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下剋上を目論むアップカマーへ捧ぐ。世界へ通ずるBURTON QUALIFIERS潜入ルポ
2020.01.30
昨年12月、米ウィスコンシン州トロールハーゲンを皮切りに、世界8カ所で予選となるセミファイナルが行われているBURTON QUALIFIERS。ミッドウエストの若手スノーボーダーたちがしのぎを削るジバーの聖地での開幕は、まさしくこのコンテストのコンセプトを象徴している。
FIS(国際スキー連盟)の大会を転戦してハーフパイプやスロープスタイル、ビッグエアといった競技でオリンピックの晴れ舞台を目指す若手ライダーたちはもちろんいるが、そこを目指せるスノーボーダーはひと握りであると同時に、あえて目指さない若手も多く存在する。それは、スノーボードを競技という枠組みだけで括ることは決してできないから。人目をはばかりストリートという舞台で己を表現するべく、トロールハーゲンで腕に磨きをかけている若者たちも多くいるのだ。
そうした型にはまらないアップカマーたちにチャンスを与えるべく、本イベントは5シーズン目を迎えた。セミファイナル2戦目はユタ州パークシティにて、3戦目は中国・南山にて、4戦目はカナダ・オンタリオ州ホースシューにてすでに行われており、さる1月25日、新潟・神立スノーリゾートで日本予選となる5戦目が開催。日本全国から下剋上を目論む猛者たちが一堂に会した。
そして6戦目はカリフォルニア州ボレアル、7戦目はフランス・アヴォリアッツ、8戦目はオーストリア・フラッハウヴィンクルで開催予定となっており、各セミファイナルより勝ち抜いたライダーたちは、3月28日にペンシルベニア州セブンスプリングスで行われるファイナルへの出場権利を得られるというフォーマットだ。
ここでは、2度目の開催となった日本でのセミファイナルの模様をお届けしたい。昨年大会同様、性別を問わずオープンクラスとアンダー15(15歳以下)クラスに分けられ、ジャムセッションで争われる。受付を済ませた参加者たちは早速会場へ足を運び、開放されているコースで足慣らしを始めていた……と思いきや、すでに本気モードのライダー多数。ジブバトルのゴングは鳴らされているかのようだった。
それもそのはず。オープン、アンダー15クラスともに昨年の倍となる各6名ずつがファイナルへの出場権&宿泊費をゲットできるのだ。さらに、それぞれ上位3名には賞金が授与され、各優勝者は往復の航空券まで提供される。そのうえで大会へのエントリー費は無料。素晴らしい機会提供と言えるだろう。
気になるコースは山側から谷側にかけて3セクションに分かれており、上部のセクションはダウンレールとフラットレールから選択できる。中部は1アイテムで、テーブルトップのテーブル上に大きめの塩ビ管を真横に設置。飛んでもよし、当て込んでもよしと、ラインどりも自由自在のアイテムだ。下部にはダブルダウンレールとフラットダウンのナローボックスを用意。各アイテムを設置している土台の法面ももちろん整備されているので、上級者やエキスパートであればトランスファーのサイドインが飛び出すかもしれないレイアウトだ。
こうしたコースでアンダー15クラスは45分、オープンクラスは60分のジャムセッションが行われる。審査基準は全体のアベレージなので、ライダーたちはトリックの引き出しはもちろん、創造性に富んだラインどりも求められる。ジャッジ資格を有するプロだけでなく、ビッグエアでは間違いなく世界トップランカーであるBURTONライダーの大塚健もジャッジに加わっているという点も、順位を左右するかもしれない。
暖冬の影響により前日は雨模様の湯沢エリアだったが、当日は朝から晴天。風もなく、まさに国内最強ジバー決定戦にふさわしいコンディションが整った。まずはアンダー15クラスからスタート。
近年の小中学生が上手いことは百も承知だが、それに加えてファッションでも目立っていたのは渡辺雄太(12)。ジャケットは全開のままなびかせ、パーカのフードをかぶりサングラス姿の出で立ちは、日本のジブシーンを牽引するDIRTY PIMPクルーさながら。さらに彼らを彷彿とさせるアクションは小学生ばなれしており、4位に輝いた。
男女でジャッジングに差はないのだが紅一点、高森日葵(12)が見事3位に。昨秋、東京・渋谷に位置する代々木公園で行われたジブコンテスト・SBPIF JIB SESSIONでは一般クラスで2位になるなど、その実力はお墨付き。ダブルダウンレールをFSノーズスライドでクリーンにメイクするなど、安定感抜群のライディングを披露してくれた。
