BACKSIDE (バックサイド)

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INTERVIEW

後悔しないために自身のスタイルを貫き勝利を手繰り寄せる17歳 長谷川帝勝の思い

2023.06.19

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国際スキー・スノーボード連盟(FIS)主催のワールドカップ(以下W杯)において、22-23シーズンに自身初となる優勝を飾った17歳の長谷川帝勝。世界選手権と合わせて合計3度の優勝、それもスロープスタイルとビッグエアの両方で優勝を収めたことで、「タイガー」のニックネームを世界中に轟かせたのだった。弊ウェブマガジンにおいては2017年、当時11歳の彼から届いたFS、BS、CABの3方向1080を完璧に操っている映像を紹介したところから帝勝の活躍を追っており、2021年には15歳にして世界初のスイッチBS1800をメイクしたこともこちらの記事で紹介した。
若くして世界最高難度のトリックを操るまでに成長した彼を突き動かすのは、「スノーボードの全部を楽しみたい」という純粋な気持ちである。高難度化の一途をたどる現代のスノーボード競技においても、スタイルを貫きながら勝てることを体現する、若き猛虎に迫る。

「練習量だけは負けないように。誰よりも練習して追い越すしかないと思っていました」

──スロープスタイルとビッグエア両種目での優勝、おめでとうございます。「タイガー」のニックネームを轟かせた22-23シーズンとなりました。成長著しいわけですが、その話の前に、どのようにスノーボードと出会ったのか教えてください。

スノーボードを始めたのは3歳か4歳のとき、お父さんに連れて行ってもらったことがキッカケでした。そこからシーズン中は毎週2日、滑るようになったんですけど、しばらくはサッカーもやっていて。小学5年生の夏に立山KINGSでの合宿に参加したんですけど、すごく楽しかったんです。それがキッカケで、その年の冬からはスノーボードに軸をおいて、大会を回り始めるようになりました。

──雪山へのアクセスのよさもさることながら、オフシーズンはジャンプ施設などで練習できる環境が整っている日本だけに、周りに同世代のライバルも多かったと思います。当時から練習で意識していることなどはありましたか?

練習量だけは負けないようにしよう、ということは常に思っていましたね。雪山にはお父さんの仕事の都合で月、火で行っていたので、最初は周りの同じくらいの学年の子たちを知らなくて。小学5年生の冬に大会を回り始めたタイミングで、(荻原)大翔だったり(渡部)陸斗だったりの存在を知ったんです。彼らは自分よりもずっと早く本格的にスノーボードを始めているので、あのふたりに勝つためには誰よりも練習して追いついて追い越すしかない、とずっと思っていました。

──同い年でそれぞれ活躍する荻原大翔や渡部陸斗とは、どのように切磋琢磨してきたのでしょうか。

お互いの滑りを見合って、刺激を受け合っていましたね。最近は海外遠征に行くとけっこうな割合で大翔と同じ部屋なので、ルームメイトみたいな感じです。お互い芯を持って、「これやりたい」「あれ目指したい」って言いながら、楽しく練習や大会に臨んでいます。天気があまりよくなくて風が強い日なんかは、「天気悪いね」「なんでオレらこんな強風の中で飛んでんの?」みたいな感じで(笑)冗談を言い合っています。それぞれいちスノーボーダーとして目指す方向は決まっているので、それに向かって突き進んでいる、っていう感じです。

「自身のスタイルを見せつけて、なおかつ点を取る。この姿勢に切り替わったのが22-23シーズンでした」

──2021年、スイス・サースフェーで開催されていた「THE STOMPING GROUNDS」にて、世界初となる4方向1800をパーフェクトストンプしました。偉業達成の舞台裏について教えてください。

もともとケガはしたくないっていうのもあって、メンタル的に自分をストップさせる癖があったんです。でも、この舞台でストップをかけてしまうのは違う。まずはバックサイドから一本やってみよう、というマインドでトライしました。マネージャーさんもそのときキッカーのデコにいたから相談する人もいなかったんですけど、とにかく一本と思って打ったんです。結果一発で立てて自信もついたので、明日はキャブ、その次はフロント……というふうにトライしていました。最後スイッチバックサイドをメイクしたときは、前日にあったOAKLEY(オークリー)の撮影で仲良くなったセージ(コッツェンバーグ)と滑っていたんですけど、メイクした日の夕方に彼からMONSTER(モンスター)のサンライズセッションにも誘ってもらいました。
 

 
──THE STOMPING GROUNDSへの参加や全方向1800のメイクは、MONSTERのスポンサー獲得を意識してのことだったのでしょうか?

