FEATURE
スノーボーダーは、なぜグラブするのか。【創刊10周年特別企画】ISSUE 8〈第1章〉グラブの起源をたどり、グラブの美しさを知る
2026.08.28
スノーボードのトリックは進化し続けている。それでも、空中でボードをつかむという基本動作に宿るスタイルは、今も変わらない。
2019年、BACKSIDEは「THE GRAB」と題し、スノーボーディングにおけるグラブの意味をあらためて掘り下げた。つかむ位置や形だけではなく、そのルーツ、スタイル、そして自己表現とは何なのか。
創刊10周年を迎えた今、その問いをもう一度ひも解いていく。
※以下、2019年に綴った言葉をそのまま掲載
はじめに
バインディングを介して両足が固定されているのだから、ボードを支えなくてもエアやスピンはできる。今号を制作するにあたり、スノーボードにおけるグラブの意義を自問自答するところから始めることにした。さらに言えば、オーリーの必要性も懐疑的である。パークキッカーなどアップ系のジャンプであれば、正確なオーリーをしなくても宙を舞うことができるからだ。
どちらのアクションもスケートボードに出自を持つ。1979年にアラン・ゲルファンドがトランジションでフロントサイドエアを放ったことで、ボードとともに飛び出すアクションが彼のニックネームである“オーリー”と名づけられた。後にストリートスケートボーディングが産声をあげると、フリースタイルのゴッドファーザーとして知られるロドニー・ミューレンがフラットランドで応用。いわゆるオーリーが完成したのだ。宙に飛び出したスケートボーダーたちは空中姿勢を安定させるためにグラブを開発。それは必然だったのだろう。
こうして、スケートボードをバックボーンに持つフリースタイルスノーボーディングは、ハーフパイプを中心にグラブもトレースされていくことになる。そして、ゲレンデの自然地形やパーク、バックカントリーでもグラブトリックは定着していったのだ。
そのうえで冒頭の話につながるわけだが、シフティはもちろん、下半身を抱え込んだ安定した体勢のエアはノーグラブでもクールだ。しかし、これにはオーリーが必要不可欠。雪面を弾いた反発でボードを引き上げることが可能になり、下半身を引きつけるからこそボーンアウトやシフティなど蹴り出すアクションが入れやすくなるからだ。同時にグラブしやすくなるということでもある。
しかし、現在のスケートボード界では、グラブしないエアのほうがクールであるという見方もあるそうだ。エアが前提となるバーチカルとストリートでは見解は異なるのだろうが、足で板をさばくことが前提のスケートボードではグラブするよりも、ノーグラブのほうが難しいからのようだ。
では、グラブの意義とはいったい。6ページからの「グラブの起源をたどり、グラブの美しさを知る。」で綴っているように、一部は誤った認識でスノーボード界に浸透してしまったが、ボードをつかむ位置には絶対的なルールが存在する。いわゆるティンディやテイルフィッシュ(インディとステイルフィッシュはともに後ろ手でバインディングの両足の間をグラブするトリックだが、後ろ足のバインディングよりも外側のテール寄りをつかむこと。そのほうが簡単なのでNGとされる)はタブーとされているわけだが、そうした制約があるからこそ、両足が固定されているスノーボードの場合、グラブが難しくなるわけだ。
そのうえで、自分らしさを表現することがグラブの最重要テーマである。フリースタイラーがグラブに憧れる理由。それはカッコいいからであり、カッコつけたいから。上半身と下半身を反対方向へトゥイーク(ひねること)し、窮屈な体勢になればなるほど難しいのだが、結果として空中姿勢が安定する。カッコつけるためにつかみ、自己表現することで身体がロックされて体勢が整い、時空を制したかのような気持ちよさを味わえる。それがグラブの醍醐味だ。
ビッグキッカーで飛ぶ必要なんてない。ライディングスキルに見合ったヒットポイントを見つけてみてはどうだろう。そうすればきっと、フリーライディングの楽しさも再確認できるはずだ。
自分らしく、カッコよく。フリースタイルスノーボーディングの基本である、グラブのすすめ。
BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE
編集長 野上大介
グラブの起源をたどり、グラブの美しさを知る。
スノーボードのグラブトリックはすべて、スケートボードのコピーである。しかし、異なるアクションやバインディングの有無も含めて、ミスコピーされているのが現実だ。そこで、フリースタイルスノーボーディング発祥の地、米カリフォルニア州に位置する世界最大手メディアであるTRANSWORLD SNOWBOARDINGによる協力のもと、主要グラブの起源をたどる。そして、その美しさをお届けする。
INDY
後ろ手で両足の間のトウサイドをグラブ

