FEATURE
グラブにこだわり続ける美学。ギギ・ラフが語る普遍的価値【創刊10周年特別企画】ISSUE 8「自分らしく、カッコよく」〈第2章③〉
2026.09.02
スノーボードが進化し続けても、グラブの価値は変わらないのか。
高回転スピンが当たり前になり、トリックの難度が上がり続けるなかでも、ギギ・ラフはグラブにこだわり続けてきた。少年時代から変わらないこだわりを通して、フリースタイルスノーボーディングにおけるグラブの普遍的価値をひも解く。
※以下、2019年に綴った言葉をそのまま掲載
EPISODE 3
フリースタイルスノーボーディングの普遍的価値
より自分らしい表現を求めて、ギギは2012年に自身でボードブランドを起ち上げた。ご存知、SLASHだ。彼の現在の肩書きはプロスノーボーダー兼ボードシェイパーである。
「過去にBURTONでSEVENやUNINCのボード開発に携わっていたし、VOLCOMのボード作りにも深く関わってきた。だけど、もっと自分自身を発信できるボードを作りたいと、ずっと考えていたんだ。僕にとってSLASHとは自己表現のひとつでもあるのさ」
ブランドのスタート直後、彼はこのように語っていた。その後のギギは公言どおり、それまで以上にイマジネーションにあふれた滑りを、バックカントリー、ストリート、ゲレンデとロケーションを問わず披露し、そして発信してきた。
「目の前のバーンに対して、頭のなかで理想のランを組み立てたら、あとはマジシャンのように誰もが驚くようなライディングをする。それこそがフリースタイルスノーボーディングなんだ。ほかの人には考えつかない遊びを自分ができるとうれしいし、スノーボードの魅力のひとつはラインを共有できることにあると思う。いろいろと計算しながらスノーボードを楽しんでいても、ほかのスノーボーダーから想像もつかないようなスタイルやラインを見せられると驚くよね? そういった予想できないサプライズが面白いんだ」
自らを自由に表現する。だが、そのためには圧倒的なスキルや経験が欠かせないし、ギギと同郷の精神分析学者であるジークムント・フロイトが残した名言にもあるように“自由には責任がともなうもの”だ。攻めるも攻めないも自由だし、妥協するもしないも自由。だが、ギギの輝かしいキャリアを振り返れば、これまで中途半端なことを一切してこなかったのは容易に理解できるだろう。
「きっと僕がここまでスノーボードを追求してきた理由は、その土地を感じることへの興奮や山で過ごす楽しい時間、そしてスリルにあると思うんだ。僕は山で見つけ出したポイントで、自分が考え出したイメージを具現化するという挑戦に熱意や喜びを感じる。いや、別に挑戦してるってわけじゃないかな。そこで起こるであろう出来事に前もって準備をしておきたいと思ってるだけかも。自分が追い求めてる“何か”に制限はしたくない。つまり、与えられた状況に適応していく感じかな」
あらゆる状況に自身をアジャストさせながら、そこにギギらしいスタイルやアクションを組み込むことを忘れてはいない。
「もちろん、自分がやりたいと思うことは細部にまで気を遣っているよ。トリックをするときは自分なりの特別なやり方があって、それらはすべて身体のポジショニングから来ていると思うんだ。グラブに関して言えば、腕を上げたりしてバランスを保つように心掛けているよ。自然の地形でのジャンプは、いくつもの難関が待ち受けている。ゆっくりとしたテイクオフを強いられるとか、そういった難関を克服することで、バランスが保たれたジャンプができるんだよね」
ポジショニング、バランスといった言葉がギギの口から飛び出したので、改めて聞いておきたいことがあった。ライディングとフィジカルの関係性だ。彼を目の前にした人は誰もがこう思うだろう。この細い身体のどこに、あのアグレッシブな滑りを可能にするパワーが秘められているのだろうか、と。
「僕のスタイルには軽快って言葉がフィットすると思うんだけど、それは僕がパワフルじゃないってこと(苦笑)。だけど、僕の身体は少しルーズな感じで、しなやかさもある。だからこそ正確に飛べると思っているんだ。あと、よく腕が鳥の羽根のように羽ばたいているようになるんだよね」
身体の軽さとしなやかさを活かし、そこに経験とスキルがプラスされたライディングで魅せる鳥人ギギは、昨シーズンに撮影された『KAMIKAZU』では自身初となる岐阜の山々を自由に駆け巡った。同作品で國母和宏と布施忠とのセッションがあったように、これまでのフィルミング活動を通して世界中のライダーたちと共演してきた。そして、多くの映像作品を観てきた彼にとって、今、気になるライダーのスタイルとは?
