BACKSIDE (バックサイド)

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COLUMN

こんな時代だからこそ観てほしい長編ムービー『FLYING HIGH AGAIN』が解禁

2024.04.01

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スノーボードビデオの隆盛期を知るベテランスノーボーダーにとって、現代は映像が消費されていく時代と言えば同意いただけるだろう。しかし、当時を知らない若手スノーボーダーからすれば、ライディングを中心とした50分超の映像作品を観る理由を見つけることが、果たしてできるのだろうか。

SNSの台頭によりライディングのフッテージは鮮度が高いうちに世に発信され、そのロケーションのスケールや滑りのレベルが極上だったとしても、数え切れないほどの投稿の中に埋もれていく。そんな時代に対するアンチテーゼとして、本記事で紹介する長編ムービーは制作された。かつては毎年恒例だった、前シーズンの集大成として発表されてきた映像作品を復活させることがテーマなのだ。

スキーを中心としたエクストリームスポーツの映像作品を四半世紀以上に渡り制作している老舗プロダクション・TETON GRAVITY RESEARCH(以下、TGR)と、スノーボード界の名門プロダクションとして90年代初頭から名を馳せてきたSTANDARD FILMSの創設者、マイク・ハチェットがタッグを組み『FLYING HIGH AGAIN』を昨秋リリース。その大作がついにYouTubeで解禁された。

詳細については「かつて毎年恒例だった映像作品を復活させるべく名監督がメガホンをとった『FLYING HIGH AGAIN』予告編」の記事に譲るが、55分超の本作を観て感じたこと。それは、同じ乗り物にまたがっていてもジャンル化が著しい近代スノーボーディングだからこそ、世代やライディングスタイルなどの壁を越えたライダーたちの滑りをひとつの作品として編んできた作業がいかに大事だったのか、ということを改めて痛感させられた。

SNSのアルゴリズムに支配され、パウダーライディングやカービングターン、グラウンドトリックなど、興味ある偏ったカテゴリーのライディング映像しか目に飛び込んでこない今。アンティ・アウティがシュートを攻めるスリリングなバックカントリーパートから、ダスティ・ヘンリクセンがTシャツ姿で最先端のパークラップに興ずるパートへのつなぎを観た瞬間、確信めいた。オジサンの戯言に聞こえるかもしれないが、元来スノーボードとは、そのときのコンディションやシチュエーションに合わせて、現在ではジャンル化されてしまったあらゆるライディングスタイルを楽しむもの。だからこそ、フリースタイルを共通言語としたあらゆる楽しみ方を知ってもらいたい。そのために、こうした作品が必要不可欠なのだ、と。

ジョン・ジャクソンやダニー・デイビスらの鳥人レベルのバックカントリーフリースタイルから、ブランドン・デイビスの卓越したストリートライディング、はたまた、ジェレミー・ジョーンズらフリーライディングの達人たちの滑りまでをいち作品として観ることができる価値。もちろん、そのライディングパフォーマンスは一般スノーボーダーの手の届くレベルではないのかもしれない。しかし、彼らのキャラクターまでが描写された映像作品は、フリースタイルスノーボーディングの本質や魅力を最大限にアウトプットしている。そう言って間違いない。

本作品のメガホンをとったマイクがSTANDARD FILMSを立ち上げてから、30年以上の月日が流れた。これからも流れゆく時代の中、少しでも大画面でご堪能いただきたい。

text: Daisuke Nogami(Chief Editor)

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