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「ルスツ」のヘリで生ける伝説・テリエと尻別岳を滑り“神”になれた日【SIDECOUNTRY HEAVEN Vol.2】
2022.12.23
2022年2月、“生ける伝説”と称されるテリエがルスツリゾートにやってきた。ルスツのWest Mt.(ウエスト)の延長線上にそびえ立つ、尻別岳を滑るためだ。ヘリポートから尻別岳山頂までをわずか2分で結び、1日最大6本滑ることができる。ルスツが誇る、夢のヘリスノーボーディングである。
この日、同リゾートのコンテンツクリエイターを務めるニール・ハートマンがビデオグラファーとして同行。スノーボード界の“神”と過ごした一日を振り返ってもらった。
尻別岳ってどんな山?
まずは尻別岳について説明しておくと、なぜヘリが着陸できるのかということなんです。実のところ尻別岳のピークが私有地だからこそ、ルスツのヘリスノーボーディングが実現できていることが最大のポイント。外国人はみんな「なんで羊蹄山でヘリをやらないのか?」って言うんですけど、日本の場合、国立公園や国定公園に指定されているとヘリは着陸できないですよね。
そして、尻別岳の標高1,107mがちょうどいいんです。本州とは違いますけど、北海道の場合はそれ以上の標高になると、かなり過酷なゾーンに入ります。ニセコアンヌプリのピークは1,308mあって、けっこうな確率でホワイトアウトするなど環境が厳しいんですよ。そのボーダーラインが1,300mくらいだと思うから、尻別岳はベストな標高だと言えますね。
そのうえで、山がコーン型だから東西南北、すべてにラインがとれるんです。どこでも滑れるから、その日の雪と天候を見ながら(滑るラインを)決めるんですけど、どの向きをとっても沢が2箇所くらいあって面白い。晴れてるときは南面から攻めて、次は東面、最後は北面みたいな感じで、1日6本も楽しめるんです。ガイドは北海道バックカントリークラブが運営しています。
これはオレが尻別岳をオススメする一番の魅力であり、ほかのヘリとの違いなんですが、トップ・トゥ・ボトムで滑れること。アラスカやニュージーランドの場合、標高はめちゃくちゃ高くてスケールもデカいけど、トップの氷河エリアを滑ることになります。でも、この尻別岳はピークから滑り出してスティープな沢を抜けて、最後は斜度が緩くなりツリーに入って道路まで出るので、ひとつの山すべてを滑りきったという満足度が高いと思うんです。みんなでセッションしながら滑り下りると、なんだかんだで1本あたり3、40分くらいかかるから、それを6本繰り返すとものすごい充実感を得られるんですよ。
あとは、晴れた日に尻別岳のピークに立つと、ルスツを眼下に海や洞爺湖が見えて、喜茂別町や中山峠もバッチリ拝めるので、すごく景色がいい。海外の場合、これほど雪が降る山は大自然というか、人間社会から遠く離れないと存在しないけど、北海道はその麓に人が住んでいるから町を見下ろしながら滑ることができる。そういったロケーションは、世界中を探してもかなり珍しいですよね。
そんな山で、テリエと一緒に滑ったんです!
テリエと過ごしたTHE DAY
前の日にがっつり降って、当日は晴れるという完璧な日でした。「今日は絶対いいよね!」って言いながらみんなで集合すると、ピットチェックから戻ってきたガイドの人たちの顔つきも興奮気味で、「腰くらい深いよ」って話を聞いてさらに盛り上がっていました。
朝集合してヘリに乗る前、ビーコントレーニングや装備の確認など講習があるんですけど、そのときのテリエがとても印象的でしたね。世界中で何百回とヘリに乗ったことがあるような人なのに、ガイドさんの説明のあとにテリエが、自身の経験を交えてバックカントリーでのリスクマネージメントについて一生懸命語ってくれたんです。スノーボード界のマイケル・ジャクソンみたいな人で、オリンピックをボイコットしたり、ゴッド・オブ・スノーボードと言われているビッグネームなのに、まったく冷めていないというか、むしろ熱く、一般スノーボーダーたちにしっかりメッセージを届けている姿勢に感銘を受けました。
「X-TRAIL JAM」でMCをやっていた頃からテリエと話すようになって、車団地に出てもらったこともあるんだけど、やっぱりすごい人ですよね。この日に新品の板をおろして1本滑ったら、「今日のコンディションだとこの板、ちょっと硬いな」って言っていて。面白いことに、このとき初めてHAAKON SNOWBOARDSに乗ったみたいなんですよ(笑)。そんなことをまったく感じさせない滑りでビックリしたし、オーラがめちゃくちゃありましたね。
