スケートボードが根幹にあるフリースタイルスノーボーディングのパイオニアブランドが再起動
1963年、SIMS SNOWBOARDS(シムス スノーボード)の創始者であるトム・シムスは13歳のときに、木工製作の授業で単板の底に滑走剤となるブリキを貼りつけて“スキーボード”を発明。これが世界初のスノーボードの原型とも言われている。
1965年になるとトムは、夢中になっていたスケートボードでロングボードにまたがり波に乗る感覚を再現しようと、48インチ(約122cm)のロングスケートボードを製作。その4年後の1969年、米ニューハンプシャー州の大学に通っていたとき、スキーのようにノーズキックを搭載した5フィート(約152cm)のスノーボードをデザインした。世界最古のスノーボードブランドと言われているWINTERSTICK(ウィンタースティック)の創設が1972年になるのだから、その3年前にフルサイズのスノーボードを誕生させていたということになる。
最初のロングスケートボードを生み出してから10年後の1975年、SIMS SKATEBOARDSをローンチ。翌年の76年、SIMS SNOWBOARDSが始動した。当時すでに存在していたブランドのほとんどがサーフィンからインスピレーションを得ており、“雪上でマニューバーを描く”ために開発されていたのだが、SIMS SNOWBOARDSのバックグラウンドにはスケートボードが端からあったのだ。
そのすべてはチームを作ることから始まった。1979年、多くの若いスケーターたちが米カリフォルニア州タホシティのゴミ集積場に雪が積もると集まり、スケートボードのランプを滑るイメージで遊んでいたのだが、彼らはボードを上手く扱えていなかった。そこで、トムは自身が手作りしたスワローテールのボードを大量にバンに積み込み、およそ9時間かけてタホシティへ向かうことにした。そして、ゴミ集積場で滑っているローカルスノーボーダーたちにボードを配ったのだ。その中には、後にチームの一員となるフリースタイルのゴッドファーザーと称されるテリー・キッドウェルもいた。そのテリーが大きなバックサイドエアを決めた瞬間、トムはフリースタイルスノーボーディングの未来を確信したのだ。
また、1983年3月にトムは史上初となる世界スノーボード選手権「WORLD SNOWBOARDING CHAMPIONSHIPS」を開催。それまではダウンヒルレースがスタンダードだったのだが、トムはスケートボードのようにトリックで争い、チームで参加する大会をイメージしていた。滑走許可がおりず会場選びは困難を極めたが、タホシティからほど近いソーダ・スプリングスで世界初のハーフパイプ競技が導入されたのだ。当時からチームライダーの編成を重視しており、いずれハーフパイプがオリンピック競技になることをトムは予見していたのだった。
そのチームメンバーのひとりには、スノーボードを語るうえで欠かすことができない伝説のスノーボーダー、クレイグ・ケリーもいた。2年近くに渡りSIMSで活動した後、周知のとおりBURTON(バートン)に移籍することになるのだが、トムのもとで培ったライディングスキルはもちろん、競争心や闘争心がフリースタイルスノーボーディングを確立させる大きな原動力となったのだ。
西のSIMS、東のBURTONと二大巨頭による覇権争いがフリースタイルスノーボーディングを加速度的に進化させた。そして2012年9月、トムは心停止による合併症を引き起こして他界。享年61歳だった。リーダーを失ったSIMSは迷走し、一時日本での流通は本来の姿とかけ離れてしまっていた。
しかし2015年、トムの意思を受け継いだ元プロスノーボーダーの石川健二がSIMS SNOWBOARDS JAPANの代表に就任。布施忠や佐藤秀平らトップライダーをチームに迎え、日本から再生していくことになる。その後、2019年12月6日、亡きトムの誕生日に新生グローバルチームが発足された。ジョン・ジャクソン、キーガン・バライカ、スコット・ブラム、コディ・ウォーブル、そして、先出の布施と佐藤を加えた錚々たる顔ぶれで再起動するに至ったのだ。
こうして完全に息を吹き返したSIMSは再び、フリースタイルスノーボーディングの未来を創り上げていく。
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
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