BACKSIDE (バックサイド)

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FEATURE

【創刊10周年特別企画】ISSUE 1「國母和宏という生き様」──競い合った先に見えた「グローバルライダーとして生きる道」

2026.06.06

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現在は育成システムが整い、幼少期から専門的な環境で競技に打ち込める時代。しかし四半世紀ほど前、國母和宏はそうした仕組みに頼ることなく、自ら考え、自ら行動し、自ら世界への扉を開いた。のちに多くの日本人スノーボーダーが続くことになる、その道を切り拓いた存在だったことは間違いない。
 
INTRODUCTION はじめに

▶EPISODE 1 “世界のカズ”を築き上げた「幼き夜の大冒険」

▶EPISODE 2 好きなことに本気で打ち込み勝ち取った「史上最年少プロ」
▶EPISODE 3 競い合った先に見えた「グローバルライダーとして生きる道」
 

▷EPISODE 4 言葉の壁を越えて“本場”で学んだ「プロフェッショナルの流儀」

▷EPISODE 5 世界を相手に孤軍奮闘する中で掲げた「日本を変える存在になる」

▷EPISODE 6 日本中からバッシングされた男が「本当に伝えたかったこと」

▷EPISODE 7 北米文化に挑み続けたサムライがたどり着いた「世界の頂」

▷EPISODE 8 仲間とともに苦難を乗り越えて成し遂げた「國母和宏の夢」

▷EPISODE 9 高すぎる意識とスキルが招いた「失われた自信と求められる価値」

▷OUTRO 
 
 

※以下、2016年に綴った言葉をそのまま掲載
 
EPISODE 3

競い合った先に見えた「グローバルライダーとして生きる道」

“グローバル人材”という言葉を耳にしたことはあるだろう。文部科学省によると、「世界的な競争と共生が進む現代社会において、日本人としてのアイデンティティを持ちながら、広い視野に立って培われる教養と専門性、異なる言語、文化、価値を乗り越えて関係を構築するためのコミュニケーション能力と協調性、新しい価値を創造する能力、次世代までも視野に入れた社会貢献の意識などを持った人間」と定義されている。また、厚生労働省が2012年に発表した雇用政策研究会の資料によると、「未知の世界、時に非常に厳しい環境に、“面白そうだ”“やってみたい”という気持ちで、積極的に飛び込んでいく前向きな気持ち、姿勢・行動力を持っていること。そして、入社後に一皮、二皮剥けるため、“最後までやり抜く”“タフネスさ”があること。しっかりと自分の頭で考え、課題を解決しようとすること」とされている。
 
つまり、未知の世界に飛び込める行動力、最後までやり抜くタフネスさ、自分で考え行動し、課題を解決しようとする力があり、日本人としてのアイデンティティをしっかり持っている人。これが、我が国が求めるグローバル人材ということになるわけだが、まさにカズはそうした資質であると断言できる。もし、彼について詳しく知らない人がいるとしたら誇大表現に聞こえるのかもしれない。しかし、章を進めていただければ自ずと理解できるはずだ。
 
彼は学校でそれを習ったわけではないし、一流企業に属して学んだわけでもない。スノーボードという一本の板に跨り、その先にある可能性を追求し続けたことで得たものだ。それを掴むまでの道のりは、小学6年の時点ですでにスタートしていた。
 
「その頃は世界で通用する日本人スノーボーダーが少なかったから、自分がそれになってやるって気持ちが強かったですね。だから、仲間と一緒にやるっていうよりは、自分がいい環境で、周りを気にせず上の世界に上がっていくんだっていう強い気持ちを、小6くらいから持ってました。その頃から海外に行って自分ひとりだけ日本人っていう立場で大会に出させてもらってたこともあったから、海外のすごいヤツらと勝負できてる自分の環境が特別なことだっていうのはわかってました」
 
小学6年のとき、スノーボード界で権威ある大会のひとつ「BURTON US OPEN」に初出場。同年、1998年の長野五輪をボイコットしたテリエ・ハーカンセンが翌年に立ち上げたスノーボーダーによるスノーボーダーのための大会「THE ARCTIC CHALLENGE」に前走として招待されるなど、世界レベルでも大器の片鱗をのぞかせていたカズ。
 
それ以前にも海外でのスノーボード経験はあった。小学4、5年と2年続けて、夏休みを利用して1ヶ月ほどニュージーランドへ渡っていた。「滑れるんだったらぜひ行きたい、と本人の意思で行ってましたね」と由香里さんが当時を振り返ってくれた。
 
