FEATURE
【創刊10周年特別企画】ISSUE 1「國母和宏という生き様」──創刊号がカズでなければならなかった理由
2026.06.03
2004年、まだ高校生だった國母和宏と出会ったときから、彼がタダモノではないことはわかっていた。長時間の取材や撮影を難なくこなし、大人たちの中でも物怖じしない。その姿には、のちに世界を代表するスノーボーダーとなる片鱗がすでに宿っていた。
以来、十数年にわたり取材を重ねるなかで、その印象は確信へと変わっていった。競技シーンで結果を残しながらも、己のスタイルを追求し続ける姿勢。カズは常に、スノーボードの本質と向き合っていた。
2016年、BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINEの創刊号でカズを選んだことに迷いはなかった。なぜなら、BACKSIDEが創刊時に掲げた「フリースタイルスノーボーディングの本質」を、彼ほど体現しているライダーはいなかったからだ。
当時の特集で追いかけたのは、戦績や肩書きではない。その奥にある価値観だった。
そして、その価値観はのちに世界から認められることになる。2018年、カズは世界でもっとも権威あるライダー授賞式で「RIDER OF THE YEAR」を獲得し、名実ともに世界トップのライダーとなった。もちろん、いまもなお、だ。
10年後の今、改めてこの文章を読み返すと、不思議な感覚を覚える。未来を見越していたのか、それとも現在地からの答え合わせに過ぎないのか。
「心の中に限界を設けないかぎり、人生に限界なんか存在しない」
創刊号の冒頭に綴ったその言葉は、いまどのように響くだろうか。まずは、國母和宏という生き様の原点から振り返っていきたい。
※以下、2016年に綴った言葉をそのまま掲載

はじめに
2004年初冬。シーズンを目前に控え肌寒くなってきていた東京・渋谷に、高校1年生の少年が単身で北海道からやってきた。14歳のときに、伝統の一戦であるBURTON US OPENハーフパイプ種目で2位に輝くなど、“タダモノ”でないことは承知していたのだが、長時間に渡るインタビューやスタジオ撮影、さらに高校生の一般スノーボーダーとの座談会など、過密したスケジュールを難なくこなす姿からは、すでに大器の片鱗をのぞかせていた。それが、カズとの出会いである。
あれから12年。スノーボードを取り巻く環境は大きく変化したが、それ以上に、カズの進化は凄まじかった。その偉業を含めた彼のスノーボード人生については、たっぷりと後述するので割愛させていただくとして、ここでは、小誌「BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE」創刊号のすべてを通してカズを表現することで見えてくる、その強すぎる信念について触れておきたい。
これまでカズは常に明確な目標を掲げ、それに向かって全力で突き進んできた。幼少期の頃は「上手くなること」、小学6年時にプロ活動を始めてからは「日本一になること」、高校生のときには「世界で認められること」、それを実現した後には「世界のトップに立つこと」。幼い頃から、大人だらけの環境で上達していく過程で経験したあらゆる出来事に解釈を求め、それが正解だと確信することで育まれていったスノーボード観。ハーフパイプから高く宙を舞うことで賞賛され、スタイリッシュなトリックを決めることでハイファイブを求められた。このようにして、大会で“勝つための滑り”ではなく、“カッコいい滑り”を発信することがカズの信念となった。大会だけでなく撮影でも同じ価値観を抱き、表彰台に上がることはもちろん、美しい写真や映像を残していくことで、その信念は確固たるものへ昇華したのだ。
しかし、スノーボードの本場で確立した己の信念を貫き通したことで、日本社会から大きな誤解を受けてしまうことになる。賛否は分かれたものの多くの国民が彼をバッシングしたが、カズは自分の信念を曲げることはしなかった。体育文化では学ぶことができないフリースタイル文化を肌で感じ、大自然のなかで言葉や文化の壁を越えて孤軍奮闘してきた自信とプライド。その結果として、スノーボード界の世界トップに登り詰めたわけだから。
BURTON US OPENの2連覇は周知の話であり、世界中のスノーボーダーを震撼させた数々のビデオパートや、1シーズンで世界各国の専門誌9誌の表紙を飾った。さらに、記憶に新しいと思うが、2015年の秋に開催されたX GAMESを主催するスポーツ専門チャンネル・ESPNが贈るバックカントリームービーの世界頂上決戦においては、オンラインによる一般投票で大差をつけてのトップ。ギギ・ラフ、ジェレミー・ジョーンズ、ジョン・ジャクソン、ミッケル・バングらトップライダーが名を連ねるなかで、過半数以上の得票数を獲得しての1位だった。これらは、前述した世界トップである事実を証明する材料として申し分ないはずだ。
この12年間、誰よりもカズを取材してきたいちジャーナリストとして、その信念を深く理解しているつもりである。彼を天才と称するのは簡単な話だ。でも、そうではない。その舞台裏では、幾度となく苦難を乗り越え、目標に向かって積極的に行動し続け、新しい価値を創造してきた。それは、“カッコいいスノーボードを伝えたい”という、シンプルだが強すぎる信念が突き動かしていたのだ。これこそが、國母和宏という生き様。
成功哲学の原点『思考は現実化する』の著者であるナポレオン・ヒルの名言に、こんな言葉がある。「心の中に限界を設けないかぎり、人生に限界なんか存在しない」。あくまでも通過点であるが、國母和宏のスノーボード人生をここに記す。
BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE
編集長 野上大介
___
本記事は2016年発行『BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE ISSUE 1「KAZU KOKUBO ──國母和宏という生き様──」』より抜粋掲載。誌面では全9章にわたり、國母和宏のスノーボード人生を収録している。紙媒体ならではの写真表現や誌面デザインとともに、その時代の空気感も感じとってもらえれば幸いだ。
【バックナンバー購入はこちら】
https://backside.theshop.jp/items/24215009




