FEATURE
一本一本のランに人生をかける男。カズが命を捧げるスノーボード【創刊10周年特別企画】ISSUE 10「國母和宏が命を捧げる映像表現の世界」
2026.10.02
2019年、國母和宏は「スノーボードはカッコいいものでなきゃいけない」と語っていた。誰もが映像を発信できる時代になり、スノーボードを取り巻くムービー環境は大きく変わった。それでもカズは、一本のラインに人生をかけ、その滑りを作品として残すことにこだわり続けている。
なぜ、そこまでして滑るのか。なぜ、映像として残し続けるのか。ISSUE 10「國母和宏が命を捧げる映像表現の世界」最終章。2019年に綴ったカズの生き様を、当時の言葉のまま届ける。
※2019年に綴った言葉をそのまま掲載
EPISODE 6
國母和宏という生き様
「ネットが普及したことでSNSが全盛になり、誰でも動画をあげられる時代になって……。その結果、スノーボードがすごく軽いものになったような気がする。フリーだからってカッコよくない映像は観たいとも思わないですね。もちろんフリーでもいいムービーはあるけど、カッコいいスノーボードを見る機会は確実に減りました。でもオレは、スノーボードはカッコいいものでなきゃいけないと思うし、作品として観たいと思われるムービーを作り続けていきたい」
カズが言うように、YouTubeを含めたSNSが台頭したことにより、映像配信は誰でも可能になった。個人がメディアになれる時代。そのうえで無料で楽しめる。
これまでフリースタイルシーンを牽引してきた海外の大手ビデオプロダクション、EPISODE 4で綴ったがカズの育ての親とも言えるSTANDARD FILMSですら制作活動の休止を余儀なくされた。世界中の雪山を半年近くかけて転々とするためには、滞在費や渡航費といったトラベルバジェットは嵩む。DVDまたはダウンロード販売数が落ち込めば当然スポンサーが離れていくのだから、また別の収益モデルを確立させないと存続は厳しいのかもしれない。
そうした状況のなか、ABSINTHE FILMSなど継続しているビデオプロダクションも存在するものの、それに取って代わるようにメーカーによる作品、あるいは、契約スポンサーをバックに個人でリリースする傾向が強くなっている。『KAMIKAZU』のようなメディア主導の作品とは異なり、そうなるとどうしてもプロモーション要素が目立ってしまうし、所属ライダーによっては表現の幅が狭くなるため作品のクオリティにも響いてしまう。
そのうえで国内では、先述したようにSCLOVERやHYWODといった映像プロダクションが消えた。海外ブランドが多い業界だからこそ、日本支社やディストリビューターから成るため国内シーンは予算も限られており、メーカー主導による作品すら少ない。
そうした背景を踏まえ、さらにグラウンドトリックが独自の進化を遂げているようにライディングスタイルもガラパゴス化している日本だからこそ、個人による動画配信が増え続けている。滑りよりも喋りやテロップのクオリティが求められ、クールではなくポップな動画が蔓延した。そうしたハウツーなどの実用的な情報ばかりが日々求められる最中、命をかけて長期間に渡り撮影を繰り返し、毎年ひとつの作品を創り上げるなんて時代錯誤も甚だしいのかもしれない。
「映像作品がなくなっていくのが本当に寂しくて。小さい頃からそれを観て、ライダーのスタイルやどういう人物なのかを知って、その人のことを好きになったり、そいつみたいになりたいと思ったのがビデオパートでした。それを観て育ってきたから、絶対になくしたくない。ビデオパートを獲ることに憧れて、自分もそういうライダーになりたいと思ってここまで来たわけだから」
映像を介した自己表現を生業としているカズ。命を落とすかもしれないバックカントリーと対峙し、およそ7週間滑ることが許されなかったケガを克服し、世界中の雪が解けるまで撮影を繰り返した集大成として完成したおよそ4分間のビデオパートが世界一に輝いたことで、さらなる高みを目指した。そして、ビデオパートという枠組みを越えてひとつの映像作品を手掛け、プロスノーボーダーとして世界一の称号を得ることができた。
自らの美学を貫き通し、それが世界中から支持されて今のカズがある。命をかけて本気で遊んできた。だからこそ、こうした価値を後世に残したい。彼はそれを責務と感じているのではないか。
さらに、作品の届け方にも強いこだわりがある。
「クリックしただけで映像が観れて、それで終わりにはしたくなくて。オレはスノーボードがすごい好きだし昔からやってるし、命をかけて取り組んでることだからなのかもしれないけど、それで終わっちゃうのは軽すぎる。だから、ジャケットのデザインやパッケージも含めてカタチにすることもなくしたくないんです。さらに好きな人たちは試写会に足を運んでもらって、一緒に映像を観ながらイベントを楽しんでほしい。オレはそういうスノーボードのカルチャーが好きだから。どれが正しくて何が間違ってるのかっていう理屈じゃなくて、単純にそれが残ってほしいと思うからやってるんです」
STONP作『HIDANE』もINK PRODUCTION作『INK』もダウンロード販売はしていない。『KAMIKAZU』は海外メディア主導の作品だったのでダウンロード販売だったが、日本向けにだけDVDを制作して流通した。
例えば音楽。CD販売からデジタル配信へとシフトチェンジし、さらにはサブスクへと急速に移行したが、海外ではほとんどのアーティストがそのパラダイムシフトを受け入れている。再生回数が収益に直結し、販売スケールはグローバル。英語圏のアーティストたちはその恩恵にあやかれているのだろう。
