FEATURE
表と裏で異なる雪山の表情。松浦広樹が語る、南東北ならではの自由すぎる遊び方。【創刊10周年特別企画】ISSUE 11「JAPOW PRIDE」
2026.10.15
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東北 / 南東北
※2020年に綴った言葉をそのまま掲載
※本文に登場する「アルツ磐梯」と「猫魔」は、2023-24シーズンより「星野リゾート ネコマ マウンテン」として一体運営されています
表と裏で異なる表情を攻略する面白さ
1951年12月、東北地方で初となるリフトが山形蔵王に架かった。1950年に架けられた草津温泉のリフトが日本初ということなので、南東北エリアはその走りだったと言えるだろう。
東北を東西に分断する奥羽山脈が大起伏山地であるため、冬季の北西風の影響により降雪の恵みを受けている。だから多くのゲレンデが古くから点在しているわけだが、それに加え、福島、山形、仙台などの主要都市が脊梁山地に近いため、定住している多くのスノーボーダーたちにとってアクセスがいいことも特徴だ。また、これらの地域は日本海沿岸地域に比べると雪質が乾燥している。よって、コンディションのいいゲレンデが身近に存在するのが南東北なのだ。
さらに細かく見ていくと、奥羽山脈の西側(日本海側)と東側(太平洋側)とでは気候が大きく異なる。奥羽山脈西側は南東北でもっとも寒い地域であり、特に会津地方や置賜地方は豪雪地帯。日本海沿岸よりも良質な雪が大量に降り注ぐ。
一方で太平洋側は海洋性気候になっていることから、極寒になることが少ない。奥羽山脈で雪雲がブロックされるため晴天率が高いことも特徴だ。しかし、寒気団の南下や強風などにより奥羽山脈を越えて雪雲が入ることもあり、さらに南岸低気圧による降雪も。決して降雪量が少ないというわけでない。
このように、異なる特徴を持つゲレンデが東西に分かれて隣接する山もある南東北エリア。まず蔵王エリアを見ていくと、標高800~1,400m付近に巨大なゲレンデがある山形県側に対して、宮城県側には一つひとつの規模は小さいものの、特色のあるゲレンデが点在している。
さらに、南東北の中でも最南端に位置する“みちのくの玄関口”である福島を代表するスノーエリアと言えば、磐梯エリアだ。かつて国際大会が行われていたアルツ磐梯には今なお、南東北屈指のパークが常設されている。その表磐梯に対して、裏磐梯に位置する猫魔にはミクロファインスノーと称される極上のパウダースノーが降るわけだ。
こうした表と裏で異なるギャップが魅力であり、そうした山々で滑り込んできたスノーボーダーたちの実力は折り紙付きだ。本間勝則、鎌田潤、安立風太、松浦広樹といった多くのライダーたちを育んできたこのエリアの本質を知れば、きっと行きたくなる。
地元を“愛する”男
松浦広樹
生まれ育った福島の地の利を活かし、スノーボードはもちろん、サーフィンやスケートボードをライフスタイルに取り入れている松浦広樹。フィルムクルー・BIGTIME のメンバーとして東北エリアにフォーカスした映像を長きに渡り発信し続けているだけに、広大なエリアに点在する数々の山を熟知している。そんな南東北の案内人にふさわしい松浦を直撃した。

雪は当たり前に降るから、どう遊ぶかが大事。
渡米する以前は地元・東京からほど近いエリアにコモることが多く、アメリカを拠点にしていたこの10年間は、せっかく帰国するなら北海道で滑りたいと考えていた。
そんな私だが2020年10月、アメリカから南東北へ移住を果たした。しかし実のところ、東北エリアは未知の雪山が多い。私と同じように、首都圏や海外のスノーボーダーにとっても訪れる機会の少ない地だと感じている。
「東北にはそこまで大きいリゾートがない分、コンパクトで面白いゲレンデがいくつもあるんです。それぞれ独特の雰囲気を持っていて、人が少ないから雪は十分余っている。だからこそ、開拓する面白さがあります」
