FEATURE
【創刊10周年特別企画】ISSUE 3「スノーボードと仲間と絆」平野歩夢×平岡卓〈第3章〉“認め合いながらしのぎを削る葛藤”
2026.07.15
ソチ五輪の表彰台を分け合ったことで、平野歩夢と平岡卓の関係はよりフラットなものになった。
友人でも、戦友でもある。だが、それだけでは言い表せないほど互いを知るふたりは、それぞれのスタイルと葛藤を抱えながら高みを目指していく。
※以下、2017年に綴った言葉をそのまま掲載
EPISODE 3
認め合いながらしのぎを削る葛藤
「今振り返ると、オリンピックで変わったかもしれないですね。ふたりで表彰台に上がれたことで、そこでしか味わえない思いや、広がっていく自分たちのスノーボードがあって……。いい思いも苦しい思いもお互いに分かち合ってきたから、ふたりの関係がフラットになったような気がします。メダルを獲った実感だったりは、ふたりにしかわからないことだから」
歩夢はこのように語る。先述したように、ソチ五輪前の急成長や14歳という年齢も踏まえ、歩夢は世間からの注目を一身に集めていた。そのスポットライトから少し隠れるようにして卓の存在があり、そうしたことを中学生ながら感じていたのだろう。
オリンピックを終え、歩夢はケガの療養に努める最中、卓は休むことなくBURTON US OPENに出場して準優勝。その勢いをさらに加速させ、翌シーズンのX GAMESアスペン大会では2位、そして、BURTON US OPENでは悲願の初優勝を飾った。前日に行われたスロープスタイルで角野友基が優勝していたため、2010、2011年にハーフパイプで2連覇を達成した國母和宏を含め、日本人として3人目となる快挙。また、2種目とも日本人が頂点に立つという初の偉業を成し遂げたのだ。
この頃の卓は、自らのスタイルを完全に確立していた。バック・トゥ・バックのダブルコーク1080を含めた全体的なエアの高さを際立たせ、さらにフロントサイド1260という高回転フラットスピンをスパイスとして加える。迫力や勢いを感じさせる卓の滑りは、世界中を魅了した。
この当時、卓は自身について次のように語っていた。
「X GAMESがターニングポイントやったと思います。あのときは本当に調子が悪くて、公開練習も予選1本目も全然ダメで……。それで、2本目を滑るときに“もうどうでもいいや”って吹っ切れたんです。そうしたら身体の力が一気に抜けて、ゾーンに入ったというか。そこから調子がよくなりました」
対する歩夢は、X GAMESアスペン大会で6位、BURTON EUROPEAN OPENで2位、BURTON US OPENで3位などコンスタントに上位に食い込むも、納得のいく結果ではなかった。イウーリとショーンしか成功させていない世界最高峰の大技、キャブ・ダブルコーク1440をX GAMESで成功させるもジャッジに嫌われた。これには多くの関係者が首を傾げていたことも事実である。それ以降は大技を封印してエアの高さを重視したルーティンを組み、フロントサイド1260やバックサイド・アーリーウープ720で勝負に挑むも、卓に一歩譲った形でシーズンを終えた。
「ダブルダブル(バック・トゥ・バックのダブルコーク1080)をやるライダーは多いから、それとは違ったルーティンを狙ってます。自分の持ち味はエアの高さだと思うから、高さを出したうえで難易度の高いキャブ・ダブルコーク1440を取り入れたい。そして、誰が見ても明らかに“ヤバイ!”って言われるような滑りを目指したいですね」
EURO OPENを終えた時点で語ってくれていた言葉だ。X GAMESで披露した覚えたての大技は、歩夢のほかのトリックと比べると確かに高さが足りなかった。「3ヒット目に(キャブ・ダブルコーク)1440を入れたことはもっと評価してほしかった」と本音を漏らしながらも、だからこそ、誰の目にも文句のないように映る圧倒的な滑りを手に入れようとしていた。最終戦となるUS OPENのラストランでそのルーティンを披露しようとしたかは定かではないが、フロントサイド・ダブルコーク1080の着地で勢い余り、ヘルメットが割れるほどの転倒。「抑えたルーティンで3位だったから……」と大会直後のインタビューで話していたことからこのように推測したわけだが、歩夢が理想とする滑りは翌シーズンに繰り越されることになった。
高さとスタイルを武器に気持ちが吹っ切れた卓、かたや、他人とは違う高難度ルーティンを目論み試行錯誤を繰り返す歩夢。彼らのスタイルは対照的だった。
「卓がスタイルで勝負していようが、オレが技を多く持っていようが、これまでの長い海外生活でわかり合ってる部分が大きいから、オリンピック以降はどちらが上とか下とか、そういう風に見ることはなくなってました。お互いにプライドがあって、同じようにはなりたくないって気持ちがあったのかもしれないし」
本章の冒頭で歩夢が語っている話につながるわけだが、小学生時代から切磋琢磨を繰り返してきた彼らは、“戦友”として認め合える関係になっていた。
「年下やけど、スノーボードのことからプライベートなことまで、いろいろ相談することもありますね。歩夢からの相談もあります。ずっと一緒にいることが多かったから、もうなんか友達とかじゃなくて、変な関係です(笑)。友達といえば友達なんですけど、戦友みたいな付き合いでもあるし……そういうのを引っくるめて全部ですね。ホンマにすべてを知ってる関係っていうか」
ソチ五輪以前から常に比べられてきたふたり。相手を蹴落としたい、自分だけ這い上がりたい……そうした気持ちに苛まれそうなものだが、彼らはふたりで、世界を相手にともに成長してきた。そこに多くの言葉が交わされたわけではないのかもしれないが、精神的に太く強くつながっていたのだろう。
「心配はしないですね。逆にチャンスやって思います」
