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REVIEW
平昌五輪のメダリストたちが青森で極秘シューティング!? BURTONツアー潜入記
2018.04.27
BURTON US OPENを終えたハーフパイプ競技のコンペティターたちは、多忙を極めたオリンピックシーズンも終盤を迎えると地元でゆっくりとした時間を過ごしているのかと思いきや、何やら青森に滞在しているという情報が舞い込んできた。平昌五輪で銀メダルを獲得した平野歩夢とリュウ・ジャユ(中国)、そして銅メダリストのスコッティ・ジェームス(オーストラリア)も来るとか、来ないとか。さらに片山來夢や平野兄弟も招待されており、BURTONが取引先を引き連れてツアーを行うことになったため、弊サイトがメディアとして指名を受けた。またとないこの機会、返事はもちろんイエス。急遽、青森スプリング・スキーリゾートに乗り込むこととなった。
なぜ世界のトップコンペティターたちが青森に?
“青森スプリング”と聞いてピントくる人は少ないのかもしれない。名峰・岩木山の北斜面に広がるゲレンデは日本海と津軽平野を眼下に、晴天に恵まれれば北海道を望むこともできる最高のロケーションを誇る。だが近郊在住でなければ、ここまで足を伸ばすのであれば北海道を目指すというスノーボーダーも少なくないだろう。
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まるで津軽平野に吸い込まれるようなロケーションでライディングを楽しめる
さらに、このゲレンデは古くは鰺ヶ沢という名でSAJ(全日本スキー連盟)全日本スノーボード選手権大会のハーフパイプ会場として知られており、2008-09シーズンよりナクア白神スキーリゾートに改称。その後、2015-16シーズンより青森スプリング・スキーリゾートに再び名称が変更されたことも浸透していない理由のひとつかもしれない。
しかし、2018年1月には平昌五輪ハーフパイプ日本代表の内定がすでに出ていた平野歩夢が極秘でトレーニングを行っていたという話や、同五輪女子ハーフパイプで金メダルを獲得したクロエ・キム(アメリカ)が韓国・平昌の地へ向かう途中に立ち寄った写真をSNSに公開するなど、多くのトップコンペティターたちが訪れているという情報をキャッチしていただけに、とても気になるリゾートだった。
すると、冒頭で綴ったように3月末~4月頭にかけて、平昌五輪で活躍したライダーやその仲間たちが青森スプリングに集結してイベントが行われており、そこにBURTONがお得意様であるショップを招いたツアーを実施するという話が舞い込んできたため潜入取材を試みることに。
羽田空港から青森空港へ向かい、そこからバスで揺られることおよそ1時間20分。高級な佇まいのロックウッド・ホテル&スパに到着した。日本百名山の麓に位置するこちらのホテルからも、眼前に広がる日本海の眺望を楽しむことができる。
チェックインを済ませ、東京から発送済みのギアたちを待ちながらゆっくりとした時間が流れ日が沈むと、1,700mのクワッドリフトが架かったナイターコース下部に位置するアスペンカフェでディナー&ナイトシュレッドという粋なイベントが。すでに現地入りしていた歩夢と片山來夢、歩夢の兄である英樹、弟の海祝、安藤南位登、小山内修平、アメリカからトビー・ミラーとゾーイ・カラポス、中国からリュウ・ジャユらゲストライダーたちと顔を合わせた。加えて2日後には、平昌五輪ハーフパイプ男子銅メダリストのスコッティ・ジェームスまでお出ましとのことで、本記事のタイトルが誇大コピーではないことにご納得いただけるはずだ。
青森スプリングのオーナーであるエダン・パーク氏の挨拶に耳を傾けた後は豪華ディナーが振る舞われ、お酒を楽しむ者もいればナイターコースでライディングする者もいるといったように、各々の時間を楽しんでいた。
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エダン・パーク氏(左)によるスピーチ。津軽弁ではなく英語ばかりが飛び交うグローバルなイベント
筆者はほろ酔いながら、3月末という季節を感じさせないハードパックなバーンでカービングターンを楽しんでいたのだが、実はこのロングコース、トップ・トゥ・ボトムでアイテムが常設されている超ロングなパークだったのだ。ナイターなので目の届く範囲は限られているものの、先述した豪華ライダーたちのライディングを観ながらBBQを楽しめるという特別な空間と化していた。アイシーなバーンでのカービング音は響き渡るため、ボトムにいるオーディエンスはライダーが来たのかと期待感を募らせながら見上げた瞬間に滑ってしまったときの気まずさといったら……想像に難くないはずだ。
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肉を喰らいながら來夢のテールブロックが拝める贅沢さ
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楽しそうにパークを流していたライダーたち
世界トップクラスのパイプセッション
勢い余ってホテル内の岩木カフェ・バーで深夜までアルコールに溺れてしまい、やや二日酔い気味で迎えた2日目。ライダーたちは前夜に発表されたチームごとにシューティングを行うことになっていた。歩夢&修平&ジャユ、來夢&海祝&ゾーイ、英樹&南位登&トビーの3チームに分かれ、各チームごとにゲレンデへと向かう。厳しいコンテストシーズンから解放されていた彼らだけに、ライディングを心の底から楽しんで撮影に臨んでいる姿が印象的だった。
複数名のフィルマーはもちろんドローングラファーも参加していて、さらにはライダーたちも積極的に追い撮りすることでフッテージを貯めていったようだ。国境を越えた三者三様のクルーが3チームあっただけに、彼らの表現方法はまったく異なっていた。どこにいるのかわからないうえに高速移動する彼らを撮影するのが大変だったことは言うまでもないだろう。
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來夢の軽快なバックフリップを、ゾーイと海祝がレイバックで華麗に演出
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朝イチだったのでウォーミングがてら軽めに宙を舞う英樹をトビーが追い撮り
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歩夢のステイルフィッシュを修平が追い撮りエア。ケガのため滑れないジャユは監督役?
