
FEATURE
藤森由香が夫婦旅で体感した「野沢温泉」の奥深さ【後編: 懐が深いビッグマウンテン】
2023.03.07
グルーミングから沢地形まで遊び方は無限大
外国人とのパウダー争奪戦を避けるため、山頂エリアであるやまびこゲレンデに出遅れて向かった一行。ツリー内のパウダーは喰い荒らされていたが、ハジパウはまだ楽しめるコンディションだった。

コース脇でも魅せるヘンリー
「今回はタイミングよくしっかり降ってくれたので、めちゃくちゃいい雪を味わえました。野沢温泉で滑るのは2回目なんですけど、全体的に斜度もほどよくて面白かったですね」とゆっちが感想を述べると、隣にいたヘンリーは、「パウダージャンキーじゃなくても、バリエーション豊富なキレイにグルーミングされたバーンを滑れるのは魅力的だね。ローラーがあるコース(上ノ平ゲレンデ)もすごく面白かったよ」と野沢を高評価。世界中の雪山を滑っているゆっちとヘンリーの言葉だけに、説得力がある。

どこを滑らせても息の合ったライディングを披露してくれたゆっちとヘンリー
いろいろなエリアを滑った中でも、ふたりのテンションがもっとも高かったように感じたのは、野沢名物のスカイラインコースだ。ヘンリーに、このトリップでベストターンだったと言わしめたジャンピングコース(前編参照)に向かう途中に滑ったわけだが、何度もおかわりランをした。朝イチはパウダースノーを狙うため、長坂ゴンドラを降りてすぐにスカイライン連絡ペアを利用して滑ったのだが、やまびこ山頂から一気にスカイラインを滑り下りれば、最長滑走距離4,500mのロングランを楽しむことができる。
「BACKSIDE(SNOWBOARDING)MAGAZINE、当てちゃったね!って感じでしたね(笑)。朝イチは眼下に雲海が広がっていて、いろいろな山々が見えて、息を呑むような美しい景色を見ながら滑ることができました。山の尾根を滑っている感覚は、これまでほかのゲレンデで味わったことがないです」
前半はサイドヒットを楽しみながら滑り下りていくと、途中フラットになるエリアがあるため手前の斜面を直滑降する滑り手が多く、ハイスピードが出ることで有名なスカイラインコース。本記事のトップ画像が、まさにその付近で撮影された写真だ。空いている時間帯を狙って、ヘンリーはアプリを利用して最高速度にこだわっていた。スキーヤーの聖地には多くの猛者がいるわけだが、COMPASS HOUSEのガイド・竹内大悟さんいわく、かなりのハイスピードで滑るスキーヤーもいるんだとか。マネできるはずもないが、周囲の安全を確認することは絶対に忘れずに!

高速域で楽しむだけでなく、ビッテリーターンに興じるふたり
20−21シーズンからリニューアルされた長坂ゴンドラは、日本初の自然換気システム構造によりキャビン内の空気の入れ替えが可能で、全面ガラス張りの10人乗り。高いクッション性のレザーシートを備えており、快適性・静寂性に優れている。山麓からやまびこエリアまで約8分で移動できるので、ビッグマウンテンをスムースかつストレスなくゴンドラで回すことができる。
やまびこエリアはパウダースノーの宝庫でありながら、沢地形も有名だ。本記事の撮影は1月末に行ったのだが、雪が緩み始めるこれからの時期になると、大量の積雪によりなだらかだった地形が露わになり、ナチュラルハーフパイプのように育つやまびこの沢。エアで空中遊泳を楽しむもよし、バンクドスラロームのように壁をターンで切り裂くもよしと、思い思いのラインで楽しめる。

自己責任エリアとして開放されているので、くれぐれもケガには細心の注意を払って楽しもう
ゲレンデ総面積785ha、コース数44、最長滑走距離10kmを誇る野沢のポテンシャルの高さを痛感させられた。
美味しい食事とともに最高の雪を振り返りながら作戦会議
「JAPOW(JAPANとPOWDER SNOWを掛け合わせた造語: ジャパウ)と呼ばれているだけあって、本当に素晴らしい雪だった。今回のトリップの雪質は、ヨーロッパで滑っていたらベストコンディションに値するよ」