厳密に言えば、スノーボード界で使われてきたインディは世界的に間違っていたようだ。1977年、米カリフォルニア州サンタモニカにあったドッグボウルにて、バートエアを最初に決めたスケートボーダーであるトニー・アルバは、宙を舞いながらトウサイドをつかんでいた。そのトリック名はフロントサイドグラブと呼ばれ、彼がこのグラブを有名にしたことは事実である。
そのうえで、スノーボード界ではフロントサイドグラブのことをインディと呼ぶようになったのだが、本来のインディは、スケートボーダーのデュアン・ピータースによって、バックサイド方向へのアクションでフロントサイドグラブと同じ位置をつかんだときのグラブ名として、INDEPENDENT TRUCK COMPANYにちなんで命名された。フロントサイド方向へのアクションでこの位置をつかむグラブ名は、フロントサイドグラブとしてすでに存在していたからだ。
ちなみに日本では、フロントサイド方向へボードをシフトさせて前足寄りをつかんで後ろ足をポークするとクレイルと呼ぶが、これも誤用であり正しくはフロントサイドグラブのテールボーンとなる。クレイルを正確に説明するとフロントサイド、もしくはバックサイドへボードをシフトさせ、後ろ手でノーズ、もしくはノーズと前足の間にあるトウサイドをグラブすること。しかし、20年以上の時を経て正すことは困難であり、ここではフロントサイドグラブではなくインディとさせていただく。

TAIL
後ろ手でボードのテール部をグラブ

その名のとおり、ボードのテール部分をつかむトリック。スノーボードの歴史において初期に生み出されたグラブであり、ハーフパイプ界の第一人者のひとり、ジェフ・ブラッシーがコンテストでテールグラブをメイクしたときのことを次のように語っている。
「90年代前半に(米カリフォルニア州)ジューンマウンテンで大会があったんだ。アンディ・ヘッツェルと一緒に練習していたときに、“テールグラブをやってみようぜ!”って話になって、すぐ次のランで大きなフロントサイド・テールグラブとフェイキー・テールグラブをやったよ。もちろん、オレたちは興奮しまくったのさ。なぜかって、このグラブはスケートボードから派生してるわけだけど、スノーボードのハーフパイプでは誰もやったことがないトリックを繰り出したんだからね」
右ページのテールグラブは1988年に撮影されたものなので史上初ではなかったものの、当時はそれほど希少価値の高いグラブだったのだ。

STALEFISH
後ろ手を背中側から通して両足の間のヒールサイドをグラブ

1985年、トニー・ホークやロドニー・ミューレンらがスウェーデン・ストッホルムで開催されていたスケートボードのサマーキャンプに参加。80年代を席巻した伝説的スケートボードチームの真実に迫ったドキュメンタリー映画『BONES BRIGADE』のなかで、パウエル・ペラルタがコーチとして招かれた時代の話だ。
当時を知るスケートボーダーはこう語る。
「あの頃はほとんどのグラブトリックが出尽くしていて、そのすべての名前も決まっていたんだ。そのなかで完成されていなかったのが、後ろ手で後ろ足を覆うようにしながらヒールサイドをつかむトリック。トニーはこのグラブに挑戦していたんだ」
そして彼はこのグラブを完成させ、その名前を探していたところ、たまたまその日の夕飯に変な味がする魚が出された。缶詰にされた調理済みの魚がキャンプ地に届けられた頃には、すでに腐っていたそうだ。こうして、ステイルフィッシュと名づけられたそうな。

