REVIEW
平昌五輪ハーフパイプの楽しみ方
2018.02.09
スノーボードがオリンピックの正式種目として採用された1998年から20年の時を経て、この平昌大会で6回目を数えるハーフパイプ。98年の長野五輪では720がスタンダードだったが、現在では1440にまでスピンは進化。しかし、今も昔もエアの高さが醍醐味であり、技の難易度だけでなくバリエーションやパイプランの美しさまでもが評価対象となる採点競技だ。ここでは、幅広い層に理解いただくための見どころをお届けする。
スケジュール
2月12日(月)女子予選 13:30~15:00(13:30~15:00 フジテレビ)
2月13日(火)女子決勝・男子予選 10:00~14:50(女子決勝10:00~11:30 NHK総合、男子予選12:55~14:50 日本テレビ)
2月14日(水)男子決勝 10:30~12:00(9:55~12:30 TBS)
競技説明
ハーフパイプとは半円状のコース。両サイドの壁を交互に5~6回飛び、そこで繰り出される技の難易度や表現力で競われる採点競技だ。
予選はひとり2本、決勝はひとり3本滑ったベストポイントで争われる。進行方向に対して腹側の壁がフロントサイド、背側の壁がバックサイド、腹を進行方向へ向けた回転がフロントサイドスピン、背を進行方向へ向けた回転がバックサイドスピンとなる。エアの高さを強調するために回転技ではなく、ボードをつかむグラブで魅せる場合も。また、山側方向への回転をアーリーウープと呼ぶ。
さらに回転は横方向、縦方向、斜め方向と様々。スピントリックの最小回転数は360(スリーシックスティ)となり、半回転ずつ増えていくため2回転半であれば900(ナインハンドレッド)、3回転であれば1080(テン・エイティ)、3回転半であれば1260(トゥエルブ・シックスティ)と呼ばれる。
演技全体の印象、エアの高さ、難易度、完成度、多様性などの視点から総合的に採点される。高難度な技を連発してもエアの高さが伴っていなければ点数が出ない。また、それぞれの技には美しさや個性が求められる。これがハーフパイプ種目を含む、スノーボード競技の採点基準だ。
コース紹介
2017年2月にオリンピックのテストイベントを兼ねて韓国・平昌で行われたワールドカップで使用されたハーフパイプのサイズは、全長190m、幅20.8m、高さ6.8m、斜度18.2°という公式発表だった。優勝したスコッティ・ジェームスは4ヒット、2位のショーン・ホワイトは5ヒットと、ライダーのラインどりによって差はあれど比較的短めのハーフパイプだったのだが、平昌五輪では全長がかなり長くなっており、公式練習初日を見るかぎりでは男子で6ヒット、女子で7ヒット程度で争われることになりそうだ。5ヒットでルーティンを組んでいたライダーが多いはずなので、ここからどのように調整していくか。
見どころ
予選、決勝ともにオーバーオールジャッジングと呼ばれる全体の印象により採点される。一部繰り返しになってしまうが、エアの高さ、難易度、完成度、多様性、コンビネーション、パイプの使い方などから総合的に判断。6名のジャッジがひとり100点の持ち点で採点した点数の最上位と最下位をカットした4名による得点の平均が各ライダーのポイントとなる。
エアの高さを生み出すにはリップから踏み切るテイクオフの技術が問われるわけだが、それを実現するためにはリップ付近のパイプ上部に着地して加速しなければ次のヒットで高さを出すことができないことから、リップ・トゥ・リップと呼ばれる美しいパイプランが必要となる。限られた半円内を滑走するわけだから基本的には減速していくため、このリップ・トゥ・リップによりスピードを維持することが重要。そうした状況下で難易度の高い技をつなげることの難しさは想像に難くないだろう。高回転スピンを繰り出すためにはボードの反動を利用するため、リップに弾かれてパイプ下部にあたるボトム側へ落ちてしまう傾向が強いからだ。
