BACKSIDE (バックサイド)

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SPECIAL

世界中の雪山を見てきたレジェンドがルスツを選ぶ理由〈前編〉「サイドカントリー天国だから」【FREERIDE PARADISE Vol.3】

2024.02.08

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90年代初頭、日本のフリースタイルシーン黎明期とともにキャリアをスタートさせると、その進化を牽引しながらプロスノーボーダーとして歩み続けているウエこと植村能成。ウィスラーやアラスカなど世界中のビッグマウンテンを経験し、大手トップブランドから長きに渡ってサポートを受けながらプロダクトの開発にも携わり、2007年には日本人初のシグネチャームービー『UE snowboarder』を発表。そう、フリースタイルスノーボーディングのすべてを知り尽くしている男だ。

そんなウエは50代に突入した今もなお「上手くなり続けたい」と切に願い、世界中のスノーボーダーがうらやむ北海道の山々でいい雪を求めて車中泊を繰り返しながら、ライディングに明け暮れている。30年以上に渡り滑り込んできた経験をもとに、北海道の中でも道央エリアではルスツリゾートが面白いと教えてくれた。その理由は、多くの仲間たちと一日中遊べるサイドカントリー天国だから。

「スノーボーダーに最適なゲレンデ」

「北海道の中でもトップレベルでスノーボードが楽しめる山ですね。3山あってゲレンデが大きいから、一日中滑っていても面白い」

ルスツはWest Mt.(ウエスト)、East Mt.(イースト)、Mt. Isola(イゾラ)の3山から成るスノーリゾート。37コースを有し、総滑走距離42kmという巨大スケールを誇り、ゴンドラ4基、クワッドリフト7基、ペアリフト7基が架けられている。そのうえで、本当に危険な箇所には立ち入り禁止のロープが張られているものの、以外の多くのツリー内は自己責任エリアとして開放されているのだ。それが、ルスツが“サイドカントリー天国”と呼ばれる所以。

「ルスツのように自由にサイドカントリーに入れるゲレンデは、北海道でもほとんどありません。それでいて、よほど変なところに行かなければコースに戻ることができる。もちろん備えは必要ですけど、ツリーに入っても沢を下りていけばコースに出られる地形が多いので、安心してサイドカントリーを楽しめます。

だからこそ、人気の高いエリアは(パウダーハントの)競争率が高いですけど、雪質がいいからファーストトラックを狙おうと焦らなくても大丈夫。本州の場合、非圧雪のバーンに人が滑ったラインがたくさん入っていると(湿雪だから)滑りづらいですよね。でも、ルスツみたいにドライパウダーだと、ラインが多少入っていても全然気になりません。ニセコのほうは雪質が少しウエットだからまた違う感じだけど、ルスツはそのままスパーンって抜けられるようなイメージですね」

 

トラックが気にならないほどの軽い雪質

 

西高東低の冬型でニセコエリアが荒れているときでも、ルスツは落ち着いていることが多い。なので、ニセコからルスツに遠征するスノーボーダーやスキーヤーも多いそうだ。ニセコとルスツの間には「蝦夷富士」と呼ばれる羊蹄山がそびえているわけだが、その標高1,898mを誇る名峰を越えてやってくる雪は湿気が抜けるため、ニセコよりもドライ。

「札幌国際みたいにバフバフなイメージはありませんが、いいコンディションのときのルスツは別格です。ドカーンと降るのではなく、じっくり積もっていくようなイメージ。そこまで積もっていなくても十分にパウダースノーを楽しめます。スピードも出ますしね」

 

この写真を見ればウエのスピード感が伝わるはずだ

 

本連載のVol.2「サイドカントリー天国を30年以上滑り続ける男が語るルスツ完全攻略法」に登場しているニール・ハートマンは、先出した『UE snowboarder』のディレクターであり、本記事を撮影したフォトグラファーでもある。そのニールの言葉を借りれば、北海道の場合は冷え込むと雪の結晶がソールに刺さってしまいボードが走りづらくなることがあるが、ルスツの場合は標高がそこまで高くなく雪質がややしっとりしているため、パウダーでもグルーミングでもボードがよく走るそうだ。

