BACKSIDE (バックサイド)

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難コンディションに苦しめられたW杯スロープスタイルで岩渕6位 村瀬7位 國武11位

2021.01.23

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平昌五輪の女子スロープスタイルが想起される大会だったような気がする。強風により女性ライダーたちが苦しめられていた状況が蘇ってしまった。
いよいよ開幕したFISワールドカップ・スロープスタイル種目はスイス・ラークスで行われ、女子は岩渕麗楽と村瀬心椛が決勝進出を果たすも、強風に苦しめられた。
ファイナルはひとり2本滑走し、ベストポイントで争われるルール。前半はジブが2セクション続き、フロント/バックサイド両方向のトランジション、そして2連キッカーが続いて、最後に浅いボール状の珍しいセクションが用意されたコースが舞台。
岩渕は1本目、ミスなくジブをこなすと着地での減速を嫌ってか、トランジションではランディング時に直進性が強いバックフリップを選択し完璧にストンプ。2連ジャンプに万全の状態で突っ込むも、回転数を抑えたBS720でもギリギリでナックルを越えるという厳しさ。次のジャンプではFS540とこちらも踏み切りを重視して回転数を落とすも、強風の煽りを受けて着地点に届かなかった。
これを受けて2本目ではさらなるスピードを求めて挑むも、天候のいたずらにより風がおさまっていた。4セクション目で1本目以上にスピードに乗っていた岩渕は十八番であるBSダブルコーク1080を繰り出すも、想定以上にスピードに乗りすぎていてオーバーローテーションとなってしまい、万事休す。しかし、女性ライダーとは思えないほどの特大ダブルコークからは、彼女の攻めの姿勢が十二分に伝わってきた。
筆者は今大会もJ SPORTSのライブ番組で解説を務めさせていただき、大会直後のライダーたちと言葉を交わすことができた。
「1本目のとき風が強すぎて板が全然走らなかったんですけど、2本目はいいコンディションになってきて、1本目と2本目のスピードが違いすぎて合わせることができませんでした。今シーズンは大会が少なくなってしまって一戦一戦が大事なんですけど、まだ表彰台に乗ることができていないので、次のチェコでは確実に表彰台に上がれるような完成度の高い滑りを目指していきたいと思います」
悔しさを滲ませながらも、次を見つめて力強くコメントしてくれた。ライディングだけでなく、いちアスリートとしての精神面での成長も著しい。
一方の村瀬は、1本目から攻めた。BSボードスライド・プレッツェルオフ→スイッチBSボードスライド270オフ→CAB540とトランジションまでスピードを殺さずにつなぐと、ファーストジャンプではBS720をしっかりと決めるも、セカンドジャンプで繰り出したFS900の飛距離が足りなかった。高回転スピンの場合はテイクオフ時に強い回転力を生むため雪面との間に摩擦が大きく生じるため、低回転スピンに比べると高さや飛距離を出すのが難しくなる。強風下にも関わらず攻めた結果だ。
そして運命の2本目は、得意のジブでまさかのミス。転倒してしまったため高ポイントは望めないわけだが、トランジションをスルーして第4セクションのファーストジャンプに直滑降していく。すると、特大のBSダブルコーク1080をパーフェクトに決め、続くセカンドジャンプではFS900にテールグラブを入れながら見事成功させた。この難コンディションで唯一1080を決めただけに、ジブでのミスが悔やまれる。大会直後のインタビューでわかったのだが、どうやら第1セクションのジブで1本目同様にプレッツェルオフを狙うもできずノーマルスタンスでの着地となり、急遽ルーティンの変更を余儀なくされたことでリズムが狂ってしまったようだ。世界のトップに立つためには、こうした臨機応変なリカバリー力も求められる。
「ジャンプは自分的にすごくいい感じだったんですけど、レールでコケてしまったのがもったいなかったです。今回の悔しい気持ちをチェコでぶつけられるように、自分の滑りを出し切って表彰台に立てるように頑張りたいと思います」
大会直後、このようにしっかりと前を向き、言葉に詰まることなく語ってくれた。しかし、SAJ(全日本スキー連盟)スロープスタイル&ビッグエアのコーチを務めるオリンピアン、西田崇氏とのやり取りの中で、ホテルに戻ってからも涙が止まらなかったという村瀬。
ビッグエアの開幕戦で銀メダルを獲得するも頂点に立てなかった悔しさを滲ませ、今大会のセミファイナルの感想をたずねても真っ先に「悔しい」という言葉ができてきた。まだ16歳という若さだからこそ、この悔しさの先に待っている未来が楽しみでならない。
冒頭で述べた平昌五輪で金メダルを獲得したジェイミー・アンダーソン(アメリカ)が、今大会でも風に負けることなく見事優勝。競技生活から遠のきバックカントリーでのフィルミング活動に精を出していた彼女は、より自然を見方につける術を学んできたのかもしれない。2位にはビッグエアを制したゾーイ・サドウスキー・シノット(ニュージーランド)、3位にはテス・コーディー(オーストラリア)とオセアニア勢が食い込んだ。

