FEATURE
ダニー・デイビスのグラブは、なぜカッコいいのか【創刊10周年特別企画】ISSUE 8「自分らしく、カッコよく」〈第3章①〉
2026.09.03
難しいトリックほど、カッコいいとは限らない。
高回転化、高難度化が進むコンテストシーンのなかで、勝つための難しさだけでなく、自分らしいスタイルを追求してきたダニー・デイビス。スローなスピン、スイッチ・メソッド、マックツイスト・チキンウィング……。
その滑りはなぜ、世界中のスノーボーダーを魅了するのか。
※以下、2019年に綴った言葉をそのまま掲載
勝敗よりもスタイルにこだわる男
ダニー・デイビスのグラブは、なぜカッコいいのか。
平昌五輪ハーフパイプ男子で激闘を繰り広げたショーン・ホワイトと平野歩夢の結果を受けて、とあるテレビ番組に出演していた有識者の見解によると、すべての回転数を足し算するとショーンのほうが上回っていたことがメダルの色を決定づけたと語られていた。では、本項の主役であるダニー・デイビスはどうだろう。
計算したわけではないが、近年のX GAMESアスペン大会への出場が許されているトップコンペティターのなかでは、もっとも回転数が少ないはずだ。それでも2014、15年に同大会を連覇し、今年は3位に返り咲いた。それはなぜか。
トリックの高難度化が急がれるなか、逆行するようにその美しさや楽しさを最大限に表現しているからにほかならない。その秘密が彼のグラブにある。
SECTION 1
大会と撮影を両立させる二刀流ライダーの表現力

「グラブっていうのはトリックをするうえでのひとつの要素であり、グラブによってはトリックが難しくなる。そして難しくなればなるほど、そのトリックはカッコよくなるんだ。この考え方は昔から変わらないね。でも、今はそれに加えて楽しいと思えるようになったよ。どうしたらこのトリックを面白くできるのか、そして、どうすればもっとカッコよく見えるのか。そんなことを考えるようになった。まあ、その
答えはすべてグラブにあるんだけどね」
ハーフパイプのコンテストをよく観ているという通な読者であれば、この言葉の真意を理解できるはずだ。トリックの高難度化ばかりが急がれるオリンピックを頂点としたスノーボード競技において、あえて逆行したうえで勝てる男。エア・トゥ・フェイキー、バックサイド360、マックツイストといったアマチュアの大会でも飛び出すトリックにグラブを加えることで唯一無二のスタイルを創造し、世界中のスノーボーダーが憧れるメソッドエアをスイッチスタンスから繰り出すことで、ダブルコークに勝るとも劣らない……いや、それ以上の価値を生み出す。
高難度トリックをセオリーどおりに完璧に操るコンペティターを“精密機械”に例えるならば、彼のことはトリックの“マイスター”と称してはどうだろう。この男の名は、ダニー・デイビス。
「多くのスノーボーダーが同じようなランをしているのに飽き飽きしていたんだ。オレには彼らの滑りの違いがわからなかった。ソチ五輪のシーズンはみんなとは違う滑りをして、リフレッシュすることにフォーカスしていたよ。結果として、いくつかのコンテストで優勝することができたのさ」
2014年1月に行われたX GAMESアスペン大会で優勝。バック・トゥ・バック(連続)のダブルコーク1080がないと勝てないと言われていたソチ五輪の直前にも関わらず、ダニーは超スローに回すバックサイド360メロングラブをファーストヒットで決めると、セカンドヒットではスイッチ・メソッドでトゥイークしながら超絶スタイリッシュに宙を舞う。彼のスタイルが確立した瞬間だった。
ここで少しだけダニーの経歴を振り返っておきたい。彼は2010年のバンクーバー五輪に出場していないのだが、同年1月、アメリカ・カリフォルニア州マンモスマウンテンで行われたオリンピック代表を決める選考大会の一戦であるUS GRAND PRIXにおいて、同五輪で圧倒的な強さで金メダルを獲得することになるショーン・ホワイトを撃破。その滑りは当時、ハーフパイプ史上最高のランと喝采を浴びた。