フロントサイドの壁で谷側へ回すフロントサイドスピン、スイッチであればバックサイドの壁になるため同方向に回すとスイッチ・バックサイドスピン、バックサイドの壁で谷側へ回すバックサイドスピン、スイッチであればフロントサイドの壁になるため同方向に回すとキャブスピンとなり、1本のランに組み込まれる回転方向のバランスもジャッジングに影響する。フロントサイドスピンで大技を2回繰り出しても点数には反映されづらく、フロントサイドスピンとバックサイドスピンでそれぞれ大技を1回ずつ出したほうが点数は高くなるということ。
また、プロ大会のひとつであるBURTON US OPENの場合、エアの高さ、トリックの難易度、演技の出来映え、総合的な印象の4カテゴリーがそれぞれ25点ずつ配分されており、各2名ずつのジャッジが採点を行い100点満点で評価される。かたやFIS(国際スキー連盟)が主催するオリンピックやW杯では先述のように、全ジャッジが総合印象で点数をつけているため、プロ大会よりもジャッジの主観が強くなることは否めないだろう。
こうした基準を加味してオリンピックを観ることで、ハーフパイプの奥深さを感じとることができるはずだ。
注目ライダー
平野歩夢
Ayumu Hirano
生年月日: 1998年11月29日(19歳)
得意技: フロントサイド・ダブルコーク1440、キャブ・ダブルコーク1440
2018年1月のX GAMESアスペン大会で前人未踏の超絶ルーティンに成功して金メダルを獲得。1ヒット目のバックサイドエアで天高く美しく宙を舞い、連続ダブルコーク1440から連続ダブルコーク1260を続けざまに繰り出す同ルーティンが決まれば、金メダル獲得の可能性は非常に高い。
戸塚優斗
Yuto Totsuka
生年月日: 2001年9月27日(16歳)
得意技: フロントサイド・ダブルコーク1440、フロントサイド・ダブルコーク1260
彗星のごとく現れた高校1年生ライダー。2017年3月のSAJ(全日本スキー連盟)全日本選手権で優勝してナショナルチーム入りを果たすと、同年9月のW杯で初出場初優勝を飾る。その勢いのまま、世界最高難度とされるフロントサイド・ダブルコーク1440を修得。メダルも射程圏内だ。
片山來夢
Raibu Katayama
生年月日: 1995年5月4日(22歳)
得意技: フロントサイド1440、フロントサイド・ダブルコーク1260
持ち前のエアの高さを武器に世界中にその名を知らしめ、今季X GAMES初出場を果たして6位に。2017年12月に行われた強豪アメリカの代表選考レースでは平野歩夢、ベン・ファーガソン、ショーン・ホワイトに次いで4位に入るなど、上位に食い込む可能性は十二分に秘めている。
平岡 卓
Taku Hiraoka
生年月日: 1995年10月29日(22歳)
得意技: フロントサイド1260、キャブ・ダブルコーク1080
2015年にBURTON US OPENで初優勝を飾るなど世界トップの座に上り詰めたわけだが、翌シーズンから調子を崩してしまい、2016-17シーズンはFIS(国際スキー連盟)世界選手権での4位が最高位。五輪シーズンも苦戦を強いられたが代表資格を獲得しただけに、再起に期待したい。
スコッティ・ジェームス
Scotty James
オーストラリア代表
生年月日: 1994年7月6日(23歳)
得意技: バックサイド・ダブルコーク1260、スイッチバックサイド・ダブルコーク1260
2016-17シーズンはLAAX OPEN2位、X GAMESアスペン大会優勝、プレオリンピックとなるW杯平昌大会優勝、BURTON US OPEN2位、FIS世界選手権優勝と、事実上のハーフパイプ王者として君臨。今季は平野歩夢やショーン・ホワイトに一歩譲る格好だが、金メダル候補のひとりだ。
ショーン・ホワイト
Shaun White
アメリカ代表
