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“男女別”ギアの常識を覆すRIDEの新提案「オールジェンダー・コレクション」とは
2021.11.11
「私たちはそのような考え方を短絡的だと捉えています。スノーボードのプロダクトをデザインするうえで乗り手の筋力の違いは、あくまでも小さな要素でしかありません」
「オールジェンダー・コレクション」と聞いてまっさきに思い浮かんだ“男女のフィジカル差をどう埋めているのか?”という質問に対して、RIDE SNOWBOARDS(ライド スノーボード)のグローバルブランドディレクターを務めるジム・リンバーグ氏はこのように答えてくれた。彼は米ワシントン州に位置するK2 SPORTS本社に勤務しており、RIDEのUSセールスディレクターも兼任する同ブランドのキーパーソンである。
自由度の高さを求めた結果がジェンダーレスのヒントに
自由度の高さを求めた結果がジェンダーレスのヒントに
RIDEのオールジェンダーという思想は、2016年からラインナップに加わったボード「WARPIG」に端を発している。メンズボードとして発売したのだが、実のところ同ブランドで働く多くの女性スタッフが好んで乗っていた。さらに、長きに渡り女性シーンを牽引している第一人者、チームライダーのハナ・ビーマンが愛用する一本だったのだ。そのことを契機とし、女性用ボードに対する認識が大きく変わることに。
「よいボードの定義とはライダーの体重と足のサイズ、それぞれの好みやライディングスタイルに最終的に左右されます。これらの要素と比較すると強度の重要性は低いのです。なぜかというと、女性よりも男性のほうがフィジカルが強いと考えること自体が間違いだから。適切にデザインされていて乗り手に合ったサイズを使用していれば、ライディング技術によってボードは意図したとおりに機能するのです」
こうした考え方を確信に変える出来事があった。WARPIGの大ヒットを受けて「TWINPIG」や「SUPERPIG」などへ派生していく中で、PIGシリーズの特徴であるサイドカットデザインの理論を変えることなくナローモデルの「PSYCHOCANDY」を女性専用モデルとしてリリース。すると、スムースなターンを実現するテールの抜けを好む男性が乗っていることに気がついた。
「WARPIGは標準的なボードよりも6~10cm程度短いボードに乗ることを推奨しています。また、PSYCHOCANDYの場合は3~6cmほど短いボードがオススメです。ワイドシェイプにすることで安定性を高めているのですが、そうすることでターンがしづらくなる可能性が懸念されます。
しかし、RIDEは独自のバイ・ラディアルサイドカット形状を採用することで、ボードの回転性とパウダーボードさながらの浮力を両立させているのです。また、ノーズの形状からテーパーに至るまで、ボード全体の形状にもこだわっています。キャンバー構造も含めてすべてが一体となり、どんなコンディションでも操作性に優れたボードを作っているのです」
筆者もWARPIGに搭乗したことがあるのだが、あの“自由度”の高さには驚かされた。ノーズに施されたタイトなカーブが容易なボードの操作性を生み出し、テールのカーブが緩く設定されているため粘りのある安定感を実現。その安定性をさらに高めるため、柔軟で弾力性に富むSLIMEWALLSが効果的に威力を発揮するのだ。ちなみに今季モデルには、よりスリム化した“SLIMWALLS”が採用されており、耐久性はそのままに軽量化を実現させ、衝撃吸収性がアップしている。
ボード選びの本質は性別ではなく体重が決め手
ボード選びの本質は性別ではなく体重が決め手
さらにPIGシリーズの開発だけでは飽き足らず、ふたつのツインシェイプボードを模索していた。
「ひとつは男性用のHELIXの代わりとして、もうひとつは女性用のBACK TALKにとって代わるボードをイメージしていました。テストの過程において何十種類もの形状を用意し、女性用のボードテストに男性のテスターを加え、その逆も行った結果、性別の垣根を越えて乗ることが可能なボード「ZERO」が誕生したのです。リードとジルを筆頭に、多くのチームライダーが愛用していることがそれを証明しています。ボードのデザインは性別よりも体重が決め手であり、フィット性やライディングスタイル、個々の好みが最重要であるという我々の考えが強固なものになりました」
日本では小川凌稀と小野崎海琳が使用していることが、上述の話をより深める。PIGシリーズと肩を並べてユニセックスモデルの核となるZEROは、ツインハイブリッドロッカー構造を採用。足元には十分なキャンバー形状が施されており、ノーズとテールはわずかにロッカー形状になっている。よって、ターンの始動が容易になりバインディング間には負荷がかかる分、しっかりとしたスナップとレスポンスを得ることができるのだ。
「一本ですべてをこなせるボードを探しているフリースタイル志向の方には、よいキャンバー構造だと思います。ZEROを開発する際に様々なバリエーションをテストしましたが、常に非対称のシェイプのほうが対称のものよりも結果がよかったのです。双方の違いはほんのわずかなので、ボードを見ただけではよくわかりません。非対称ツインシェイプを採用したこのボードは、ヒール側のサイドカットがトウ側よりもわずかに深くなっています。ヒール側のエッジはトウ側のエッジに比べてレバレッジが小さいので、ヒールサイドターン時にフレックスや筋力に頼ることなくスムースなアクションが可能。これが非常に効果的です」
こうして一本でフリースタイルのすべてをこなせるだけでなく、性別問わず乗ることができるZEROが誕生した。
サイズに合わせた“微調整”により性別の垣根を越えたバインディング
サイズに合わせた“微調整”により性別の垣根を越えたバインディング
そして、乗り手の意思や力をダイレクトにボードに伝えるバインディングにもジェンダーレスモデルが用意されている。バインディング部門を立ち上げた1995年、当時ブランド名はPRESTONだった。その時代から継承されているアルミニウム素材を用いた「A-9」だ。
「本質的にアルミニウムは硬く、プラスチックは柔らかいということではありません。アルミニウムは柔軟性と反発性を兼備しているので、正確性が高く反応がよいバインディングを作ることができます。A-9のフレックスは硬めに設定されていてハイエンドなバインディングに仕上げていますので、確かなフィーリングを求めるライダーにオススメ。ボード同様、硬い・柔らかいについては好みの問題なのです」
では、何をもってジェンダーレスと言えるのか。リンバーグ氏はさらに続ける。
「ボードやバインディングのフレックスはとても重要ですが、それらの曲がり方は筋力や性別よりも体重によって決まります。そのため、ユニセックスのボードではサイズに合わせてフレックスを段階的に微調整しているのです。長いボードは硬めに、短いボードは柔らめにフレックスが設定されています。それらの効果により、性別問わず体重が軽いライダーは短めのボードを選択することで心地よいフレックスを得ることができ、反対に重いライダーは長めのボードがフィットする。バインディングにも微調整が施されていて、サイズにマッチするようにハイバックの大きさを変えています。小さいサイズのバインディングには短いハイバックが搭載されているので、身体のサイズに合わせてよりフィットするようにデザインされているのです」
加えて、PODSテクノロジーの採用により、特に雪面が硬い場合のライディング中に生じる高周波の振動を和らげる。中空のウレタン素材のPODSがフットベッドに設置されており、衝撃などから足にかかる負担を軽減するのだ。
脚力などフィジカル差を前提に男女別で展開されてきたスノーボード業界の常識を覆す、RIDEの新提案。ジェンダー平等が叫ばれている今、女性がクールなグラフィックのボードに乗れるなんて素敵な話だ。
これが2021-22シーズンにRIDEが贈る新たなるプロジェクト、オールジェンダー・コレクションの全貌である。