スイッチスタンスでドロップインすると、その当時はメソッドやマックツイストではなく、ファーストヒットでキャブ・ダブルコーク1080をテールグラブで決めると、フロントサイド900メロン→バックサイド・クレイル→フロントサイド・ダブルコーク1080インディ、そしてラストヒットではスイッチアーリーウープ・ダブルバックサイドロデオ900をステイルフィッシュグラブを入れながら天高く宙を舞いフィニッシュ。両サイドでのダブルコーク、そしてダニーらしくクレイルで自己表現も忘れない高難度なルーティンでの圧勝だった。
それなのに、なぜバンクーバー五輪に出場できなかったのか。先述したUS GRAND PRIXだけでなく、DEW TOURでも2勝。5戦中3戦で優勝するという最高のオリンピックシーズンの真っ只中、3勝目をあげたDEW TOURの祝賀パーティーに参加した際、四輪バギーでフェンスに激突するという大事故を引き起こしてしまう。脊髄損傷の重症だった。文句なしにアメリカ代表の座をつかんでいたはずだったが、その吉報を耳にすることなくバンクーバー五輪への道が閉ざされてしまったのだ。
当時のインタビューでダニーが自身の滑りについて、辛辣な評価を下していたことを思い出した。
「マンモスマウンテンで行われたUS GRAND PRIXでの優勝については、たくさんの称賛をいただいたよ。でも、決して最高のランではなかったと思う。確かにダブルコークなど技術的には高度だったかもしれないけど、それ以上にもっと魅せることができたはずなんだ」
史上最高と謳われ、トリノ五輪から連覇を達成してスーパースターに成り上がる直前のショーンを打ち破った滑りについて、リハビリ中だったにも関わらず冷静すぎる自らへの批評。こうした思考だからこそ、復帰後に比類がないダニーのスタイルが確立するわけだ。
「もう何年もダブルコークをやってるけど、確かに難しいトリックだし、観る側にとってもインパクトのあるものなんだ。ただ、クールなスタイルを出すのは難しい。ほとんどのケースで、グラブはインディかステイルフィッシュ、トラックドライバーのようなダブルグラブにかぎられるけど、それはできるだけクイックにスピンしたりフリップするために、身体をボールのようにコンパクトにする必要があるからなんだ。個人的には、ある程度のスタイルとトリック本来の楽しさは犠牲にしなくてはならないと思ってる」
ソチ五輪のシーズンを終えた当時、ダニーはこのように語っていた。だからこそ、先述したように周囲とは違う滑りを求めてオリジナリティを追求した結果、冒頭で綴った話につながる。難しさのなかに楽しさを見いだすことで、現在のスタイルマスターの称号を手に入れたのだ。
「オレにとってクールなトリックとは、最高のフィーリングが得られるもの。やっていてハッピーになれて、メイクしたらテンションが上がるものだね。それは人それぞれであって、オレにとってはビッグなエア・トゥ・フェイキーやストレートエア、スイッチエア、スローなスピンってところかな。それぞれで、お気に入りのグラブを入れながらね」
こうしたライディングを表現するために、ダニーはコンテストを転戦する傍らで、2014年から2017年にかけてPEACE PARKをプロデュース。このPEACE PARKとは、ハーフパイプやビッグエアのように高く飛ぶことや多く複雑に回すことばかりにフォーカスが当たりやすいアイテムの制約を解き放つことで、クリエイティビティやスタイル、そして楽しさが表現できる場を提供。それぞれ点として存在していたアイテムを線で結びフリーライディング要素を加えること、そして新たなるラインどりを示唆することで創造力を掻き立てるなど、より自由度の高いパークと化した。
「PEACE PARKやHOLY BOWLYのように滑っていて楽しいトランジションは、いわゆるハーフパイプとは一線を画して、アーリーウープやエア・トゥ・フェイキーが難しく感じるような、あまり馴染みのない新しいフィーチャーだよね」