前章でも触れたように、プロ資格を獲得したいという気持ちが強かったカズは、すでに未知の世界に飛び込める行動力を持ち併せていたということだ。
 
「父さんの会社の友達と最初の年は行って、あとは山で知り合った年上の人たちが面倒を見てくれました。一緒に行きたいって話をしたら親が交渉してくれて。その人たちと一緒に住んで、ひたすら毎日滑ってた。パイプをハイクして滑るんじゃなくて、ゲレンデの上から下までをずっと流してましたね」
 
親元を離れて滑り込んだ夏。近所の友達と遊び、家族で旅行に出かけ、後半は宿題に追われる……といった一般的な小学校生活を過ごしてきた筆者には驚きだが、國母家にとっては何も特別なことではない。「アイツのすごいところと言えば、普通の小学生だったら夏休みになるとラジオ体操に行くじゃないですか? アイツは行ったことがない(笑)」と芳計さんは笑い飛ばしてくれたが、何よりもスノーボードがしたかった息子に、その機会を躊躇なく提供した両親の懐の広さがあってこその賜物である。
 
その結果がプロ資格獲得であり、先述したように海外での大会参戦へと繋がっていくのだ。
 
「この頃(小6)は日本国内では負けたくなかったし、世界でもよりいい順位をとりたいと思ってた。全日本のユースで勝ったとき(小5)くらいから、大人にも勝てるんじゃないかって思いがありましたね。勝ちたいし、同じ土俵でやれてるって気持ちが強くて。その全日本のときにジャッジのポイントを見て、オレのほうが(一般クラスの大人よりも)高いじゃんって知ったとき、それがめちゃくちゃ嬉しくて。そのときの気持ちは今でも覚えてますね」
 
小学5年で大人に勝つことを志した少年は、小学6年で国内では負けたくないというプロ意識が芽生えていた。
 
「勝ちたいし上のステージに行きたいから、技の練習のときにめっちゃ怖いけどやらなきゃっていう状況が増えてきた。フロント(サイド)720を900にしたり、マック(ツイスト)で高く飛ばなきゃいけないとか……。そこで恐怖心との戦いが始まりました」
 
一般的なメジャースポーツとは異なり、当時のスノーボード界ではコーチと呼ばれる人材はほぼいなかった。子供ながらにジャッジの点数から自己分析する能力や、プロの世界で勝つために自分に足りない技術を見極めるなど、父からのアドバイスもあったそうだが、自ら考えて行動に移していたのだ。
 
「いろいろ新しいことが増えてきている時期でしたね。海外にも行くようになったから環境も変化して。大会でも勝てるようになってきてました。BURTONに特別なところへも連れていってもらって、いろんなヤツらと滑れるようにもなってた。ミッケル(バング)と出会ったのも小6くらいかな。そういう環境の中で、自然に上手くなっていったような気がする」
 
「中学に入ると身体が大きくなって、それで中1から中2くらいにかけて、パイプで(エアの)高さが出せるようになった感じですかね」
 
「国内の大会に出たときに、その頃って大会が終わった後に残ってセッションする感じだったじゃないですか。いいパイプがあって、大会のままの気分でみんなでセッションが始まって、そういうときに1段階限界を超えるみたいな感じは多かった」
 
そして中学2年、14歳の3月──カズの才能が大きく開花することになる。
 
スノーボードに精通している人であれば周知の事実だろう。カズは3回目の出場となったBURTON US OPENで銀メダルを獲得した。同大会も含め、メジャーコンテストにおける14歳でのメダル獲得は世界初。カズの2歳上にあたる、あのショーン・ホワイトですら成し得なかった快挙だった。小学5年で全国区に國母和宏の名を知らしめてからたった3年後に、世界中にKazu Kokuboの名を轟かせたのだ。
 
「まわりの反応を見てすごいことしたんだなって感じだったけど、自分の中では大会の大きさもわかってなかったし……」
 
現在でもその映像をYouTubeで観ることができるのだが、出走前には笑顔がこぼれ、出場選手の誰よりも高く宙を舞い、演技をまとめることは一切なく、思いきり楽しんで滑った結果が2位だった。
 
「あんなに飛んだのは初めてでした。あのときのパイプは飛びやすかった」
 
ここが、日本のカズから世界のKazuへと変貌を遂げる、ターニングポイントだった。

text: Daisuke Nogami(Chief Editor)

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本記事は2016年発行『BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE ISSUE 1「KAZU KOKUBO ──國母和宏という生き様──」』より抜粋掲載。誌面では全9章にわたり、國母和宏のスノーボード人生を収録している。紙媒体ならではの写真表現や誌面デザインとともに、その時代の空気感も感じとってもらえれば幸いだ。
 

 
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