
REVIEW
アメリカ最大のキックオフイベント「HDHR」に挑んだ日本人たちの勇姿
2017.09.25
今年もやってきた。アメリカ・カリフォルニア州ベアマウンテンで行われるHot Dawgz & Hand Rail(以下HDHR)。ハンドレールのコンテストイベントだ。
このコンテスト、実のところ今年で14年目を迎えたローカル大会なのである。昨シーズン、マンモスマウンテンがベアマウンテンを買収したことでこれまでよりビッグイベントと化し、入場が有料制になった。これに対してはHDHRを長年愛してきたローカルからの反対が多かったと耳にしたが、イベントが巨大化してさらなる集客、そして盛り上がりが増したことは事実だ。
もちろん、無料の時代から多くの人を集めて盛り上がってきたイベントでもある。ローカルの想いが込められ、そこに企業スポンサーや音楽が融合。有名アーティストのライブステージはもちろんのこと、今年はハンドレールの大会中にスヌープ・ドッグがDJするという豪華さだった。
このイベントに設置されるハンドレールは、いろいろな意味で世界レベルと言える。高さや長さが威圧的であり、それらを抜くためにはスピードと卓越したボードコントロール術を要する。国内外問わず、そんじょそこらのパークに設置されているそれとはワケが違うのだ。
そして、そこで滑ることが許されるライダーたちも、選りすぐられたハイレベルなジバーのみ。降雪機で作られた雪は硬めで薄く敷き詰められており、限られたアプローチしかとれない状況で巨大アイテムに挑まなければならない。そこで周囲を沸かせるパフォーマンスを繰り出すためには、総合滑走力が求められる。イベント側からインビテーション(招待)されたライダーのみが、この舞台に立てるというわけだ。
その招待枠に入った日本人ライダーは、昨年は日本から唯一の出場者となった赤田佑弥。今年も唯一の出場者だと思っていた彼は、幼馴染みの仲間を連れてカリフォルニアにやって来ていた。しかし、ギリギリでもう1名日本人ライダーが追加されることに。一昨年まで数回に渡って招待されていた戸田真人だ。
ふたりとも21歳。落ち着いた雰囲気と玄人好みな滑りから、いい意味で若手らしさを感じさせない佑弥と、兄の聖輝とともに子供の頃からこの業界で名を馳せてきた真人が同い年だったということには驚かされた。そんなふたりはお互いが存在することでテンションを高め合い、そして安心感をもたらす素晴らしい同志だったのだ。
ふたりの戦士と、佑弥が連れてきた幼馴染み。この3人の21歳チームが団結して、カリフォルニアのベアマウンテンで行われたHDHRに挑んだのだった。
コンテストを終えたばかりの興奮冷めやらぬ彼らに、直撃インタビューを敢行!
「滑り込んできたから調子がよかった」──赤田佑弥
今年は昨年とは違い「ガッチリやれた」と笑顔があふれる佑弥。初出場のときは緊張感いっぱいながらも手応えをつかみ、2回目となった昨年は不完全燃焼に終わり、3回目となる今年はこのイベントに照準を合わせて準備をしっかり行ってきたようだ。
「2度目となった去年は雰囲気もわかっていたし気持ちでは負けていなかったのに、身体が追いつかず悔しい思いをしました」
ベアマウンテンは標高が高く、ハイクアップするだけで息が切れる。重ねて日本から来たばかりだと時差ボケも残っていたのだろう。カリフォルニアも夏ではあるが、オフシーズンの日本からやって来た佑弥は、現地ライダーたちとの差を大きく感じたようだ。
「自分の身体がついていかなかった。60分のヒートが2回ありましたが、自分の力を出し切れないまま終わってしまった」

