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50歳の安藤健次が語るRIDE初の日本人シグネチャーボード「ANDY × DAYZE WARPIG」誕生秘話
2023.10.20
ANDY × DAYZE WARPIG誕生の背景
ANDY × DAYZE WARPIG誕生の背景
「RIDEに入って10年。オレも50歳になるタイミング。ずっと若い頃からアメリカ製のボードを出してみたいと思っていたオレには、最高のプレゼントだった。めちゃくちゃうれしいよ」
23-24モデルで8代目となるWARPIG。普段乗っているボードよりも6〜10cmほど短く乗ることがメーカーから推奨されている、いわゆるショートファットボードであるこのモデルは、2016年のリリース当時からアンディのお気に入りだ。
「最初WARPIGが送られてきたときは、こんな短いボード、誰が乗るか!と思って、2ヶ月くらい段ボールから出さなかったんです。とはいえ、新しいモデルだからテストはしなければいけないということで、試しにボウル系のイベントで乗ってみたら、めちゃくちゃ面白くて。圧雪された斜面ならエッジは食いつくし、パウダーでもショートなのに浮くし速いし、とにかく面白すぎて、絶対お客さんやほかのライダーたちに知らせて、この画期的なボードを広めたいと思いましたね。既存のスノーボードとは違う、まったく新しい乗り物に出会ったかのようでした」
WARPIGという特別なボードは初代からアンディの心を鷲掴みにしていたわけだ。RIDEのグローバルブランドディレクターを務めるジム・リンバーグ氏によると、WARPIGはユニークなシェイプがゆえに最初の数年間はライダーたちを戸惑わせていたようだ。しかし、RIDEにとっても挑戦的だったこのボードが秘めていた可能性は、アンディのライディングによって引き出されることになった。
「RIDEは日本のスノーボードカルチャーをリスペクトしています。なので意欲的に、日本のカルチャーに対する感謝を形にできるようなプロジェクトを考えていました。RIDE JAPANは素晴らしいチームであり、アンディはそのチームを率いる家長であると捉えています。彼は我々にとってもレジェンドなんです。アンディがこれまでRIDEに貢献してくれたことを考えると、彼と彼が紹介してくれたDAYZEと一緒に、このシグネチャーモデルを作ることは非常に理にかなっていました。また、アンディはWARPIGを初代から愛用し続けており、そのユニークな特性を最大限に引き出しているライダーでもあります。このボードはアンディと我々が過ごした時間から生まれたものであり、彼のこれまでのブランドへの貢献を讃えるものなんです」
RIDEは昨シーズンで30周年を迎えたわけだが、日本人のシグネチャーモデルがラインナップされたのは初めてのことである。これまでアンディが同ブランドに吹き込んできたサムライ魂が形を成したボード。それこそがこの「ANDY × DAYZE WARPIG」なのだ。50歳にしてシグネチャーボードを出した彼の活躍を見ると、年齢はただの数字でしかないと改めて勇気づけられる。
「RIDEとの出会いは39歳のとき。当時も、普通39歳でグローバルブランドのオファーが来るか?と思ったけど、まあもうちょいやるで(笑)。楽しいからね」
アンディと良輔のセッションによって生まれたボードデザイン
アンディと良輔のセッションによって生まれたボードデザイン
「前から良輔の描くアートはすごくいいなと思っていて。シグネチャーを出すことが決まって、オレの板に載せる画を描いてほしいってオファーしたんです」
ANDY × DAYZE WARPIGのボードデザインを手掛けたのは、プロスノーボーダーの堀井優作を兄に持つ、DAYZEの名でアーティストとして活動している堀井良輔。トップシートの中央には良輔がアンディのために描き下ろしたアートワークが配置されている。
「アンディさんとこういう形でご一緒するのは初めてのことだったんですが、特別なときに声をかけていただいて、すごくうれしかったですね。僕もアンディさんも、好きなことができるフィールドを求めて関西から北海道へ移り住んでいるので、このアートは北海道の地で仕上げたいなと思っていました。シーズンが始まってから声をかけていただいたこともあり、制作期間も実際に雪の上にいる時間が長かったので、いろいろインスピレーションが湧き上がってきて。自由にやらせてもらったし、それをアートにしっかり落とし込めたと思います。僕が思うアンディさんのイメージに自分の気持ちを乗せながら、アートワークにしました」