とは言え、ハーフパイプを生業とする彼らだけに、最終的にはスーパーパイプに集まることは間違いない。なぜなら先述したように、歩夢やクロエが訪れるほどのハイクオリティを誇るスーパーパイプを完備しているのだから。
標高によってその表情を変えるコーンスノーを楽しみながらライディングに明け暮れていたショップスタッフの方々も、彼らのパイプライディングを目の当たりにするべく集合。BURTONテントが設置された特等席ではビールが振る舞われ、お酒の力も相まって世界レベルの滑りに陶酔しきっていた様子だった。
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天気よし、パイプよし、メンツよすぎ
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高さ、スタイルともにパーフェクトな歩夢のバックサイド・インディ
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湿雪でスピードが出しづらいながらもフロントサイドエアでこの高さ。來夢のステイルフィッシュ
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オーディエンスの視線を受けながらフロントサイドスピンで応える英樹
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最年少ながらレイバックで己を表現するクールなセンスの持ち主・海祝
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ライダーはモービルアップという高待遇
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キッズキャンプに参加していた子供たちのサインに応じる來夢
極秘シューティングの全貌やいかに
興奮冷めやらぬまま、ディナー後には卓球&カラオケ大会が繰り広げられるなど、昼夜問わず精力的に遊びまくった本トリップも、いよいよ最終日を迎えた。
3日目はゲレンデのトップから一斉にスタートして、ボトムまで誰が一番速く滑り下りれるかを競うチャイニーズ・ダウンヒルが予定されていたのだが、ライダーたちとはいえ土曜の混雑を鑑みると安全を考慮したうえで一人ひとりが順に滑走するルールに変更。ノーマルスタンスとスイッチスタンスの2本の合計タイムで争われた。
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歩夢の直滑降にこの体勢でついていこうとするフィルマーも強者だ
優勝は來夢。スイッチスタンスでもノーマルスタンスに近いタイムを叩き出していた。コースを間違ったのか体重が軽すぎるのか、歩夢はかなり遅かったみたい(笑)。パイプの滑走スキルと直滑降のスピードは比例しないようだ。
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2本目のフィニッシュを切った來夢。およそ4kmをフル直滑りしただけにお疲れの様子?
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ゴール付近はリラックスした雰囲気。写真には写っていないがレース中にスコッティが到着した
こうして3日目のライディングは終了。ライダーたちの滞在はまだ続くのだが、潜入取材はここまで。後ろ髪を引かれる思いで一路、東京へ向かうのだった。
2日目に撮影されたチームムービーは以下の3作品となっており、3日目の夜に上映。当初はコンテスト形式だったはずだが、最終的には順位はつけずに賞金を山分けするというカタチで終わったみたい。オリンピックシーズンを終えたライダーたちへの、青森スプリングからのボーナスだったのかもしれない。
Ayumu Hirano, Shuhei Osanai and Jiayu Liu
Eiju Hirano, Naito Ando, and Toby Miller
Raibu Katayama, Kaishu Hirano, and Zoe Kalapos
この青森スプリングは3月末にも関わらず、朝イチのピーク付近は雪が締まっていたので気持ちよくカービングターンが刻め、中腹あたりからはいわゆるコーンスノーに変わるので浮遊感のあるターンを楽しめた。そして、多様なパークアイテムがロングコースに渡って点在しているため、トリックの練習にも申し分ない。
ただひとつお願いがあるとすれば、先に述べたようにスーパーパイプはハイクオリティで素晴らしいのだが、物には順序があるように、一般スノーボーダー向けにノーマルサイズのパイプもぜひ造ってほしいなー、と(笑)。そして何よりも触れておきたいのは、トップシーズンであれば上質の雪が大量に降るのだから、この広さや斜度、地形から想像するに間違いなく面白いゲレンデだと断言できる。
そんな絶景も堪能できる素晴らしいリゾートで歩夢を筆頭とした豪華なライダーたちの滑りを目の当たりにでき、誰よりもスノーボーダーを知る国内トップクラスのショップスタッフの面々が集まり、それをトップブランドとして名高いBURTONが素敵に演出するというプレミアムな空間と化した3日間を過ごすことができた。また来年もぜひ連れてってね、BURTONさん。
text: Daisuke Nogami(Editor in Chief) photos: Akira Onozuka