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日本一の称号を持つゲレンデで30年以上滑り続ける男が明かす「ルスツ」の真価【SIDECOUNTRY HEAVEN Vol.1】
2022.11.29
国内外のスノーボーダーからも高い人気を誇るルスツは昨年、創業40周年を迎えた。そのうちの30年以上に渡りルスツで滑り続けているスノーボーダーが、本記事のナビゲーターを務める。フォトグラファーでありビデオグラファー、ムービーシリーズ『CAR DANCHI(車団地)』のディレクターとしておなじみのニール・ハートマンだ。1980年代中盤、まだスノーボードが世に知られていなかった時代に同リゾートでスノーボードと出会い、その流れで1991年に日本に移住したニール。現在は、ルスツのコンテンツクリエイターとして活躍している。
“サイドカントリー天国”とまで称されるルスツの隅から隅までを知る男が、その真価を余すことなく語ってくれた。
北海道が世界に誇るJAPOWの中でも極上級の雪質
北海道が世界に誇るJAPOWの中でも極上級の雪質
その姿が富士山に似ていることから「蝦夷富士」と呼ばれる、標高1,898mを誇る羊蹄山。北海道民が愛するこの山を境にして、世界に名を馳せるスノーリゾートが相対している。先述したアワードにおいて、2016年まで4年連続最優秀賞を受賞していた、ニセコアンヌプリ山の裾野に広がる4つのゲレンデを総称したニセコユナイテッド、そして、ルスツだ。車で片道およそ30分程度の位置関係なのだが、羊蹄山がそびえ立つことで、ニセコとルスツとでは天候が大きく異なるとニールは語る。
「西高東低の冬型が強まって北西の風が吹くと、ニセコには水分を含んだ雪がすごく降るんですよね。こういう場合、ルスツはニセコほどは降らないけど、西から寒気が入ってきたり南岸低気圧が通るときは、ルスツにけっこうな量の雪が降ります。ルスツの南には洞爺湖っていう大きな湖があって、その先に海があるんですよね。英語だと“レイクエフェクト(湖水効果雪)”って言うんだけど、海と湖からの水蒸気が雪雲を発達させて、それが山にぶつかって大量の雪を降らせるんです」
湖水効果雪とは、相対的に暖かい湖水の上に冷たい風が侵入し、暖まった空気が上昇するときに雪雲が発生して雪を降らせることを指している。また、北海道で大雪となるパターンは「①冬型の気圧配置による大雪」「②発達した低気圧による大雪」「③小さな低気圧による大雪」に分類でき、①の場合はニールが言うようにニセコほどは降らない。しかし、②で湿った南東の風が吹く場合、洞爺湖の西に位置するオロフレ山系などで強制上昇することで雪雲が発達し、③では冬型の気圧配置が緩み始めると北海道の西海上に小さな低気圧が発生する。②と③の場合、ルスツが降雪に恵まれるケースが多いということだ。
「シーズンによりますが、昨シーズンはルスツがかなりよかった。北のほうから来る冬型の北西風のときも、西寄りから入ってくる寒気のときも、ルスツはどっちも当たりました。南から低気圧が来たときはニセコや札幌エリアではあまり降らないけど、ルスツだけ降るんですよ」
西高東低の冬型でニセコエリアが荒れているときでも、ルスツは落ち着いていることが多いそうだ。羊蹄山を越えてやってくるその雪は、湿気が抜けてニセコよりもドライなのかもしれない。だからこそ、雪質は極上だ。
「札幌国際やキロロのピーク付近だと、30cmくらい積もっていないと底づきして、下のアイスバーンを拾ってしまうことがけっこうあるんですよ。でもルスツの場合、15cmくらい降ってくれれば十分にパウダースノーを楽しめる量。標高が高いエリアよりも雪質が少ししっとりしているから、スピードも出ますしね。北海道の場合、マイナス15~20℃くらいまで冷え込むと、雪の結晶がソールに刺さってしまって板が走らなくなるんです。ルスツの場合は、パウダーでもグルーミングでもよく走る雪質と言えますね」
