BACKSIDE (バックサイド)

BACKSIDE (バックサイド)

https://backside.jp/column-135/
25688

COLUMN

16歳 柿本優空の夏休み「サマーキャンプの聖地で起こしたミラクル」Vol.2

2022.08.03

  • facebook
  • twitter
  • google

90年代初頭から20年近くに渡り、プロスノーボーダーはもちろん、上達を志すアマチュアライダーも含め、夏になると米オレゴン州マウントフッドに多くの日本人スノーボーダーたちが集結していた。世界各国から感度の高いスノーボーダーが一堂に会するため、ライディングスタイルやトリックはもちろん、ファッションなどの流行発信基地と化している。
それは今も昔も変わらないのだが、日本人ライダーの数は減少の一途をたどった。サマーキャンプの日本代理店がなくなってしまったことが最大の要因だが、日本のオフトレ施設が充実していることも、その理由のひとつだろう。コストをかけて残雪や氷河を求めなくても、人工芝でトレーニングができる。それはそれで、スノーボーダーにとって恵まれた環境であることは間違いない。
しかし、暖かくリラックスした雰囲気の中、世界レベルを肌で感じながらフリースタイルマインドあふれるグローバルなライダーたちとのセッションを通じて得られる価値は、かけがえのないものである。そうした環境に初めて身を投じたのは、16歳ながら技術と表現力を併せ持つ期待のルーキー・柿本優空(ゆうあ)。彼が見て、感じてきたものを綴ってもらった。

 

乗り物が異なるレジェンドからまさかのプレゼント

 
Vol.1の記事で、僕はRIDE SNOWBOARDS(ライド スノーボード)のチームキャンプでの出来事を記した。本記事では、その最中に起きた自分にとってのビッグイベントについて綴ろうと思う。
 
僕はハーフパイプでフロントサイドのインバートトリックであるエルガリオの練習をしていた。するとそこに、とんでもなく高いエアを放っていたMONSTER ENERGYのビーニーをかぶるスキーヤーがやってきた。彼の名はサミー・カールソン。
 
「キミの滑り、カッコいいね! あの技は怖くないのかい? キミの名前は?」
 
サミーは僕が練習している姿を見て、笑顔で声をかけてくれた。その後、たわいもない会話を交わすと、その日は何事もなく解散した。
 
その3日後、僕とサミーは再会することに。場所はまたもハーフパイプ。僕はひとりで山に上がっていたので、5本ほどハイクアップして気持ちよく滑ったら帰ろうと思っていた。すると、彼は再び次のように話しかけてくれた。
 
「やっぱりオマエはイケてる滑りをする! OAKLEYのサポートは受けているのかい?」
 
僕はサポートは受けていないと答えると、サミーの口から考えてもみない言葉が返ってきた。
 
「ゴーグルのベルトは日本刀を意識してデザインしているんだ。オレのシグネチャーモデルのゴーグルを、明日プレゼントするよ!」
 
その瞬間、僕の時間は止まった。英語の意味は理解できたが、その内容が衝撃的すぎて、それを飲み込むのに時間がかかってしまったのだ。彼はレジェンドだ。スーパートップクラスの実力者だ。そんな彼がなぜ、僕の滑りを見てゴーグルをプレゼントしてくれる? 本当に何を言っているんだ? これが僕の素直な心境だった。
 
「I’m super happy. Thank you so much.」
 
英語が上手く話せない僕は、この言葉を5回以上繰り返した。感謝する気持ちしか伝えることができなかったからだ。
 
翌日、サミーと山の上で合流して彼からゴーグルを手渡されたとき、僕の手は震えていた。そして、そのゴーグルに重量以上の重みを感じていると、サミーはこう言ってきた。
 
「今日はこれを着けて一緒に撮影しよう。僕のエディットに出てもらうよ! 大丈夫かい?」
 
もうどうにでもなれ。とにかくやってやる! このようにパニック状態から吹っ切れると、いつもの自分を取り戻すことができた。最後の一本、サミーにタンデムエアをお願いして、ふたりでジャンプ──。
 
「See you soon, SAMURAI’ Yua!」
 
今回のトリップで、サミーから受け取った最後の言葉だ。彼はサムライパワーを僕に授けてくれた。ありがとうサミー。僕は強くなって、必ず彼のもとに戻る。そう心に誓った。
 
Thank you, Sammy.
 
おわり
 
柿本優空(かきもと・ゆうあ)
生年月日: 2005年9月5日
出身地: 奈良県五條市
スポンサー: RIDE SNOWBOARDS、ほか

photo: Max Garcia

RECOMMENDED POSTS