FEATURE
【創刊10周年特別企画】ISSUE 5「夢への歩み」平野歩夢インタビュー〈第7章〉最後に後悔しないために
2026.08.18
19歳の平野歩夢は、すでにその先を見ていた。
平昌五輪を目前に控え、世界の頂点を目指していた歩夢。しかし、その視線は金メダルだけに向けられていたわけではない。これから自分は何を目指し、どんな存在になり、どのように生きていくのか。その未来までを見据えていた。
あれから8年あまり。彼がその後に選んだ道、そして現在の姿を知る今、当時の言葉を読み返すと驚かされる。
BACKSIDE創刊10周年特別企画「夢への歩み」、最終章。
※以下、2018年に綴った言葉をそのまま掲載
EPISODE 7
最後に後悔しないために
「今までどおりにやって金メダルが獲れるなんて、そんなワケないだろって(笑)。何かにストレスを感じながらでも自分が求めるものを追いかけていかないと、そんなに大きなものを手にすることなんて100%無理だろうなって。そう思えるようになってからは、だいぶ変わりましたね」
幼き頃、学校に行きたくても行けずにスノーボードやスケートボードの練習に明け暮れくれた日もあった。勉強についていくことができずに劣等感にさいなまれることもあった。ツラいこともたくさん経験してきたはずだが、その延長線上でさらなる高みにたどり着くことは到底できない。繰り返しになってしまうが、15歳2ヶ月のときにソチ五輪で銀メダルを獲得した歩夢は、冷静にこう分析していた。
このように気持ちを入れ替えられたことが大きかったのだと、改めて言葉にした歩夢。
「常に“何かやらなきゃ”って思うようになって自分をめっちゃ追い込んで、ネガティブ思考に陥った時期もありました。それを解決するまでにかなりの時間がかかったけど、ここまでやってこれたのもソチ(五輪)で銀だったからだと思うんです。自分の負けず嫌いな性格が思いきり出た感じですね」
もしも、あのとき金メダルを獲っていたら──。ISSUE 3「スノーボードと仲間と絆」でその可能性について言及していたので、改めて振り返りたい。ソチ五輪で金メダルを獲得したイウーリ・ポドラチコフは当時の最高難度トリックとされていたキャブ・ダブルコーク1440を成功して優勝を飾った。
しかし、その大技の直後、次のヒットに繋げるにはハーフパイプの長さは十分に残っていたにも関わらず、彼は飛ばなかった。セミファイナルまでは6回飛んでいたのだが、ファイナルでは5ヒット目にキャブ・ダブルコーク1440を決めると6ヒット目をキャンセルしたということだ。リスクを回避したのではないかと大手専門メディアからツッコミが入るなど、疑念が残る結果だったわけだが。
「あのときは銀でよかったかなって」
まだ上がある。そう思って突き進んできたからこそ得ることができた、確かな手応え。この4年間で大きな進化を遂げたのだ。
2017年3月に大ケガをしてしまいスノーボードから一旦離れ、自分と向き合う時間ができたことで気持ちの整理がついたという話はEPISODE 3で綴ったとおりだが、それまでの3年間はすべてを投げ打ってまでもトリックの修得に躍起になっていた。何のために、誰のために滑っているのかすらわからなくなるほど自らを追い詰め、そうした精神的苦痛の代償としてルーティンの幅を増やすことができた。4年以上の歳月をかけて取り組んできた大技を、平昌五輪が行われる普光フェニックスパークのハーフパイプ内で想定される5ヒットのうち4ヒットで繰り出す準備はできており、ファーストヒットでは歩夢の専売特許である圧倒的な高さを誇るバックサイドエアを放つつもりだ。
「世の中の人たちに自分のことを知ってもらうキッカケだったり、ハーフパイプの世界で誰が頑張ってるのかってことに目を向けてもらう機会はオリンピック以外では少ないと思うから、そういうチャンスがある以上はギリギリの歳になるまで、4年に一度は参加したいと思ってます。そこで自分の土台を築き上げて、その先のことを考えられればいいかなって。今回のオリンピックもそうですけど、今できることと今残せるものに集中力を高めて取り組んでいきたいですね。自分の滑りだけは正直に表現したいから、納得できるものをオリンピックで出し切りたい。金(メダル)を獲ることにこだわるんじゃなくて、自分がやりたいルーティンだったり魅せたい滑りをオリンピックの舞台で表現したいんです。そのうえで、自分が誰かに憧れてここまでやってこれたように、今頑張ってる子供たちに夢を与えることができればうれしいですね」
歩夢の理想とする滑りをカタチにできたとき、自分自身を乗り越えることができたとき、自ずと結果はついてくるということだ。
加えて、平昌五輪という大舞台を目指しながらも、すでに2022年の北京五輪やその先のことまでを視野に入れて活動している。多くのアスリートがその先にあるオリンピックに挑むかどうかの明言を避ける傾向が強い中で、さらには競技活動だけでは認められないスノーボードという世界に身を置きながらも、歩夢はこう言い切る。
