUE 10「國母和宏が命を捧げる映像表現の世界」
2026.09.29
※2019年に綴った言葉をそのまま掲載
本場仕込みのムービースター
小川凌稀
中学卒業後にカナダへ渡り、北米のスノーボードカルチャーを吸収した小川凌稀。帰国後、國母和宏に見出されて『STONP OR DIE』でフルパートを獲得し、戸田真人との『OG CHEESE』をリリース。そして現在も、誰も滑っていない場所を探しながらストリートに立ち続ける。彼が映像を通して伝えたいのは、技の難易度だけでは測れない、スノーボード本来のカッコよさだ。
逆輸入スノーボーダーの実力
小学5年くらいからパイプを始めて(スノーヴァ)溝の口に通うようになったんですけど、それからレールにも入るようになって「ジブコン」っていう人生初の大会に出たんですよね。そこで(戸田)聖輝くんと真人兄弟に出会いました。
パイプのジュニア(選手権)で全日本(スノーボード選手権)に出たりしてたんですけど、なんか面白くなくて。その頃から「スノーボードは面白くてカッコいい遊びだから」「カッコつけて滑るもんだ」って、聖輝くんからいろいろ教わってました。「オマエは手がダセーよ」とかスタイルのことをいじられまくってたんですよね。今思えば、なんでそこまで強く言われるんだろうって感じですけど、聖輝くんがいなかったら、ここまでスタイルとかファッションにこだわることはなかったかもしれない。感謝ですね。
それで、小学校の卒業スピーチで「海外で活躍できるようなスノーボーダーになりたいです」って言ったんですよね。2年後、偶然ですけど真人もまったく同じことを言ってたみたいです(笑)。そして高校進学を考えるようなタイミングで、父ちゃんがカナダのスノーボード専門学校を勧めてくれたんですよ。もちろん海外で滑りたかったんですけど、当時は遊びまくってて受験するのも面倒くさかったから、カナダのウィスラーに行くことにしました。出国する1ヶ月前くらいまで、どこの国に行くのかも知らなかったんですけど
ね(笑)
カナダに行ったばかりの頃は英語が話せなかったから、北米で有名なDOPEっていうクルーのイーマン・アンダーソンの後ろを勝手についていったりしてました。ある日、「オマエ、いつもオレの後ろにいない? だったら一緒に滑ろうぜ!」って言ってくれたのがデカかったですね。
学校に通ってる間に、どうしても働きたいスノーボードショップが見つかったから、スチューデントビザとワークビザが一緒になったコープビザっていうのを取るために、その学校で半年間インターシップとして手伝うことにしたんです。でもビザが下りなくて、ボランディアでいいから働かせてくれって直談判したら、そのお店で働けることになって。
オーナーにはすごくよくしてもらいました。給料の代わりに働いた分を商品と交換してもらったり、帰国するときの交通費をサポートしてくれたり。そして8ヶ月間働いた後に「店でビザ取ってやる」って言ってくれて、結局3年間そのショップで働いたんです。THE CIRCLE SNOWBOARD SHOPっていうんですけど、イケてるライダーがたくさん所属してたので、絶対にネットワークが広がると思って入り込んだし、実際にそうなりましたね。
それで、2014年の秋に1ヶ月くらい日本に帰って、代々木公園のSNOWBANK(PAY IT FORWARD)にカズくんが来るから紹介するって聖輝くんに言われてたんですよ。「STONPで撮影しようって話になると思うんだけど、凌稀どう?」って。
もちろんやりたかったし、だからこそ絶対にジブセッションで勝ってやるって気持ちで臨んで、優勝できたんです。でも、カズくんからは「凌稀おめでとう。とりあえず連絡先だけ交換しよう」って言われて……。そのときSTONPに誘われなかったことがショックすぎて、どうしても直接誘ってもらいたかったんです。
でも、次の日にカズくんから電話がかかってきて。今でも覚えてるんですけど、朝の10時くらいにベッドの上でカズくんからの着信に超緊張して(笑)。「昨日のSNOWBANKめっちゃよかったよ。STONPで今年から撮影しない?」って言われたんです。もううれしすぎて、男泣きしました。
ストリートカルチャーの伝道師
もともとSNOWBANKに合わせて1ヶ月の予定で帰国していたので、向こうに戻って撮影したものをSTONPで使ってもらうつもりだったんですけど、カナダに入国できなかったんです。どうやらお店からビザをもらってる場合は、週に何十時間働かないといけないってルールがあるみたいで。
あと、スポンサーからの商品がダンボール2箱分くらいあって、ドレッドだったこともあってか、4時間くらい検査されたうえにめちゃくちゃひどい扱いを受けたんですよ。こっちもハンパじゃないくらい文句を言って、でも撮影があるから必死に食い下がったんですけど、強制送還を食らっちゃいました。
