BACKSIDE (バックサイド)

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SPECIAL

世界中の雪山を見てきたレジェンドがルスツを選ぶ理由〈後編〉「ウェルネス天国だから」【FREERIDE PARADISE Vol.4】

2024.02.19

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90年代初頭、日本のフリースタイルシーン黎明期とともにキャリアをスタートさせると、その進化を牽引しながらプロスノーボーダーとして歩み続けているウエこと植村能成。ウィスラーやアラスカなど世界中のビッグマウンテンを経験し、大手トップブランドから長きに渡ってサポートを受けながらプロダクトの開発にも携わり、2007年には日本人初のシグネチャームービー『UE snowboarder』を発表。そう、フリースタイルスノーボーディングのすべてを知り尽くしている男だ。

札幌在住のウエがルスツリゾートで滑る場合、片道1時間程度なのだから当然、日帰り。しかし、本記事の前編後半で触れているように、本トリップは“リフレッシュ”を求めた旅でもある。50代に突入した今もなお「上手くなり続けたい」と願うウエは、よりよいスノーボードライフを追求している。そのウエが、あえてルスツに宿泊する理由。それは、ウェルネス天国だから。

「最高級の状態を身体で覚えておきたい」

冒頭で述べたように、20年近くに渡って大手トップブランドのライダーして契約していたウエは、世界中の雪山へ赴くべくトリップを繰り返してきた。一期一会の斜面を求めて秘境を旅したこともあれば、イベントのゲストとして招かれ高級ホテルに滞在することもあった。
 
「ここまでウェルネスに特化したホテルに泊まった経験はありません。バレルサウナがあったりブランコのようなベンチがあったりと、部屋にいるのにアウトドアな体験ができる。とても癒やされました。普段はいい雪を求めて車中泊をすることも多いので、朝起きたら身体は冷えているし、ギアも冷たい状況が多い。だからこそ、こうした最高級の状態を身体で覚えておきたいんです。毎日できる経験ではありませんが、絶対に気持ちよく滑れるし、メンタルもととのえられるから」

 

部屋の中で本格バレルサウナが楽しめる

 
 

水風呂に浸かりながら明日のライディングをイメージするウエ

 
 

サウナと水風呂、そして休憩を繰り返すことで心身ともに“ととのう”

 

僭越ながら筆者もウェルネスルーム・スイートに泊まらせていただいたのだが、緑の木々に囲まれたグランピングを思わせる佇まいのツインルームは最高すぎた。アウトドアシーンで人気のバレルサウナは、高音質なスピーカーで好きな音楽を聴くことができ、HARVIA社製のストーブでロウリュも思いのままに楽しめる。焚き火をイメージした暖炉の傍らには、横に寝そべることができるほど大きな丸いソファと、ブランコを模した木製のイスがあり、まさにアウトドアを体感しながらウェルネスを堪能できるのだ。

 

66㎡を誇るウェルネスルーム・スイートでリラックスするウエ

 

「サウナでリラックスできて、こんないいベッドで寝させてもらったから、いつもの状況で滑ったときとどう違ったかを比較できるわけではないけど、間違いなくよかったですね。この感覚を大事にしたい」
 

本トリップ中のライディングはどうだったか?という質問に対するウエの答えだ。その秘密としては、ベッドには体圧分散に優れたコアラマットレスが採用されており、快適な眠りをサポートしてくれるから。それが前編で残してくれたパウダーショットの数々であり、本記事でお届けするグルーミングバーンでのシューティングもそうだ。前日の夕方前までパウダーハントを行い、その夜に雪が降ることはなかったため、2日目は朝イチからグルーミングバーンを狙うことにした。
 
「ルスツはグルーミングがキレイ。そのうえで、ちょうどいい斜度のスロープが多いですね。スノーボードに適した斜度なんだと思います。特にイゾラの斜面がいい。スピードが出すぎることなく、ずーっと気持ちよくカービングターンでつないでいけるイメージです。それでいて(斜面が)ワイドだから、みんなでセッションを楽しめます」

 

広大な斜面にトラックを刻むウエ

 

撮影に同行しながら、ルスツの雪質とウネるような斜面に酔いしれていた。本州以南とは比較にならないドライスノーを彫るエッジングは至福の極みであり、米コロラド州ベイルで体感したような起伏に富んだグルーミングバーンがスリリングで面白い。次章で詳しく掘り下げる。


「スノーボードで楽しめる要素がルスツには全部ある」

「スノーボードに適したバンクや地形がたくさんあるので、パウダーがなくてもコース内でカービングターンを刻んでいるだけで十分楽しめますね。パークもキレイだし」

 

青空のもとウエのバックサイドターンがより“映える”

 

この2日間、ウエの後ろを滑らせてもらったが、とにかくゲレンデ全体を利用して遊びまくっていた。51歳という年齢など関係ない。サイドヒットに当て込むことはもちろん、飛べるポイントがあればオーリーを仕掛け、コース内の起伏を活かしてバタートリックに興ずるなど、ウエの滑りにはフリースタイルスノーボーディングのすべてが表現されていた。
 
