
FEATURE
〈対談〉星野リゾート代表 星野佳路 × BACKSIDE編集長 野上大介【後編】「雪山と仕事の両立」
2021.01.21
強烈な寒波が雪を降り積もらせた2020年12月中旬。国内外でリゾートを運営する「星野リゾート」の代表を務めながら年間60日の滑走を目標に掲げるスキーヤー、星野佳路さんと、小誌編集長の野上大介も、この対談時が初滑り。ふたりは日が暮れても降り続ける福島の軽い雪に頬を緩めながら合流し、「雪山と仕事の両立」について語り合った。
【前編】「雪山時間の魅力」
星野佳路 / ほしのよしはる。1960年、長野県生まれ。星野リゾート代表。軽井沢に生まれ育ち、幼少期からスキーに触れて育つ。大学卒業後にアメリカの大学院に留学。帰国後、現職へ。トマム、アルツ磐梯、猫魔といったスノーリゾート、ラグジュアリーリゾート「星のや」、温泉旅館ブランド「界」などの施設を運営するリゾート運営会社を経営する一方、年間60日滑走を目標に掲げるスキーヤーとしての顔を持つ。
@skier1960
野上大介 / のがみだいすけ。1974年、千葉県生まれ。複数ブランドの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。2004年から世界最大手スノーボード専門誌の日本版に従事し、約10年間に渡り編集長を務める。その後独立し、2016年8月にBACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINEをローンチし、同年10月に創刊。X GAMESやオリンピックなどスノーボード競技の解説者やコメンテーターとしても活動中。
@daisuke_nogami
“リゾート業界の雄”が気になるゲレンデとは
―これまで訪れて印象に残ったリゾートを教えてください。
野上大介: 国内だと新潟県の妙高市にあるロッテアライリゾートです。大学生の頃にコモっていたスノーリゾートなのですが、当時はARAI MOUNTAIN & SPAという名称でした。経営母体が変わっても豊富な積雪量は変わらず魅力ですね。徹底したアバランチコントロール(雪崩の管理)が優れているため、ゲレンデコース内にもバックカントリーのような斜面が広がっています。特定のゴンドラやリフトに優先搭乗できるファーストクラスリフト券は面白いサービスですね。
星野佳路: 海外も行かれますか?

野上: アメリカのコロラドが多いですね。X GAMESの開催地・アスペンや、BURTON US OPENの会場であるベイルには毎年のように行っています。なかでもベイルは、雪質のよさはもちろん、グルーミングのクオリティが高いことに驚きました。トップ・トゥ・ボトムで3D地形を楽しみながら、高速ライディングが楽しめます。リフト券は日本の4倍ほどするんですけどね(笑)。違いはリフト券代だけでなく、リゾートの在り方にも感じられました。広大なゲレンデの麓にはヴィレッジが広がり、定期的に発着する周回バスは終日運行しています。世界各国の郷土料理を楽しめるレストランが点在するなどナイトライフも充実。日本にはこうしたスノーリゾートが少ないため、とても刺激を受けました。
星野: 私はコロラドだとスティームボート・スプリングスに魅力を感じます。あそこはカウボーイが馬に乗って走っていたりして、アメリカ文化を全面に出している。ヨーロッパ・アルプスへの憧れを形にしたのではなく、アメリカ人らしさを堂々と表現したリゾートのような感覚を受けるんです。また、アメリカ人が憧れるヨーロッパ・アルプスには、すごく本物感があります。まさに世界最高峰のリゾートを具現化していると言っていい。私の関心はまずそこに向けられていて、そのため、現在かの地のリゾートが環境順応型に変化していることに興味を覚えています。スイスのツェルマットは、もうだいぶ前にガソリン車の乗り入れを禁止しました。今後、同様のアプローチがいろいろと出てくるでしょう。私たちもその流れに遅れないようにしたいと思っています。

野上: 都市にも関心を持たれていますよね?
星野: ニュージーランドにあるクイーンズタウンのような都市ですね。スキー場が周囲に点在しているので滑るところを選べますし、アフタースキーは街で良質な食や観光が楽しめます。夏にも豊かな自然や美味しい食事といった魅力があって、年間を通して多くの人が訪れています。世界的に大成功している都市といっていいでしょうね。カナダのバンフもそうですが、今後は良質な雪がありながら年間を通して楽しめるスキー都市に注目が集まっていくと思います。日本だと旭川でしょうか。

野上: 旭川ベースだと、カムイスキーリンクスや旭岳、富良野方面にもアクセスできますね。
星野: 家族旅行なら旭山動物園があり、食は安いし美味い。日本のクイーンズタウンやバンフと呼べるポテンシャルを感じます。
雪のある働き方
―そのような魅力的なスノーリゾート、スキー都市に行く時間をどう作るのか。この点も大切になってきそうです。
野上: 僕は仕事とスノーボードが完全にリンクしているので、雪山での時間はプライベートであり、仕事でもあります。けれど一般の社会人はそういうわけにはいきませんよね。スノーボードに行く時間を作らなければなりません。そして、このコロナ禍でワーケーションを多くの企業が取り入れました。そこに、スノーボードやスキーがライフスタイルスポーツになっていく可能性を感じます。

