BACKSIDE (バックサイド)

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SPECIAL

ウィスラー仕込みの滑りで魅せる小川凌稀が「ルスツ」に足繁く通う理由【SIDECOUNTRY HEAVEN Vol.3】

2023.02.10

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元旦から北海道北部のストリートに繰り出し、寝る間も惜しんで休むことなく撮影に精を出していた小川凌稀。言うまでもなく、日本のストリートシーンを牽引するひとりであり、RIDE SNOWBOARDS(ライド スノーボード)のグローバルチームに所属するなど、世界から認められている数少ない日本人プロスノーボーダーだ。
 
凌稀は高校時代をカナダ・ウィスラーで過ごした。日本の雪山とは比較にならないほど広大なゲレンデでフリーライディングに磨きをかけながら、パウダースノーを撒き散らす日々。彼の地で鍛え上げられた滑走力を武器に、滑ることもスピードを出すこともままならないストリートで巧みなラインどりを描く。だからこそ、クールに己を表現しながらハンドレールやウォールを攻略できるのだ。
 
数年前に東京から北海道に移住した凌稀が足繁く通っているゲレンデ、それがルスツリゾートである。多忙なスケジュールの合間を縫って2日間だけ、凌稀はホームマウンテンに戻ってきた。滞在期間中、まとまった降雪はなかったものの、さすがはサイドカントリー天国。そのポテンシャルの高さを十分に証明してくれた。

パウダーデイの朝イチはイゾラを目指せ

1月上旬、ストリートの撮影から戻ってきた凌稀がルスツ入り。24時間以上撮影を行った日もあったそうで心身ともに疲労困憊の状態だったが、そんな疲れを一切見せることなく笑顔の彼がそこにいた。「息抜きしたいなと思っていたタイミングだったのでバッチリです!」と撮影がスタート。

 

RyokiOgawa_Car

「ルスツリゾートホテル&コンベンション」に到着した凌稀

 

2日間撮影を行ったのだが、冒頭で述べたようにフレッシュパウダーには恵まれなかった。しかし、本連載Vol.1「日本一の称号を持つゲレンデで30年以上滑り続ける男が明かす『ルスツ』の真価」で同リゾートの魅力を余すことなく語ってくれたニール・ハートマンが、フォトグラファー兼ガイド役として帯同してくれることに。凌稀とニールが初めてタッグを組み、パウダーハントに出かけた。
 
ルスツの全容については先述したVol.1の記事で濃厚に触れているので割愛するが、普段から凌稀はパウダーデイであればイゾラマウンテンから攻めるそうだ。具体的なコース名やリフト名が出てくるので、以下のゲレンデマップをチェックしながら本文を読み進めてほしい。

 

trail-map-winter

公式ページのゲレンデマップはこちらのリンクから

 

「雪が降ったら、まずはイゾラ(Mt. Isola)の奥のほうに行きますね。ヘブンリービューコースを滑りながら森の中を抜けていって、イゾラ第4(高速クワッド)リフトに乗ります。この森になっているところの沢も抜けられるので、森に入ってコースに出て、また森に入ってリフトに乗って戻るっていう流れで滑っています。非圧雪のヘブンリーキャニオンもよく滑りますね」

 

RyokiOgawa_HeelSidePow

降雪に恵まれずともこれだけのスプレーが巻き上がった瞬間。ルスツの雪質と凌稀のスキルによる賜物

 

ところどころ融雪が冷えたことにより硬くなっている雪面もあったが、北向きの斜面なので場所を選べば極上のパウダースノーが保存されていた。筆者も体験したのだが、降雪後であればパウダー食い放題マチガイナシ。凌稀が乗るというイゾラ第4クワッドリフトを利用して尾根を滑りながら、ヘブンリーキャニオンに向かって落とすことができるラインどりが無数にあるからだ。
 
また、ヘブンリーキャニオンはヘブンリーエリアを代表する非圧雪コース。イゾラの最深部にあたり、沢筋なので雪が溜まりやすく、1,850mもの長さのパウダーライディングが楽しめる。その分、競争率が高いことは言うまでもないだろう。ルスツの名物コースである。
 
本記事の撮影中はコンディションが芳しくなかったが、雪が積もると多くのマッシュが育つというシュガーボウルエリアも凌稀のお気に入りだ。イゾラとイースト(East Mt.)のピーク間にあるボウル状の地形である。
 
「朝イチのシュガーボウルにはよく行きます。雪が降るとマッシュが育っているのでけっこう飛べたりと、いろいろな遊び方が楽しめるんですよ。ここも人気のエリアなので、出遅れるとパウダーが食われている確率は高いですが、人が少なかったらめちゃくちゃ調子いいですね」

 

RyokiOgawa_Air

ベストコンディションではなかったため軽めのオーリーで浮遊感を楽しむ。ノーグラブでも画になる男

 

画になりそうなポイントを探すべく、シュガーボウル内を探索した撮影クルー。結果的に撮影に適したポイントを見つけることはできなかったのだが、シュガーボウル内をしっかりと見渡したことで、筆者はその全貌を見ることができた。イゾラからでもイーストからでもドロップすることができ、かなりの広範囲に及ぶボウル地形に点在する無数のヒットポイントは、まさしくサイドカントリー天国。さらに言えば、フリースタイル天国でもあった。