パウダーから地形遊びまでを振り返りながら「野沢に乾杯!」
shirakaba8.com/cafe/
ヘンリーは一献傾けながら、野沢の雪について絶賛していた。最高すぎるパウダースノーを満喫し、滞在先である「やすらぎの宿 白樺」に併設されているレストラン「七良兵衛珈琲(しちろへいこーひー)」で夕食を楽しむふたり。その会話はいつしか、季節の食材を使ったこだわりの料理へとシフトしていく。
「私は長野出身だからワラビが大好きなんですよ。この時期にワラビを食べるなんてなかなかできないし、山菜を使った料理をとてもオシャレに見せていて感動しました。前菜からすべてがめちゃくちゃ美味しくて、アイデアが凝縮されたコース料理ですね。いろいろな食材を楽しめています」
スノーボードの会話もそうだが、ゆっちは立て板に水のごとく語ってくれた。それほど七良兵衛珈琲のコース料理はゆっちのハートを射止めたということだ。3月15日(水)までのシーズン中のディナータイムは、予約限定。約7品の料理をそのときの一番の食材、調理法で提供してくれる。前菜からデザートまで5,000円より承っているので、気になって仕方ないという読者諸兄姉は野沢の雪とともに、七良兵衛珈琲のコース料理を堪能してほしい。
「ベジタリアンのオレは、日本を旅していると食事の面で満足できることが少ないんだ。探せばもちろん何かしら食べるものはあるんだけど、ほかの人がスペシャルなご飯を食べているときに、自分だけセカンドクラスの食事になってしまうという感覚があった。でも、ここの食事はベジタリアンの人でも本当に楽しめる。アイディア満載で、とても美味しいよ! 日本でここまで食事を楽しむことができたのは初めてだね」

ビールはもちろん、こだわりのハイボールまで。ワインや日本酒も楽しめる
素敵な食事に舌鼓を打ちながら、明日の計画をすり合わせる。探せばパウダースノーはまだありそうだが、さらなる野沢の魅力を掘り下げるため、視点を変えてみることに。話がまとまると、我が家のように快適な部屋「Lofoten」へとゆっちとヘンリーは戻っていった。
フリースタイルスノーボーディングのすべてが楽しめるビッグマウンテン
豊富なパウダースノーが降り積もるビッグマウンテンとしてフリーライディング愛好家から支持されている野沢が、なぜ全国のゲレンデから影を潜めるハーフパイプを維持し続けているのかが気になっていた。豪雪地帯だからこそ、維持管理のためにコストと時間がかかることは言うまでもない。
そこで最終日は、ヘンリーが好きだという話を聞いたのでハーフパイプでセッションすることにした。スノーボードクロスで3回、スロープスタイル&ビッグエアで1回オリンピックに出場した後、現在はバックカントリーを中心にプロ活動を行っているゆっちのイメージにハーフパイプがまったくなかったことも面白い。そして、野沢の奥深さをより味わうために。
「パイプでハンドプラントやメソッドがめっちゃ上手なんですよ」とゆっちが言うように、いの一番でメソッドエアを決めてきたヘンリー。「なかなかいいシェイプのミニパイプはこの時代に見つけられないけど、オレはトランジションが好きなんだ」と語るように、強風が吹き荒れる中、ハイクアップでパイプセッションが始まった。

ハーフパイプでは喋ることが生業だが、この日のヘンリーはスタイリッシュに宙を舞う
青森や岐阜にあるような、国際大会の規格である高さ22フィート(6.7m)のスーパーパイプは一般スノーボーダーには楽しめないが、3.5mと昔ながらのサイズのミニパイプは、90年代、全国にハーフパイプが点在していた時代を駆け抜けてきた40代のオジサマたちにとって、ヨダレものなのではないか。筆者もそのひとりであり、本トリップではヘンリーに実況してもらいながら滑らせてもらうという贅沢な体験をさせてもらった。
「私はジャンプとレールが好きだからパークばかり滑っているんですけど、実のところ、ずっとパイプをやりたかったんです。難しいから面白いし練習になるので、見つけたらチャレンジする感じでした。最近はパイプで小技をするのにハマっていて、ちょっと前にビッテリーターンを覚えたんです。今回のトリップで、ヘンリーとこういった形でできたのは面白かったですね」

夫婦だからこそ息の合ったコンビネーション
平日にもかかわらず朝の長坂ゴンドラには行列ができていたが、ハーフパイプはリフトで回しながら流す人がちらほら、ハイクアップで楽しんでいる人はふたりほどだった。多くのゲレンデにパークはあるが、減少の一途をたどり続けているハーフパイプが野沢にあることで、フリースタイルスノーボーディングのすべてをカバーしてくれているのだとうことを、改めて思い知らされた。
3日間に渡るトリップで、長きに渡り受け継がれるスキーカルチャーの中に、スノーボーダーたちが少しずつ溶け込んでいっている野沢温泉の奥深さをほんの少しだけ体感することができた。来シーズン100周年を迎えるこの懐が深いビッグマウンテンを、スノーボーダーとしてもっともっと知りたい。
スキーヤーの聖地から、スキーヤーとスノーボーダーの聖地へ。野沢温泉の新たなるステージが始まる。
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photos: yoshitoyanagida.net
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