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FEATURE
藤森由香が夫婦旅で体感した「野沢温泉」の奥深さ【前編: 衝撃のゲレンデパウダー】
2023.02.20
全国で最多のゲレンデを有する長野の中でも、来シーズンで100周年を迎える野沢温泉はスキーヤーの聖地であり、数多くのオリンピアンを輩出してきたことで有名だ。近年は、豊富なパウダースノーを有する野沢だけに、フリーライディングを愛するスノーボーダーを中心に人気を博している。コロナ禍以前からJAPOW(JAPANとPOWDER SNOWを掛け合わせた造語: ジャパウ)を求めて多くの外国人が訪れる村でもあった。
そこで、野沢の魅力を探るためのトリップを計画することに。先述した理由から、長野の雪山を知りたいと願うオリンピアンのゆっちをアサインした。さらに、オリンピックをはじめ、FIS(国際スキー・スノーボード連盟)世界選手権やワールドカップのMCを務めている、ゆっちの夫であるイギリス人のヘンリー・ジャクソンにも同行してもらうことにした。
多忙な彼女たちのスケジュールの合間を縫って実現した、2泊3日のショートトリップ。野沢の奥深さを紐解いていく。
“スキーヤーの聖地”を巡りたかった理由
「コロラドで旅行代理店を運営している方が帰国された際に野沢温泉でパーティーがあったので、去年の夏に来ました。その方はスキーをメインに仕事をされているため、パーティーにはたくさんのスキーヤーがいたんです。そのときに泊まらせてもらった宿の方もスキーヤーで、ヘンリーがずっと滑っているオーストリアのヒンタートゥクスやマイヤーホーフェンに行っていたみたいで。オーストリアもスキーの文化がすごく強いんですよ。その方とヘンリーが意気投合したり、ほかにもいろいろなスキーヤーの人たちとつながって野沢の魅力を知ったことで、また行きたいよね!って話をヘンリーとちょうどしていたタイミングで今回のトリップの話をもらったんです」
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野沢温泉村のメインストリート「大湯通り」を散策するゆっちとヘンリー
今年1月末、日中から深々と雪が降り続いており、明日のパウダースノーへの期待が高まる中、野沢温泉のメインストリートに位置する「COMPASS VILLAGE」へ向かった。日本フリースキー界を牽引し続けている上野雄大さんが、その魅力を伝えていくために展開するプロショップ「COMPASS HOUSE」の姉妹店であり、スキーだけでなくスノーボードも取り扱っている。バックカントリーのツアーガイドも行っているため、野沢を案内してもらうには間違いないショップだ。COMPASS VILLAGEにはガイドデスクがあるため、申し込み(要予約)にうかがった。
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プロショップでありカフェスタンドでもあるCOMPASS VILLAGEは、フリーライディング系のプロダクトが充実。雰囲気のいい空間で地ビールや温かいドリンクが楽しめる
compasshouse.jp
ヘンリーは街を歩きながら、「独特で伝統的な日本の雰囲気が残る町並みは、見て歩くだけでも楽しめる」と話し始めた。ニセコや白馬がJAPOWを求める外国人から絶大なる人気を博するが、それに次ぐ野沢の人気の秘密が彼の言葉に集約されている。ヘンリーは外湯も体験し、日本の“本物”を味わえたと興奮している様子。一緒に湯に浸かった見ず知らずのおじいさんがものすごくフレンドリーだったそうで、温泉の入り方や“じょんのび(ゆったりした気分)”という方言を教えてもらったと、うれしそうだった。
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大雪が降りしきる中、ヘンリーの目に飛び込んでくる風景はすべてが新鮮だったに違いない
降雪は勢いを増すばかり。明日に備えようと、宿泊先の「やすらぎの宿 白樺」に戻ることに。各部屋は有名スノーリゾートの名が冠されており、ゆっちたちは最大4名が泊まれる「Lofoten」をチョイスしていた。「リビングと寝室が分かれていることがあまりないから、普通に家にいるみたいで快適。本当にゆっくりできました」とはゆっちの談。
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外湯や飲食店が立ち並ぶ野沢温泉村の中心部へのアクセスが抜群。2019年にリノベーションが完了しており、“和”と“洋”が融合されたとても快適な空間だ。本記事の後編で紹介するが、併設されている「七良兵衛珈琲」で豪華コース料理が楽しめる
shirakaba8.com
このお宿、フリースキー界の重鎮である河野兄弟の兄・克幸さんが経営しており、弟の健児さんはスキークロスでワールドカップを転戦していたことから、ゆっちとも交流があるそうだ。多くの名スキーヤーを輩出している野沢温泉ならではなのだろう。そうした宿を拠点として本トリップは始まる。
コース内とは信じがたい巨大スプレーを夫婦共演で巻き上げる
8時半に長坂ゴンドラが動き始めることから、15分ほど前にCOMPASS HOUSEのガイド・竹内大悟さんとゴンドラ乗り場付近で待ち合わせ。降雪後ということと外国人観光客が戻ってきているため平日にもかかわらず、すでに長蛇の列ができていた。