しかし、日本人アーティストが日本語を用いる場合、言語の壁が厚すぎるため収益には限界がある。当初はメジャーアーティストが「簡単に手に入るものは簡単に離れていく」といった趣旨でストリーミング配信を拒んでいるという話を耳にしたことはあるが、それについては前述した理由でCDを販売したほうが収益率が高いからという見解もある。収益構造まで理解していないので深堀りは避けるが、現在ではそれを解禁する動きも盛んになってきた。
音楽とスノーボードムービーを対比するのは筋違いかもしれないが、何を伝えたいのかといえば、カズがDVDにこだわっている理由は金銭面ではない。作品として目に見えるカタチにこだわっているのだ。アーティストが描いたパッケージからDVDを取り出し、同様にこだわりが表現されたディスクをデッキに挿入し、腰を据えて映像美に浸ってもらいたい。こうした想いが強いわけだ。
デジタルネイティブ世代には理解できない話かもしれない。しかし、INKに出演しているライダーの大半はここに分類される。彼らはカズとともに全国行脚しながら、DVDを自らの手で販売しているのだ。何にも代えがたい、夢や想いが詰まった作品を全国のスノーボーダーに届けるために──。
カズはそうした動きをSTONP時代から継続しており、全国に点在するプロショップとの絆が育まれている。だからこそ、DVDが売れなくなったご時世に販売した『KAMIKAZU』は、プロショップで瞬く間に完売したのだ。世界一のライダーに輝き、世界一の作品を制作した男は、これまで何年にも渡り全国津々浦々のショップに足を運び、コミュニケーションを図ってきた。
グローバルに行動し、ローカルに考える。グローバル化とローカル化は対立概念のように思われるが、実は表裏一体なのかもしれない。グローバル水準のフリースタイルスノーボーディングを牽引しながらも、日本のローカルが求めるスノーボードにも耳を傾け続けてきた。
経験年数や滑走日数を踏まえたライディングスキルを表す縦軸と、フリーライディングやストレートジャンプ、グラウンドトリックなどのライディングカテゴリーを示す横軸があるとする。どちらの軸も世界基準より多様化している分、複雑に絡み合っている日本のシーンではあるが、カズは自身が考えるカッコいいスノーボードは届けられると信じている。
「そうですね、まさに生き様です。オレにしかできないことは板に乗って滑ること。ほかの人はわからないけど、オレはすごいロケーションのラインを滑るとき、人生がかかってると感じる。死ぬかもしれないわけだし。でもそれをメイクすることができれば、またスノーボーダーとして生きていけるし、家族を支えることができる。……言葉で説明するのは難しいですね。でも、一本一本の滑りに命がかかってるかどうかなんて、観ている人には伝わらなくていいと思ってます。もちろん、そういう内面や裏側にまで興味がある人には知ってもらいたいけど、そうじゃなければ単純にカッコいいと思ってもらえたら十分。バックカントリーで滑ったり飛んだり回したりすることはできないかもしれないけど、好きなアーティストの楽曲を口ずさむように、観ている人が少しでもゲレンデで滑りたいと感じてくれたら最高だと思ってるから」
粗さは目立つものの、勢いあるINKの滑りは感情移入できる。
今シーズン、きっと新しいことに挑戦したくなるはずだ。
STONPの滑りは、スノーボードの確固たるカッコよさを示している。
同じスノーボーダーとして生きていることを誇りに思えるだろう。
“カッコいいスノーボードを伝えたい”
このシンプルすぎる想いを胸に、幾多の山を登り、そして滑る。
今年の冬も世界中の雪山を駆け巡るのだろう。
膨大な時間をかけ、そして命をかけてまで滑り続ける理由。
それは、ひとりでも多くの人にスノーボードを楽しんでもらいたいから。
これがムービースター・國母和宏が命を捧げる映像表現の世界である。
text: Daisuke Nogami(Editor in Chief)
CONTENTS
▶EPISODE 1 燃えるような何かを求めて
▶EPISODE 2 KAMIKAZUが胸に刻んだ新たな決意
▶EPISODE 3 世界一のスノーボーダーとして後世に伝えていく文化
▶EPISODE 4 夢や希望にあふれた新しいシーンに塗り替える
▶短編インタビュー 吉田啓介 遅咲きのムービースター
▶短編インタビュー 高橋龍正 孤高のムービースター
▶EPISODE 5 “立つかヤラれるか”の精神を再び燃え上がらせる火種
▶短編インタビュー 工藤洸平 センスが光るムービースター
▶短編インタビュー 小川凌稀 本場仕込みのムービースター
▶短編インタビュー 戸田真人 生粋のムービースター
▶短編インタビュー 長谷川 篤 絶対的な記録にこだわるムービースター
▶EPISODE 6 國母和宏という生き様
___
BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE
ISSUE 10 「KAZU KOKUBO, THE MOVIE STAR ──國母和宏が命を捧げる映像表現の世界──」
2016年、スノーボード界のアカデミー賞に位置づけられる授賞式において最優秀ビデオパート賞を獲得。2018年には、自身が主演・監督を務めた作品が最優秀ムービー賞に選ばれ、さらに最優秀ライダー賞の栄冠に輝いた。弊誌創刊号で綴った強すぎる信念を貫き通した結果、世界一に登り詰めたのだ。「すごいロケーションのラインを滑るとき、人生がかかってると感じる。死ぬかもしれないわけだし」。雪に覆われた急峻な山々を華麗に舞い、大雪原を自由自在に滑り倒す。死と隣り合わせの状況に身を置いてまで伝えたいものとは──。國母和宏が命を捧げる映像表現の世界には、私たちの心を奮い立たせる想いが込められていた。

【バックナンバーのご購入はこちらから】
https://backside.theshop.jp/items/24277374