雪は軽ければ軽いほどいいのかと問われれば、そうとは言い切れない。北海道の雪は当然、本州のそれと比較したら圧倒的にドライで軽いわけだが、その中でもルスツのように”踏みごたえ”がある雪のほうがスピードが出るし、気持ちよさを感じられるということである。
マッシュからツリーまで楽しめるサイドカントリー天国
マッシュからツリーまで楽しめるサイドカントリー天国
「ルスツはサイドカントリーをものすごく楽しめるリゾート。だからこそ、北海道のコアスノーボーダーたちから人気がありますね」
ルスツは三山で形成されており、下のマップの左からMt. Isola(イゾラ)、East Mt.(イースト)、West Mt.(ウエスト)となる。ゴンドラ4基、クワッドリフト7基、ペアリフト7基が架けられており、37コース、総滑走距離42kmという巨大スケールだ。もちろん、全山に前章で綴った上質のパウダースノーが降り積もるわけだが、本記事ではその中でも特筆すべき、イゾラとイーストに焦点を当てて展開する。下のマップだけでは詳細がわかりづらいと思うので、こちらにルスツ公式ページのゲレンデマップをリンクしておこう。
「本当に危ない箇所には立入禁止のロープが張ってあるんですけど、それ以外はツリーを含めて自己責任エリアとして開放されています。ハイクアップすることなく、リフトアクセスでパウダースノーが存分に楽しめる、まさにサイドカントリー天国です。
狙い目のパウダースポットは大きく分けて3つあって、ひとつはフリースタイルを楽しみたい人たちには通称「シュガーボール」がおすすめですね。イゾラとイースト、それぞれのピークの間にあるボウル状の地形で、マップだと尾根がすごく下っているように見えますが、そこまでではないです。スーパーイーストコースは最大斜度が40°あって滑りごたえ抜群なうえに、ライダーズライトのツリー内にはマッシュがたくさんあるんですよ。イゾラ側から落とすとラインがとり放題なので、かなり楽しめますね」
「長年ルスツで滑っている人たちには、それぞれのルーティンがある」としたうえで、とにかくフリースタイルよりもパウダーライディングを楽しみたいというスノーボーダーは、ホテルや駐車場から見ると最奥のヘブンリーをまっさきに目指すという。
「ヘブンリーキャニオンは完全に非圧雪。沢筋なので雪が溜まりやすくて、1,850mのロングランが楽しめます。北向きの斜面なので雪質は素晴らしいですね。コースのパウダーが喰われてしまってもヘブンリーリッジAコース(リッジとは尾根という意味)の尾根にイゾラ第4クワッドリフトが架かっていて、そのリフトで回して尾根を滑りながら、ヘブンリーキャニオンに向かってドロップできるラインが無数にあるんですよ」
ヘブンリーエリアを堪能したら、イゾラ第3クワッドリフトでピークを目指し、ヘブンリーよりも斜度があるイゾラAやBコースを狙う豪華ルーティンも組めるとのこと。今シーズンは外国人スノーボーダー&スキーヤーが大挙して押し寄せてくることは想像に難くないが、コロナ禍以前でもパウダースノーは十分に余っていたとニールは話す。
「やっぱりルスツは広いし、外国人がたくさん来たとしても山を覚えるまで時間がかかりますからね。あと、ここでは語りきれませんが、イーストにも面白いポイントがたくさん点在しています。
外国人と言えば、イゾラのスティームボートが大好きなんですよ。沢のど真ん中にイゾラ第1クワッドリフトが架かっていて、下に大きなガラス張りのオシャレなカフェテリアがあって、リフトに乗りながら両サイドの斜面がすべて見渡せるんです。この斜面を滑ることで、リフト乗車している人たちに魅せつけることができる。海外では“ハリウッドライン”と呼ばれていて、盛り上がるスポットです。
日本では線架下は滑走禁止のところが多いし、目立つところで滑ることを恥ずかしがる傾向があると思いますが、外国人たちは逆にそこで滑りたいんですよね(笑)。ルスツはそれを許容しているリゾートなんです」
パウダーに恵まれなくても超絶面白いグルーミングエリア
パウダーに恵まれなくても超絶面白いグルーミングエリア