「そのうえでルスツは地形が豊富ですね。特にイーストゴンドラ(2号線)を降りてすぐのスーパーイーストコースに面している沢は『シュガーボウル』と呼ばれていますけど、斜度もあって開けているからバンクに当てて加速できるところが面白い。一番好きなコースですね。ルスツはこうした沢地形が多いから、その両サイドに当て込んで加速しながら遊べるエリアが多い。加えてマッシュもたくさんあるので、ジャンプも楽しめます。スノーボーダーに最適なゲレンデですね」

 

かなりクイックなテイクオフだったにもかかわらず一発で攻略するあたりは、さすがウエ


「フリースタイルの全体的なスキルが上がる」

2024年1月中旬、本記事の取材のためルスツへ向かうことに。しかし、当日は新千歳空港が猛吹雪だったため、前泊予定だった筆者はまさかの羽田空港に引き返す便に搭乗してしまい、翌朝の始発便への振り替えを余儀なくされてしまった。その影響で撮影日初日の12時前にルスツに到着。急いで準備を済ませると、ウエストからイーストゴンドラ1号線に乗車し、イーストゴンドラ2号線に乗り換えてイーストのピークへ。朝イチから撮影を行ってくれている取材クルーとの待ち合わせ場所は、イゾラベースステーションカフェテリア「イゾラ2000」。ヒザが悪い筆者にとって、ギタギタに喰い荒らされたスーパーイーストコースはハードだったが、フリコ沢コースに点在するナチュラルヒットで遊びながらルスツの極上スノーを堪能。笑顔がこぼれたまま、ランチ休憩中のウエと合流できた。

イゾラ2000には、北海道の定番メニューがずらり。具だくさんスープカレーやアツアツなバターコ―ンラーメンなどがラインナップされている。また、海鮮メニューも豊富。下の写真で紹介しているホタテ丼以外にも、サーモン丼やポキ丼、素材にこだわった寿司ドーナツがあり、注文するのに悩ましかった。
 

 

チキンステーキカレー(上: 1,500円)とホタテ丼(下: 1,700円)。ほかにも、ルスツ高原の豚丼やラーメン、寿司なども取り揃えている

 

ルスツは前日比でプラス10cmほどの積雪ということだった。降雪量としては大当たりとはいかなかったが、青空が顔をのぞかせている。世界中の降雪予報を配信している情報サイト「Snow-Forecast」で、今年1月に発表されたルスツの天候を振り返ってみると、一部曇りを含めて晴れた日は7日間しかない。言い換えれば、それだけ雪が“降っている”ということだ。ルスツのSNSによると、1月の積雪量は195cm、総降雪量は764cmだった。

「羊蹄山や洞爺湖が臨めるほど天気に恵まれ、素晴らしいトリップでしたね。白樺に樹氷のように雪がついて空が真っ青に抜ける感じは、ルスツにしかありません」

 

まさしく“THE DAY”。斜面が写っていないのに、この写真を見ているだけで滑りたくなる

 

さらに、「そこまで降っていなくても、ルスツの場合は3山あるからいろいろなコンディションを楽しめるし、どこかしらにいいところが必ずあります」とウエは語る。本記事に掲載している彼のライディング写真を見れば、その言葉が自ずと理解できるはずだ。

「リフトに乗りながらどこがよさそうか、常に見ています。多くのゲレンデは斜面の方角がだいたい同じことが多いですけど、ルスツの場合はウエスト、イースト、イゾラとそれぞれ斜面の方角が違うから、雪のコンディションを選べるゲレンデですね。この撮影のときは気温が高めでしたけど、陽が当たらない北斜面を選べば十分に遊べました」

 

流れるようなバックサイドターンを刻むウエ

 