男子で唯一ファイナルに進出した國武大晃は1本目、ジブセクションでリズムに乗ることができず転倒してしまい、あとがなくなった2本目。雪が降りしきる中、第1セクションではジブアイテムに前手でハンドプラントしながらフロントフリップするという独創的なトリックからスタートすると、アイテムに当て込みながらBS180オンからのスイッチボードスライド270オフし、第2セクションではハーフCABオンからノーリーBSミスティフリップオフといったテクニカルとクリエイティビティを融合させたクールな滑りを披露。
しかし、続くトランジションにハイスピードで突っ込むと、放たれたスイッチBSスピンはバランスを失いながら1080ほど回ってしまい着地に嫌われた。悪天候によりガスに覆われているようなコース状況だったためスピード感覚を失ってしまい、想定よりもハイスピードでアイテムに進入してしまったことが要因とのこと。これによりスイッチBS900の予定が回転が余ってしまい、急遽1260まで持っていこうとするも合わせることができなかった。
「今回の大会もクライシュベルグ(ビッグエア)も決められていれば表彰台に上がれたと思うので、もう少し大会に強くなりたいと思いました。これからのワールドカップでしっかりポイントを重ねて、オリンピックでメダルを獲れるように日々頑張っていきたいです」
國武はファイナルの前に「観ている人がすごい、楽しい、面白いと思ってくれるような滑りがしたい」と語ってくれていただけに、技術力と表現力を掛け合わせた“魅せる滑り”を武器に勝てるライダーへの成長を期待したい。
優勝はファイナル1本目のトップバッターとして見事なランを決め逃げ切った、競技の世界ではベテランの域に達している28歳の二クラス・マットソン(スウェーデン)。ドイツの新星、レオン・ボッケンスペルガーが続き、強豪のマーカス・クリーブランド(ノルウェー)を3位に従えての結果となった。

ビッグエアは開幕戦となったクライシュベルクでの一戦で今季は終了ということになっているので、3月にチェコで開催予定のスロープスタイルを残すのみとなったW杯。チーム内に新型コロナウイルスの陽性反応者がいたため、今大会にエントリーしていたカナダのメンズクルーが出場を見送るなど、コロナ禍におけるコンテストは非常に困難を極めている。
スノーボードに限った話ではないが、アスリートたちが己のスキルを高めることに集中できる環境を一日も早く取り戻し、素晴らしいパフォーマンスを発揮してもらいたいものだ。そのうえで、日本チームのさらなる飛躍に期待したい。
 
女子結果
1位 ジェイミー・アンダーソン(アメリカ)
2位 ゾーイ・サドウスキー・シノット(ニュージーランド)
3位 テス・コーディー(オーストラリア)
6位 岩渕麗楽(日本)
7位 村瀬心椛
全結果はこちら
 
男子結果
1位 二クラス・マットソン(スウェーデン)
2位 レオン・ボッケンスペルガー(ドイツ)
3位 マーカス・クリーブランド(ノルウェー)
11位 國武大晃(日本)
全結果はこちら

images: J SPORTS

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