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戸塚優斗が王者スコッティを破って歴史あるUS OPENハーフパイプで悲願の初優勝
2020.03.01
米コロラド州ベイルマウンテンリゾートで開催されている39回目を迎えた伝統の一戦、BURTON US OPEN。いよいよ最終日を迎え、メインイベントである男子ハーフパイプ・ファイナルが行われた。1988年から続いている同種目は今大会、初となるモディファイド(改造)ハーフパイプを導入し、技術力だけでなく創造性をライダーたちに求める挑戦的なコースが舞台となった。コースについて詳しく知りたいという方は、セミファイナルの記事を参照してほしい。
そんななか、戸塚優斗が強靭なる精神力で逆転劇を演じ、悲願の初優勝を成し遂げたのだ。國母和宏、平岡卓、平野歩夢に続いて、32年の歴史において日本人として4人目の快挙である。
セミファイナルを勝ち抜いた10名のライダーたちがひとり3本のランを行い、それらのベストポイントで順位を決するおなじみのフォーマット。1本目は王者スコッティ・ジェームス(オーストラリア)がミスした状況ではあったが戸塚が92.66ポイントをマークしてトップに立ち、順調な滑り出しに見えた。
しかし、セミファイナルを7位通過していたスイスのヤン・シェラーが、ミニパイプではスイッチ・マックツイストやハーカンフリップ、ミラーフリップを入れ込んで3ヒットすると、スーパーパイプではCABダブルコーク1080インディ→FSダブルコーク1260インディを高さを出して成功させると、ラストヒットは特大のFSアーリーウープ900ノーズという個性的なルーティンを決めて、1本目の戸塚がマークしたポイントを塗り替える95.16というハイスコアを記録。会場は興奮の坩堝と化した。
そして戸塚の2本目。前半のミニパイプではマックツイスト・ジャパン→BSアーリーウープ540ステイルフィッシュと、セミファイナルで繰り出したルーティンからがらっと変わり、よりクリエイティブな滑りを披露し、インディグラブをしながらスーパーパイプにドロップイン。ここから戸塚劇場が始まる。
ファーストヒットでは今やミスすることさえ想像ができない超高難度なFSダブルコーク1440インディを決めると、今季からルーティンに取り入れているこちらも超高難度、CABダブルコーク1260クレイル(スイッチミュート)を完璧にメイク。ここから、スイッチBSダブルコーク1080インディ(スイッチミュート)につなげる超高難度なルーティンを見事成功させたのだ。
このランは見た目もさることながらかなり奥深いので、後半に綴っているインタビューをぜひご一読いただきたい。
これを見たスコッティはプレッシャーを感じたのだろうか。ミニパイプでまさかのミス。3本目はポイントの低い順の出走となるためトップの滑走となった。だが、さすがは勝負師。ミニパイプではミラーフリップからスイッチBS900メロンとつなぎ、オーリー・トゥ・フェイキーでスーパーパイプにドロップインすると、スイッチBSダブルコーク1260インディ→CABダブルコーク1080ミュートに成功。そして、ラストヒットでは自身2度目の成功となるFSダブルコーク1440を縦軸を強めに入れた回転でステイルフィッシュしながらメイク。崖っぷちから決めただけに王者も感極まっていたように映ったが、93ポイントと戸塚とヤンには一歩及ばず。3位に終わった。
そして、9番目の出走となる2位のヤンがミスした瞬間、戸塚の優勝が確定。スタートエリアで仲間たちと喜びを分かち合いながら悲願の初優勝を噛み締め、ウイニングランでは重力に逆らうように天高く宙を舞い、重力に従うようにリップを切り裂いた。
