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カーボンを緻密に調整することで世界レベルのライディングを支えるYONEXのボードたち
2023.12.22
本記事では、昨シーズンコンペティションから離れていた間に冨田せなが搭乗していたウィメンズモデルのフリーライドボード「GRACE」、昨シーズンのFIS(国際スキー・スノーボード連盟)ワールドカップ(以下、W杯)ビッグエア最終戦で3位入賞を果たし鮮烈なデビュー戦を飾ったアップカマー、木村葵来(きら)の相棒「STYLAHOLIC」、そしてハーフパイプ種目でお馴染み、戸塚優斗が中学生の頃から乗り続けている「REV」の3本について、彼らの言葉を借りながら取り上げる。YONEXにしか生み出せないテクノロジーがふんだんに盛り込まれたボードたちの全貌をお届けする。
YONEXの技術力によって生み出された革新的なテクノロジー
テニスやバドミントンで使用されるラケットやゴルフクラブの開発過程において、YONEXはカーボンという素材が持つ特徴を見出してきた。数ある性質のなかでも、とりわけスノーボード開発に関わってくるのが「反発性」「軽量性」「耐久性」の3つだ。そのうち反発性という部分はそのまま、フリースタイルアクションの自由度に関わってくることは想像ができる。高反発であるということはすなわち、同じポイントからでもより高く空中に飛び出し、エアタイムを稼ぐことができるということ。
そして、この反発性によって生み出されたエアタイムを最大限に活かすために、YONEXのボードは軽量化にもこだわっている。カーボンとともに、その象徴になっている素材が「アラミド・ハニカムコア」だ。高強度と軽量性を併せ持った蜂の巣状の素材で、本記事で紹介する3モデルすべてに採用されている。例えばGRACEにはこの素材を活用した「CENTROid」という構造が採用されており、敷き詰められたハニカム素材によってノーズ部分の軽量化に成功している。パウダーでの浮力を確保するためにノーズが大きく(=重く)なっている多くのフリーライドボードとは違い、前後の重量バランスが均等に保たれているというわけだ。
そのうえでYONEXの技術力は、先述のカーボンとハニカムを組み合わせることによって、さらに革新的なテクノロジーを生み出すに至った。それがSTYLAHOLICやREVに採用されている「CRIC(遠心力軽減コア)」という構造だ。
ノーズとテールの先端までハニカムを敷き詰め、ボード中心部にはそれぞれのモデル用に調整されたカーボンチューブを通す。これによりスイングウエイトを軽減しながら、反発力を高めることが可能になったのだ。ライダーたちの技術は進化を続け、コンペティションシーンではトリックの高難度化が進んでいる。その影では数々の職人の手によって、カーボンボードだからこそ可能な、乗り味の緻密な調整が行われているのである。
まるでフリースタイルボードのように扱えるフリーライドボード「GRACE」
北京五輪ハーフパイプで、日本女子スノーボード界初となるフリースタイル種目でのメダリストとなった冨田せな。大会には出場せず休養中としていた彼女の姿は昨シーズン、パウダースノーに溢れた裏山にあった。普段搭乗しているフリースタイルボードからGRACEに乗り換えてパウダーライディングを楽しんだ彼女は、このフリーライドボードをどのように評価するのか。
「普段ハーフパイプを滑っているときはSLEEKというモデルに乗っているんですが、昨シーズンはこのGRACEに乗って撮影する機会があって。ほかのフリーライド系のモデルも試したんですが、GRACEが一番、普段乗っているボードに近い操作感でパウダースノーを楽しむことができたんです。普段と変わらないポジションでパウダーを滑りたいと思っていたので、とても気に入りました」
先述のとおり、ノーズにハニカムを敷き詰めたCENTROidという構造が、このGRACEやメンズモデルのGLIDEに採用されている。パウダーライディング時に浮力を得るためにノーズが長く広く設定されているボードを扱うためには通常、テール寄りにスタンスを置く必要があるが、GRACEの場合、ノーズは十分な浮力を得られる形状ながら、前後の重量バランスが均等に保たれている。そのため、ニュートラルなポジションでライディングを楽しむことができるわけだ。