MUTE
前手で両足の間のトウサイドをグラブ

1981年に開催されたスケートボード大会にて、聴覚・言語障害者であるスケートボーダーのクリス・ウェドルが始めてこのグラブに成功したとき、現在のレジェンドスケートボーダーとして知られるアレン・ロッシの父が命名したそうだ。現代社会では間違いなくモラハラとして扱われるだろうが、障害があったクリスがいつも静かだったことに起因している。
こうしてミュートグラブは定着したのだが、スノーボード界では誤った認識で浸透してしまった。
フロントサイドへシフトした状態、もしくはフロントサイドスピン中に同じ箇所をつかみ、後ろ足をボーンするトリックはミュートではなくスロブとなる。このグラブは、かっぷくのいいバート・スケートボーダーであるブレア・ワトソンというカナダ人によって生み出された。SLOBとは「薄汚い人、ずぼらな人」という意味を持つが、ブレアがそうだったのかは不明。しかし、スロブも含めてスノーボード界ではミュートグラブとして認識されている。
MELON[MELANCHOLY]
前手で両足の間のヒールサイドをグラブ

メロンとはメランコリーという言葉が短縮されたものである。
メランコリーの起源は、ストリートスケートボーダーがオーリーを練習していたときのこと。前手でトウサイドをグラブし、前足をボーンアウトするサッドプラントに似たカタチで、前手でヒールサイドのレールをつかんだ。サッドが持つ“悲しい”と同義語であり、かつ言葉のなかに“オーリー”という発音が含まれていることから、メランコリーというグラブ名が誕生した。トニー・ホークとレスター・カサイがふたりで作った言葉なのか、ニール・ブレンダーが名づけたのか、その真相は明らかになっていない。
その後、メランコリーはスノーボーダーに引き継がれ、前手でヒールサイドの両足の間をグラブした場合には、メロンと呼ばれるようになる。ただし間違いなく言えることとして、このグラブを確実に表現するためには、前足をボーンアウトすることが重要なのだ。

METHOD
ボードを背中側に持ち上げるように膝を曲げて上体を反りながら前手で両足の間のヒールサイドをグラブ。上半身と下半身をそれぞれ反対方向へひねる動き(トゥイーク)を加えてもいい。その際、前足より若干ノーズ側をグラブすることが許されている

弊誌初の写真集となったISSUE 6「THE ART OF METHOD」でも綴っているのだが、スケートボード界のパイオニアとして知られるニール・ブレンダーは、1985年に開催されたバートランプのハイエアコンテストで優勝を飾った。
当時のルールとして、エアの高さはコーピングからスケートボーダーの足までを計測することになっており、いかにして足を上げることができるかが勝敗のカギを握っていたのだ。バックサイドエアでどのように膝を曲げるかを考え、それが優勝するために「ベストな“方法”だった」とニールが答えた瞬間、このグラブ名が誕生したというわけだ。
また、日本では“メソッド”と“トゥイーク”は異なるグラブトリックとして周知されているが、そもそも“トゥイーク”という技は存在しない。日本でトゥイークと呼んでいるトリックは、メソッドに“ひねり(トゥイーク)”を加えたスタイルを指す言葉なのである。

text: Daisuke Nogami(Editor in Chief)
CONTENTS
▶CHAPTER 1 グラブの起源をたどり、グラブの美しさを知る。
▷CHAPTER 2 自称“トゥイーカー”、ギギ・ラフがスタイリッシュな理由。
▷CHAPTER 3 ダニー・デイビスのグラブは、なぜカッコいいのか。
▷CHAPTER 4 フリーライディングが面白くなる、グラブ談義。
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BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE
ISSUE 8 「THE GRAB ──自分らしく、カッコよく──」
スピンの回転数が増え続けても、変わることのないフリースタイルスノーボーディングの基本であり、永遠のテーマ“グラブ”。その起源や美しさをひも解きながら、空中でボードをつかむことで表現される“自分らしさ”を掘り下げた一冊。世界が認めるスタイリッシュライダーたちのグラブ論をはじめ、バックカントリーで繰り出されたグラブトリックをゲレンデで再現する企画や、シークエンス写真を用いた斬新なハウツーまで収録している。

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