SPECIAL
サイドカントリー天国を30年以上滑り続ける男が語るルスツ完全攻略法【FREERIDE PARADISE Vol.2】
2023.12.30
2シーズン連続の登場となるが、今回はより踏み込んだ内容をお届けする。雪の降り方やライディングスタイルに応じた“ルスツ完全攻略法”だ。降雪状況や風向きによってどう攻めるかという深い部分にまで言及しているので、これを読めば、37コース、総滑走距離42kmという巨大スケールを誇るルスツをローカルスノーボーダーたちがどのようなルーティンで攻略しているのか、手にとるようにわかるぞ。そのうえで、本連載Vol.1の“25時間券の有効活用法”(記事はこちら)を併せてご一読いただければ、サイドカントリー天国をお得に遊び尽くすことができるのだ。
コースマップを見ながら、ニールが語り尽くすルスツ攻略法をご一読いただきたい。ルスツを知る人はもちろん、これから狙っている人にも役立つ情報ばかりだ。
朝イチから並ぶ価値あるロングパウダーライディングを堪能せよ
西から寒気が入ったり南岸低気圧が通るとき、ルスツはかなり多くの雪が降ります。南に洞爺湖という大きな湖があり、その先には海があるから、海と湖の水蒸気が雪雲を発達させるんです。レイクエフェクト(湖水効果雪)って言うんですけど、それが山にぶつかって大量の雪を降らせます。
そういうときは、標高がもっとも高いMt. Isola(イゾラ)を目指す人が多いですね。スティームボートやヘブンリーは北向きの斜面なんですが、あらゆる方向から風が吹いても雪が溜まっていきます。まるで、パウダー磁石かのように(笑)
なので、一目散にイゾラを目指す人はEast Mt.(イースト)ボトムのパーキングにクルマを駐めたら、イーストゴンドラ2号線ではなく、イーストクワッドに乗ります。そして、トラバースしながらイゾラ第2クワッドに乗車し、スティームボートAコースを落としてイゾラ第1クワッドを利用してイゾラのピークへ。すると、非圧雪コースのヘブンリーキャニオンが待ち構えています。さらに、スティームボートAとBのどちらからも沢を落とせる人気スポットです。
特にインバウンドの外国人たちはスティームボートが大好きですね。イゾラ第1クワッドが沢のど真ん中を走っているので、リフトから両サイドの斜面がすべて見渡せるし、ツリーの出口も確認できます。すごく安心感があるのに加えて、リフト乗車している人たちに魅せつけることができるのが、彼らにとってたまらないんですよ。海外では“ハリウッドライン”と呼ばれていますが、盛り上がるスポットですね。コースの名前もアメリカのリゾート名からとっているので、彼らにとってはわかりやすいんでしょう。イゾラ第1とか第2とか言われても、海外の人にとっては面白くなさそうに感じるんだと思いますよ(笑)
スノーサーフやフリーライド系の日本人もこのルーティンを狙っている人が多いですが、朝イチは人が集まりやすいので、ローカルたちはさらに一番奥のヘブンリービューコースを狙っていますね。ヘブンリービューはグルーミングバーンですが、レギュラーのバックサイド側はパウダーを残しているんです。スピードを出しながら脇のパウダーに当て込んでいます。東向きのコースだから朝イチはダイヤモンドダストがキラキラしていて、その名のとおり天国に向かっているような錯覚に陥りますよ(笑)
朝イチにヘブンリーキャニオンコースの非圧雪を滑ってイゾラ第4クラッドに乗り込み、先ほど話したヘブンリービューを流したら、今度はイゾラ第3クワッドを使ってピークに戻り、パウダーが余っていたら再びヘブンリーキャニオンを攻めるといった8の字を描くような楽しみ方もあります。休憩やトイレに行くためにはスティームボートのボトムまで行かないとレストハウスがないので、ルスツを知り尽くしているヘビーユーザー向けのスポットですね。
ただし、いきなりイゾラのピークを目指すとなると移動でけっこうな時間がかかります。次に説明しますが、イゾラのピークを目指さないルーティンが、実は面白いんです。
競争を避けてマッシュやスティープラインを攻めろ
イゾラのピークを目指すのは競争率が高いので、すぐにパウダーを滑りたいという人は、イーストゴンドラ2号線に乗り込んでスーパーイーストコースを狙うのもアリです。斜度がある非圧雪コースなので、すぐにパウダーを滑りたいという人にオススメですが、ここだけを回すことが難しいという難点もあります。
その奥に広がっている、イーストとイゾラの間のボウル状のツリーが通称「シュガーボウル」です。ルスツを代表する人気スポットのひとつですね。ライダーズライトに入っていくとマッシュが育っていて、飛べるポイントがたくさんあります。若者やイケイケの外国人など飛びたい人たちに人気が高いスポットなので、パックされてちょっと硬めなときもありますが、フリースタイラーには最高のスポットです。