福島・アルツ磐梯や山形・蔵王温泉は比較的大きなリゾートだが、それ以外はいい意味で開拓されすぎていないローカルな雰囲気のゲレンデが多いのだと松浦は説明する。
「パークで遊ぶならアルツ。距離が長いから大きく流せます。少しコンパクトだけど雪がいい猫魔は、春にかけてパークが充実していきますね。普段はフリーランが楽しい箕輪にいることが多いかな」
福島だけでもいろいろなタイプの雪山が選べる。世界標準のビッグキッカーを備えるアルツ磐梯には初級者から楽しめるパークが設置されており、箕輪はほどよい間隔に開けたツリーランがリフトアクセスで楽しめる。ゲレンデ以外では、スノーモービルを使って自由に滑ることが可能な鷲倉温泉という選択肢も。
「山形だったら蔵王は長い距離を滑れて、ジャングルジャングルはフリーランが面白くてパークもあります。湯殿山はオペーレーターとして丸山淳くんが来たことでパークをしっかり造るようになりました。パイプもあるんです」
蔵王温泉は樹氷エリアの圧倒的な景観や抜群の雪質を誇り、スノーボーダーを満足させる滑走距離とコースバリエーションの豊富さを併せ持つ。黒伏高原スノーパーク・ジャングルジャングルでは多くのイベントが開催されるなど、根強いファンが多い。特筆すべきは湯殿山。標高が低いのに降雪量が多く湿気を含んだ雪質が特徴なのだが、だからこそパーク造成に向いており、近年は排雪しながらRを切る丸山氏の技術により“R天国”と称され人気を博しているのだ。
山形蔵王は裏蔵王とも呼ばれ、その反対の宮城蔵王は表となる。この表蔵王には、その名のとおり以前はクオリティの高いパークで知られていたすみかわスノーパークが存在する。
「日本では珍しいほど規制が少ないんです。ゲレンデという大枠の括りしかなくて、その中であれば好きなところを自由に滑れる。コースのバリエーションは少ないんですけど、沢が面白くて」と、意外な答えが。かつてパークで名を馳せていたイメージとは真逆の特徴を教えてくれた。確かにコースマップを見ても、自然地形をそのまま活かしたコースがあるなど、とても自由なゲレンデに映る。
「すみかわのベース付近がピークとなる隣の山があって、そこがえぼしリゾートです。ゴンドラがあり長い距離を滑れます」
ビッグエアをメインに活動していた時期もあった松浦だが、当時から「雪がいいときはまずゲレンデを流して、それからパークに行くって流れで」と、フリーライディングに比重を置きながらトリックの練習を行ってきた。もちろんゲレンデを滑るだけでなく、撮影のためにロケハンにも時間を費やしてきたわけだが「探したらきりがない」くらいポイントがあるんだとか。
「福島の山はコンパクトなので、自分次第で何でもできる。何かに挑戦したい、こういう滑りがしたいというイメージを体現できるロケーションがギュッと詰まっているようなエリアなんです」
東北とひと口に言っても、その場所により山の表情は大きく異なる。太平洋側と内陸とでは降る雪質や量も変わってくるのだ。
「太平洋側の方が天気はいいけど風が強くなりやすくて、内陸に入るとなかなか晴れないのに風はある程度落ち着いていますね」
福島の会津地方や中通り地方、山形全域、宮城の西部にゲレンデが点在しているので、東部である太平洋側は降雪が少ないというイメージをお持ちの方もいるのかもしれない。
「南岸低気圧が入ってきたときにどさっと雪が降るのは、東斜面のすみかわや箕輪だったりしますね」
太平洋沿いの山にはあまり雪が降らないためゲレンデはないのだが、東向きの斜面にはパウダースノーが舞い落ちる。そのうえ晴天率が高いため、いわゆる“THE DAY”の確率が高いようだ。私も箕輪で最高のコンディションに恵まれた経験があるのだが、今でも鮮明に思い出せるほどの眩しい青空と最高の雪質だった。
天候に恵まれると太陽の光が雪面を強く照らすため、時間帯で面を変えて状態のいいところを選びながら滑るわけだが、その際に次のことを頭に入れておくとより滑りが充実するだろう。
「東北の山には樹氷が多いように、頂上付近の風がとても強い。だから、その風で吹き溜まる風下の雪がすごくいい」
