FEATURE
【連載Vol.1】スキージャム勝山に秘められたポテンシャルを雪山を知り尽くす中山悠也が引き出す
2024.03.02
本州でもトップクラスのパウダースノーを味わえるワケ
日本の冬は西高東低の気圧配置となり、雪雲は日本海側からやってくることが多い。そのため、日本海にほど近いエリアに雪雲が訪れるときには、まだ水分を多く含んでいるため、重く湿った雪が降る傾向にある。しかし、日本海から40km程度しか離れていないにも関わらず、福井県勝山市に位置するジャム勝は、不思議とこの法則に当てはまらない。
「海までそんなに離れていないのに、なぜか本州の内陸部と似た雪が降るんですよね」
こう語ってくれた中山は、内陸部特有のドライパウダーを求めて、現在は全国屈指の豪雪地帯である群馬・水上エリアでライディングを楽しんでいる。しかし過去には、ジャム勝と同じく海に近い、新潟・妙高エリアをホームにしていたこともあるため、その違和感を敏感に感じとったようだ。
「昔滑っていた妙高と(ジャム勝は)海までの距離があまり変わらないはずなのに、雪はむしろ、今メインで滑っている水上に降るものと似ているんです。乾いていながらも踏みごたえはあって、ボードのコントロールもスムースで気持ちいい感じ……。不思議だったので今回撮影にご同行いただいたパトロールの方に伺うと、どうやらジャム勝には北東の風がよく吹くらしいんですよね」
風は通常、気圧が高い方から低い方に向けて吹く。ジャム勝と日本海の位置関係だけを見ると、北西からの風に乗って雪雲がやってきそうなものだが、実際には能登半島がある北東方向から風がよく吹くというのだ。スノーボードやサーフィンに精通する気象予報士・唐澤敏哉氏によると、ジャム勝に降る雪が内陸部に匹敵するほど良質である理由は、まさにここにあるそう。
「ジャム勝から見て北西方向に浄法寺山(標高1,053m)がある影響で、北西からの風はジャム勝がある法恩寺山(標高1,357m)には入りにくいんです。むしろパトロールの方がおっしゃるとおり、統計的には北東からの風がよく吹いています。北東方向に岐阜・白山から流れる手取川や手取湖があるので、その渓谷に沿って風が入ってきているようですね。そして、この方向には白山はもちろん、多数山々が存在するため、それらを越える間に、大気中の水分が飛ばされるワケです。周囲を山々に囲まれていることで、局地的に内陸的な気候になっているんですね」
西日本の沿岸部に位置しながら、内陸部のような豊富で良質な雪に恵まれているジャム勝。この雪が、次章以降で紹介するフリーライディングに最適な2つのエリアを支えているわけだ。
スノーボーダーに人気のファンタジーサイト
ジャム勝はボトム側から「バラエティーサイト」「ファンタジーサイト」「イリュージョンサイト」と名づけられた3つのエリアで構成されている。なかでもこの章で解説するファンタジーサイトは、スノーボード初心者から上級者までもが満足できる、懐の深いエリアだ。ファンタジークワッドリフトを降りて左側のファンタジーAコースと右側のファンタジーBコースは、どちらも横幅が広く、点在する壁地形に当て込みやすいコースになっている。
ファンタジーA、Bともに平均斜度は11°と、比較的なだらか。幅広のコースであることも相まって、カービングやグラトリには最適だ。なだらかとはいえ、このエリアのトップも標高1,240mほどあるため、ボトムに比べると気温は下がる。レイヤリングは怠らないようにしよう。
ここで特筆すべき地形はふたつ。中山がのちに「ひし形法面」と名づけた、ファンタジーAとBの境目に位置するコースギャップだ。ライダーズライト方向に伸びるファンタジーAは谷側に落ちていくが、レフト方向のファンタジーBはあまり斜度がついておらず、結果、そのコース間に大きな法面が生成される。
「あの法面はかなり面白くて、いろいろな遊び方ができると思います。地形に沿ってターンしてもいいし、上からドロップオフや下からスピードをつけて飛び出してもいい。ひし形の壁みたいになっているので、ヒットするポイントで違ったトリックチョイスができるのも楽しいですね。フリースタイラーが好む地形です」
この法面は日が当たりにくい北を向いているため、日中溶けた雪が夜に冷えて固まって、氷の壁になる……といったことが起きづらいのもうれしいポイント。全体的に斜度がなだらかでヒットポイントが点在しているため、降雪がなくとも楽しいファンタジーサイト。朝イチからアクセル全開でカービングを楽しんだのち、ひし形法面もヒットしてみてはいかがだろうか。
最奥部のイリュージョンサイトはツリーランが魅力
人気のファンタジーサイトに比べると上級者向けの斜面が多く、雰囲気がガラッと変わる。法恩寺山のトップを含むイリュージョンサイトへは、ファンタジーBをライダーズレフト方向に落とし、イリュージョントリプルとイリュージョンクワッドリフトを乗り継ぐことでアクセス可能だ。
「降った日はファンタジーでも『けっこう雪が軽いな』なんて思っていたんですが、イリュージョンはさらに標高が上がることもあって、より雪の軽さを感じました。場所によってはかなり溜まっているところもあって、探せば20~30cm程度の新雪でも、底突きしないポイントを見つけられると思います」
イリュージョンサイトの目玉といえば、個性的な3つのツリーランコース。斜度もありスリリングな冒険を楽しめるツリーランAコース、イリュージョントリプル乗車中に左手に見える森の中を滑走するツリーランBコース(23-24シーズンは雪不足につき営業なし)、比較的なだらかな杉林に今シーズンからオープンしたツリーランCコースの3つが用意されている。なかでもツリーランBは、BURTONのレジェンドライダーとして知られるデイブ・ダウニング監修のもとにオープンしたコースなので、十分な積雪がありオープンとなった際には、ぜひともそのポテンシャルの高さを確かめてみてほしい。ツリーランコースに入る際にはヘルメットの着用が義務づけられているため、西日本随一のツリーランを味わいたい者は準備を忘れずに。現地でANON(アノン)のヘルメットをレンタルすることも可能だ。
「ツリーランAとCで大きく違うのは、斜度と生えている木の種類。ツリーランCは降りすぎると滑りきれずに止まってしまうくらいなだらかなので、残雪で楽しむのがよさそうですね。ツリーランAは落葉樹のブナやカバの木が多かったので、より光が入ってきて幻想的な雰囲気の中でライディングを楽しめると思います」
本記事のアイキャッチを飾る写真も、ツリーランA内で撮影されたもの。先述の西日本沿岸部だとは思えないクオリティのドライパウダーが本領を発揮するコースでもあるので、降雪のタイミングを狙ってぜひ訪れてみてほしい。
写真やコメントのとおり、ジャム勝でフリーライディングを楽しみ尽くした中山。実はこの日、ふたりの小学生の子供を含む中山ファミリーで来場していた。なぜならジャム勝では、ファミリーでステップアップしながらスノーボーディングを楽しむことができるから。次回は中山ファミリーがジャム勝で過ごした1日を振り返りながら、家族連れにうれしい、ジャム勝のホスピタリティを紹介する。
photos: Daisuke Shibata
text: Yuto Nishimura(HANGOUT COMPANY)