先ほど振り返った2014-15シーズンの歩夢に対してどう感じていたのか?という質問の答えなのだが、やはり卓は勝負師だ。友達とは言いながらも、そこに情けは介在しない。一流アスリートとしての思考なのだ。
ハーフパイプに限った話ではないが、現在のスノーボード競技は2018年に控えたピョンチャン五輪までの助走期間が短くなっているため、日進月歩の勢いでライディングが進化し続けている。パイプのサイズに関しては劇的な変化は見られないので、ジャンプ台の大きさが増すごとにトリックの回転数や回転軸が増加・複雑化の一途をたどっているビッグエア競技のようなわかりやすい進化は見られないが、パイプ内での繊細かつシビアな滑走力がカギを握るため、絶え間なくその感覚を研ぎ澄ませておかなければならない。いわば、パイプは“ナマモノ”である。定期的に滑り込んでいないと、世界のトップレベルを維持することは大変難しい。
しかし、売れっ子ライダーは忙しいもの。卓はPEACE PARKやバックカントリーでの撮影など、映像活動にも注力し始めている時期だった。だから……とは言い切れないものの、2015-16シーズンは苦しいコンテストシーズンを強いられることになる。
DEW TOUR、LAAX OPEN、X GAMESアスペン大会、FISワールドカップ札幌大会、X GAMESオスロ大会と12~2月にかけて、まったく勝てなかった。
「オリンピックが終わってから年々、ダニー(デイビス)とか今まで出てた上の世代のライダーたちが大会から離れていって、これまではチャレンジャーとして上を見てやってきたんですけど、気づいたら自分が追われる立場になってました。それは国内で特に感じるんですけど、ハーフパイプをやってる日本人の若い子たちが増えてきて、なんか狙われてるような……。彼らのレベルも上がってきてるから、自分も常に油断できない状況に置かれていて、窮屈な感じなんです。これまでは周りを気にすることなくマイペースにやってきたから、これからもそうやってスキルを磨くことに集中していきたいんやけど、なかなかそうもいかない状況になってきました」
歩夢のことは意識しないが、ほかの日本人ライダーのことは意識してしまう。この意識が気負いを生んでしまい、スランプに陥ったということなのだろうか。
「どこかで認められない部分があるのかもしれないですね。歩夢のことは認められる部分が多いから、気持ちいい関係を築けてるんやと思います」
ミスター・マイペースだけに、外的圧力が卓を狂わせた。加えて、大の負けず嫌いが生んだスランプ。そういうことだったのだろう。
だが、BURTON US OPENではフロントサイド1440を決めるなど見事な滑りで3位に輝き、3大会連続で表彰台を勝ち取った。そのときの心境を、自身のSNSでこう綴っている。
「今年はなかなかハードで結果も出せんくて落ちるとこまで落ちてたけど、こうやって大会にしがみついて最終的に結果を出せてよかったっす。それで今まで以上にボードと真剣に向き合ってやろうってなってます」
卓とは対照的に歩夢は、ハーフパイプ競技を進化させるべく、シンプルなトリックをクールに表現することに価値を見出してクリップラー・ジャパンを開発し、国際大会の舞台で披露。そのスタイルが際立っていたことはもちろんだが、高難度化ばかりが急がれていたスノーボード競技に対するアンチテーゼとして映り、世界中から大きな賞賛を浴びた。さらには、スイッチアーリーウープ・バックサイド・ダブルロデオを新たにルーティンに加え、DEW TOURで2位、LAAX OPENで優勝と破竹の快進撃を見せていた。
そして、2016年2月末に行われたX GAMESオスロ大会でも優勝。このときに決めたのが、前シーズンに語っていたキャブ・ダブルコーク1440を組み込んだルーティンだったのだ。エアの高さを生み出せないのであればやる意味がない。そう言わんばかりに封印していた大技を解禁したとき、そこには、日本人スノーボーダーとして大会史上初となる金メダルが輝いていたのだ。
text: Daisuke Nogami(Editor in Chief)
CONTENTS
▶はじめに
STONP 世界に挑んだ男たちの絆
▶EPISODE 1 STONPが変えた男の人生
▶EPISODE 2 “STONP OR DIE”が育んだ絆
▶EPISODE 3 世界一への道のりを支えた仲間の存在
▶EPISODE 4 仲間とともに生きる道
Keiji Okamoto × Yuki Kadono 時空と世代を越えたふたりの絆
▶EPISODE 1 憧れのお兄ちゃんからライバルに
▶EPISODE 2 ふたりの想いが起こした奇跡
▶EPISODE 3 絶望から救ったアイツの存在
▶EPISODE 4 親子のように強い絆
Ayumu Hirano × Taku Hiraoka 滑りで夢を語り合うメダリストたちの絆
▶EPISODE 1 同じ夢を目指して交わった人生
▶EPISODE 2 メダリスト誕生秘話
▶EPISODE 3 認め合いながらしのぎを削る葛藤
▷EPISODE 4 逆境から羽ばたく戦友同士の絆
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本記事は、2017年発行『BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE ISSUE 3「SNOWBOARDING, FRIENDS, AND THE BOND ──スノーボードと仲間と絆──」』より抜粋掲載。創刊10周年特別企画では、本号の中核を成す3つのストーリーを全14回にわたり公開していく。紙媒体ならではの写真表現や誌面デザインとともに、2017年当時の日本のスノーボードシーンの空気感も感じとってもらえれば幸いだ。

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