COLUMN
19歳の平野歩夢が残した言葉を、8年後の今読み返して思うこと【創刊10周年特別企画】ISSUE 5「夢への歩み」を終えて
2026.08.19
19歳だった平野歩夢の言葉を、8年あまりの時を経て読み返した。
平昌五輪を目前に控え、歩夢は世界の頂点だけを狙っている──そう思っていた。しかし、今だからこそ見えてくるものがある。
当時はその先に何があるのかわからなかった言葉が、その後の歩夢が選んだ道を知ることで、まったく違った意味を持って響いてくるのだ。
なぜ、過去の記事を今、もう一度届けるのか。ISSUE 5「夢への歩み」を再編集したことで、アーカイブすることの意味を改めて考えさせられた。
この特集を最初に世に送り出したのは2018年1月。今回、創刊10周年特別企画としておよそ8年半ぶりに届けるにあたり、2017年に行ったインタビューを改めて読み返した。
驚いた。いや、少し怖くなった。
なぜなら、19歳だった歩夢が語っていたことの中に、その後に彼が歩むことになる道の多くが、すでに見えていたからだ。
もちろん、インタビューを行った2017年当時、その先のことなど誰にもわからない。2018年2月の平昌五輪で再び銀メダルを獲得することも、その後スケートボードで東京五輪に挑戦することも、北京五輪で悲願の金メダルを手にすることも。
当然ながら、歩夢自身にもわからなかったはずだ。それでも彼は、目の前に迫った平昌五輪だけを見ていたわけではなかった。
ソチ五輪で銀メダルを獲得してからの苦悩。勝つために高難度トリックを追い求め続ける日々。大ケガによりスノーボードから離れたことで、自分自身と向き合った時間。兄弟や家族への想い。そして、これから自分がどんな存在になり、スノーボードとどう向き合っていくのか。
19歳とは思えないほど、自分自身を俯瞰していた。ただし、今になってそう感じているだけなのかもしれない。
当時の僕は、平昌五輪で金メダルを獲るために歩夢が何を考え、どのような準備をしているのか。それを聞き出すことに夢中だった。
目の前にいる19歳の言葉を記録し、物語として届ける。それが編集者としての仕事だった。
8年あまりが経った今、その同じ言葉を読み返している。すると、まったく違って見える。当時は「これから」について語っていた言葉が、現在から振り返れば、その後に彼が選んだ道と重なっているからだ。
有言実行。ブレない姿勢。夢への歩みを続けたことで、歩夢は自らが想像していたものを創造していった。
ここに、アーカイブの面白さがあるのだと思う。
過去の記事をもう一度公開することに、正直なところ最初は迷いもあった。10年前の記事を引っ張り出してきて、「懐かしい」と届けるだけなのであれば、BACKSIDEがやる意味はあまりない。
しかし、膨大なアーカイブを読み返しているうちに、考え方が変わった。時間が経ったからこそ、意味が変わる言葉がある。その後を知ったからこそ、初めて気づけることがある。そして、その瞬間にしか残すことのできない言葉がある。
今回の歩夢のインタビューは、まさにそうだった。
僕が初めて歩夢本人と会ったのは、彼が中学生になったばかりの頃だった。それ以前から平野一家を取材していたので存在は知っていたが、米カリフォルニア州にあるOAKLEY本社で初めて顔を合わせたとき、ほとんど表情を変えずにこちらを見ていた少年の姿を今でも覚えている。
その少年が世界の頂点を争うようになり、僕はその過程を取材し続けてきた。もちろん、今回のインタビューを掲載した2018年の時点で、歩夢がその後どこまで行くのかなんてわからなかった。
だからこそ、今読み返す価値がある。
僕たちメディアができることは、未来を予言することではない。その時代、その瞬間に起きていることを見つめ、そこで生まれた言葉や物語を記録することだ。そして時間が経ったとき、その記録が新しい意味を持つことがある。
昨日、2026年8月18日。BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINEは、創刊から10年を迎えた。
その節目の日に公開したのが、ISSUE 5「夢への歩み」の最終章。こうして改めて振り返ってみると、10周年という境目を平野歩夢の物語でまたぐことができたのは、僕にとって大きな意味があるように思う。
10年間、毎日のようにスノーボードの記事を作り続けてきたことで、BACKSIDEには膨大な物語が残った。ニュースであれば、その日のうちに役目を終えてしまう記事もある。
いっぽうで、何年もの時間を経ることで、公開した当時とは違う価値を持つ記事もある。そのことを、10周年を迎えた今、僕自身がアーカイブから教えられている。
平野歩夢の「夢への歩み」を8年あまりぶりに読み返したことも、そのひとつだった。
10周年はゴールではない。今日から、BACKSIDEの11年目が始まる。
今、僕たちが記録している言葉や出来事を10年後に読み返したとき、どんな意味を持っているのだろう。
それは今の僕にはわからない。だからこそ、これからも綴っていきたい。今、この瞬間のフリースタイルスノーボーディングを。
text: Daisuke Nogami(Editor in Chief)
創刊10周年特別企画
ISSUE 5「WALK TO THE DREAM ──夢への歩み──」
CONTENTS
▶INTRODUCTION はじめに
▶EPISODE 1 オリンピック競技とスノーボード文化のはざまで
▶EPISODE 2 スキー連盟に属するスノーボーダーの葛藤
▶EPISODE 3 ケガの功名
▶EPISODE 4 考えて勝つ
▶EPISODE 5 4年前と同じ気持ちで
▶EPISODE 6 家族の想いを胸に
▶EPISODE 7 最後に後悔しないために




