FEATURE
【創刊10周年特別企画】ISSUE 3「スノーボードと仲間と絆」平野歩夢×平岡卓〈第2章〉“メダリスト誕生秘話”
2026.07.14
世界を舞台に結果を重ねながらも、平野歩夢と平岡卓が見ていたのは相手ではなく、自分のベストランだった。
ソチ五輪で日本スノーボード界初のメダルを手にしたふたりの滑りには、勝負を楽しむ強さが宿っていた。
※以下、2017年に綴った言葉をそのまま掲載
EPISODE 2
メダリスト誕生秘話
2013年のX GAMESアスペン大会で歩夢の才能が爆発した。初出場となった大舞台で2位の快挙を達成。当時としては大会史上最年少のメダリスト記録(翌年クロエ・キムが13歳で女子スーパーパイプのシルバーメダルを獲得)となる、14歳でシルバーメダルを獲得したのだ。
続くBURTON EUROPEAN OPENで優勝、BURTON US OPENでも2位に輝くなど華々しい成績を残し、WORLD SNOWBOARD TOURのハーフパイプ年間ランキングで1位となった。
対する卓は、歩夢が出場していなかったX GAMESティーニュ大会で3位と表彰台を射止めるも、X GAMESアスペン大会やBURTON US OPENでは思うような結果を残すことができず。着実に力はつけていたものの、歩夢の成長幅が桁違いだったということなのだろう。
お互いの成績について意識していたのか?と歩夢にたずねてみた。
「意識はしてないですね。ずっと同じ大会に出てるからそういう感覚にも慣れてて、勝つためのことしか考えてません」
また、歩夢の急成長をプレッシャーに感じていたのか?と卓に訊いてみた。
「プレッシャーっていうのは特になくて、常に上手くなることだけに集中してました」
これこそが彼らの強さの秘訣なのだ。そこに計算や駆け引きなどは一切ない。自分のベストを尽くした滑りをすること。そして、そのベストランのレベルを上げること。そう信じた先にオリンピックのメダルがある。ただそれだけだった。
この頃になると海外生活にも少しは慣れていたのだろうが、外国人のトップランカーたちと戦う若きふたりは、決して語学が堪能なわけではない。しかし、英語が飛び交う異国の大舞台でもふたりはつるむことをまったくしないようだ。それは、“ベストを尽くす”ことだけに集中しているから。
「滑ってるときはあまり喋らないタイプなんですけど、卓もめっちゃ喋るって感じでもないから、リフトでたまたま一緒になったときに軽く話す程度ですね。スタートエリアで話し込むようなこともないし、お互いが滑りに集中してます」
「大会中に歩夢と話すってことはほとんどないですね。それは海外の大会に出てからずっと変わりません」
中学時分から世界の舞台に立ち、自らの意思で戦う覚悟を決めていたふたり。少しでも不安や迷いがあれば真っ先に助けを求めてしまいそうなものだが、この頃すでに、彼らはプロアスリートとしての自覚や自信が芽生えていたに違いない。
そして翌シーズン、ソチ五輪ハーフパイプで歩夢が銀、卓が銅メダルを獲得することになる。このシーズンは夏のBURTON HIGH FIVESで卓が、FIS(国際スキー連盟)ワールドカップで歩夢が優勝を飾るも、それ以外の大会は両者ともに成績が振るわなかった。しかも、歩夢に至ってはオリンピック直前の2014年1月、トレーニング中に右足を負傷。ソチ五輪への出場さえ危ぶまれている状況だったにも関わらず、日本中を揺るがす素晴らしい結果を残したわけだ。
ここで改めて、ソチ五輪ハーフパイプのファイナルを振り返っておきたい。2組で行われた予選はそれぞれ出場するヒートが分かれ、ヒート1で歩夢は1位、ヒート2で卓は2位となり、両名ともセミファイナルをパスしてファイナルに進出。ショーン・ホワイトはヒート2で1位通過、金メダルを獲得することになるイウーリはセミファイナルから勝ち上がった。2ランのベストポイントで争われた決勝はセミファイナルまでの下位から出走になるため、イウーリ→卓→歩夢→ショーンの順となる。
1本目を終えた時点で、歩夢が90.75ポイントでトップ。運命の2本目、イウーリは自らが世界で初めて成功させた大技・CABダブルコーク1440に成功。94.75ポイントを獲得して歩夢を大きく引き離した。だが、セミファイナルまで6ヒット飛んでいた彼は、2本目のランでは5ヒット目にこの大技を成功させると、パイプの長さは十分余っていたにも関わらず6ヒット目を飛ばなかった。これが後に世界レベルで物議を醸したわけだが、イウーリがソチ五輪のおよそ1年前に初めて同トリックを成功させた際、次のヒットで繰り出したフロントサイド・ダブルコーク1080で転倒していたことがトラウマになっていたのかもしれない。アメリカの大手専門メディアにこの件について追及されると本人は否定していたのだが、オリンピックのジャッジはエアの個々に点数がつけられるのではなくオーバーオール(全体の印象点)が審査基準だっただけに、リスクを回避したという意味では物言いがつきそうな内容だった。
日本は午前4時を回っていたはずだが、睡魔と戦いながら固唾を呑んで見守っていたスノーボーダーも多かったことだろう。1本目を失敗していた卓は背水の陣で挑んだにも関わらず、パイプのフィニッシュラインぎりぎりでフロントサイド・ダブルコーク1080を決めるなど、他を圧倒する演技を披露。92.25ポイントをマークして歩夢を抜き、暫定2位につけた。残すは歩夢とショーンの2名だったため、この時点で日本人のメダルが確定。