「ウエスト幅がSLEEKとあまり変わらないことに加えて、ノーズが軽いおかげで、反応も見た目より全然いいんです。タイトなツリーランに入ることもあったんですが、操作性がいいので身体を大きく倒し込まなくても行きたい方向に行けるし、細かい動きもやりやすいと思います。一枚のボードで全部を楽しみたい!っていう人にはぴったりのボードだと思いますね。YONEXは競技用のモデルばっかりでしょ、って一緒に滑るお客さんとかにもよく言われるんですが、GRACEみたいな遊び心のあるモデルもあるので、ぜひ試してみてほしいです!」
フリースタイルを愛するスノーボーダーの相棒「STYLAHOLIC」&「REV」
「このボードは反則級に扱いやすいモデルだと思っています(笑)。僕が力を入れているビッグエア種目やスロープスタイル種目のジャンプでは、抜けの瞬間が一番大事になってくるんです。回転力を作るキッカケを、どれだけ力を逃さずに作れるか。その点、STYLAHOLICはとにかく軽いので、回転の初速が作りやすいんですよね」
つい先日、中国・シークレットガーデンで開催されたW杯ビッグエア第2戦にて、コンテスト史上最高難度の大技、スイッチバックサイド・クワッドコーク1980をメイクした葵来。ライダーによって得手不得手はあるものの、もっとも難しいとされるスイッチバックサイド方向へ5.5回転するための回転力を生む難しさは想像に難くない。葵来はこのトリックを決めて同大会3位入賞を果たし、結果として、FIS大会の年間王者の証であるクリスタルグローブをも手にしている。世界トップレベルのフィールドで戦う葵来を支えるテクノロジーこそが、STYLAHOLICに採用されているCRIC構造なのだ。
では、低回転でスタイリッシュに宙を舞うときやジブアイテムをコスり抜くとき、STYLAHOLICはどのような挙動を示すのだろうか。
「ボードの軽さは空中に飛び出してからも常に感じています。例えば、大きいキッカーで余裕を持ってフロントサイド360を回すとき、空中でボードを引きつける動作にストレスがないんです。ほかのフリースタイルモデルに比べてウエスト幅は広めなんですが、トーションが調節されているおかげで捻りも加えやすい。だから、ピークで前足をポークするような動きも作りやすいんですよね」
STYLAHOLICと同じくCRIC構造を採用し、さらに反発力と衝撃吸収力を高めるために新次元のカーボン素材を使用しているモデルがREV。現在22歳の戸塚優斗が中学生の頃から愛用しているボードだ。
「無駄な力を抜いて滑る今のスタイルが成り立っているのは、REVの反発力のおかげです。リラックスして滑っている自分の身体に、ボードがついてきてくれるような感覚を得られるんですよね。ハーフパイプの抜けの瞬間はもちろんすごくアシストを感じるし、例えば、ゲレンデでターンをトウからヒールへ切り替えるときなんかも、ボードが跳ねるくらいの反発が返ってきます。踏めば踏むほど気持ちいい反発が返ってくる感じですね」
パンピングを繰り返しながらカービングを刻み、左右に並んだR地形でヒットを繰り返すハーフパイプ。REVが生み出す反発力と、脱力状態からメリハリをつけて空中に飛び出す優斗の爆発的なオーリーが組み合わさり、優雅な空中遊泳が生まれるわけだ。この反発力はもちろん、一般スノーボーダーが滑るフィールドでも十二分に効果を発揮する。優斗が語るとおりカービングターンではもちろん、ゲレンデ内の小さな地形をキッカケにしてオーリーを仕掛けるときには、高い反発力でより高い自由度を得ることができる。
「YONEXというとラケットとかのほうが有名だと思うんですが、実はスノーボードのカルチャーにもすごく寄り添ってくれるブランドなんです。ライダーとブランドの距離がかなり近くて、僕たちの意見がプロダクトにしっかり反映されています。最近はウエアのラインナップにも太めのシルエットのものがあったり、ライダーやユーザーのリアルな意見を汲みとって進化し続けるブランドだと思います」