生年月日: 1986年9月3日(31歳)
得意技: フロントサイド・ダブルコーク1440、ダブルマックツイスト
2006年トリノ、2010年バンクーバーとオリンピック連覇をひっさげて臨んだソチ五輪では4位と苦汁をなめる結果に。一時引退もささやかれたが、2016、17年のBURTON US OPENで連覇を達成し、2018年1月のW杯では100点満点のスコアを叩き出すなど完全復活を果たした。
ベン・ファーガソン
Ben Ferguson
アメリカ代表
生年月日: 1995年1月21日(23歳)
得意技: キャブ・ダブルコーク1080、スイッチ・マックツイスト
競技だけでなくバックカントリーでの撮影活動も両立させる二刀流ライダー。平昌五輪に向けてハーフパイプに注力しているだけに、今季はアメリカ選考レースを兼ねたW杯で2位を2回、DEW TOURとX GAMESアスペン大会でともに3位に輝くなど、魅せる滑りで勝つべく仕上がってきた。
松本遥奈
Haruna Matsumoto
生年月日: 1993年7月26日(24歳)
得意技: フロントサイド900、フロントサイド720
10歳から思い描いていた悲願のオリンピック出場を果たした。北海道を代表するプロスノーボーダーでありバンクーバー五輪日本代表・工藤洸平の指導により成長。2017年のBURTON US OPENで5位入賞。フロントサイド1080がどこまで仕上がっているかにメダル獲得の行方がかかっている。
冨田せな
Sena Tomita
生年月日: 1999年10月5日(18歳)
得意技: フロントサイド900、キャブ720
安定感抜群の滑りで一気に頭角を現すと、2018年1月のX GAMESアスペン大会に初出場を果たして7位。大舞台を経験したことで平昌五輪に向けて弾みをつけた。強豪アメリカ代表の選考レースを兼ねたW杯では、クロエ・キム、マディ・マストロ、ケリー・クラークに次いで4位と実力を発揮。
大江 光
Hikaru Oe
生年月日: 1995年8月3日(22歳)
得意技: バックサイド900、フロントサイド720
2016年のLAAX OPEN3位、X GAMESオスロ大会5位、BURTON US OPEN7位と世界と対等に渡り合うも、その翌シーズンはやや失速。しかし今季は調子を取り戻し、最終戦となった2018年1月のアメリカ選考レースを兼ねたW杯で強豪に続き5位となり、日本代表の中でも最高位を獲得した。
今井胡桃
Kurumi Imai
生年月日: 1999年9月24日(18歳)
得意技: フロントサイド900、フロントサイド720
2017年に行われたW杯平昌大会では強豪アメリカ&中国勢に続いて5位となり、オリンピックの舞台となる地でその存在感を知らしめた。小柄ながらも力強いライディングが特徴。フロントサイド900の完成度、もしくはそれ以上のトリック次第では上位に食い込む可能性も。
クロエ・キム
Chloe Kim
アメリカ代表
生年月日: 2000年4月23日(17歳)
得意技: フロントサイド1080、キャブ1080
13歳で出場した2014年のX GAMESアスペン大会で銀メダルを獲得し、大会史上最年少メダリストに。2016年2月のUS GRAND PRIXでは15歳で連続1080を世界で初成功。今年1月のX GAMESアスペン大会でも連続1080を決めて制するなど万全を期して、両親の生まれ故郷で金メダルを狙う。
ケリー・クラーク
Kelly Clark
アメリカ代表
生年月日: 1983年7月26日(34歳)
得意技: フロントサイド1080、キャブ720
2002年ソルトレイクシティ、2006年トリノ、2010年バンクーバー、2014年ソチ、そして平昌を含めて5大会連続でオリンピック出場。ソルトレイクシティで金、バンクーバーとソチでは銅メダルを獲得した。34歳を迎えて挑む今大会で4個目となるオリンピックメダルを虎視眈々と狙う。