スノーボードはもちろん、スケートボードやBMX、フライフィッシングなどを生活に組み込み、北海道というフィールドを遊び尽くすアンディのライフスタイルを、良輔のアーティストとしての感性が嗅ぎとった。結果、生み落とされたアートワークとそのボードデザインは、前述のジムのお眼鏡にも適ったようだ。
「アーティストとしての活動に真摯に向き合っているDAYZEが生み出すアートは、我々のお気に入りでもあります。ユニークかつクールな彼らと、今回アンディのボードを通してコラボすることができ、非常にうれしく思っています。彼らにグラフィックを一任した結果、角ばったシェイプをしておりなかなか親しみづらいWARPIGの雰囲気を和らげ、これまでにない印象のボードになりました。北米でもこのグラフィックは人気で、過去一番だと言ってくれているショップもあるほどです」
海外でも大人気のデザインが生まれた背景には、ボードに載せるアートワークはもちろん、トップシートやソールのデザインまで良輔に任せたアンディの采配がある。
「良輔には、良輔が感じたオレを上手くアートにしてほしい、とだけ伝えました。アートワークに関しては良輔の好きなように描いてほしかったんです。出来上がったモノがきっと彼にとってベストなモノであるし、そういう良輔のアートが好きで、信用してオレが頼んでいるわけだから、横から口出しもしたくなかったし。オレと良輔と、(RIDE)JAPANとUSとが協力してみんなで作った板で、本当にオレのシグネチャーモデルって感じ。カッコいいのができたと思います。世界の誰かがこれに乗ってくれるんだから、こんなライダー冥利に尽きることはないですね」
どんなテレインでも妥協しないマジックボード
どんなテレインでも妥協しないマジックボード
RIDEの前に在籍していたブランドからもシグネチャーボードをリリースしていたアンディだが、その当時のモデルは細く長く硬いキャンバーボード。SMALL(148cm)でもウエストが26cmと太く、ミディアムフレックスでフラット形状のWARPIGとは似ても似つかない設計である。
「ボードの可能性を試して、どんどん引き出していく感じが楽しい。30年以上スノーボードをやっているけど、オレにとっての最強はこのボードです。短い分もちろん取り回しはいいんですが、雪面によく食いつく。初代の148cmに乗ったときは、ほかのモデルの159cmと同じくらい、もしくはそれ以上の安定感を感じた覚えがあります」
相反する特徴に聞こえる“短さ”と“エッジの食いつき”であるが、これを両立する秘密は、適切にテーパードされた深いサイドカットと、スリムウォールと呼ばれる独自のサイドウォール形状に隠されている。10mmのテーパードに加え、サイドカット半径もノーズに比べてテール側の方が1mほど長い(=テールのほうがより直線的)シェイプ。これにより、比較的太めな形状でも、ターンの始動はスムーズで、後半はストレスなく引っ張ることができる。
またスリムウォールはWARPIGの軽量化に貢献しており、そのうえで高い振動吸収性能を備えている。エッジまわりが薄くなっているので、力が効率的に伝わり、ザクザクと刺さっていくようなエッジングを体感できるのだ。そんな魔法のようなボードではあるが、このボードの特性を引き出すためには、繊細なセッティングが必要だとアンディは語る。
「マジックボードってオレも最初呼んでいましたが、セッティングに関しては実はシビアな板だと思います。トウとヒールへの荷重が感覚的に50:50になるようなセンタリングが大切です。そこに乗れていればめちゃくちゃ動きますが、ハズすと乗りづらくなる。スタンス幅も同じで、どこを滑るときでも、オレは推奨スタンスで乗るようにしていますね」
どんなフィールドでも楽しみを見つけ出すアンディのように、どんなテレインでもこのボードにまたがれば、楽しいライディングに出会うことができる。“遊びの天才”とも称される彼の生き様が滲み出るボードとともに、雪山の冒険に出掛けてみてはいかがだろうか。
「グローバルに向けてシグネチャーモデルを出すことは、オレの夢のひとつでもあった。50歳にしてその夢は叶ったわけやけど、これは次世代へのメッセージでもあります。コンペティションで表彰台に上がらなくても、イケてるライディングをしてみんなに認められて、メーカーにも評価してもらえれば、『よし、君のボードを出そう』ってなるかもしれない。自分のシグネチャーモデルを出すっていうことも、スノーボードを楽しむうえでのひとつの目標になるんじゃないでしょうか」