「ウイニングランでは、どうしてもトゥイークを決めたかったんです。昨日の友基くんもやってたじゃないですか。あれでピヨったら終わりだから(笑)、絶対に失敗できないですよね。セミファイナルで点数が伸びなかったので、ファイナルに向けていろいろ考えました。もっとクリエイティブに魅せないといけないと思って、ミニパイプでマック(ツイスト)をやることにしました。優勝したことはもちろんうれしいんですけど、マックを決められたことも同じくらいうれしかったです。その次のアーリー(ウープ)540も普通にミニパイプのトランジションに着地しちゃうと、その後に続いているサイドインできる部分を使ってないと思われたくなかったので、そこに着地を狙っていました。でも、危なかったですね」
映像をもう一度観てほしい。着地した瞬間、その段差で足元がすくわれそうになっているが、あえて難度を上げているということだ。マックツイストの着地直後に谷側へ少しだけラインをずらしているように映るが、そういうことなのかもしれない。
「ヤンに抜かれたときは自分の点数がどうこうというよりも、彼の滑りがヤバすぎだと感じました。あの高さでできませんよ。リスペクトの気持ちでいっぱいでした。出走前にはあの滑りを超えてやる、と思いましたけどね。それで、最後にスイッチBSダブルコーク1080をやることにしたんです。FSダブルコーク1440→CABダブルコーク1260→スイッチBSダブルコーク1080を3連続でつなげたのは初めてです。1本目のときに最後のスイッチBSスピンが外に飛び出しそうな感じがしたのと、あとパイプの長さ的に着地が足りないような気がしたので、いつもよりも切れ上がるようなラインで入って、前足で(バーチカルを)つぶしにいくようなイメージで踏み切りました」
こちらも映像を改めて観てもらえればわかるだろう。ハーフパイプの形状や雪質に合わせるように、普段とは異なるラインどりだからこそ着地でバランスを失いかけたが、「意地でも手はつかないぞって踏ん張りました(笑)」とリカバリー力も世界トップレベルだ。
「ドロップインするときに全体の流れを考えるというよりも、滑りながら一つひとつの技に対して集中しています。初めて3連続でつなげたルーティンも、一連の流れで考えちゃうと(動きが)忙しく感じちゃうので、それぞれバラバラで考えたほうがやることが見えてくるんです」
パイプの長さが足りなかったという言葉があったが、言い換えればそれぞれの超高難度トリックが完璧でないと、この超絶ルーティンは不可能ということだ。滑走ラインが少しでも谷側へ流れてしまったら、3つの技を繰り出すことができないのだから。こうした戸塚の思考があったからこそ、不可能を可能にしたのかもしれない。
「パイプだけを練習していると、スタイルがどうこうというよりも教科書みたいな滑りになっちゃうと思うんです。DEW TOURと今回で複雑な形状をしたモディファイドパイプを滑ってきて、普通のパイプだけじゃなくてスノーボード自体が上手くなってるなっていうのを、自分でも少しは感じることができています。今回のミニパイプみたいに創造力を働かせて滑ることで自分のスタイルも変わっていくと思うし、魅せようって気持ちがもっと出てくると思うんです。そういうクリエイティブな滑りでも魅せられるようなライダーを目指していきたいですね」
技術力だけじゃなく表現力が試された今大会。パイプに限った話ではないが、練習環境なども含めて競技色が強い日本人ライダーが試された大会であったようにも感じた。そんな伝統の一戦のすべての種目で日本人ライダーが表彰台に乗り、真の実力を証明してくれた。
日本スノーボードの未来は明るい。そう断言できる結果を示したBURTON US OPENは、戸塚の初優勝で幕を下ろした。今後の日本人ライダーたちのさらなる活躍を期待しつつ、筆を擱くことにする。
男子スーパーパイプ・ファイナル結果
1位 戸塚優斗(日本)
2位 ヤン・シェラー(スイス)
3位 スコッティ・ジェームス(オーストラリア)
4位 パット・バーグナー(スイス)
5位 ジョーイ・オケソン(アメリカ)
6位 ジェイク・ペイツ(アメリカ)
7位 ダニー・デイビス(アメリカ)
8位 重野秀一郎(日本)
9位 チェイス・ブラックウェル(アメリカ)
10位 ラカイ・テイト(ニュージーランド)
photos: BURTON