天候や風向きによりそれぞれの山の個性が引き立ち、そのポイントを熟知することで、その日ベストな斜面を当てることができる。多くの選択肢を持つ南東北だからこそ、彼と一緒に滑れば毎日のように最高のコンディションを味わえるに違いない。
そんな松浦から南東北に移住したばかりの私に助言があった。
「パッと行けるフットワークの軽さがないとこのエリアは楽しめない。東北は一つひとつの山が遠いから」
なるほど、午前中はここを滑って午後はこっちに移動するとかでなく、今日はここだと決めて即行動に移す判断力も必要ということだ。そうは言っても「絶対にその日を楽しめる」と言い切るほどあらゆる遊び方で楽しめる山々があり、何より松浦が遊び上手なのだ。
「風に飛ばされて雪が薄くなっている樹氷エリアを通過して、木々の中に吹き溜まったディープパウダーを堪能し、ゲレンデではグルーミングバーンを滑るスピード感が気持ちいい」
ほどよい踏みごたえのある良質な雪が山全体を覆い、滑り下りていく過程で多様な雪質や地形を味わうことができる山がいくつも存在する南東北。まさにそれこそが、改めて日本の冬を経験する私にとって魅力的に感じる部分なのだ。
「雪は当たり前に降るから。雪を求めてるっていうより、降った雪でどう遊ぶのかって考えるほうが自然なんですよね」
南東北はそれぞれの土地で生まれ育ったスノーボーダーが多いためローカル色が強く、天候や斜面の向きなどの違いにより山に個性が出る。
「ちょっと田舎くさいけど住みやすい街で、滑りたい山を選べるのが一番の魅力」──地元を愛する松浦は嬉しそうに、こう締めくくった。
edit + text: Daisuke Nogami(Editor in Chief)
interview + text: Yukie Ueda
CONTENTS
▶INTRODUCTION|はじめに
▶01|北海道 / 札幌 安藤健次インタビュー
▶02|北海道 / 道北 佐藤秀平インタビュー
▶03|北海道 / ニセコ 渡辺大介インタビュー
▶04|東北 / 北東北 杉本幸士インタビュー
▶05|東北 / 南東北 松浦広樹インタビュー
▷06|群馬 / 利根沼田 中山悠也インタビュー
▷07|新潟 / 魚沼 関口 敬インタビュー
▷08|新潟 / 妙高 小西隆文インタビュー
▷09|長野 / 白馬 美谷島 慎インタビュー
▷10|長野 / 北信 中山二郎インタビュー
▷11|岐阜 / 飛騨 太田宜孝インタビュー
▷12|西日本 / 近畿・中国 中尾正明インタビュー
▷OUTRO|JAPOW PRIDEからJAPOW FROM___へ。
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BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE
ISSUE 11 「JAPOW PRIDE ──ニッポンの雪と山と文化を知る──」
北海道・ニセコや長野・白馬を中心に大挙して押し寄せている外国人は、なぜ日本の雪山にこだわり続けているのか。それは、ここまで多くの人々が日常生活しているエリアに雪が大量に降る国がないから。米アラスカの僻地やカナダBC州の山奥には、もちろん大量に極上パウダースノーが降り注ぐ。しかし、それとはワケが違う。街があり、その近くに多くのゲレンデが点在し、ハイクオリティなパウダースノーが堪能できる。しかも、食事も温泉も人も最高。さらに言えば、リフト券が格安だ。これらが日本が世界に誇るべき価値なのである。これを言い換えれば、僕たちは世界中の雪を愛する人々が羨む環境に住んでいるということ。だからこそ、ニッポンの雪と山と文化を改めて知ってほしく、この一冊を編むことにした。世界一の豪雪大国に住むスノーボーダーの胸に、“JAPOW PRIDE”を刻みこんでもらいたい。

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