「ちょっとオーリーしたら飛べるようなノールの地形があったり、コース自体がウネウネしているので、いろいろと遊べるポイントが多く点在しています。しかも、いいところにリフトが架かっているので、効率よく遊べる。これまで30年以上に渡って、ジャンプやジブトリックも含めて(フリースタイルスノーボーディングの)ひととおりやってきました。それらが(ルスツには)全部詰まっていて、そうした遊び方ができるヒットポイントがゲレンデ内にある。こういう山はなかなかないですね」

 

一瞬の隙もなく常に遊び心あふれるライディングスタイル

 

さらにウエはこう続ける。
 
「グルーミングされたコース内でも地形が見えてくるんです。薄っすらとウネっているポイントを緩いバンクのように見立ててみると、気持ちよく滑れるラインを見つけることができます。エッジングでグーっと引っ張っていけるようなポイントをゲレンデ内で探しながら、あそこだったらバックサイドターンがやりやすそうだなっていう感じで、そこの面に合わせながら滑っていますね。そうした面にフィットしてスムースにラインを描けたときの気持ちよさは格別。ルスツのグルーミングバーンでは、それが味わえます。その延長線上にサイドカントリーの地形があるようにイメージして滑ることができれば、フリーライディングがより面白くなりますね」

 

グルーミングバーンの起伏にアジャストさせているからこそ巻き上がるこのスプレー

 

本連載の第2弾、「サイドカントリー天国を30年以上滑り続ける男が語るルスツ完全攻略法【FREERIDE PARADISE Vol.2】」で、本記事を撮影したフォトグラファーのニール・ハートマンが語っていた言葉を思い出す。ルスツのコース設計は海外の会社が行っていて、斜面の起伏を3Dマップで起こしてから木を伐採してコースを設定しているのだ。だから、コースの地形がウネウネしていて棚がいっぱいある。斜度があるところから少しフラット気味になるとノールが出てきて、また斜度がキツくなり……といったような地形がずっと続いているのだ。だから、ルスツのグルーミングバーンは面白い。
 
そんなことを思い出しながら、縦横無尽にゲレンデを駆るウエの姿を観ていると、スノーボードの自由さやクールさを改めて感じさせられた。

 

美しすぎるヒールサイドのビッテリーターンを刻むウエ

 

「スノーボードで楽しめる要素がルスツには全部ある感じですね」


「ウェルネスづくしのトリップはプロスノーボーダーとしてプラスに」

ルスツが提案するウェルネスは部屋だけにとどまらない。それを食でも堪能するべく、ライディングの疲れをサウナでととのえたあとは、カウンター8席のみで予約制の「寿司割烹 雪花亭」に足を運んだ。

 

ルスツリゾートホテルのノースウイング3Fに位置する「寿司割烹 雪花亭

 

メニューは、厳選された食材のみで作られるおまかせコースのみ。コースのテーマは「ギルトフリー(罪悪感のない食事)」だ。白砂糖やみりん、小麦粉は一切使わずに、甘味にはブルーアガベシロップを使用。GI値と呼ばれる血糖値の急上昇を抑える食事のスタイルとなっている。そのほかにもスーパーフードでチアシードやスピルリナを採用するなど、身体の内側からととのえることを意識した料理たち。とにかくウェルネス仕立てだ。
 
「シャリが変わっていて新鮮でした。すべて本当に美味しかった。罪悪感なく完食できました(笑)」

 

ウエは高級寿司店のカウンターがよく似合う

 

黒と青の2色のシャリが使われている点が、雪花亭が誇る寿司の特徴。黒は竹炭によるものだ。竹炭は腸にたまった老廃物や水銀などの有害ミネラルを吸収し、体外に排出する作用があるため、デトックス効果に優れている。青は最古の植物ともいわれる藍藻類の一種であるスピルリナ。スピルリナにはオメガ3脂肪酸やカロテン、ビタミンB12が含まれているのだが、ビタミンB12は体内で生成することが難しい貴重な成分。そうした栄養素を罪悪感なく、しかも美味しく摂取できるのだ。

 

黒と青の2色のシャリを説明してくれるスタッフは『CAR DANCHI』の大ファンだった

 
 

目の前で仕上げられる匠の技

 

「あと、肉はめちゃくちゃ美味しかったですね。モナカみたいなデザートも絶品でした」
 
十勝ハーブ牛の炭火焼が、ウエの舌をうならせていた。つけあわせには、540日間長期熟成させた“奇跡のじゃがいも”と呼ばれている倶知安じゃが。デザートは十勝産の小豆を米麹で発酵させた餡の入ったモナカだ。砂糖やシロップは使わずに発酵のみで甘さを出している。北海道産ハスカップのジェラートはグルテンフリーの方でも召し上がれる。
 
「普段はバックカントリーを中心にストイックに撮影活動を行っていますが、今回のルスツトリップはリラックスした状態で2日間を過ごし、心身ともにリフレッシュできました。普段は宿泊しませんが、ホテルに泊まっている外国人たちも修学旅行生たちもみんな楽しんでいて、彼らからもいいバイブスをもらいました。普段は顔なじみのメンバーと人がいないバックカントリーにばかり行っているから、撮影クルーとのコミュニケーションも含めて、とても刺激的でしたね。今回のウェルネスづくしのトリップはプロスノーボーダーとしてプラスになりました」

 

 

こうしてウエは、再び人里離れたバックカントリーへ戻っていった。スタイリッシュなウエのライディングはきっと、より研ぎ澄まされているはずだ。

おわり

text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photos: Neil HartmannJimmie Okayama

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