
COLUMN
角野友基がいないと物足りないビッグエア競技
2016.12.14
先日、中国・北京で開催されたAIR+STYLEをライブストリームで観戦・取材しながら、ふと思った。こんなことを関係者である立場から言ってしまったらお叱りを受けるかもしれないが、展開が読めすぎてしまい面白みを感じることができなかったのだ。
毎シーズン、あらゆる大会を観ているため、各ライダーのいわゆる“持ち技”を大体のところ把握している。もちろん、コンテストシーズンは開幕したばかりなので、オフシーズンのトレーニングでその持ち技が増えているケースもあるが、現在のトリックは限界に近いレベルまで高難度化が進んでいるため、同じジャンプ台のスペックであれば滞空時間も限られてしまい、繰り出せる技にも限度があるのだろう。
大会のフォーマットとしては、3本のランから上位2本の合計点で争われるので、1本目にはメイク率の高いトリックが用意されることは言うまでもない。これが、現在のビッグエア決勝レベルでいうところのバックサイド・トリプルコーク1440に当たる。2012年のAIR+STYLE北京大会で、当時16歳だった角野友基が優勝を飾ったトリックになるが、この時点ではトースタイン・ホーグモとマーク・マクモリスに次いで3人目となる大会での成功だった。あれから4年が経過し、今では国際大会のファイナリストであれば持ち技にしているライダーが多い。トリプルコークとなると着地での衝撃はもちろん、縦3回×横4回が複雑に入り乱れた回転力はとてつもなく大きいため、着地がオープンサイドになるバックサイドのほうがメイク率が高いのだろう。
こうなると、まずはこの技を成功させてからが本勝負となる。これは、昨シーズンも同様だった。実際のところ、先日行われたAIR+STYLE北京大会ではファイナリスト8名のうち5名が1本目にこのトリックを繰り出し、成功させた3名はマーカス・クリーブランド、マーク・マクモリス、ダーシー・シャープ。着地は3名とも完璧に近かかった。エアの高さや飛距離まではライブストリームでは確認が難しかったが、この3トリックの明確な違いはグラブ位置。マーカスがステイルフィッシュ、マークがインディ、ダーシーがミュートだった。バックサイドスピンを想像してもらえればわかるように、後ろ手を回転方向へ引っ張ったほうが回しやすいので、前手でグラブするミュートがもっとも難易度が低いことは理解できるだろう。ステイルフィッシュとインディの違いには個人差があるかもしれない。結果は、マーカスが88ポイント、マークが86ポイント、ダーシーが84ポイントだった。グラブ位置だけでポイントの優劣を決めていることはないだろうが、ピョンチャン五輪に向けて、こうしたマニアックなポイントまで理解していないとコンテスト観戦を楽しめないレベルにまで到達しているということでもある。
1本目にバックサイド・トリプルコーク1440を失敗したセバスチャン・トータントも2本目にはしっかりと決め、本勝負となる2つ目の持ち技で明暗が分かれる。結果としては、マーカスがキャブ・トリプルコーク1620を成功させて優勝、セバスチャンがフロントサイド・トリプルコーク1440で2位、ダーシーがスイッチバックサイド・ダブルコーク1260を決めて3位となり幕を下ろした。
そして、改めて痛感した。現在、ケガのため欠場を余儀なくされているが、角野友基の不在が物足りない要因なのだと。日本人ライダーが出ていないからという理由ではなく、彼の攻めのスタイルがビッグエアシーンを熱くさせていたということに改めて気づかされたからだ。昨シーズンあたりからバックサイド・トリプルコーク1440をまずは成功させることがビッグエア競技のお約束になっていると先ほど綴ったが、角野は1本目からバックサイド・トリプルコーク1620で攻めることが多かった。もちろん実力差ということになるが、だからこそ大会全体に勢いをつけていたことは間違いない。応援する日本人選手がいないから物足りないのではなく、ビッグエア王者がいないから面白みを感じないというわけだ。
ピョンチャン五輪から新種目として採用されることから大きな注目を集めているビッグエア競技だけに、角野の復活を心から待ちたい。
rider: Yuki Kadono photo: Mats Grimsæth/Red Bull Content Pool text: Daisuke Nogami(Editor in Chief)
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