そうしたら、そのシーズンは北米が記録的な暖冬でほとんど雪が降らなくて、逆に日本はドカ雪だったんです。結果論ですけど、この強制送還がなかったら『STONP OR DIE』でフルパートは獲れなかったと思います。それが獲れたことで自分の名前が一気に表に出て、メーカーとの契約金が発生するようになりました。あのときカナダでフルパート分の撮影ができてなかったらって考えると……強制送還されてよかったですね(笑)
以前からDIRTY PIMP(以下DP)でも撮影は経験していて、編集に対して意見を言わせてもらう機会とかもあったんですけど、真人とふたりの作品として『OG CHEESE』をSTONPとして作らせてもらうことになりました。撮影期間はたったの1ヶ月。めちゃくちゃ気合いが入りました。時間がないから雨の日でも、ひとりがカメラマンの傘を持って、もうひとりが滑ったり、土砂降りの日もアイテムを作りに行ってましたね。もうこれ以上やりたくないと思うほどやり切りました。
初めて真人とふたりでできたっていうのもあるし、大音量で聴いたらブチ上がれるような曲もオレたち好みで作らせてもらえたり、納得の仕上がりでした。しかも、あのビデオって協賛がついてないんですよ。最後にSTONPのロゴだけで終わるんです。すべてカズくんのバジェットで作ってもらいました。そのことに後から気づいたんですけど、オレたちのためにそこまでしてくれるなんて……。本当に憧れの存在ですね。
そして、先シーズンはまだ世に出ていないスポットで撮影したいと思ってたので、北海道の雪が多い場所をロケハンして探しまくりました。多分、これまで誰もトライしたことがないセクションで、しかも『OG CHEESE』には出ていない動きや技を今回の『HIDANE』には入れています。
オレたちがやってるストリートって厳つく見えると思うんですけど、公園のベンチをコスるだけでもいいと思うんですよね。今は技術的にレベルが上がってるからデカいセクションが目立つけど、小さいスポットでも魅せ方によってはすごく面白いし、カッコよく魅せることもできる。オレみたいな若僧が語るのはおこがましいですけど、それが本来のスノーボードの遊び方だと思うんです。雪と斜度があって、赤い三角コーンをオーリーで越えるだけでもいい。ゲレンデで滑ることとはまったく違う感覚が味わえて、そういうところで遊んでるだけでもテンションが上がるし、写真を撮ったらカッコいい。そういうのがストリートの楽しさですね。
スケートボードもそうですけど、ストリートっていう競技があるのに街でプッシュもできないなんて、日本のストリートカルチャーが世界に追いついていないんだと思います。やり方次第だと思うので、ストリートのカッコよさや魅力を映像を介して表現していきたいですね。
text: Daisuke Nogami(Editor in Chief)
CONTENTS
▶EPISODE 1 燃えるような何かを求めて
▶EPISODE 2 KAMIKAZUが胸に刻んだ新たな決意
▶EPISODE 3 世界一のスノーボーダーとして後世に伝えていく文化
▶EPISODE 4 夢や希望にあふれた新しいシーンに塗り替える
▶短編インタビュー 吉田啓介 遅咲きのムービースター
▶短編インタビュー 高橋龍正 孤高のムービースター
▶EPISODE 5 “立つかヤラれるか”の精神を再び燃え上がらせる火種
▶短編インタビュー 工藤洸平 センスが光るムービースター
▶短編インタビュー 小川凌稀 本場仕込みのムービースター
▷短編インタビュー 戸田真人 生粋のムービースター
▷短編インタビュー 長谷川 篤 絶対的な記録にこだわるムービースター
▷EPISODE 6 國母和宏という生き様
___
BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE
ISSUE 10 「KAZU KOKUBO, THE MOVIE STAR ──國母和宏が命を捧げる映像表現の世界──」
2016年、スノーボード界のアカデミー賞に位置づけられる授賞式において最優秀ビデオパート賞を獲得。2018年には、自身が主演・監督を務めた作品が最優秀ムービー賞に選ばれ、さらに最優秀ライダー賞の栄冠に輝いた。弊誌創刊号で綴った強すぎる信念を貫き通した結果、世界一に登り詰めたのだ。「すごいロケーションのラインを滑るとき、人生がかかってると感じる。死ぬかもしれないわけだし」。雪に覆われた急峻な山々を華麗に舞い、大雪原を自由自在に滑り倒す。死と隣り合わせの状況に身を置いてまで伝えたいものとは──。國母和宏が命を捧げる映像表現の世界には、私たちの心を奮い立たせる想いが込められていた。

【バックナンバーのご購入はこちらから】
https://backside.theshop.jp/items/24277374