優勝を飾ったのは、「スノーボード歴3年の10歳少年がBSダブルコーク1080を完璧にメイクする衝撃映像」と題して、弊サイトで昨年10月に取り上げていた井口和友(10)。FS50-50 to FS180アウト@フラットレール→CAB540ミュート→FS50-50 to FSボードスライドなど、ほぼ転倒することなく多様なルーティンを繰り出していた。
「優勝できてうれしかったです。今の自分の実力を試したくて大会には出ています。今日はフラットレールで決めたBSテール(スライド)からの270アウトと、ダブルダウン(レール)でやった50-50からのBSノーズ(スライド)がよかったです。ファイナルでは自分のベストを尽くして頑張りたいです」
10歳とは思えないような物怖じしない態度で、力強くコメントしてくれた。
オープンクラスはハイレベルな戦いになることが予想されていたが、その想像を超える実力者たちによるジャムセッションは、あっという間の60分間だった。小野崎海斗や斉藤一也、島方啓輔、海を越えてオーストラリアを代表するジバー、アンディ・ジェームスら有力ライダーたちがファイナルへの出場権を逃すなか、6位に阿刀暖、5位に壁田竜一、4位に遠藤柾志といった実力者たちが食い込んだ。
3位にはプロ活動の第一線からは退いたものの、そのジブスキルはいまだ国内トップクラスだと断言できる阿部祐麻が、昨年大会の2位に続いて2年連続で賞金を獲得。フラットレールでのFSリップスライドからノーリー・テールタップ直後に270アウトするなど、一つひとつのアクションの切れが抜群で、全身のバネを活かしてメリハリのあるアクションが印象的だった。
2位は昨年大会の覇者・飛田流輝。なんと、FISワールドカップのイタリア大会スロープスタイルで銀メダルを獲得し、その帰路の途中で空港から本イベントに直行、公式練習なしのぶっつけ本番での結果だった。移動の疲れなど微塵も感じさせず、FS270オンからの450アウトなどでの最後の180の返しはキレッキレで、まさに世界の舞台で戦うコンペティターだからこその動きに圧倒させられた。
こうした強豪たちを抑えて栄冠を勝ちとったのは、神立スノーリゾートをホームとする神宮寺海人。コース開放時から公式練習にかけて、群を抜いて目立っていた。テクニカルとスタイルが調和された見事なライディングスタイルは、まさしくBURTON QUALIFIERSの日本代表にふさわしい。
「ホームで勝てたので素直にうれしいです。1本目にトランスファーで270を決めてからどんどん調子が上がっていきました。以前はFISの大会にも出てましたけど、やっぱりこういうジブのイベントが好きなので面白かったですね。自分のスノーボードは周りとかぶらないオリジナルな滑りを追求しているので、今日も少しは表現できたかなぁと思っています(笑)。向こうでもしっかり戦えるようにファイナルまで滑り込みます。それで、ファイナルでも賞金をゲットして帰ってこれたら最高ですね」
神宮寺は気負うことなくリラックスした雰囲気で、笑顔を交えながらこのように語ってくれた。
最後に総評として、ジャッジを務めてくれた大塚に話を聞いてみた。
「オープンクラスのライダーたちは上部のフラットレールと下部のダブルダウンレールを使う人が多かったんですけど、いろんなスタイルの滑りが見れて面白かったです。めっちゃ回す人もいれば、スタイルを重視した滑りの人もいて、個性がまっぷたつに分かれてましたね。上位に選ばれたライダーは攻めている印象でした。完成度が高くてスタイルもあるうえに難易度が高い技を繰り出していました。アンダー15クラスで優勝した井口くんは、いろんなアイテムを使いながらも全体的に完成度が高かった。勢いもありました。3位の高森さんは女の子ながら上手かったですね。まだ小さいけど、大きくなったらかなり上手くなると思いますよ」
先日のX GAMESでも証明しているように、ビッグエアやハーフパイプといったジャンプがメインの競技では日本人ライダーが非常に強い。しかし、文化の違いもあってだろう。ストリートスノーボーディングは日本での普及が難しく、スケートボードが諸外国に比べると根づいていないことにも起因して、ジビングのスキルが他国よりも劣っているという一面は否めない。
しかし、大塚の言葉が裏づけるように、テクニカルとスタイルが融合されたヤングガンたちが日本代表として選ばれた。ストリートが延長線上にあるこうしたジブコンテストで、日本代表に選ばれた彼らがどのような滑りを魅せてくれるのか。3月28日にセブンスプリングスで行われるファイナルでの、日本人ライダーたちの躍進が今から楽しみでならない。
BURTON QUALIFIERS 結果
オープンクラス
1位 神宮寺海人
2位 飛田流輝
3位 阿部祐麻
4位 遠藤柾志
5位 壁田竜一
6位 阿刀 暖
アンダー15クラス
1位 井口和友
2位 藤原優樹
3位 高森日葵
4位 渡辺雄太
5位 松岡秀樹
6位 田尻夕夏
photos: Akira Onozuka