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サイドカントリー天国「ルスツ」はゲレンデもホテルもランドスケープも超一流だった【SIDECOUNTRY HEAVEN Vol.4】
2023.03.01
その翌日。凌稀の彼女であるサーフスケーターの高橋里菜(リナ)が合流。ここまで、サイドカントリーとウエスト(West Mt.)の尾根沿いにそびえ立つ尻別岳のヘリスノーボーディングと、パウダーライディングに特化した内容でお届けしてきたわけだが、雪質のよさはもちろん、コースバリエーションも豊富なことから、ゲレンデライディングも十二分に楽しめる。さらに、ホテルやレストランなど付帯施設も充実。
最終回となるVol.4では、パウダースノーだけじゃない、ルスツの魅力に迫る。
美しいグルーミングと地形遊びで上達が加速
「普段はパウダー狙いが多いですけど、この日は朝からリナと一緒にグルーミングバーンを滑りました。とにかく気持ちよかったですね。ずっとストリートでの撮影が続いていた時期で、身体がバッキバキになるくらい疲れていたんですけど、一日家で休んじゃうと逆に疲れちゃうんですよ。だから、撮影ではなくてただただ自由に滑るスノーボードがしたくて。それを実現できるのがルスツなんです」
先に紹介したVol.1の記事内で、ニールが語っていた言葉を思い出す。日本のゲレンデは斜面をフラットに削ってしまうコースが多いように感じるが、ルスツは斜度変化を上手くコースに反映させている。さらに、海外の会社がゲレンデの設計を行っており、斜面の起伏を3Dマップに起こしたうえで木を伐採してコースを設定しているから滑りごたえがあるのではないか、という内容だった。
それを理解していたうえで筆者も滑ったのだが、まさにうねるような3Dのスロープを駆け抜けることができた。高速域でも恐怖心よりも高揚感を覚えながら、ただカービングターンを刻んでいても飽きることなく、むしろスリリング。グルーミング技術の高さとこだわりが凝縮されているように感じられた。
「スノーボードは始めたばかりなんですけど、グルーミングバーンがキレイでコース幅が広いので、とても滑りやすいですね。コースのバリエーションも豊富。パウダーが残っていることが多くて、ツリーランにもチャレンジできるのが最高です!」
このようにリナは語ってくれた。神奈川・湘南エリアで生まれ育ちサーフィンを始め、その後はフィリピンに拠点を移すなどして、スケートボードが融合したサーフスケーターとして名を馳せているリナは、ルスツでスノーボーディングに磨きをかけているようだ。
「パウダーの日はスーパーイーストをまずは狙って、シュガーボウルにはマッシュがたくさんあるから面白いって話をしましたけど、そこからフリコ沢コースに合流するとライダーズライトに壁や起伏が育っているんです。そこで地形遊びをしながらイースト第2ペアリフトの乗り場までたどり着けるから、その一連の流れがすごく楽しんですよね」
凌稀のライディディングをニールが追い撮りする姿を見ながら、自分が滑っていることを想像してみると、途中でトリックバリエーションのネタが尽きてしまうほど連続するヒットを、凌稀は気持ちよさそうに流していた。パウダーだけじゃない、グルーミングも地形遊びも楽しめるルスツの魅力を、改めて思い知らされることになった。
海外を彷彿とさせる高級リゾート感
現在道内に住んでいる凌稀とリナは、普段は日帰りでルスツでのライディングを楽しんでいる。ナイターを滑ることもあるそうだが、ウエストに隣接しているルスツリゾートホテル&コンベンションに宿泊するのは初めてだった。
「日本でしか味わえないナイターを滑れるし、プロジェクションマッピングがあったり、いいですよね。ホテルの中にバーやカフェ、日本食や中華、居酒屋まであって。ファストフードから高級レストランまで、かなり充実しています。寒い外で飲み食いするよりもホテルの中で完結できるルスツは、ものすごく調子いいなと思いましたね」
その中から今回のトリップでは、ノースウイング1Fに位置する北海道ブッフェのオクトーバーフェストをチョイス。北海道の旬の味覚をブッフェスタイルで楽しめる。
「食事が美味しいのはもちろんなんですけど、人形がダンスする演出があって、その雰囲気がすごくいいなと思いました。子供がいたらめちゃくちゃ楽しいだろうな、って」
リナも凌稀と同様に、レストラン内の雰囲気が素敵だったとしたうえで、「シェフが焼いてくれたお肉が美味しかった」と付け加えてくれた。
ほかにも、身がぎっしりと詰まったズワイガニの食べ放題や、ルスツファームの羊肉や海鮮を目の前で焼いて提供してくれるChef’s Kitchenコーナーなど、執筆していると思い出してヨダレが出てしまうほど美味だった(笑)
食事を終えた凌稀とリナは、クラフトビールが楽しめるパブ、クリケットへ足を運んだ。サウスウイング1Fにあり、凌稀はナイターを滑るときにいつも、クリケットの脇を通ってゲレンデへ向かっているんだとか。
「クラフトビールが好きなのでクリケットで飲んだことはあったんですが、コロナ禍だったこともあって全然雰囲気が違っていて。今回は(カナダ)ウィスラーのビレッジにあるバーを思い出すくらい外国人がたくさんいて、かなり盛り上がっていましたね。ジャズの演奏がめちゃくちゃよかった! ルスツで作っているクラフトビールがいろいろ楽しめるので、飲み比べは面白かったですね」
「海外から多くのゲストが来ていて、なんか外国にいるような気分になりますね(笑)」とリナはつぶやきながら、明日のライディングに備えて凌稀とともにクリケットを後にした。
絶景を臨むサイドカントリー天国
「今回のトリップでは、リナと一緒に最高の時間を過ごせました。ライディングが楽しいのはもちろんですけど、この撮影のときはちょうど晴れ間があったので、イゾラ(Mt. Isola)から見える羊蹄山と尻別岳の並びが素晴らしかったですね。パウダー狙いの日が多いからか、雪が降っていたりガスっていたりすることが多くて、晴れているルスツにあまり当たったことがなかったこともあって」
蝦夷富士と呼ばれる標高1,898mの羊蹄山、そして、尻別岳は本連載Vol.2「『ルスツ』のヘリで生ける伝説・テリエと尻別岳を滑り“神”になれた日」の舞台。円錐形の美しい山々は、非常に画になる。
「洞爺湖に泊まりで遊びに行ったりもしますが、ルスツから見ると絶景でしたね。樹氷もそうだし、ウエストから見た夕陽もヤバかった。オレは景色を見るのがめっちゃ好きなので、強風が吹いていましたけど、ずっと見入っちゃってましたね(笑)」。
ライディング写真を撮影するうえで、クールな滑りを彩るランドスケープは非常に重要だ。それは、一般スノーボーダーがライディングするうえでも同じこと。非日常的な空間に身を置き、横乗りを楽しめるのがスノーボーディングの醍醐味。だからこそ、そのロケーションはとても大切だ。
筆者は10年以上ぶりにルスツを訪れ、その真価をまざまざと見せつけられた。凌稀が言うように宿泊、温泉、飲食がすべて完結できるホテルに滞在し、イゾラ、イースト、ウエストと表情の異なる三山を楽しめ、そして、ツリーエリアが開放されているサイドカントリー天国を存分に味わえる。Vol.3で述べたように、本トリップでは降雪には恵まれなかったが、豪雪のタイミングでルスツに来ていたらどうなったのか──。
それは来シーズンのお楽しみということで、筆を擱くことにする。
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photos: Neil Hartmann