筆者も野沢で滑ったことはあるのだが、まずは長坂ゴンドラに乗車して、まっさきにやまびこエリアを目指すのが常だった。毛無山のピークは1,650mを誇り雪が上質であることはもちろん、自己責任特別エリアとしてツリーエリアが開放されているからだ。
しかし、長坂ゴンドラを降りるとやまびこ第2フォーリフトに乗るのではなく、スカイライン連絡ペアに乗車。尾根を3,500mロングランできるスカイラインコースを目指した。その理由は、外国人とのパウダー争奪戦を避けて最大斜度35°のジャンピングコースを滑るためだった。
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ヘンリーが巻き上げたトリプルオーバーヘッドの特大スプレー
「このトリップでベストなターンができたのは、バックカントリーでもサイドカントリーでもなく、普通のコースだった。そのことにとても驚いているよ」とヘンリーが興奮気味に語ると、「手軽にパウダーを楽しめるように残してくれているので安心して突っ込めたし、バックカントリーかと思うくらいの素晴らしい雪に出会うことができました。めちゃくちゃ楽しかった!」とゆっちも前のめりに話してくれた。
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ディープパウダーにハイオーリーで突っ込み、さらに加速させる
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スピードを制したゆっちが巻き上げる美スプレー
筆者も滑らせてもらったのだが、あれほどまでの浮遊感を得られたのは、30年のスノーボード人生であまり経験がない。それがコース内なのだから、野沢のポテンシャルの高さを痛感させられた瞬間だった。やまびこエリアでツリーランに興じるのもちろん最高だが、ここまで雪が深いと斜度が足りずに、スピードが出せないとのこと。そこまで考慮したうえでの素晴らしいガイディングだった。
リスクを回避して極上のバックカントリーエリアへ
ゲレンデのパウダースノーを堪能した後、竹内さんによる案内のもと、バックカントリーエリアへ足を踏み入れることに。まとまった降雪があったことから、雪崩のリスクを回避できるポイントを的確に選んでくれた。
「知らない山に行くのは怖いですけど、今回はガイドの方に安心してついていけました。安心できたからこそ、めちゃくちゃ楽しめましたね」と、競技の一線から退いた後、国内外のバックカントリーで活躍しているゆっちが語る。
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慣れた足どりで歩みを進めるヘンリー&ゆっち
さらに、今回でライディングするのは2回目という野沢温泉についての印象をたずねてみると、「白馬エリアはアルパイン系の山というイメージで、野沢温泉は森の中を滑るイメージ。ツリーの間隔もほどよい感じですね」と教えてくれた。彼女の地元である白樺湖・車山エリアのゲレンデは晴天率が高く、雪質は硬めなのでカービングターンに適しており、同じ長野でも、エリアによって異なる表情を見せる雪山が数多く点在しているわけだ。
まず最初のポイントに到着すると、切り株に雪が降り積もったマッシュが用意されていた。
「私もヘンリーもピローラインとかマッシュでジャンプするのが大好きなんですよ。そういうポイントには山を知っている人と一緒じゃないと絶対に行けないから、そういった意味でもプライスレスでしたね。冒険みたいな感じで楽しめました」
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例年よりも積雪が少なくサイズはそれほどでもなかったが、スタイリッシュなフロントサイドグラブで魅せるゆっち
さらに黙々と歩みを進めていくと、木々が開けた斜面が。15時前後の北斜面だったので陽は当たっていなかったが、雪質極上の面ツルバーンが待ち構えていたのだ。ゆっちとヘンリーはそれぞれラインのイメージを膨らませる。ヘンリーはさらにハイクアップして、ゆっちとは別のラインを選択することにした。
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雪崩のリスクを回避したため斜度は物足りなかったが、鍛え上げられたライディングスキルで斜面を切り裂く
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ヘンリーの優雅すぎるフロントサイドターン
「奥に奥に行くと、オープンバーンが見えてきて。普通に滑りに行ってたら絶対に知ることができなかった場所に案内してくれて、本当に感謝ですね。バックカントリーは危険を伴うけど、竹内さんは10年近く野沢をガイドしている頼れる方だったので、安心して滑ることができました。急なところには行かないほうがいいと、危険を避けて案内してくれたんです。怖いと思うとしっかりとしたパフォーマンスを出さないこともあるし、100%楽しめないですよね。おかげさまで、私はすごく楽しめました」
後編へ続く
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photos: yoshitoyanagida.net