いや、実は全然何も考えていなくて(笑)。もちろん、MONSTERのライダーたちが来るのは知っていたんですが、そこは意識せずに自分の滑りに集中して、残せた映像をSNSにあげることで周りが盛り上がってくれればいいな、と思っていました。例えば、さっきのサンライズセッションでは周りにはザック(ヘイル)、ジャッド(ヘンクス)、ジェイミー(アンダーソン)、セージとかの大御所ライダーたちがいる前で、Gimbal Godの映像に使ってもらっているカットを残すことができたんです。あとこのとき、OAKLEYからもらったカッコいい迷彩のウエアのセットアップを着ていたんですが、ちょうどスターレ(サンドベック)もそのウエアを着ていて。ちょっと離れてオレのことを見ていたら、「スターレかな? いや、なんだあのちっこいの」って多分なったと思うんです(笑)。目立つウエアを着ていたこともひとつの理由だと思うし、いろいろなことが重なって、やっと世界に存在感を示せたというのを感じた遠征でしたね。

──MONSTERライダーとなったのちに参加した「HELL WEEK」では、1週間に渡って世界中のトップライダーたちと交流があったと思います。彼らからはどのような刺激を受けましたか?

みんなメリハリがあって、楽しむところは楽しむ、真面目に滑るところは真面目にやって映像を残す、という姿勢がすごくカッコよかったんです。パッと滑ってすぐに映像を残すスピード感やプロ意識には刺激を受けました。もちろん滑りもすごくカッコよくて、ビッグトリックばっかりやっているだけじゃダメで、スノーボーダーとしてベーシックな低回転とかでもカッコよく魅せないといけないということを思い知りましたね。自分の課題が浮き彫りになったセッションでした。

──ほかにも何か課題は見つかりましたか?

言ってしまうと何もかもが足りていない感じだったんですが(笑)、例えば、撮影が始まってから映像を残すまでのスピード感とか、そのスピーディな撮影の中でも、全員のライディングにそれぞれの個性が溢れているところとか……。そういう部分にすごく刺激を受けたので、自分もカッコよく、自身の滑りを魅せることができるライダーになりたいと思いました。HELL WEEKをキッカケに、パイプランだったりハンドプラント、ミラーフリップなんかもやるようになったんです。人と違う、クリエイティブな滑りを目指したいと思っています。

──W杯の優勝インタビューでは、「自分の滑りをするだけという気持ち。それに結果が上手くついてきてよかった」という頼もしいコメントを聞くことができました。大舞台でも「勝利」より「自身の滑り」にこだわり、スノーボードを楽しんでいる姿が印象的ですが、そのような姿勢でスノーボードに取り組むようになったキッカケはありますか?

勝ちにこだわることもできると思うんです。でも、それだけじゃもったいないと感じていて……。スノーボーダー人生の中でも、大会に出ている時間って短いと思うんです。だから次のステージのことも考えて、カッコよさにこだわったり、人と違うクリエイティブな滑りをすることによって、誰かの目に留まってくれたら嬉しいと思っています。こういう考え方をするようになったキッカケとしてHELL WEEKはもちろん、SNSやW杯の舞台で海外のライダーの滑りを見ていることですね。みんな個性があって、もちろん大会では勝つことも意識してると思うんですが、例えばレッド(ジェラード)とかレネ(リンネカンガス)とかダスティ(ヘンリクセン)とかの滑りからは、「自分はこれをやるんだ!」っていう意志を感じるんです。そういうライダーたちからインスピレーションを受けて自分も自身のスタイルを魅せつけて、なおかつ点を出す、っていう姿勢で大会に出ています。自分の滑りに集中したときのほうがいいパフォーマンスを発揮できるということにも気づいたので、最近の大会ではそうするためにやりたいスタイルを明確にし、そして日々、それを実現するための練習というふうに捉えて滑っています。
 

 
──オーストリア・クライシュベルクでのW杯・ビッグエア第3戦にて、自身初となるW杯優勝を飾りました。1、2戦目と徐々に成績を上げてきて3戦目で優勝を果たしたわけですが、それぞれの大会にどのような心境で挑んでいたのでしょうか。

実は、22-23シーズンの大会は途中からいい意味で、勝ちに行ってたんですよね。自分のスタイルは貫きつつ勝ちにもこだわるという、これまでよりワンランク上の目的を持って大会に挑んでいたんです。ケガを避けるためのストップ癖もあって、普段は決勝に行っても7、8割で戦おうという戦略だったんですけど。でも(米コロラド州)カッパーで滑っているとき、(角野)友基くんに激励を受けたんです。「オマエそんな上手いのに、なんで大会で出し惜しみしてんの。そんなことしてたら、あっという間に終わっちゃうよ」って。これがキッカケで考えを改めて、カッパーでのW杯(第2戦)から姿勢が切り替わりました。カッパーでは上手くいかなかったんですけど、クライシュベルクでめっちゃハマって結果が出た、っていう感じです。友基くんに勝ち方を教えてもらったからこそ、22-23シーズンの3勝があったんだと思っています。その後(米カリフォリニア州)マンモスで友基くんに会ったときにお礼は言ったんですが、「オレは何にもしてないよ。全部オマエがやったことやん!」って言われて。やっぱカッコいいな、って思いました。

