BACKSIDE (バックサイド)

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FEATURE

【創刊10周年特別企画】ISSUE 5「夢への歩み」平野歩夢インタビュー〈第5章〉4年前と同じ気持ちで

2026.08.15

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15歳で迎えたソチ五輪では、「滑れること自体がとにかく楽しかった」。
 
あれから4年。平野歩夢は追う立場から追われる立場となり、「銀ではなく金」と公言するまでに自らを追い込んできた。世界初のルーティンを狙えるほど技術は進化したいっぽうで、大会でワクワクする感覚は失われていた。
 
平昌五輪を目前にして、歩夢が取り戻そうとしていたのは、4年前の自分だった。

 
※以下、2018年に綴った言葉をそのまま掲載
 
 
EPISODE 5

4年前と同じ気持ちで

「心の奥底にあるのは“ツラい”って気持ちが大きいんですけど、それをツラくないようにするためには自分がどう変わればいいのか。リスクが高い技に挑戦するときもそうだし、新しい技を修得するのは時間がかかることだから、その一歩目を踏み出す勇気も必要だし、そういうことに対してどうやって向き合っていけばいいのかっていう……。自分の気持ちをしっかり持つことがすごく大変なんです」
 
コンテストと向き合う自分自身についてたずねた際の答えなのだが、このインタビュー後にはアメリカへ渡り、先述したコロラド州カッパーマウンテンでのワールドカップ、DEW TOUR、中国でのワールドカップと3週に渡る連戦を控えていた。
 
「大会でワクワクするような感覚はありません。自分が今まで練習してきた滑りをそこで出せるのかっていうプレッシャーのほうが大きい。自分の滑りができれば勝てる自信はあります。でも、求める滑りのレベルがものすごく高くなってるから、常に攻めてようやく成功できるかできないかっていう感じですね。“立てるか、立てないか”っていう紙一重の世界なんです」
 
ハーフパイプにかぎらずスロープスタイルにも言えることだが、スノーボード競技に挽回のチャンスはないと言っていい。ラン全体をクリーンに成功させないとポイントに反映されないからだ。特にハーフパイプは少しのエッジングのズレが失速を招いてしまい次のヒットにつなげられなくなるリスクが高いため、さらにシビア。そう、ミスを犯してしまった時点でそのランは終わりなのである。
 
2017年3月のBURTON US OPENで繰り出したキャブ・ダブルコーク1440がそうだったように、生死をかけるほどの大技を組み込んだ高難度ルーティンを完璧に決めることができなければ、金メダルは獲得できない。
 
「自分っていう相手を越えなければいけないから」
 
世界中の視線が注がれる4年に一度の大舞台で、バック・トゥ・バックでダブルコーク1440を決めることができる自分でいられるのか。パイプのコンディションや自身の体調も違えば、計り知れないプレッシャーが重くのしかかっている状況で、自分らしく滑ることができるのか。
 
「技のレベルが高くなってる中で常に完璧なランを目指してやってるから、そういった練習中の自分を本番で乗り越えることってかなり難しくなってますね。“本当にできるのか?”って気持ちに追い込まれることも多々あります。だから、昔だったら1本目は抑えて2本目で攻めようって考えもあったんですけど、今は1本目から攻めていかないと成功できるかわからないようなレベルなんです。自分との葛藤っていうか……難しいですね」
 
「もう銀はイヤだ」と公言している歩夢の目には、当然ながら金メダルしか映っていない。それを勝ち得るためのルーティンはすでに決まっているものの、完璧にこなすのは至難の業である。前人未到のルーティンは技の動きが複雑すぎるので観ていても理解できないかもしれないが、次の歩夢の言葉に耳を傾ければ、どれほどの難易度を誇るのか想像に難くないはずだ。
 
「フロントサイド・ダブルコーク1440の着地がかなり重要で、リップ近くにランディングして加速できないと絶対にキャブ・ダブルコーク1440にはつなげられない。しかも、1440とか1260のスピンになってくると息継ぎしてる時間もないんです。呼吸することを意識すると焦っちゃうので息を止めて回してます」
 
2010年のバンクーバー五輪の時点からハーフパイプのスペックはさほど変わっていない。全長こそ伸びてはいるが、パイプの高さは6.7m、斜度は18°が現在でもスタンダードだ。参考までに2017年2月にプレオリンピックとして韓国・平昌で行われたワールドカップの公式発表によると、高さ6.8m、斜度18.2°のハーフパイプだった。ジャンプ台自体やエアの落差を大きくすることでダブルコークからトリプルコーク、さらにはクワッドコークにまで進化を遂げたビッグエアとは性質が異なるのだ。
 
そうした状況で回転軸が複雑になり、回転数が増しているのだから……いや、言い換えれば回転数を増やすためには回転軸を複雑にしなければならなかったのだろう。それらを踏まえると、呼吸する時間さえないほどの超高難度トリックだということが理解できるのではないか。
 
