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ショーンの復帰戦で戸塚優斗が完勝。前人未到の超衝撃ルーティンへの挑戦を表明
2021.03.22
オリンピックのハーフパイプに4大会連続出場、うち3度金メダルを獲得している絶対王者のショーン・ホワイトが北京五輪を目指していよいよ復帰ということで、世界中から大きな注目を集めていたUS GRAND PRIX。米コロラド州アスペンにてFISワールドカップを兼ねて開催され、そのハーフパイプ決勝で戸塚優斗と片山來夢がワンツーフィニッシュを飾った。ショーンは予選を2位で通過していたものの4位でフィニッシュ。大会から遠ざかっていた3年で大幅な進化を遂げた戸塚らの前に屈する格好となった。
ひとり3本のランを行いベストランのポイントで争われた。戸塚は予選を1位で通過していたので最終出走。その前をショーンが滑る。気温は高く、レギュラースタンスのバックサイドウォールは日が照りつけており雪が緩んでいて、反対にフロントサイドは日陰のためアイシーな状況。そのつなぎ目での雪質の変化や、湿雪による減速など難しいコンディションの中、パイプバトルが繰り広げられた。
戸塚は昨年3月のBURTON US OPENから負けなしの連勝を続けているわけだが、その常勝ルーティンがFSダブルコーク1440→CABダブルコーク1260→スイッチBSダブルコーク1080→BSダブルコーク1260→FSダブルコーク1260だ。今大会1本目、その4ヒット目をBS900に変更したルーティンを完璧に決めて91.75ポイントを獲得。2本目ではその常勝ルーティンにトライする予定だったが、高温による融雪によりコンディションが悪化して2ヒット目のCABダブルコーク1260で珍しく転倒してしまった。
2位になった片山は今シーズン、結果を出せずに苦しんでいた。しかし1本目から、FS1080→CABダブルコーク1440→FS900→BSダブルコーク1260→FSダブルコーク1080という自身の理想的なルーティンを決めて86.75ポイントをマーク。2、3本目は転倒してしまったが、戸塚を除く他ライダーたちの追随を許さなかった。
3位は伏兵のアンドレ・ヘフリッヒ(ドイツ)。ドイツ人としてはデビッド・ベネデック以来の強豪ライダーかと記憶しているが、スイッチスタンスとはにわかに信じられない巨大メソッドから始まるルーティンは圧巻だった。
そして1本目はミス、2本目は転倒してしまい思うようにポイントを伸ばすことができず、後がなくなったショーンの3本目。FSダブルコーク1440→CABダブルコーク1080→FS540→ダブルマックツイスト(BSダブルコーク1260)→BSアーリーウープ540に成功。全盛期に比べるとエアの高さは物足りなく感じたが、彼のブランド力も含めてどうポイントが出るかに注目していた。81.5と妥当なポイントが算出され、表彰台にはあと一歩届かなかった。
となると、最終出走者である戸塚の3本目はウイニングランということになる。J SPORTSの生放送で解説を務めさせていただいていた筆者は、大会前に収録されていた戸塚のインタビュー動画を観ていた。挑戦したいルーティンがあるのだと言う。2本目に常勝ルーティンを決めることができていなかったが、その新たなランを披露するのかどうか。固唾を呑んで見守っていた。
今年1月のX GAMESアスペン大会では先述したベストルーティンのほかに、平昌五輪で銀メダルを獲得した平野歩夢と同ルーティン、BSエア→FSダブルコーク1440→CABダブルコーク1440→FSダブルコーク1260→BSダブルコーク1260に成功しているのは周知の事実だろう。それであればバックサイドウォールがファーストヒットになるのでフロントサイド側のプラットホームからドロップインすることになるが、反対側に戸塚はいた。これまで同様にフロントサイドのスピンから入るのかと確信した瞬間、ドロップインする際にスタンスをスイッチしたのだ。まるで、昨年までの王者、スコッティ・ジェームス(オーストラリア)を彷彿とさせるように。そして繰り出したトリックは、そのスコッティの伝家の宝刀であるスイッチBSダブルコーク1260だった。その後は湿雪に悩まされて思うようなランを決めることはできなかったため新ルーティンはベールに包まれたままに終わったが、番組内で大会直後の戸塚と話すことができた。
「今できているルーティンが自分の中で最高(難度)なんですけど、そこにスイッチBSダブルコーク1260だったり、CABダブルコーク1440とかいろんな技を組み込んでいいランができれば、いい結果が北京五輪ではついてくるんじゃないかと思っています」
こう力強く語ってくれた。スイッチBSダブルコーク1260は今大会の3本目で成功させているし、CABダブルコーク1440もX GAMESで決めている。ともにパーフェクトと言える完成度を誇っていた。
さらに番組放送後、ナショナルチームでハーフパイプのコーチを務めているプロスノーボーダー、村上大輔と話す機会もいただいた。そこで戸塚が狙っているルーティンについて語ってくれたのだ。
「3本目に予定していたスイッチBSダブルコーク1260から入って、CABダブルコーク1440→FSダブルコーク1260→BSダブルコーク1260→FSダブルコーク1440ができたら、今いる(国際大会に出ている)メンバーだったら誰も抜ける選手はいない」
現時点でこの超高難度な5トリックはすべて大会で成功させている。だからと言ってすべてをつなげるかどうかは別の話になるが、北京五輪まで10ヶ月あまりを残してこのレベルにいるわけだ。繰り返しになるが、前後にどのトリックを持ってくるかで難易度は大きく変わること、平野(歩夢)は国際大会に出場できていない状態なので未知数であることを前提に話を展開させてほしい。持ち技だけで考えれば平昌五輪の金銀メダリストにはないスイッチBSダブルコーク1260を操り、そのスイッチBSダブルコーク1260を十八番とする平昌五輪銅メダリストのスコッティは大会でCABダブルコーク1440を繰り出したことはないはずだ。FSダブルコーク1440の完成度もまだ怪しいところ。
これらを踏まえての村上コーチの言葉ということを理解してほしい。現時点で一歩、いや、もしかしたらそれ以上にリードしているのかもしれない戸塚はさらなる高みを目指しているわけだ。前人未到の超衝撃ルーティンを完成させ、北京の地で頂点に立つために。
男子結果
1位 戸塚優斗(日本)
2位 片山來夢(日本)
3位 アンドレ・ヘフリッヒ(ドイツ)
4位 ショーン・ホワイト(アメリカ)
9位 穴井一光(日本)
30位 平野海祝(日本)
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photos: FIS SNOWBOARDING