星野: 今後はスキー場でのリモートワークなども大事になります。スキー場に泊まり、早朝のファーストトラックを含めて3時間ほど滑り、お昼頃から仕事を始める。そのようなライフスタイルが可能になってきますから。
野上: リモートワークできる人たちがWi-Fi設備の整ったスノーリゾートや宿泊先を目指すという動きも出てきそうですね。
星野: リモートワークを許可する会社が増えれば社会はだいぶ変わるでしょうね。コロナによってリモートワークという働き方が社会に生まれ、ワーケーションを進める動きが国から出てきた。今後、それらを世の中が認めようという形になっていくことがとても重要です。

野上: 星野さんの会社では立候補制を採用するなど人事に個性があります。たとえば、スタッフの方の「もっと滑りたい」といった気持ちに応えるような、配属についてのポリシーはあるんですか?
星野: 会社として正式なポリシーは持てていませんが、個人的なこだわりはあります。やはり雪山が好きな人間は冬の観光地に近いところで働いてほしいですよね。今年もひとり、沖縄に配属されていたスノーボード大好き人間をスノーリゾートにスカウトしてきました(笑)。そのほうがやる気が出て力を発揮するのではないかと思っています。そうそう、実は今、“スキーヤーやスノーボーダーにとっての究極のホテル”について考えています。野上さん、一日のなかで滑る時間はいつが一番いいですか?

野上: 朝イチでしょうか。
星野: はい、私もそう思います。多くの業務が午後に偏るホテルが、スキーヤーやスノーボーダーには究極の仕事場になるはずです。午前中の仕事を極力午後に寄せる。無理ではありません。スマホでチェックイン・チェックアウトができ、人手を必要とする清掃や調理は午後に集中させることは可能なはずです。私は社内で本気で進めています。シーズン中、朝イチからノートラックを滑れて、社員だからリフト券はタダ。ものすごく魅力的に聞こえませんか? このアイデアを思いついたのは、トマムのスキーインスキーアウトヴィレッジ「ホタルストリート」にテナントで入ったフルマークスさんの働き方を見たからです。ショップ営業が11時からなので、スタッフは早朝滑っているんですよ。その環境がスタッフにとても人気のようです。考えてみると、日本中にあるスキー場のホテルが苦労しているのはリクルーティングです。一生懸命人材を確保しようとしているのですが、私は働く人に人気の出る職場作りこそが、問題を解決するだろうと思っています
“日本人のための最後の冬”をどう過ごすか
―では最後に、いよいよ始まった今シーズンの予定をお聞かせください。
星野: この冬、私は天気中心主義になります(笑)。コロナで夏に例年のように南半球に行くことができず吹っ切れました。この冬は天気を見て予定を決めることにしました。なので、12月から仕事の予定はほとんど入っていません。いつも日本だけで年間40日くらい滑りますが、そのうち天気のよい日は10〜15日くらい。仕事中、天気予報を見ながら「今日はここにいるべきじゃなかった」と感じる日もあり、いつかそれを解決したいと思っていました。この冬は、3月までは天気最優先で動きます。基本的に予定は入れず、天気アプリで14日後までは見られるので、その予報を見ながら天候の悪そうな日に仕事の予定を入れます(笑)。本当にいい日に滑る。それを今年は多く実現したいですね。

野上: 外で滑っているときは3密ではないですし、僕はバラクラバをしてフェイスマスクもします。防寒や雪焼け防止を兼ねたオシャレな感染対策をしながら、インバウンドによる外国人渡航者がいない冬を満喫したいと思います。この状況はリゾートにとってはネガティブなのかもしれませんが、滑り手にしてみると“JAPOWが余る“ということなので滑りまくりたいですね。

星野: 日本人のための日本人による最後のスキーシーズンですからね。今世紀もうないと思いますよ。東京オリンピックで外国人が戻り始めることが見込まれるので、来季の冬には確実に外国人も雪山に戻ってきます。日本人のための日本人による日本の雪山になるラストチャンスが今シーズン。ここで滑っておかないと、絶対に後悔しますよ。
野上: それぐらい言い切ってもいいですよね。出だしは好調ですし。
星野: 日本人にとってはいい冬になると思いますので、そういった意味でも天気中心主義を貫きたいですね。
野上: その宣言は、もうTwitterでつぶやかれたんですか?
星野: 社内で怒る人がいるので、まだ今はしていないですね。アシスタントにも「いつになったら予定を入れられますか」と聞かれていまして。天気予報を見ながら、2週間より先は入れられないな、と答えているところです(笑)

photos: Akira Onozuka
edit: Takashi Osanai
special thanks: Hoshino Resort Alts Bandai, Hoshino Resort Nekoma
日本が世界に誇る、全国津々浦々のスノーエリア特集

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ISSUE 11
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