FEATURE
平野歩夢が子供たちに“夢”や”挑戦”について語った「UNIQLO LifeWear Day 2023」ルポ
2023.03.14
さる3月5日、平野歩夢が幼少期に足繁く通ったハーフパイプを有する山形・小国町の横根にて、「UNIQLO LifeWear Day 2023 with Ayumu Hirano」が開催された。UNIQLO(ユニクロ)がグローバルブランドアンバサダーを務める歩夢とともに、次世代育成を目的として実施したイベントである。本イベントには、小学4年から中学1年までの選ばれし17名が保護者同伴でエントリー。会場に到着すると、キラキラと目を輝かせた子供たちが一堂に会していた。
歩夢と一緒にセッションできる“夢”の時間
個々に参加していたので最初は表情が硬かったが、徐々に打ち解けていく子供たち。夢を掴みとった彼らを見ながら、歩夢の当時を回顧してみる。2008年に兄・英樹が東京ドームで行われた国際大会に出場した際、上京したのが小学4年だ。選手控室でショーン・ホワイトと兄とともに記念撮影した写真がよくテレビなどで使われているが、あの年である。
2011年3月に行われた今はなき伝統の一戦「BURTON US OPEN」にて、ファイナリストの公開練習中にスターターが許可した人間だけ滑ることが許されるポーチャー(侵入者の意)ランという文化がアメリカにはあるのだが、そこで12歳とは信じがたいハイエアを披露したことで、アユム・ヒラノの名が初めて世界へと轟いた。それを契機としてグローバルライダーとしての活動をスタートさせ、同年6月に米カリフォルニア州のOAKLEY本社で歩夢と初対面。後に人見知りだったからという事実を知ることになるのだが、鋭い眼差しで筆者を見ていてことを今でも鮮明に記憶している。それが中学1年の歩夢だった。
憧れの存在から後にライバルとなるショーンと出会った小学4年、そして、世界を股にかけてライダー活動を行うようになった中学1年。歩夢少年が乾いたスポンジのように、ライディング技術はもちろん、夢に対する考え方などを急速に吸収していた多情多感な時期だ。「みんなにひとつでも力になれるようなアドバイスを僕からできれば」とイベントのオープニングで歩夢が語っている姿を見ていると、初となる子供向けのイベントが横根で開催されている感慨深さを覚えた。
午前中は45分間のライディングセッションが2回行われた。最初は戸惑っている様子もうかがえたが、すぐに子供たちに声をかけ、アドバイスをしたり一緒にパイプランを楽しんでいた歩夢。筆者は午後に行われるトークセッションのゲストとして招かれていたため、ライディングセッション中もMCとともに会場を盛り上げるためにマイクを握っていたので、歩夢と言葉を交わす機会があった。その中でも特に、参加者たちのラインどりについて多く言及しているのが印象的だった。
少年時代、ここ横根で父・英功さんにパイプ内のラインどりについて厳しく指導されていたことを、以前インタビューで聞いたことがあったからだ。このラインどりの正確性こそが歩夢の真骨頂である。それに加えて、スケートボードのバーチカルで培ったテイクオフのスキルが相まって、ハーフパイプで爆発的なエアの高さを生み出しているのだ。イベント当日、幼少時代にラインどりを習得するためにバインディングを外すことなくロープトウを利用して、一日に300本滑ることもあったと吐露していた。
「限られた時間だったのであっという間にライディングセッションが終了してしまいましたが、子供たちが真剣に取り組む姿や楽しんでいる姿は、とても刺激になりました。ツネさん(横根のハーフパイプ責任者・高橋恒行氏)のパイプでセッションできたこともうれしいですね」と後日、歩夢はコメントを述べてくれた。
“挑戦”し続けることで育まれた歩夢の人生観
午後は会場を屋内に移して、“夢”や“チャレンジ”をテーマに歩夢が自身の体験を語るトークセッションが行われた。この模様はインスタライブで配信され映像がアーカイブされているので、気になる方はInstagramの uniqlo_ambassadors アカウントよりご視聴いただきたい。
彼の地元である新潟・村上から車で1時間弱の距離に横根はあり、その道中を思い出しながらこの日は自ら運転してやって来たと語っていた歩夢。40分超に渡って、終始真摯に語りかけている姿が印象的だったのだが、子供たちの笑いを誘う場面も。厳しい父の指導は移動中の車内でも行われており、失敗した日などは帰路に着く際、ルームミラーに映らないように身を潜めていた話など、普段知ることができない彼の一面を垣間見られる場面もあった。
環境問題について考えるサステナブルトークセッションも行われ、歩夢も子供たちとともに学んだ。イベント終了後、快く子供たちのボードやビブスにサインを書き、一人ひとりにフィストバンプ(グータッチ)している姿が印象的だった。
トークセッションについて振り返ってもらうと、次のように語ってくれた。
「参考になったかどうかはわかりませんが、自分がやってきたことや感じてきたことが少しでも伝わっていればうれしいです。温暖化についてのトークセッションもなかなかない機会だったので、勉強になりましたね」
少しどころか、十二分に伝わったに違いない。
歩夢が日本人スノーボーダーとして茨の道を掻き分け、ここまで上り詰めることができたのは間違いなく、オリンピックで金メダルを獲るという“夢”を持ち続けたこと。そして、スケートボードとの二刀流も含めて“チャレンジ”し続けたことにほかならない。
歩夢が夢に向かって歩み続けた道のりに前例はなかったが、今のキッズたちにとっては明確な目標がある。それを次の世代に伝えることができた歩夢にとっても、貴重な時間になったのではないか。
こうして、「UNIQLO LifeWear Day 2023 with Ayumu Hirano」は幕を下ろした。歩夢の滑りを生で見て、言葉を交わした17名のキッズたちの中からオリンピアンが誕生するのかどうかは知る由もないが、彼らの人生を変える大きな転機となったのではないか。
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)