右足に爆弾を抱えた状態で追い込まれた歩夢は、15歳とは思えない強心臓ぶりを発揮する。ソチ五輪を通じて初めて繰り出したCABダブルコーク1080を完璧に成功。ストレートエアよりもスピントリックの高さが落ちることは説明不要だろうが、このCABダブルコークはストレートエア以上の高さを誇っていた。全体としてパーフェクトに近い演技となり、ジャッジングに大きな注目が集まったが、結果は93.5ポイントでイウーリに届かず2位。最終出走となったショーンは大技を繰り出すも演技が乱れてしまい、90.25ポイントで4位。この時点で、メダルの色が確定したという流れだった。

ソチ五輪の直後、筆者はふたりにインタビューしているのだが、卓は次のように語っていた。
「オリンピックは目標にしてきた場所やから、やっとこの舞台で滑れることが何よりも楽しかったですね。決勝の1本目でキャブダブル(コーク1080)をミスしたんですけど、その理由が明確だったから焦りは全然なかった。2本目を決めた直後はやりきった気持ちが強かったので、特に何も考えてませんでした。(歩夢に対して)“ガンバレ~”くらいの気持ちでしたね(笑)」
そして、歩夢に逆転されたときの心境を今となってたずねると、「やり切ったことが気持ちよかったので、あとは誰がどう来ようがまったく気にしてませんでした。だから、“やっぱコイツ決めてきたな”って感じでしたね」
さらに卓はこう続けた。
「あの頃は歩夢にしてもオレにしても、いい意味で子供やったというか、全然プレッシャーもなかったし緊張もしてなかったんだと思います。“これから決勝やん”みたいな感じで、むしろ楽しかったイメージしかありません。負けたらどうなるかなんてまったく考えてなくて、逆に“これ決めたら(メダル獲得)いけるかも”という状況やったから、余計にテンションが上がって変なパワーが出てたと思うんですよ」
チャレンジャーとして失うものは何もない。自分のベストを尽くすだけ。練習でも上手くなることだけを信じてやってきた。その結果が銅メダルだったのだ。
当時のインタビューで歩夢に対して強く印象に残っているのは、やはりその強心臓ぶりだ。
「卓がポイントを上回ってきたとき、“面白くなってきた”と思いました。最後にオレとショーンが残されて、抜きつ抜かれつの戦いがすごく面白かった」
15歳、中学3年生の発言かと耳を疑うかもしれないが、事実こう話してくれていた。18歳となった今、改めて振り返ってもらうと、
「決勝の記憶しかないですけど、すごく楽しめました。オリンピックってUS OPENとかX GAMESに比べるとストイックなイメージが強かったから、めっちゃ緊張すると思ってたんですけど、実際は違いましたね。ふたりしてオリンピックに出られたこと自体を自然と楽しめてたような気がします。だから、卓に抜かれたとかオレが抜かなきゃっていうことを意識したわけじゃなくて、ケガで出られないかもしれない状況を痛み止めとテーピングで上手く乗り越えられて、滑れること自体に喜びを感じてました」
まさしく、スノーボーダーとしての本質だろう。晴れの大舞台で滑れることが楽しくて仕方なかった。その結果、金メダルにも匹敵する会心の滑りを披露することができたのだ。
と、ここまでの話では、さぞやクールで常人とはかけ離れたふたりに思えてくるだろうが、当時、高校生と中学生だった若者らしいエピソードを歩夢が教えてくれた。
「卓にけっこうやられたんですけど、オレのことをわざと起こさないで先に練習しに行っちゃうんですよ。そういうことをされると、“次の日はオレのほうが早く起きて先に行ってやる!”みたいになっちゃって、卓を起こさないで滑りに行くこともありました(笑)。それについて特に話すこともないけど、滑りに関してはお互いに負けたくない思いがあるんだろうなって」
text: Daisuke Nogami(Editor in Chief)
CONTENTS
▶はじめに
STONP 世界に挑んだ男たちの絆
▶EPISODE 1 STONPが変えた男の人生
▶EPISODE 2 “STONP OR DIE”が育んだ絆
▶EPISODE 3 世界一への道のりを支えた仲間の存在
▶EPISODE 4 仲間とともに生きる道
Keiji Okamoto × Yuki Kadono 時空と世代を越えたふたりの絆
▶EPISODE 1 憧れのお兄ちゃんからライバルに
▶EPISODE 2 ふたりの想いが起こした奇跡
▶EPISODE 3 絶望から救ったアイツの存在
▶EPISODE 4 親子のように強い絆
Ayumu Hirano × Taku Hiraoka 滑りで夢を語り合うメダリストたちの絆
▶EPISODE 1 同じ夢を目指して交わった人生
▶EPISODE 2 メダリスト誕生秘話
▷EPISODE 3 認め合いながらしのぎを削る葛藤
▷EPISODE 4 逆境から羽ばたく戦友同士の絆
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本記事は、2017年発行『BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE ISSUE 3「SNOWBOARDING, FRIENDS, AND THE BOND ──スノーボードと仲間と絆──」』より抜粋掲載。創刊10周年特別企画では、本号の中核を成す3つのストーリーを全14回にわたり公開していく。紙媒体ならではの写真表現や誌面デザインとともに、2017年当時の日本のスノーボードシーンの空気感も感じとってもらえれば幸いだ。

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