今年はオーストラリア、ニュージーランドの山々でギリギリまで滑り込んできた。
「やっぱり山を滑り込んでおかないと。HDHRのアイテムは、もはやレールという域を超えている。アイテムに対するスピードもボードコントロールも、大きな山を滑ってその感覚を研ぎ澄ませていないと通用しない」
南半球のトップシーズンの雪山を滑り込んできた佑弥は、自信を持ってやって来た。そして、「今年はファイナルヒートが90分に伸びたんです。だから、最後の20分は自分のものでした」と嬉しそうに語る。
ハンドレールと言えども、HDHRのアイテムを見ればわかるように、真の滑走力が求められるレベルである。
「さすがにアメリカ人たちの適応能力はすごいです。体力なのか、ローカルならではの強みなのか。僕が1本滑るところ、彼らは2、3本滑ってました」
そんな中、日本から到着したばかりの21歳のふたりは全力で戦った。
「真人がいてくれたのはよかった。ひとりだと閉じこもってしまうから」
そう言いながらも結局は、喋りも大事だけど滑りだけで高め合える関係がいいんだそうで。ほかのライダーと言葉を交わすよりも、いい滑りを見せ合いながら認め合える関係性が何よりもテンションを高めることになるそうだ。
「もっと滑らなあかん。もっと板に乗れなあかん。板に乗れてないとラインどりできない。アウトが高い。斜度はきつい。スピードが出すぎる。すぐ次のアイテムが来る。サイドが狭くてズラせない。だから、完璧な滑りが要求される……」
イベントを思い返してこうつぶやいていた佑弥は、きっとこの先もまだまだ伸びるのだろう。そう思わせてくれるインタビューだった。
「カーニバルみたいなスノーボードイベント。最高」──戸田真人
10代の頃からこのイベントに招待されて挑んできた真人。2年ぶりの出場となった今年、21歳になっていた。
「このイベントは本当に面白い!」
いつものように屈託のない笑顔をみせる真人だが、子供の頃の無邪気なそれとは違う表情も含んでいた。
「自分のやりたいことができなかった。上手く滑れなかった。日本でも滑っていたし、体調的には悪くなかったけど、狙いすぎてたんです。みんなと違うことがしたくて」
このように語ってくれた。若い頃からカリフォルニアの雪山にもよく来ていて、人懐っこい真人にはローカルの友達もたくさんいる。
「ベアは知り合いがいっぱいいるから楽しかった!」
仲のいいライダーには日本のラーメンや味噌汁、日本酒を振る舞っていた。
「本当によくしてもらっている友達もいて。彼らがこの間日本に来てたから、ずっとあちこち連れ回してたんですよ」
スノーボーダーにとって、言語の壁や肌の色はさほど関係ない。滑りで認め合い、そして仲が深まっていくからだ。

今回は少し悔しさが残った真人の口から「またチャンスがあったらやりたい」とはっきり発せられた。また、どうしてそれほどまでカリフォルニアが好きなのか?と尋ねると、「人が明るいしフレンドリーだから、居心地がいいんです。知らない人とも話せるし」とのこと。真人にとっては、スノーボードを取り巻く環境だけでなく、人とのコミュニケーションもカリフォルニアの大きな魅力なのだ。
「今回のカーニバルみたいなスノーボードイベントは、マジで最高! 来ているお客さんがみんな騒いでいて、オレたちも最高に盛り上がりました」
真人にしてみれば、ただ楽しい気持ちだけで出場していた10代の頃に比べると、少し大人になった今回とでは何かが違っていたのではないか。それらをこの地で感じられたことは、彼にとって大きな糧になっていくはずだ。
若いふたりのライダーたちが、この“いかにもカリフォルニア”なイベントを肌で感じ、経験していることが、この先のそれぞれに対してだけでなく、日本のスノーボード界にも新たなる刺激を与えるだろう。そう予感させられた。

【左】赤田佑弥(あかだ・ゆうや) ▷生年月日: 1995年11月10日 ▷出身地: 大阪府寝屋川市 ▷メインスポンサー: ARBOR SNOWBOARDS
【右】戸田真人(とだ・まさと) ▷生年月日: 1995年12月11日 ▷出身地: 東京都武蔵村山市 ▷メインスポンサー: ADIDAS SNOWBOARDING
text: Yukie Ueda photos: mar.4
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