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村瀬心椛が銅メダル。岩渕麗楽は世界初の大技に挑戦。北京五輪女子ビッグエアが泣ける
2022.02.15
最終ランにドラマがあった。
北京五輪ビッグエア決勝はひとり3本のランを行い、回転方向が異なる2種のジャンプの合計得点で争われるのだが、2本目を終えた時点の得点により出走順が入れ替わる。得点が低い順からの出走に変更されるというルールだ。
1、2本目で171.5ポイントを獲得していた村瀬心椛は3位、166ポイントだった岩渕麗楽は4位だった。この時点で1位だったゾーイ・サドウスキー・シノット(オーストラリア)は177ポイント、2位のアンナ・ガッサー(オーストリア)は176.5ポイント。村瀬と岩渕はまだBSダブルコーク1260を出していない状況。3本目はその伝家の宝刀を抜くと見られた。
しかし、9番目にドロップインした岩渕のアプローチラインを見ているとフロントサイドスピンのラインどりだ。何が繰り出されるのか予想できなかったが、FSトリプルアンダーフリップ1260という女子では前人未到の超大技が放たれた。
アンナがCABトリプルアンダーフリップ1260に成功した動画はすでに配信されているので周知の事実だが、ゲレンデに造成された巨大キッカーで繰り出されており、十分な滞空時間が確保できる状態でのそれだった。だが、北京五輪のキッカーは形状がまったく異なるためそうはいかない。しかも、実況を聞いていると風の影響もありそうだ。そのうえで、スイッチ着地になるためアンナのそれよりも難易度が高い。
岩渕が放ったトリプルアンダーフリップはソール面からランディングバーンをとらえて成功したかに見えたが、若干後傾になってしまった。体勢を崩してしまい着地を決めることはできなかったのだが、この瞬間、スタート台にいる上位3名を除いたファイナリストたちが岩渕に駆け寄り、抱きしめた。
昨年夏、東京五輪の女子スケートボード・パークで見たあのシーンが蘇った。転倒してしまったが最後まで攻めの姿勢を貫いた岡本碧優の滑りを、他国のスケーターたちが称えていたあの瞬間だ。
誰もトライしたことさえないトリックをあの場面で繰り出せたこと、その技の完成度が思いのほか高かったことなどライダーたちを強烈に刺激した。横乗りカルチャーの素晴らしい一面を改めて痛感させられ、思わ合う胸が熱くなった。
これによりメダル獲得が確定した村瀬の3本目は伝家の宝刀を抜くも、やはりアップグレードしたBSダブルコーク1260を放ったのだ。セオリーであれば前手をスピンの先行動作に合わせてウェドルグラブすることで後ろ手で回転方向へリードできるため回しやすいのだが、前手でつかんでいたのはノーズ。身体を使ってイメージしてほしい。その難しさは想像に難くないはずだ。
風の影響によりスピードが足りなかったのか、それともグラブ位置の変更により回転力を生み出すことが難しかったのか。回し切ることができずに、1本目のBSダブルコーク1080とFS1080のトータルポイントで銅メダルが確定。彼女の十八番であるBSダブルコーク1260を決めたうえで、もうひとつの技によってメダル圏内に届くだろうと予想していたのだが、結果的には余力を残した格好での銅メダル獲得となった。
特筆すべきは2本目に決めたFS1080の優雅さだ。メロングラブでスタイリッシュに宙を舞い、ランディング地点が確認しづらいブラインド着地ながらもゆったりとスムースに決めて、いわゆるビタ着。メダル獲得は大会後のインタビューで語っているように信じられないほどうれしかったはずだが、3本目のラストジャンプを決めることができなかったのは、村瀬にとって非常に悔しかったことだろう。次なるステップにこの経験を活かしてほしい。
そして2位で迎えたアンナは、FSダブルコーク1080とBSダブルコーク1080を決めており、3本目にはCABダブルコーク1260を放ったのだ。昨シーズンのX GAMESで鬼塚雅が女子ビッグエア史上、初めて成功させた大技あである。ジャンプの大きさも申し分なく、95.5ポイントという今大会最高得点を記録。優勝候補筆頭だったゾイを上回り、2大会連続の金メダルを獲得したのだ。
その大技を編み出した鬼塚は攻めの姿勢を見せ、1、2本目からCABダブルコーク1260を繰り出すも着地に嫌われてしまい、悲願のメダルには届かなかった。
このように立て続けにチャレンジする姿を見ていて、女子ビッグエアのレベルが上がったことを痛感させられると同時に、素晴らしいドラマを見させてもらったような感覚に陥った。感動をありがとう。
女子ビッグエア結果
1位 アンナ・ガッサー(オーストリア)
2位 ゾイ・サドウスキー・シノット(ニュージーランド)
3位 村瀬心椛(日本)
4位 岩渕麗楽(日本)
11位 鬼塚 雅(日本)
全結果はこちら
photo: FIS SNOWBOARDING
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