オレたちが先に下りて、斜度がキツかったから彼からはその先が見えないシチュエーションがあったんですけど、「こういう地形だから左側をターンしてね」って指示を出したら、「だいたいオレのやりたいことはわかってるだろ?」って返事がきて。「ハイスピードなターンがしたいから、それができるところを指示出してくれ」という会話があったんですよ。ロケーションに合わせるのではなくて、自分のライディングスタイルが明確に決まっていて、この山でどれだけそれを表現できるのかどうか。こうしたテリエらしい場面が何度もあって、刺激的でした。テリエは顔にかかるパウダーターンはしたくないって話も飛び出して、面白かったですね。
ライダーたちは写真映えするようにと、よくヒールエッジを雪面に当て込んでパウダースプレーを巻き上げて、その中から出てくる動きをするじゃないですか。ああいうのは嫌いみたいで。だから、すべてハイスピードでターンを切って、思いきり引っ張る。スプレーがめちゃくちゃ遠くに出る感じになるから、自分にかからないというわけなんです。とにかく速いし、ライディングスキルの高さはもちろん、経験値が豊富だから、ラインを毎回確認したりする感じじゃなくて、もういきなり行くみたいな流れでした。アラスカやいろんな山を経験してきているから、尻別岳はかわいいものなんだなということなんだと思います。
最初のほうにも言ったように、ピーク付近はスティープな沢があって、そこから白樺やダケカンバが生えているツリーを縫いながら滑って、後半の斜度が緩くなったあたりにナチュラルハーフパイプがあるんですよ。そこを抜けると、細かいツリーランをしながら道路に出ます。ビッグターン、ツリーラン、ハーフパイプ、タイトなツリーランをこのトップ・トゥ・ボトムで味わえるのが尻別岳の面白さであり、テクニカルさでもあると言えるんですよね。いろいろな滑りができないと楽しめないこの山を、テリエが完璧に魅せてくれました。すべてがカッコよかった。
さらに特筆すべきは、1本目から最後まで、テリエのモチベーションの高さが変わらなかったこと。6本とも全開だったので、プロフェッショナリズムを感じさせられると同時に、本当にテリエはスノーボードが好きなんだなと痛感させられました。最後の1本は北斜面を滑っていたから日差しもなくて、そこまでコンディションがよかったわけじゃないんですけど、そこは羊蹄山をバックに入れて撮れるロケーションだったんです。羊蹄山には夕方の光がキレイに当たっていたけど、滑る斜面は日陰。でも、そのことをテリエは理解してくれていて、「ここ一番やりたいやつでしょ?」って言ってくれたんです。スピードをつけるためにハイクアップして「そこでターンするよ」という感じで、率先してやってくれました。やはりプロですよね。
テリエと一緒に滑ってみて、彼の行動には無駄がまったくありませんでした。すべての斜面を全開で楽しみ、緩斜面のツリーでも全力で遊ぶ。テリエから多くを学んだ一日でした。
神に近づけるヘリスノーボーディング
これまでにも尻別岳を登ったことは何度かあったんですけど、ヘリスノーボーディングを経験したことで、山のイメージがガラっと変わりました。リフトを使わなかったら3時間くらいでピークまで登れるので、かなり気合いの入った人なら2本行くのかな? わかりませんが、それは素晴らしい1本じゃないですか。その1本のためのプロセスがあるから、重みが違いますよね。
でも、ヘリは良くも悪くも人間を変える力があるというか。ハイクアップしていたときの自分と比べたら、ガイドがいてヘリで回して滑れるなんて、人間から神様にでもなったくらいの感じがしますね(笑)。かなり頑張って2本ハイクアップしたとしても、その3倍滑れるわけですから。3本滑ってランチを食べて、午後にまた3本滑る。もしハイクアップをしていたら、一つひとつのターンを味わうためにかなり刻むと思うんですけど、ヘリの場合はそれをしなくていいんです。大きいターンを3発だけでつなごうといったように、ターンに対する意識が大きく変わります。
テリエもそういう感じだと思うんですよね。ハイスピードでいくと、間違いなくターンの数は減ります。オレたちが10回ターンしているところを、テリエは3回でいくようなイメージ。それについては好みもあるかもしれないですが、尻別岳のヘリスノーボーディングはそれを味わえる。気軽に贅沢なビッグターンが楽しめる山なんです。スティープな斜面から木の間隔が広いツリーまで、ハイクだったら1日1本しかできないところを6回も繰り返すことができる。だからもう、みるみるうちにスキルアップできるんですよ。ハイクアップだとしたら、もしかしたら2本目は1ヶ月先になるかもしれないじゃないですか? 184,000円はもちろん高いと思いますけど、お金では買えない価値が、ルスツのヘリスノーボーディングにはあるんです。
尻別岳ヘリスノーボーディングの詳細・予約はこちらから
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photos: Jimmy Okayama
video: Neil Hartmann