「後悔しないように、スノーボードのすべてをやりきりたいです」

──自身の滑りにこだわる姿勢が垣間見えるルーティンを駆使して3勝した22-23シーズンですが、スタイルを貫くことと勝利を両立する難しさを考えれば、勝利を手繰り寄せるためにこだわりを捨てたルーティンを組むことも可能だったと思います。帝勝が勝利そのものよりも大切にしている価値観について教えてください。

やっぱり何よりも、「後悔したくない」という気持ちがありますね。自分のルーティンを曲げて勝ちにこだわって、もし勝てなかったら。めっちゃ後悔すると思うんです。「あれやっていればよかった」っていう後悔はイヤだし、勝ちを目的にしたルーティンって(トリックを)打たされている感覚になると思っていて。自分のやりたいこだわりのルーティンだと「これで負けても後悔はない」っていうマインドになれるし、自ら進んで打てる。例えば周りから「ここはある程度抑えて、確実にストンプできる技を選べば勝てる!」と思われているシチュエーションで抑えた結果、もし逆転で負けたら。めっちゃ後悔すると思うんです。だから、自分のやりたいルーティンを通すということは曲げないようにしたいです。大会はどうしてもジャッジスポーツなので、運も絡んでくるとは思います。文句を言わせない滑りをしたって負けることもある。そういうときでも後悔しないような、カッコいい滑りをしたいと思っています。

──帝勝が20歳になるタイミングで開催されるミラノ・コルティナ五輪に向けて、どのような思いで挑もうと考えていますか?

W杯をこのまま順調に勝ち続けることができたらもちろん、出場は視野に入ってくると思っています。今のところは狙える立ち位置にいるので、いつもの大会と変わらないマインドで挑みたいと考えています。特にスロープスタイルはクリエイティブなラインを狙うこともできるので、自分のスタイルを魅せられるようなランで勝利を目指していきたいです。ロデオとかも組み込まれた、4方向(の高回転スピン)だけじゃないルーティンというか。海外のライダーはやっぱり一人ひとり個性が光っていて、例え順位が低くても、いいランだったらSNSとかですごくみんなから賞賛されていたりするんです。自分もそういうふうに、トップライダーたちから「オマエめっちゃいいランだったな!」と言ってもらえるような滑りをしたいと思っています。

──今後の目標について、教えてください。

やっぱりカッコいいのがスノーボード!だと思うんです。ライダーそれぞれが自由に表現するからカッコいい。そういう根本の部分を大事にしながら、大会でも勝ち続けていきたいと思っています。「X GAMES」のスロープスタイル、ビッグエア、ナックルハックでの3冠っていうのもけっこう狙っていますね。あと、大会に出続けながらもパークなどの撮影でカットを残したり、イベントに出てMVPを取れるくらい盛り上げられる滑りをしたりとか。ゆくゆくはもちろん、バックカントリーの撮影もやっていきたいし、ジブのレベルをもっと上げていけばストリートでもやってみたい。英語を喋れるようになって、いろんなライダーとセッションしながら自立してやっていけたら最高だな、と考えています。スノーボードの全部をやらないと、やっぱり損ですよね(笑)

 
 

おわりに

その目に映っているのは勝利ではなく、あくまで「いかに自身を表現するか」という部分。世界最高難度の技を操りながらもスタイルで魅せる帝勝を紐解くと、そこに見えてきたのは、スノーボードのすべてを楽しみたいという純粋な気持ちだった。スノーボードは元来、一枚の板にまたがり、自由に雪上を駆る遊びである。このインタビューを通して、スノーボードを楽しみながら大会で自身の存在感を高めていく彼の姿勢を知ったことにより、日本のスノーボードシーンの未来は明るいのだということを改めて感じることができた。今後も弊ウェブサイトでは、帝勝の成長を追い続ける。

 
 
長谷川帝勝(はせがわ・たいが)
▷出身地: 愛知県岩倉市
▷生年月日: 2005年10月23日
▷スポンサー: MONSTER ENERGY、OAKLEY、SLAB、NEXUS

text: Yuto Nishimura(HANGOUT COMPANY)

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