ルスツ最大斜度を誇るスーパーイーストを狙え

本トリップではウエスト(West Mt.)に位置する「ルスツリゾートホテル&コンベンション」に滞在していたので、イーストゴンドラ1号線から2号線に乗り継ぎ、一気にイースト山頂へ向かった。日帰りでパウダースノーを狙う場合は、イーストの麓にある駐車場を利用するのがおすすめ。ローカルライダーたちの大半はイーストを拠点に動いている。
 
「いつも最初はイーストゴンドラ(2号線)で上がっていくんですけど、パウダーだったらスーパーイーストを滑るのがめっちゃ好きなんですよね。でも、ここ数年はコロナ禍の影響なのかイースト第2ペアリフトが動いていなくて、フリコ沢コースを抜けてアクロス第1ペアリフトに乗ってイーストゴンドラでもう一度上がらないと、スーパーイーストを滑ることができませんでした。でも今シーズンはイースト第2ペアリフトが動いているから、かなり調子いい。さらにスーパーイーストコースが好きになりました。シュガーボウルに入っていけばマッシュがたくさんあって面白いし」
 
40°とルスツの最大斜度を誇るスーパーイーストは、大量の降雪後には最高の斜面と化す。ただし、降っていないときに行ってしまうとコブコブの超テクニカルな斜面なので注意が必要だ。
 
本トリップではスーパーイーストを攻めることは叶わなかったが、イーストの森の中を探索した。すると偶然にも、雪の重みで湾曲した白樺を発見。ジブを得意とする凌稀にはうってつけのアイテムである。

 

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ストリートに生きる百戦錬磨のジバーにとってツリージブは朝飯前

 

「今回は探検する感じでレインボーウッドを見つけましたけど、パウダーの日にはイーストビバルディとイーストティーニュの沢筋を滑ることもありますね。イゾラからイーストに戻ってきて雪の調子がまだよさそうなときは、最後にゴンドラで2本くらい流して帰る感じです」
 
パウダーラバーの多くはイゾラを目指すだけに、フリースタイルに遊びたいという人は、イースト第2ペアリフトで回しながら、スーパーイーストのパウダーを喰らい、マッシュを攻めるのがいいのかもしれない。
 
補足として、イーストにはパークが完備されている。中上級者レーンには8〜12mと5〜8mの2連キッカーが並んでおり、ジブアイテムも充実。3月になると15m級のビッグキッカーが出現する予定だ。また、地形を活かしたバンクレーンでは、パウダースノーやカービングターンを楽しみながら流すことができる。

 

RusutsuPark

エキスパート/イージー/バンクの3レーンを有するフリーダムパーク


ウエストで快適に極上パウダーを堪能せよ

「ナイターで行くことが多いんですけど、ウエストもオススメ。ファミリーや初中級者が多いから、パウダーが残っていることが多いんですよ。早い時間からイゾラを狙っているパウダージャンキーたちがイーストゴンドラで並んでいることが多いから、朝イチからウエストで滑るときもありますね」
 
先述したVol.1の記事では、イゾラとイーストのボリュームが多かったためウエストについて言及できなかったが、「ウエストはコンパクトですごくいい山なんです。東面なので北や西から風が吹くと雪が溜まりやすくて、コースマップを見てもらえればわかるように、ファミリーゲレンデかと思いきや、上級コースが多いんです。特にジャイアントコースは滑りごたえがありますね」とニールが語ってくれていたことを思い出す。

 

RyokiOgawa_ToeSidePow

リラックスしたライディングスタイルがパウダーでの浮遊感をより演出する

 

実際に滑ってみた感想としては、ウエストでも十二分に楽しめる。道外から訪れホテルに滞在しているのであれば、最寄りのゲレンデで極上パウダーを堪能し、ルスツリゾートホテル内に今シーズンよりオープンした「Névé Café」で美味しいコーヒーを堪能するルーティンも悪くない。ひと息ついた後でも、パウダースノーが余っている確率は高いだろう。

 

RyokiOgawa_Cafe

大きな窓から明るい陽射しが照らす、開放感溢れる「Névé Café」。窓際のカウンターには充電用コンセントが用意されているのもうれしい

 

ここまで綴ってきたように、ルスツはイゾラ・イースト・ウエストの三山から成るスノーリゾートだ。Vol.1の記事でも触れているとおり、ゴンドラ4基、クワッドリフト7基、ペアリフト7基が架けられていて、37コース、総滑走距離42kmというスケールを誇る。
 
10km超の最長滑走距離が売りのカナダ・ウィスラーで滑り込んできた凌稀にとって、ルスツをホームゲレンデに選択するというのは必然だったのかもしれない。サイドカントリー天国であることはもちろん、グルーミングバーンのクオリティも指折りであり、滑りごたえは国内随一だ。
 
「SIDECOUNTRY HEAVEN」最終回となるVol.4は、本記事の続編。凌稀がパートナーとともに、まだ語りきれていないルスツの魅力に迫る。

text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photos: Neil Hartmann, Jimmy Okayama

RUSUTSU RESORT | 公式ページはこちら

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