「スノーボーダーからどう見られるかってことよりも、スノーボードをやってない人たちから“スノーボードと言えばあいつ”って言われるような存在になりたい。そういう影響を与えられることってカッコいいと思うんですよね。テレビとかで見ているうちに興味を持ってもらえるような、そういうライダーって日本にはまだいないから。オレはこうした一般的なことも受け入れてやってきたつもりだし、そろそろそういうことを表現してもいいタイミングなのかなって思ってます。でもスノーボーダーだからこそ、海外や日本の仲間たちのことも大切にしていきたいですね。スノーボードはカッコいいスタイルを大切にする文化価値が強いから、そういう部分でも一流でありたい。でも、それぞれが正反対の方向性だったりするじゃないですか。“カッコいいもの”と“カッコ悪いもの”だったりするのかもしれない。でも、それらを共有していくことをすごく考えてるんです。それがあるかないかで自分の将来もだいぶ変わってくると思うし、そこにスケートボードも巻き込んで横乗りを幅広く自由に表現していきたいと思ってます」
歩夢は自覚している。自分にしか切り拓けない道があり、その先駆者として歩むべきなのだということを。
「中学3年で銀メダルを獲ってからここまでこれたのも、学校側が自分が求めてるオリンピックとプロ活動を認めてくれたことが大きいと思います。全日制の高校でアスリート科、大学でスポーツ科学部に在籍しながら活動できたことで、スノーボード以外にも大切なことを学ばせてもらってます。だから滑りに集中できる部分もありますね」
スノーボードだけでなく、心身ともに19歳として成長している歩夢。小学生時代に感じた劣等感は皆無だ。だから、さらに強くなった。
一般的なスポーツに比べると、競技としてのスノーボードはまだまだマイナーだ。テレビ放送としては、2014年から5年連続でTBSがX GAMESアスペン大会を、テレビ東京が2015年と2017年のFIS世界選手権を放映しているのみ。ソチ五輪で歩夢と卓がメダルを獲得したことで、ようやく一歩目を踏み出したばかりである。
オリンピックという4年に一度の大きな脚光を浴びる大舞台だからこそ、スノーボード以外のマイナースポーツも含め、その競技の認知を広めるために日本代表として頑張りたいといった趣旨の発言が目につくように思うが、歩夢はどう考えているのか。
「オレには自分にとっての理想の幸せがあって、その幸せをスノーボードで手にすることができればいいかなと思ってます。そこにはスケートボードも視野に入ってきていて、それを両立させることで納得のいくカタチになって、それが自分自身の幸せに変わればいいですね。これまでやってきたスノーボードとスケートボードは中途半端にしたくないから、“自分のため”が“人のため”にもなればいいですけど、最初から誰かのためにとかシーンのためになんて考えられないと思うんですよね。自分のためになったことがほかの人に刺激を与えたり、それが恩返しになったりするはずだから。オリンピックに出るってことは地元の人たちがものすごく応援してくれて、そういう人たちがいなければオレもここまでやってこれたかはわからないから、いつもありがたく(みんなの気持ちを)受け取ってます。でも、そういう気持ちを常に胸にしまって滑るって意味じゃなくて、オレはスノーボードに集中することのほうが大事だと思うんです。自分のやるべきことを達成して、応援してくれた分をスノーボードで返せればいいですね。すごく感謝の気持ちを感じてますけど、オレがやれることはスノーボードしかないから。結果でお返しして、それ以上に応援してもらえるような自分にならないといけないと思ってます」
誰のためでもない。自分自身のために。家族のため、地元のため、スポンサーのため、スノーボード業界のため……他者にモチベーションを置いたほうが、もしかしたら気持ちはラクになるのかもしれない。自分のためだからこそ、何ひとつ言い訳ができなくなってしまうのだから。いろいろなものを背負い込みながらも自らのために頂点を目指すという覚悟。課題はものすごく多いが、これ以上に強い信念があるだろうか。
「最後に後悔しないために。そのためだけにやってますね」
text: Daisuke Nogami(Editor in Chief)
CONTENTS
▶INTRODUCTION はじめに
▶EPISODE 1 オリンピック競技とスノーボード文化のはざまで
▶EPISODE 2 スキー連盟に属するスノーボーダーの葛藤
▶EPISODE 3 ケガの功名
▶EPISODE 4 考えて勝つ
▶EPISODE 5 4年前と同じ気持ちで
▶EPISODE 6 家族の想いを胸に
▶EPISODE 7 最後に後悔しないために
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本記事は、2018年発行『BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE ISSUE 5「WALK TO THE DREAM ──夢への歩み──」』より抜粋掲載。平昌五輪までの4年間、「金メダルしかない」と自らを追い込み続けた平野歩夢の歩みを追った一冊だ。2017年3月の重傷から復帰し、同年12月にはコンテスト史上初となるフロントサイド・ダブルコーク1440を成功させるなど、世界の頂を射程圏内に捉えていた19歳当時の葛藤と覚悟を、写真とデザインを交えながら全140ページにわたって描いている。

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※ISSUE 5は完売しました