筆者が合流してからはイゾラを中心に滑った。僭越ながらウエの後ろを滑らせてもらったのだが、常に地形を見極めてボードを加速させながら、ヒットポイントがあればトリックを仕掛ける。等身大のフィールドでの遊び心あふれる滑らかなライディングスタイルは、刺激が強すぎた。あんなふうに滑ってみたい、と。

「いろいろな山を滑ってきましたけど、大きな山を滑るようになってからはなおさら、ルスツのように細かい地形がたくさんあって、いろいろな遊び方ができる山が好きですね。その中でもイゾラは地形が面白い。(コースの)長さもあるうえに遊べる地形も豊富。ルスツにはすべてがそろっています。パウダーはもちろん、飛ぶところもあるし、バンクのように当て込めるポイントもあれば、いろいろな地形がそろっている。フリースタイルにいろいろな楽しみ方ができる山ですね。本当に一日中遊べます」

 

バンクにヒールサイドで当て込んでからトウサイドに切り替えた瞬間

 

この撮影日、イゾラからイーストに戻ったのは15時を過ぎていたのだが、確かにパウダースノーが多く残っていた。ウエが言うように一日中遊べるうえに、気温が高かった日にもかかわらず、筆者の滑りでさえもスプレーが高々と舞い上がる。イーストの麓に新しく誕生した「ローンパインカフェ」でコーヒーブレイクしながら、撮影クルーからそう言ってもらえた。

「ルスツを滑っていれば、フリースタイルの全体的なスキルが上がると思います」


「ひさしぶりに“面白いなぁ!”って」

本トリップは、プロスノーボーダーとして活動を続けているウエにとって“リフレッシュ”を求めた旅でもある。詳細は後編にゆずるが、ウエはプロスノーボーダーになる以前の高校時代、音楽に目覚めると同時期にバイクにまたがるようになり、街や峠を疾走していた。現在も「クルマの運転が好き」と言い切る。

「運転もそうなんですが、出演していた『CAR DANCHI(車団地)』も含めてクルマで寝泊まりするのも好きなんです。いい雪山を求めて、好きなところで好きなタイミングで寝れるし、クルマで移動することがまったく苦になりません。街中を走るのはイヤですが、雪山へ向かう田舎道だったら5、6時間走っても全然平気」

 

ウエが運転するこのときの様子はルスツのInstagramでチェックできる。助手席に乗るのはニール

 

そんなウエがリフレッシュのひとつ目に選んだのが、雪上ドリフト。夏季はリバーウッドゴルフコースの駐車場として使用している広い敷地に、雪上ドリフトの専用コースを用意している。スペシャルコースを選択し、ポルシェ・ボクスターでドリフトに興じるウエ。彼のことを知る人はよくわかると思うが、ナチュラルでありながら非常にクールな男。20年近くウエのことを知っているが、このときがもっとも笑顔がこぼれた瞬間のように感じた。

 

ウエさん、もしかしてスノーボードより好き?(笑)

 

「ラリーを観るのも好きだし、それこそ昔は速いスポーツカーが好きで(日産)スカイラインGT-Rに乗っていました。ドリフトはやっていなかったけど、峠を走っていましたね。今回、ひさしぶりに“面白いなぁ!”って感じました。エンジン音も好きだし、それで思わず笑顔がにじみ出ちゃったんでしょうね(笑)」

スペシャルコースは運転技術のレクチャーを交えて、150分かけて雪上走行のレベルアップを目指す特別編となっており、おひとり様80,500円。助手席体験コースは16,500円、ドリフトチャレンジコースは38,500円(各1名料金)などのコースが用意されており、2月下旬までの営業となる。詳しくはこちらのホームページをご覧いただきたい。

ドリフト体験を終えたウエは、宿泊しているルスツリゾートホテル&コンベンションのウェルネスルーム・スイートに戻っていった。

後編に続く

text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photos: Neil HartmannJimmie Okayama

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