「僕はニコラス・ミューラーが好きなんだ。彼はグラブで有名になったからね。でも、僕が注目しているのはニコラスのグラブスタイルではなくて、ハードなライディングスタイルさ。グラブに絞って言えば、ダニー・デイビスのスタイルが好きだよ。彼がパイプで繰り出すスイッチメソッドは、とても高度な技術があるからこそ可能なこと。スイッチでもレギュラーと同じようなエアを決めれば高評価をもらえると思うし、グラブは難しくなればなるほどカッコよくなるからね」
少年時代からグラブに特別な想いを抱き、そして追求してきたギギ。その長いプロスノーボーダーとしてのキャリアのなかで、グラブの存在意義は変化したのだろうか。
「グラブの魅力っていうのは、アウトドアで感じるような自然の中にある静けさを表現することだと思うんだ。派手なスピンに比べたら、グラブは地味な存在だと思う。もちろん、高難度なスピンは大会で勝つために必要な要素だけど、それとは真逆に位置するグラブっていうのは、もっとスタイルにこだわるべきトリックなんだ。また、グラブとはトリックをスタイリッシュにアレンジするためにあるとも思ってる。さらに言えば、スピンのローテーションをスローにさせる役割もあったりするしね。だから、スピンの回転数ばかりに固執するんじゃなくてスタイリッシュなエアを決めたいなら、やっぱりグラブはやらなきゃ」
昨今のコンテストシーンでは、1620や1800、さらにはトリプルコークやクワッドコークなど、スピントリックの回転数や回転軸の増加が過激化している。スタイルよりも難易度が重視される傾向にあるが、そのなかでもグラブは重要だとギギは語る。
「高回転スピンでグラブするのは理にかなってるよ。安定性と安全性が大幅に増すからね。ただ、そのローテーション中に身体をひねるトゥイークの動きをするとケガの確率は上がると思うよ。どうしても、スピンとは反対方向への身体の動きが増えてしまうからさ。でも、そのトゥイークを活かせる場合もあったんだ。これは僕のフロントサイド1080での成功例だけど、720までは頑張ってスピンを先行させ続けて、その後はタックニーでタメを作るように身体をひねる。そうすれば、そのトゥイークさせた身体を解放することで、残りの360の回転は意外とイージーにできてしまうんだ。そう、タックニーやジャパンをすると同じスピンでも魔法のようなトリックに変わることもあるってことさ」
ギギが言うように、ジャンプを安定させたりスタイルアップさせるグラブだが、彼はノーグラブのフロントサイド540で雑誌の表紙を飾ったこともある。
「もちろんノーグラブも気持ちいいよね。昔、スケートボードをしている誰かが僕にこう質問したんだ。“バインディングがあるのにどうしてグラブをするんだ?”って。彼はスケートボーダーだからエア中にグラブをしなければボードはどこかへいってしまう。でも、スノーボードは足が板に固定されているわけだから、その質問はとても興味深かったよ。彼の質問はずっと頭の中に残っていて、グラブをしなくてもバランスがとれるように足腰を鍛えてみたんだ。そして、初めてマウントフッドでノーグラブスタイルを決めたりもしたよ。だけど、僕にとってスノーボードにおけるグラブっていうのは、バランスを作り出すのに必要不可欠なものでもあるんだ」
ノーグラブでもスタイリッシュに宙を舞うギギだが、ここまで語ってくれたように彼はグラブに対して強いこだわりを持っている。それは昔、熱心に魅入ったBURTONのカタログに載っていたグラブの印象が根底にあるからだろう。そして彼にとって、スノーボードをスタートしたときからグラブは絶対的にカッコいい存在なのだ。その価値観はこれからも変わることはない。
「僕がもっとも気に入っているグラブの写真かい? それはママが撮ってくれたテールグラブの写真だね。今はフレームに入れて実家に飾ってあるよ。あと、初めてボードのスポンサーがついたときにママが撮ってくれた、パンツにキーチェーンがついたメソッドの写真もあるけどね(笑)」
少年時代の感動を胸に抱きながら、レジェンドと称される今もギギは明日を目指して突き進んでいる。
text: Daisuke Nogami(Editor in Chief)
translation: Yoshifumi Nomura
CONTENTS
▶CHAPTER 1 グラブの起源をたどり、グラブの美しさを知る。
▶CHAPTER 2 自称“トゥイーカー”、ギギ・ラフがスタイリッシュな理由。 EPISODE 1 スタイルの礎となる基礎力
▶CHAPTER 2 自称“トゥイーカー”、ギギ・ラフがスタイリッシュな理由。 EPISODE 2 “トゥイーカー”としての表現方法
▶CHAPTER 2 自称“トゥイーカー”、ギギ・ラフがスタイリッシュな理由。 EPISODE 3 フリースタイルスノーボーディングの普遍的価値
▷CHAPTER 3 ダニー・デイビスのグラブは、なぜカッコいいのか。 SECTION 1 大会と撮影を両立させる二刀流ライダーの表現力
▷CHAPTER 3 ダニー・デイビスのグラブは、なぜカッコいいのか。 SECTION 2 ダニー・デイビスが選んだ 好きなグラブランキング・トップ 5
▷CHAPTER 3 ダニー・デイビスのグラブは、なぜカッコいいのか。 SECTION 3 ダニー・デイビスを直撃 オレとグラブ
▷CHAPTER 4 フリーライディングが面白くなる、グラブ談義。
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BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE
ISSUE 8 「THE GRAB ──自分らしく、カッコよく──」
スピンの回転数が増え続けても、変わることのないフリースタイルスノーボーディングの基本であり、永遠のテーマ“グラブ”。その起源や美しさをひも解きながら、空中でボードをつかむことで表現される“自分らしさ”を掘り下げた一冊。世界が認めるスタイリッシュライダーたちのグラブ論をはじめ、バックカントリーで繰り出されたグラブトリックをゲレンデで再現する企画や、シークエンス写真を用いた斬新なハウツーまで収録している。

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