スーパーイーストもそうですが、その対面にあるイゾラA、B、Cコースは斜度があるので、スピードに乗せてターンを引っ張りたいという人から人気です。僕もすごく好きで、滑走距離はスティームボードやヘブンリーに比べると短いですけど、外国人も含めて多くの人たちがイゾラ第2クワッドを降りてスティームボートを目指していて、イゾラAの斜面の雪がよさそうだったら、迷わず後者を狙いますね。イゾラ第2クワッドからその斜面が見えるので、そこで判断します。
実はイゾラAとBの間にも、BとÇの間にも、コースマップだとわかりづらいですけど、かなりいい沢があるんです。「今日はスノーサーフ系の人たちが多いなぁ」とか、まわりのスノーボーダーたちの動きを見ながら決めていますが、イゾラ第2クワッドだけで回す日も今までで何度もありますよ。
また、朝イチを逃してしまったときは、イゾラを目指すのではなくイーストゴンドラ2号線を利用して、このゴンドラ下のボウルを狙うんです。イゾラを目指す人が多いから、このボウルが一番パウダースノーが余っています。ここだけで一日回す人もいるくらい。イーストビバルディコースもイーストティーニュコースもグルーミングされたロングコースで、その中のボウルを滑っていけば迷うことなくコース復帰できるんです。それをゴンドラを利用して繰り返すんですけど、ここが実は最高で。あーこの話、言わなければよかった(笑)
西高東低のいわゆる冬型の天気パターンだと西風が強く吹くのでニセコエリアがすごく降るんですけど、そういうとき僕はWest Mt.(ウエスト)に行くんです。ウエストは東斜面だから豊富な雪が積もっているし、ほとんどの人がイゾラに行ってるから空いていて穴場。ウエストタイガーペアを利用すればディープパウダーにありつけますよ。ホテルから近いので滑り下りたら、飲食店が充実している「ダニエルストリート」でランチを食べることもできます。午前中しか滑れないときなど、ウエストを狙うのはひとつの選択肢ですね。
パウダースノーがなくても多様なニーズに応える懐の深さ
雪が降っていないとき、スティームボートBコースは滑りごたえ抜群ですよ。コース幅が広いので、ローカルもみんな好きですね。コースの地形がウネウネしていて棚がいっぱいあります。斜度があるところから少しフラット気味になってノールが出てきて、また斜度が出てきて……こういう地形がずっと続いていて面白いです。昨シーズンも話しましたけど、30年以上前に策定されたルスツのマスタープランを見たことがあって、海外の会社がコース設計を行っているんですが、斜面の起伏を3Dマップで起こしてから木を伐採してコース設定しているんです。スティームボートBを滑るとアメリカのスノーリゾートを思い出しますね。
イゾラCは、イゾラ第2クワッドリフトをくぐったあたりから急斜面になるんですが、そこからすごく浅いハーフパイプのようにすり鉢状に整備してくれています。なので、両サイドにターンしながら振っていくと戻される感じがすごく気持ちいいです。
イゾラDコースから分かれているイゾラD迂回も面白いですよ。ヘブンリー方面からここまで戻ってくると脚がパンパンのはずなので、イゾラD最後の急斜面はスノーボーダーには面白くありません。マップではわかりづらいですが、迂回コースはいい感じのS字カーブになっていて、レギュラーのバックサイドに当て込めます。
フリースタイルに遊びたい人には、イゾラAからつながっているフリコ沢コースのサイドヒットが面白いですね。ライダーズライトにヒップやバンクが育っていて、ヒットポイントがたくさんあります。しかし、イゾラ第2クワッドを使うしかないので、このサイドヒットだけ回すことができません。雪が降っていないとイゾラAはボコボコになっていることが多いから、けっこうしんどいですね。
いい景色を狙いたいなら、イーストビバルディかイーストティーニュがオススメです。新潟や長野にありそうな、尾根を削ったコースなんですよ。コース幅が狭くて斜面が南向きだから雪質は硬めですが、羊蹄山をばっちり一望できて、留寿都村を見下ろすことができます。西向きなので午後3時くらいがすごくキレイですね。
最後に、ヘブンリービューは家族連れでよく行きます。前半は斜度があるけど全体的に緩めなので、子供たちが小学生のときはよく連れて行ってました。いつも斜面がキレイで雪が柔らかくて、気持ちいいんですよ。雪があまり降っていない日が続いていていると、斜度があるところは大体硬めなことが多いので、そういうときはヘブンリービューまで行っちゃいますね。
interview + text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photos: Neil Hartmann