私事で恐縮だが、筆者は米コロラド州ベイルリゾートに毎年、大会取材のため訪れていた時期がある。ホテルから会場まで滑って向かうのだが、毎朝、グルーミングマップがリフト乗り場に用意されているので、それをゴンドラ乗車中にチェックしながら滑るコースを選んでいた。193コースもあるため、圧雪されるコースが日ごとで変わるからだ。
ベイルのグルーミング技術は5つ星と評されていて、うねるようにして広がる3D状の雪面をハイスピードでライディングしていても、まったく恐怖感や不安感なく気持ちよく滑れた。これはまさしく、圧雪車オペレーターたちの技術力の賜物にほかならない。フラットな斜面で滑り続けていると物足りなく感じてくるという人は少なくないだろうが、日本のゲレンデではあまり体感したことがない3D状の起伏に富んだグルーミングバーンは、何度滑ってもスリリングで面白かった。
「30年以上前に策定されたルスツのマスタープランを見たことがあるんですけど、コース設計は海外の会社が行っています。当時としては最先端の技術を駆使して、斜面の起伏を3Dマップで起こしてから木を伐採してコースを設定しているみたいです。だから、コース内の地形が面白い。日本のゲレンデは斜面を削ってフラットにしているコースが多いように感じますが、ルスツは斜度変化を上手くコースに反映させているから滑りごたえがあるんじゃないでしょうか」
ベイルで感じたあのフィーリングを、ここ日本でも味わえるのかもしれない。しかし、複雑な地形であればグルーミングに高い技術が求められるはずだ。
「コース幅の違いによって圧雪車が何台通るか、もしくは1台で何往復もするケースがあると思いますが、そのつなぎ目が重要なポイント。そこで段差ができてしまうと、カービングターンをしていて引っかかるから気持ちよくないじゃないですか。ルスツの圧雪車オペレーターたちは、そのつなぎ目の部分に対するこだわりが強くて、ものすごく上手い。(ニセコ)ダウンチルのライダーたちはターンを追究しているからか、オペレーターたちとも仲がいいんですが、何曜日は誰々さんがあのコース担当だから今日はここから攻めよう、みたいな感じでやっていますよ」
その圧雪技術は、前日に入った幾多のトラックをキレイに整備するためだけのものではなかった。スノーボーダー心をくすぐる、あらゆる工夫が凝らされている。
「一番わかりやすい例を挙げると、イゾラCコースがすごいんですよ! イゾラ第2クワッドリフトをくぐったあたりから急に斜度がキツくなるんですけど、そこからすごく浅いハーフパイプのようにすり鉢状に整備されているんです。ものすごく大変な作業だと思うんですけど、両サイドにターンしながら振っていくと戻される感じが気持ちよくて、かなり面白いです。
そのまま滑り下りるとフリコ沢コースに合流するんですが、その手前にレギュラースタンスのバックサイド側にバンクが作ってあって。そのバンクに当て込んで、減速した状態で合流できるんです。楽しみながら安全が確保できるという、素晴らしいサービスですよね」
さらに、グルーミングバーンの延長線上にある壁地形などへのつなぎも、とても丁寧に整備されている。また、地形遊びをより楽しめるようなサービスも。
「フリコ沢コースを下りていくと、両サイドにいろいろと地形が育っていくんですよ。ライダーズライトにはヒップやバンクが点在していて、ライダーズレフトにもヒットポイントがいろいろあります。間違いなく自然の力だけじゃできないようなヒットポイントも何箇所かあって(笑)。一般的なゲレンデの場合、自然に育ったヒットポイントでも危ないからといって削ってしまうことがあると思うんですけど、ルスツはむしろ地形を育てて遊びやすくしてくれるんです」
極上のパウダースノーを切り裂きながらサイドカントリーを存分に楽しめ、仮に降雪がなかったとしてもグルーミングバーンで十二分に遊べる。ルスツリゾート、なんて懐の深いゲレンデなんだ。
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photos: Jimmy Okayama
video: Neil Hartmann