こうしたライダーたちの心理状況を鑑みてなのか。ソチ五輪の決勝では2本のランからベストポイントが採用されて争われていたのだが、その翌シーズンのワールドカップからファイナルではひとり3本のランが与えられるように変更された。FISがWORLD SNOWBOARD TOUR(現WORLD SNOWBOARDING)、いわゆるプロ大会に習った格好なのだろう。
 
「かなりデカいですね。みんな攻めないと勝てないレベルで戦ってるから、少しでもチャンスがあったほうがいい。オリンピックの決勝は3本あって、ラスト1本で誰かを逆転しなきゃいけないような状況ってあると思うんです。だから、今のうちからそういう滑りを本番で出せるように大会で練習できればいいですね。攻めた滑りがいつでもできるように大会に慣れておきたい。変なプレッシャーには負けたくないですからね」
 
先述したとおり成功はしなかったものの、世界各国のライバルたちの目の前でバック・トゥ・バックの1440を披露した歩夢。それはまるで、宣戦布告のようにも映った。「オレはオリンピックでここまでやる。オマエらはあと数ヶ月でこれに追いつけるか」と言わんばかりに。
 
4年前のソチ五輪ハーフパイプ決勝の2本目。公式練習を通じても繰り出していなかったキャブ・ダブルコーク1080を完璧に成功させての銀メダルだった。このときはソチ五輪開幕直前の2014年1月中旬に痛めてしまった右足首の影響が大きく、オリンピック出場のために現地入りするまで一度もダブルコーク1080の練習ができずにいた。現在に置き換えたらダブルコーク1440の調整がまったくできない状態にあたる。
 
こうした逆境に追い込まれながらも決めることができたキャブ・ダブルコーク1080。ケガする以前までに完璧な準備ができていたということだ。4年前よりも難易度は格段に上がったが、ここまでの状態に仕上げておきたい。そういうことなのだろう。
 
さらに言えば、オリンピックに間に合わせられるかわからない状態ながら1日に5回ほどリハビリに取り組んだ結果、15歳という若さも手伝ってか驚異的な回復力を発揮。初の大舞台を前に滑ることが許されなかった歩夢は、公式練習の後半にはフロントサイド・ダブルコーク1080が繰り出せるまでに自分の滑りを取り戻していた。
 
「滑れること自体がとにかく楽しかった」
 
こうした気持ちでオリンピック当日を迎えられたこと。これは大きな勝因のひとつだったに違いない。
 
この4年間で歩夢は追う立場から追われる立場へと変わり、競技レベルは加速度的に高まっていった。「金メダルしかない」とマスコミの前でも公言し、自らを鼓舞してきた。ここまで自身を追い込んできたからこそ、幼少期から夢見てきたオリンピックでの金メダルが射程圏内に入ったのだろう。
 
しかし、本章の冒頭で述べたように大きなプレッシャーが歩夢を襲っていた。
 
「ソチ(五輪)と同じように、もうあとはやるしかないっていう純粋な気持ちで平昌(五輪)にも出たいですね。心からオリンピックの舞台に立つことを楽しめるだけの余裕を持って出たいから、そのためだったら今やってることがどんなにしんどくても受け入れられます。“あとはやるだけ”っていう気持ちでオリンピックに臨みたいから」
 
2017年12月21日。中国・シークレットガーデンで行われたワールドカップで97.75ポイントという驚異的なスコアを叩き出して圧勝。ワールドカップ2連勝となり、翌日の帰国後にSAJから平昌五輪の代表内定が発表された。
 
その内定会見で多くの報道陣に囲まれた歩夢は、次のように話した。
 
「限られた残りの時間でスキルを上げていきたい。決めることができたら確実に金メダルが獲れるような圧倒的な滑りをしたいですね。それに向けた練習に集中したいと思ってます」
 
誰も成し得たことのない連続ダブルコーク1440の完成度を上げること。さらに、歩夢が言う圧倒的な滑りを実現するためには、ダブルコーク1260のコンボも狙っている。
 
4年前と同じ気持ちで平昌五輪の舞台に立つために、歩夢の挑戦はまだまだ続いている。

text: Daisuke Nogami(Editor in Chief)

 
 
CONTENTS
INTRODUCTION はじめに
EPISODE 1 オリンピック競技とスノーボード文化のはざまで
EPISODE 2 スキー連盟に属するスノーボーダーの葛藤
EPISODE 3 ケガの功名
EPISODE 4 考えて勝つ
▶EPISODE 5 4年前と同じ気持ちで
▷EPISODE 6 家族の想いを胸に
▷EPISODE 7 最後に後悔しないために
___
 
本記事は、2018年発行『BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE ISSUE 5「WALK TO THE DREAM ──夢への歩み──」』より抜粋掲載。平昌五輪までの4年間、「金メダルしかない」と自らを追い込み続けた平野歩夢の歩みを追った一冊だ。2017年3月の重傷から復帰し、同年12月にはコンテスト史上初となるフロントサイド・ダブルコーク1440を成功させるなど、世界の頂を射程圏内に捉えていた19歳当時の葛藤と覚悟を、写真とデザインを交えながら全140ページにわたって描いている。
 

 
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※ISSUE 5は完売しました

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