そうした場にトップコンペティターらを招聘し、技術力と表現力を掛け合わせたライディングを映像化。新たなるフリースタイルスノーボーディングの可能性をメッセージとして発信してきた。
また、バックカントリーにフィールドを広げてシューティングを敢行。ときにはBURTON US OPENの直前まで撮影を行いながらも大会では上位に食い込むなど、表現と競技を両立させる稀有な存在としてシーンを牽引し続けている。
そして、2018年1月20日。平昌五輪出場を目論んでいたダニーだが、先述した史上最高のハーフパイプランと称された滑りを繰り出してからおよそ8年後──同地で行われたオリンピック代表選考大会のUS GRAND PRIX最終戦にて、フロントサイド・ダブルコーク1080がプラットホーム側に飛び出してしまい、リップに上半身を強打。代表の座を逃したのだった。
その後、カナダBC州ボールドフェイスや南米のチリとボリビアなどを訪れて映像作品『ALL IN A DAY』の撮影に集中していたことからも、競技の一線から退くのかと思われていたが、2018年12月に開催されたDEW TOURで復帰を果たすと、2019年1月に行われたX GAMESアスペン大会ではスーパーパイプで3位に返り咲いた。
こうしてフリースタイルスノーボーディングの二極化が著しいなか、“二刀流”の道を貫くダニーが目指すべきスタイルとは。
「スノーボードを知れば知るほど、年を重ねていくごとに、ノア・サラスネックやテリエ・ハーカンセン、ジェイミー・リン、ブライアン・イグチといったかつての名ライダーたちの滑りを見ることが楽しくなってきたんだ。だって、スタイルのオリジナルだからさ。彼らがやっていたポークやトゥイークを加えたグラブは、やっぱりクールだよ」
text: Daisuke Nogami(Editor in Chief)
translation: Yoshifumi Nomura
CONTENTS
▶CHAPTER 1 グラブの起源をたどり、グラブの美しさを知る。
▶CHAPTER 2 自称“トゥイーカー”、ギギ・ラフがスタイリッシュな理由。 EPISODE 1 スタイルの礎となる基礎力
▶CHAPTER 2 自称“トゥイーカー”、ギギ・ラフがスタイリッシュな理由。 EPISODE 2 “トゥイーカー”としての表現方法
▶CHAPTER 2 自称“トゥイーカー”、ギギ・ラフがスタイリッシュな理由。 EPISODE 3 フリースタイルスノーボーディングの普遍的価値
▶CHAPTER 3 ダニー・デイビスのグラブは、なぜカッコいいのか。 SECTION 1 大会と撮影を両立させる二刀流ライダーの表現力
▷CHAPTER 3 ダニー・デイビスのグラブは、なぜカッコいいのか。 SECTION 2 ダニー・デイビスが選んだ 好きなグラブランキング・トップ 5
▷CHAPTER 3 ダニー・デイビスのグラブは、なぜカッコいいのか。 SECTION 3 ダニー・デイビスを直撃 オレとグラブ
▷CHAPTER 4 フリーライディングが面白くなる、グラブ談義。
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BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE
ISSUE 8 「THE GRAB ──自分らしく、カッコよく──」
スピンの回転数が増え続けても、変わることのないフリースタイルスノーボーディングの基本であり、永遠のテーマ“グラブ”。その起源や美しさをひも解きながら、空中でボードをつかむことで表現される“自分らしさ”を掘り下げた一冊。世界が認めるスタイリッシュライダーたちのグラブ論をはじめ、バックカントリーで繰り出されたグラブトリックをゲレンデで再現する企画や、シークエンス写真を用いた斬新なハウツーまで収録している。

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